その熱はどこから来た?―感染の「深さ」で見抜く絨毛膜羊膜炎
第108回医師国家試験 F問題 第5問
国試問題にチャレンジ
発熱がみられるのはどれか。
- a.前置胎盤
- b.細菌性腟症
- c.子宮頸管炎
- d.絨毛膜羊膜炎
- e.胎盤機能不全
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発熱は感染や炎症が全身性の反応を引き起こす段階で現れるため、産婦人科疾患では「感染症か否か」と「感染がどこまで広がったか」で整理すると判断しやすくなります。前置胎盤(無痛性出血)や胎盤機能不全(胎児発育不全・胎児機能不全)は非感染性で発熱せず、細菌性腟症や子宮頸管炎は局所感染にとどまるため通常は発熱しません。腟から頸管を経て卵膜・羊水へ上行した絨毛膜羊膜炎では、母体発熱、頻脈、子宮圧痛、悪臭帯下、白血球増加がみられ、前期破水や早産、新生児の重篤な合併症の原因となります。細菌性腟症や頸管炎は妊婦では絨毛膜羊膜炎の前段階として重要であり、上行性感染の流れを理解しておくことが、妊婦の発熱に適切に対応する土台になります。
解答・解説
正解はdです
【テーマ】産婦人科領域の疾患のうち、全身症状としての発熱を伴うものを選ぶ問題である。 【考え方】発熱は、病原体の侵入に対して体内でインターロイキン1(IL-1)、IL-6、腫瘍壊死因子(TNF-α)などの発熱性サイトカインが産生され、視床下部の体温調節中枢の設定値が上がることで生じる。したがって、発熱がみられるのは、感染・炎症がある程度の範囲に広がり、全身性の炎症反応を起こしている病態である。 選択肢を分類すると、前置胎盤と胎盤機能不全は胎盤の位置や機能の異常であり、感染症ではないので、通常は発熱しない。細菌性腟症と子宮頸管炎は感染症ではあるが、病変が腟や頸管の粘膜にとどまる局所感染であり、ふつうは帯下の異常などの局所症状が主体で、発熱には至らない。 一方、絨毛膜羊膜炎は、腟・頸管の細菌が上行して卵膜(絨毛膜・羊膜)や羊水、さらには胎児にまで感染が及んだ子宮内感染であり、母体の発熱、頻脈、子宮の圧痛、悪臭のある帯下、白血球増加やCRP(C反応性蛋白)上昇などをきたす。感染の広がりの程度(腟→頸管→子宮内)を意識すると、発熱を伴う疾患を選びやすい。
選択肢考察
- ×a. 前置胎盤
発熱はみられない。前置胎盤は、胎盤が子宮下部に付着し、内子宮口を覆う、あるいはその一部にかかる状態である。症状の中心は妊娠中期以降の痛みを伴わない性器出血(警告出血)であり、感染とは無関係のため発熱は生じない。
- ×b. 細菌性腟症
通常、発熱はみられない。細菌性腟症は、腟内で優勢な乳酸桿菌(Döderlein桿菌)が減少して自浄作用が低下し、Gardnerella vaginalisや嫌気性菌などが異常に増殖した状態である。特定の病原体による炎症ではない非特異的な腟内細菌叢の乱れで、灰白色で均一な帯下や魚臭が主な症状であり、無症状のことも多い。全身症状は起こさない。ただし妊婦では上行性感染を介して絨毛膜羊膜炎や早産の危険因子となる点が重要である。
- ×c. 子宮頸管炎
通常、発熱はみられない。子宮頸管炎は、クラミジア・トラコマティスや淋菌などが腟から子宮頸管へ上行して起こる感染症で、膿性帯下や接触出血などの局所症状が中心であり、無症状のことも多い。感染が頸管にとどまっている段階では発熱しない。さらに上行して子宮内膜炎、付属器炎、骨盤腹膜炎(骨盤内炎症性疾患)に進展すると発熱を伴うようになり、妊娠中であれば絨毛膜羊膜炎の前段階となる。
- ○d. 絨毛膜羊膜炎
発熱がみられる。絨毛膜羊膜炎は、細菌性腟症や子宮頸管炎から細菌が上行し、卵膜や羊水に感染が及んだ子宮内感染である。全身性の炎症反応を起こすため、母体の発熱(38℃以上)に加え、母体頻脈、子宮の圧痛、悪臭のある帯下・羊水、白血球増加、CRP上昇などがみられ、胎児頻脈を伴うこともある。感染により産生されるサイトカインやプロスタグランジンが子宮収縮や頸管熟化、卵膜の脆弱化を促すため、前期破水や早産の主要な原因となる。
- ×e. 胎盤機能不全
通常、発熱はみられない。胎盤機能不全は、妊娠高血圧症候群、過期妊娠、胎盤梗塞などを背景に、胎盤を介した酸素・栄養の供給が低下した状態である。影響は主に胎児側に現れ、胎児発育不全、羊水過少、胎児機能不全(胎児心拍数パターンの異常)などをきたす。母体に発熱を起こす病態ではない。重い子宮内感染症が胎盤の機能障害を伴う場合には発熱がみられうるが、それは感染症による症状である。
上行性感染の流れ
腟(細菌性腟症、腟炎)→ 子宮頸管(子宮頸管炎)→ 妊娠中: 卵膜・羊水(絨毛膜羊膜炎)→ 胎児感染 非妊娠時: 子宮内膜炎 → 卵管炎・付属器炎 → 骨盤腹膜炎 局所にとどまる段階では発熱は乏しく、子宮内・骨盤内へ進展すると発熱や腹痛などの全身症状が出現する。
臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準(Lenckiの基準)
母体の38.0℃以上の発熱があり、以下のうち1項目以上を満たす。 ・母体頻脈(100回/分以上) ・子宮の圧痛 ・腟分泌物または羊水の悪臭 ・母体血白血球数15,000/μL以上 発熱がない場合は、上記4項目すべてを満たすもの。 確定診断は分娩後の胎盤・卵膜の病理組織検査(好中球浸潤)による。 【絨毛膜羊膜炎の管理の要点】抗菌薬投与を行い、妊娠週数や母児の状態に応じて分娩の時期を判断する。胎児への影響として、早産、新生児敗血症、慢性肺疾患、脳室周囲白質軟化症などのリスクが高まる。 【細菌性腟症の診断】Amselの基準(均一な灰白色の帯下、腟分泌物pH4.5超、アミン臭テスト陽性、clue cellの存在のうち3項目以上)や、グラム染色によるNugentスコアが用いられる。治療はメトロニダゾールなどである。
POINT
・発熱は感染が全身性の炎症反応を起こす段階で出現する。 ・細菌性腟症、子宮頸管炎は局所感染で、通常は発熱しない。 ・絨毛膜羊膜炎は上行性の子宮内感染で、母体発熱・頻脈・子宮圧痛・悪臭帯下・白血球増加を示し、前期破水・早産の重要な原因となる。 ・前置胎盤(無痛性出血)、胎盤機能不全(胎児発育不全・胎児機能不全)は非感染性で発熱しない。
