StudyMed医師国家試験

「量」は増え、「濃度」は下がる―循環血液量の増加から読み解く妊娠の母体変化

第108回医師国家試験 F問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第108回 F問題 第2問

妊娠により母体で増加するのはどれか。

  1. a.残気量
  2. b.心拍出量
  3. c.血中ヘモグロビン値
  4. d.血清アルブミン値
  5. e.血清クレアチニン値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠による母体の生理的変化を問う問題だ。個別に丸暗記するより、出発点をひとつ押さえると一気に整理できる。その出発点が循環血液量の増加。非妊時より約40〜50%も増えて、妊娠32週前後で最大になるんだ。
医学生医学生
そんなに増えるんですね。血液が増えるなら、ヘモグロビン値も上がりそうな気がします。
ドクタードクター
そこが一番のひっかけだね。赤血球量も20〜30%ほど増えるけれど、血漿量はそれ以上、約50%も増える。だから血液は薄まって、ヘモグロビン値やヘマトクリット値は下がるんだ。これを水血症、あるいは生理的な希釈性貧血と呼ぶ。
医学生医学生
生理学の講義で「総量」と「濃度」を区別しなさいと言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその視点が鍵だよ。しかも胎児に鉄を供給するので鉄需要が増え、鉄欠乏性貧血も起こりやすい。妊娠中はヘモグロビン11g/dL未満、ヘマトクリット33%未満を妊娠貧血とするよ。では、血清アルブミン値はどうなると思う?
医学生医学生
同じように希釈されるので、下がるはずです。
ドクタードクター
正解。総蛋白もアルブミンも濃度は低下して、アルブミンは3g/dL台前半まで下がることが多い。膠質浸透圧が下がるので、妊婦さんの浮腫の一因にもなる。逆にフィブリノゲンなどの凝固因子やコレステロール、中性脂肪は増えるから、何でも下がるわけではないよ。
医学生医学生
では、増えた血液を全身に送るために、心臓の仕事量が増えるということですか。
ドクタードクター
その通り、それが正解の心拍出量だ。1回拍出量が増え、心拍数も10〜15/分ほど上がるので、心拍出量は非妊時の約30〜50%増える。妊娠初期から増え始め、中期にはほぼ最大になって高い水準が続く。一方で末梢血管抵抗は低下するので、血圧は中期にやや下がるんだ。
医学生医学生
心拍出量が増えるのに血圧が下がるのは意外でした。クレアチニンはどうでしょう。腎臓の負担が増えて上がるイメージがあります。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実際は逆なんだ。腎血漿流量とGFRが40〜50%ほど増えるから、クレアチニンの排泄が促進され、血清クレアチニン値は0.4〜0.6mg/dL程度まで下がる。BUNや尿酸も低下するよ。
医学生医学生
ということは、非妊時の基準値内でも妊婦さんでは高めかもしれないんですね。
ドクタードクター
鋭いね。臨床ではそこが大事で、妊婦で非妊時の基準値上限に近いクレアチニン値が出たら、腎機能障害を疑う必要がある。それから、GFRが増えて糖の濾過量が再吸収能を上回りやすくなるので、尿糖が陽性になりやすいことも覚えておこう。最後に残気量だ。
医学生医学生
呼吸が増えるなら肺の容積も増えそうですが、子宮が大きくなると横隔膜が押し上げられますよね。
ドクタードクター
そう、横隔膜は約4cm挙上するから、予備呼気量と残気量が減り、その和である機能的残気量も約20%減少する。胸郭の横径が広がるので肺活量と全肺気量はほぼ変わらない。一方でプロゲステロンが呼吸中枢を刺激して1回換気量は30〜40%増え、PaCO2は30Torr前後に下がって、代償された呼吸性アルカローシスになるんだ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、妊婦さんの血液ガスのPaCO2が低くて驚いたことがあります。あれは生理的な変化だったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。妊婦の検査値は非妊時の基準で判断しないことが大切だ。臨床の注意点も加えておくと、仰臥位では大きな子宮が下大静脈を圧迫して静脈還流が減り、血圧が下がることがある。仰臥位低血圧症候群で、左側臥位にすると改善する。また凝固能が亢進しているので血栓症のリスクが高く、プロゲステロンの平滑筋弛緩作用と子宮の圧迫で尿管が拡張し、特に右側の腎盂腎炎を起こしやすいことも知っておこう。
医学生医学生
量が増えるものと、希釈や排泄亢進で濃度が下がるもの、横隔膜挙上で減るもの、と分けて考えれば迷わなそうです。

まとめ

妊娠中の母体では循環血液量が約40〜50%増加し、これがさまざまな生理的変化の出発点となります。増えた血液を送り出すため1回拍出量と心拍数がともに増え、心拍出量は非妊時の約30〜50%増加します。一方、血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るためヘモグロビン値やアルブミン値は希釈で低下し、GFRの増加によって血清クレアチニン値やBUNも低下します。呼吸系では横隔膜挙上により残気量や機能的残気量が減少し、プロゲステロンの作用で換気が増えてPaCO2は低下します。「量は増え、濃度は下がる」という視点で整理すると、妊婦の検査値を非妊時の基準で誤って解釈することを防ぎ、腎機能障害などの異常を見逃さない臨床判断につながります。

解答・解説

正解はbです

妊娠中の母体では、胎児と胎盤へ十分な血液・酸素を届け、さらに分娩時の出血に備えるため、循環・呼吸・腎・血液の各系統に大きな生理的変化が起こる。変化の出発点は循環血液量の増加であり、非妊時に比べて約40〜50%増え、妊娠32週前後で最大となる。 循環血液量の増加から多くの変化が説明できる。 ・血漿量の増加(約50%)が赤血球量の増加(約20〜30%)を上回るため、血液が薄まる(水血症、血液希釈)。その結果、ヘモグロビン値やアルブミン値などの「濃度」は低下する。 ・増えた血液を送り出すため心拍出量が増加する。 ・腎血流量と糸球体濾過量(GFR)が増えるため、クレアチニンや尿素窒素(BUN)の血中濃度は低下する。 呼吸系では、増大した子宮で横隔膜が押し上げられ肺の下部の容積が減る一方、プロゲステロンの呼吸中枢刺激作用で換気は増える。 したがって、選択肢のうち「量」そのものが増える心拍出量が増加し、希釈や排泄亢進を受ける血中濃度や、横隔膜挙上の影響を受ける肺気量は減少する、と整理すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  残気量

    妊娠子宮の増大により横隔膜が約4cm挙上するため、予備呼気量と残気量が減少し、両者の和である機能的残気量も約20%減少する。胸郭の横径が広がるため肺活量と全肺気量はほぼ変わらない。一方、プロゲステロンが呼吸中枢を刺激して1回換気量は約30〜40%増え、分時換気量も増加する(呼吸数はほとんど変わらない)。そのため動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は30 Torr前後に低下し、代償された呼吸性アルカローシスとなる。

  2. ○b.  心拍出量

    循環血液量の増加に伴って1回拍出量が増え、心拍数も非妊時より10〜15/分ほど増加するため、心拍出量は非妊時の約30〜50%増加する。増加は妊娠初期から始まり、妊娠中期(20〜24週頃)にほぼ最大に達して、その後は高い水準が維持される。なお末梢血管抵抗は低下するため、血圧は妊娠中期にやや低下する。

  3. ×c.  血中ヘモグロビン値

    赤血球量も増加するが、それ以上に血漿量が増えるため血液が希釈され、ヘモグロビン値やヘマトクリット値は低下する(生理的な希釈性貧血)。加えて胎児への鉄供給で鉄需要が増すため、鉄欠乏性貧血も起こりやすい。妊娠中はヘモグロビン11g/dL未満、ヘマトクリット33%未満を妊娠貧血とする。

  4. ×d.  血清アルブミン値

    血漿量の増加による希釈のため、血清総蛋白およびアルブミンの濃度は低下する(アルブミンは3g/dL台前半まで下がることが多い)。膠質浸透圧の低下は妊婦にみられる浮腫の一因となる。なお、フィブリノゲンなどの凝固因子やα・βグロブリン、コレステロール・中性脂肪は妊娠中に増加する。

  5. ×e.  血清クレアチニン値

    妊娠中は腎血漿流量とGFRが約40〜50%増加するため、クレアチニンの排泄が促進され、血清クレアチニン値は低下する(0.4〜0.6mg/dL程度)。BUNや尿酸も低下する。したがって妊婦で非妊時の基準値上限に近いクレアチニン値がみられた場合は、腎機能障害を疑う必要がある。GFRの増加で糖の濾過量が再吸収能を上回りやすく、尿糖陽性も起こりやすい。

妊娠による母体の主な生理的変化

〈循環〉 ・循環血液量:約40〜50%増加(妊娠32週前後で最大) ・心拍出量:約30〜50%増加(1回拍出量・心拍数とも増加) ・末梢血管抵抗:低下し、血圧は妊娠中期にやや低下 ・仰臥位では増大した子宮が下大静脈を圧迫して静脈還流が減り、血圧低下を来すことがある(仰臥位低血圧症候群)。左側臥位で改善する。 〈呼吸〉 ・増加:1回換気量、分時換気量、酸素消費量 ・減少:予備呼気量、残気量、機能的残気量、PaCO2 ・ほぼ不変:肺活量、全肺気量、呼吸数 〈血液〉 ・増加:血漿量、赤血球量、白血球数、凝固因子(フィブリノゲン、第VII・VIII・X因子など)、赤血球沈降速度 ・減少:ヘモグロビン値、ヘマトクリット値(希釈による) ・妊娠中は凝固能が亢進し、血栓症のリスクが高まる。 〈生化学〉 ・増加:総コレステロール、中性脂肪、アルカリホスファターゼ(胎盤由来) ・減少:総蛋白、アルブミン、クレアチニン、BUN、尿酸(妊娠前半) 〈腎〉 ・腎血漿流量、GFRが増加する。 ・プロゲステロンの平滑筋弛緩作用と子宮による圧迫で、腎盂・尿管が拡張し(特に右側)、腎盂腎炎を起こしやすい。

POINT

・妊娠の生理的変化の基本は循環血液量の増加(約40〜50%)。 ・量が増える:循環血液量、心拍出量、1回換気量、GFR。 ・濃度が下がる:ヘモグロビン、アルブミン(希釈)、クレアチニン・BUN(GFR増加)。 ・横隔膜挙上で残気量・予備呼気量・機能的残気量は減少し、肺活量はほぼ不変。 ・妊娠中の血清クレアチニン基準値は非妊時より低いことに注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。