「28日が22日に」―閉経前の月経周期短縮が語る黄体機能不全
第108回医師国家試験 E問題 第56問
国試問題にチャレンジ
46歳の女性。月経周期が短くなったことを主訴に来院した。もともと月経周期は28日型,整であったが,数年前から22~26日に短縮しているという。過多月経はみられない。 最も考えられるのはどれか。
- a.黄体機能不全
- b.高プロラクチン血症
- c.下垂体前葉機能低下症
- d.原発性甲状腺機能低下症
- e.低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
月経周期は卵胞期と約14日でほぼ一定の黄体期から成り、黄体からのプロゲステロン分泌が不十分または短期間で終わる黄体機能不全では、黄体期が短縮して月経周期が短くなります(頻発月経は24日以内)。40代後半では卵胞数の減少により卵胞発育が不十分となり、黄体機能不全が起こりやすいため、過多月経を伴わない周期短縮ではまずこれを考えます。高プロラクチン血症、下垂体前葉機能低下症、原発性甲状腺機能低下症、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、いずれも主に排卵を抑えて希発月経や無月経をきたす病態です。診断には基礎体温の高温相短縮や黄体期中期のプロゲステロン低値が目安となり、不妊・流産の原因としても重要です。月経周期の生理を理解しておくことで、「短縮か延長か」から病態を論理的に絞り込めるようになります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・46歳の女性で、閉経(日本人の平均はおよそ50歳)を数年後に控えた時期にある。 ・以前は28日周期で規則的だった月経が、数年前から22~26日周期へと短くなっている。無月経や周期の延長ではなく「短縮」である点が重要である。 ・過多月経はない。子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなど子宮の器質的疾患では過多月経や不正出血を伴うことが多いため、これらは考えにくい。
診断へのプロセス
日本産科婦人科学会の定義では、正常な月経周期は25~38日であり、24日以内を頻発月経、39日以上を希発月経とよぶ。本例の22~26日は頻発月経、あるいはそれに近い状態である。 月経周期は、排卵までの卵胞期と排卵後の黄体期から成る。黄体期は通常約14日(12~14日程度)とほぼ一定で、黄体から分泌されるプロゲステロンが子宮内膜を分泌期に保っている。黄体の働きが弱いと、プロゲステロンの分泌量が少なく、分泌期間も短くなり、内膜の維持が早く破綻するため次の月経が早まる。つまり月経周期が短縮する。 40歳代後半では卵巣に残る卵胞数が減り、卵巣の予備能が落ちてくる。卵胞の発育が不十分だと、排卵後にできる黄体の機能も不十分になりやすい。したがって、閉経が近い女性にみられる月経周期の短縮では、まず加齢に伴う卵巣機能低下による黄体機能不全を考える。
設問の考え方
選択肢のうち高プロラクチン血症、下垂体前葉機能低下症、原発性甲状腺機能低下症、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、いずれも視床下部-下垂体-卵巣系の働きを抑えて排卵を妨げる病態であり、主に希発月経や無月経を起こす。月経周期の「短縮」と結びつくのは黄体機能不全である。
選択肢考察
- ○a. 黄体機能不全
黄体機能不全は、黄体からのプロゲステロン(およびエストロゲン)の分泌が不十分であるか、分泌期間が短い状態である。黄体期が短くなり、月経周期の短縮(頻発月経)や月経前の少量出血、着床障害による不妊・不育の原因となる。診断の目安は、基礎体温の高温相が短いこと(おおむね10日未満)、高温相と低温相の差が小さいこと(0.3℃未満)、黄体期中期(排卵後5~7日目ごろ)の血中プロゲステロンが低いこと(10 ng/mL未満)などである。加齢によって卵巣機能が落ちてくる40歳代後半は黄体機能不全が起こりやすい時期であり、過多月経を伴わない周期短縮という本例の経過に最もよく一致する。
- ×b. 高プロラクチン血症
プロラクチンが過剰になると、視床下部からのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)のパルス状分泌が抑えられ、LH(黄体形成ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌が低下する。その結果、排卵が起こりにくくなり、希発月経や無月経をきたす。乳汁漏出を伴うことが多く、乳汁漏出性無月経の代表的な原因である。軽症例では黄体機能不全の原因になることもあるが、乳汁漏出などの手がかりがない本例で最も考えられる診断ではない。
- ×c. 下垂体前葉機能低下症
下垂体前葉ホルモン(成長ホルモン、ACTH〈副腎皮質刺激ホルモン〉、TSH〈甲状腺刺激ホルモン〉、LH・FSH、プロラクチン)の一部または全部の分泌が低下する病態である。原因には下垂体腫瘍、分娩時の大量出血後に起こる下垂体壊死(Sheehan症候群)、リンパ球性下垂体炎、頭部外傷などがある。ゴナドトロピンが低下するため、月経は希発または無月経となり、周期の短縮にはならない。また、易疲労感、低血圧、低血糖、寒がりなど他のホルモン欠乏症状も伴うはずである。
- ×d. 原発性甲状腺機能低下症
甲状腺自体の障害(代表は橋本病)で甲状腺ホルモンが不足すると、フィードバックにより視床下部のTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が増える。TRHはプロラクチン分泌も刺激するため高プロラクチン血症となり、排卵が抑えられて希発月経や無月経、乳汁漏出を起こすことがある。一方で過多月経を伴うこともある。甲状腺機能低下症の症状として、無気力、易疲労感、寒がり、体重増加、眼瞼浮腫、便秘、嗄声、動作緩慢などがあり、検査ではFT4(遊離サイロキシン)低値とTSH高値を示す。本例にはこれらの症状の記載がなく、月経周期の短縮だけでは考えにくい。
- ×e. 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
視床下部または下垂体の障害によりLH・FSHの分泌が低下し、その結果として卵巣機能が低下する病態である。LH・FSHの両方が低下するものと、どちらか一方だけが低下するものがあり、ゴナドトロピン単独の障害か、他の下垂体ホルモン障害を伴う複合型かでも分類される。卵胞発育と排卵が障害されるので、無月経、希発月経、無排卵周期症などをきたす。なお、閉経が近づき卵巣そのものの機能が落ちる場合は、フィードバックによりFSHはむしろ上昇する(高ゴナドトロピン性)ため、本例の病態とも一致しない。
月経周期の正常と異常(日本産科婦人科学会の定義)
・正常月経周期: 25~38日(変動は6日以内) ・頻発月経: 24日以内 ・希発月経: 39日以上 ・続発無月経: それまであった月経が3か月以上停止したもの ・正常な出血持続日数は3~7日で、8日以上を過長月経、2日以内を過短月経とよぶ。
月経周期の仕組み
卵胞期にはFSHの作用で卵胞が発育し、エストロゲンが子宮内膜を増殖させる。LHサージにより排卵が起こると、卵胞は黄体に変わってプロゲステロンを分泌し、内膜を分泌期に変え基礎体温を上昇させる。妊娠が成立しなければ黄体は約14日で退縮し、ホルモンの低下により内膜がはがれて月経となる。周期の長さの個人差は主に卵胞期の長さの違いによるもので、黄体期はほぼ一定である。
黄体機能不全
・原因: 卵胞発育不全、LH分泌不足、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、加齢による卵巣機能低下など。 ・臨床像: 頻発月経、月経前の点状出血、不妊、流産。 ・検査: 基礎体温(高温相の短縮、高低差の減少)、黄体期中期の血中プロゲステロン測定、子宮内膜日付診(内膜の組織像が月経周期の日付より遅れているかをみる)。 ・治療: 妊娠を希望する場合は排卵誘発(クロミフェンなど)やプロゲステロン(黄体ホルモン)補充、hCG投与による黄体刺激を行う。原因疾患があればその治療を行う。
更年期の月経変化
閉経前後の約10年間を更年期という。閉経が近づくと卵胞数の減少によりインヒビンが低下し、FSHが上昇する。その結果、はじめは卵胞期が短くなり、黄体機能も不十分になって周期は短縮しやすい。その後、無排卵周期が増えて周期は不規則・延長となり、やがて閉経に至る。
POINT
・月経周期の短縮(頻発月経: 24日以内)をみたら、黄体機能不全をまず考える。 ・40歳代後半の周期短縮は、加齢による卵巣機能低下に伴う黄体機能不全が典型である。 ・過多月経がなければ子宮筋腫などの器質的疾患は考えにくい。 ・高プロラクチン血症、下垂体前葉機能低下症、原発性甲状腺機能低下症、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、主に希発月経や無月経をきたす。 ・黄体機能不全の目安: 高温相の短縮(おおむね10日未満)、高低温度差0.3℃未満、黄体期中期のプロゲステロン10 ng/mL未満。
