消化管の血液はまず肝臓へ―脾静脈と上腸間膜静脈がつくる門脈の正体
第108回医師国家試験 E問題 第31問
国試問題にチャレンジ
門脈に流入するのはどれか。2つ選べ。
- a.肝静脈
- b.脾静脈
- c.左腎静脈
- d.内腸骨静脈
- e.上腸間膜静脈
対話形式の解説
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ドクターまとめ
門脈は消化管・脾臓・膵臓の静脈血を集めて肝臓へ運ぶ血管で、膵頸部の背側で脾静脈と上腸間膜静脈が合流して形成されます。下腸間膜静脈は多くが脾静脈に合流し、左胃静脈なども門脈系に注ぎます。一方、肝臓の出口である肝静脈や、左腎静脈・内腸骨静脈は下大静脈系に属し、門脈には流入しません。ただし門脈圧亢進症では、食道静脈瘤、メドゥーサの頭、直腸静脈瘤、脾腎シャントといった門脈―大静脈間の側副路が発達します。正常の血流の向きと側副路をセットで理解しておくことは、肝硬変の合併症や薬物の初回通過効果を考える土台になります。
解答・解説
正解はb, eです
肝臓の門脈系を構成する静脈を問う解剖学の問題である。 門脈(肝門脈)は、胃・小腸・大腸・脾臓・膵臓といった腹部の消化器系臓器から戻ってくる静脈血を集めて肝臓へ運ぶ血管である。通常の循環は「動脈→毛細血管→静脈→心臓」と進むが、門脈系では「消化管などの毛細血管→門脈→肝臓の類洞(肝臓の毛細血管にあたる)→肝静脈→下大静脈→心臓」というように、毛細血管網を2回通る。この2つの毛細血管網をつなぐ静脈を門脈とよぶ。 門脈本幹は、膵頭部の後方(膵頸部の背側)で脾静脈と上腸間膜静脈が合流して形成される。したがって「門脈に流入する」静脈として最も代表的なのはこの2本である。これ以外にも、下腸間膜静脈(多くは脾静脈に合流する)、左胃静脈(胃冠状静脈)、右胃静脈、胆嚢静脈なども門脈系に注ぐ。 一方、肝臓から出ていく肝静脈、腎臓や骨盤からの静脈は門脈系ではなく、体循環の静脈として下大静脈系に属する。解き方としては、各静脈が「消化管・脾臓の血液を肝臓へ運ぶ側(門脈系)」か「心臓へ直接戻る側(大静脈系)」かを判別すればよい。
選択肢考察
- ×a. 肝静脈
肝静脈は肝臓から血液を運び出す血管である。門脈と肝動脈から肝臓に入った血液は類洞を通過したのち中心静脈に集まり、右・中・左の3本の肝静脈となって肝臓の後上面で下大静脈に直接注ぐ。門脈が肝臓への「入口」であるのに対し、肝静脈は「出口」であり、門脈に流入するものではない。
- ○b. 脾静脈
脾静脈は脾門から出て膵臓の背側を右方へ走り、膵頸部の後方で上腸間膜静脈と合流して門脈本幹を形成する。脾臓からの血液に加え、短胃静脈や左胃大網静脈を介して胃の一部の血液、膵臓からの小枝の血液を受ける。また下腸間膜静脈は多くの場合この脾静脈に合流するため、脾静脈は下行結腸・S状結腸・直腸上部からの血液も門脈へ運ぶことになる。したがって門脈に流入する静脈である。
- ×c. 左腎静脈
左腎静脈は左腎から出て、腹部大動脈の前方(上腸間膜動脈との間)を横切って右へ走り、下大静脈に流入する。途中で左性腺静脈(精巣静脈・卵巣静脈)や左副腎静脈を受ける。体循環の静脈であり門脈系ではない。なお、門脈圧亢進症では脾静脈と左腎静脈の間に側副路(脾腎シャント)ができることがあるが、これは正常解剖ではない。
- ×d. 内腸骨静脈
内腸骨静脈は骨盤内臓器(膀胱、子宮、直腸下部など)や骨盤壁、殿部からの血液を集める。同側の外腸骨静脈と合流して総腸骨静脈となり、左右の総腸骨静脈が第5腰椎の高さ付近で合流して下大静脈となる。門脈系ではなく下大静脈系に属する。直腸下部の血液は中・下直腸静脈を経て内腸骨静脈系に入るため、直腸では門脈系(上直腸静脈)と大静脈系が吻合しており、門脈圧亢進時の側副路の一つとなる。
- ○e. 上腸間膜静脈
上腸間膜静脈は、空腸・回腸の小腸全体と、盲腸・上行結腸・横行結腸の右側約2/3の血液を集める静脈である。同名の上腸間膜動脈の右側を上行し、膵頸部の後方で脾静脈と合流して門脈本幹を形成する。栄養素を吸収する小腸からの血液の大部分がここを通って肝臓に運ばれるため、門脈系の中心となる血管であり、門脈に流入する静脈である。
門脈系の主な構成
・上腸間膜静脈:小腸、盲腸〜横行結腸の右側約2/3、膵頭部の一部 ・脾静脈:脾臓、胃の一部(短胃静脈・左胃大網静脈)、膵臓 ・下腸間膜静脈:横行結腸の左側〜下行結腸・S状結腸・直腸上部。多くは脾静脈に合流する(上腸間膜静脈や両者の合流部に入ることもある) ・左胃静脈(胃冠状静脈)、右胃静脈:胃小彎側の血液を門脈に直接運ぶ ・胆嚢静脈:門脈(主に右枝)に注ぐ
門脈の働き
門脈血には消化管で吸収された栄養素や薬物、膵臓からのインスリン・グルカゴン、消化管ホルモンなどが含まれる。これらはまず肝臓で代謝・解毒を受ける(初回通過効果)。肝臓への血流の約70〜80%は門脈が担い、残りを肝動脈が担う。
門脈―大静脈系の側副路(門脈圧亢進症で発達)
・左胃静脈→食道静脈→奇静脈:食道・胃静脈瘤 ・臍傍静脈→腹壁の静脈:メドゥーサの頭(腹壁静脈怒張) ・上直腸静脈→中・下直腸静脈(内腸骨静脈系):直腸静脈瘤 ・脾静脈→左腎静脈:脾腎シャント
門脈という用語について
毛細血管網と毛細血管網をつなぐ静脈を広く門脈とよび、下垂体門脈系(視床下部と下垂体前葉を結ぶ)などもある。単に「門脈」という場合は通常、肝門脈を指す。
POINT
・門脈本幹は、膵頸部の後方で脾静脈と上腸間膜静脈が合流して形成される ・下腸間膜静脈は多くが脾静脈に合流し、左胃静脈も門脈系に注ぐ ・肝静脈、腎静脈、腸骨静脈は下大静脈系であり門脈には入らない ・門脈圧亢進症の側副路(食道静脈瘤、メドゥーサの頭、直腸静脈瘤、脾腎シャント)と結び付けて覚える
