誰の腎臓なら託せるか―死体腎ドナーの「除外」と「慎重判断」を見分ける
第108回医師国家試験 E問題 第30問
国試問題にチャレンジ
脳死または心停止後の腎移植の提供者(ドナー)候補として適切でないのはどれか。
- a.70歳男性
- b.HBs抗原陽性
- c.原発性脳腫瘍
- d.血液型AB型Rh(-)
- e.血清クレアチニン0.8 mg/dL
対話形式の解説
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ドクターまとめ
死体腎移植のドナー適応は、提供腎の機能が保たれているかと、免疫抑制薬を長く使うレシピエントへ感染症や腫瘍を持ち込まないかの2点で考えます。HBs抗原陽性はHBVの現在の感染を意味し、HIV抗体・HTLV-1抗体陽性、全身性の活動性感染症、Creutzfeldt-Jakob病(疑いを含む)、悪性腫瘍とともに除外条件にあたります。悪性腫瘍でも原発性脳腫瘍と治癒したと考えられるものは例外で、HCV抗体陽性や器質的腎疾患は「慎重に判断」、年齢は70歳以下が望ましいとされるのみで上限はなく、血液型は適格性ではなく配分で考慮される要素です。除外・慎重判断・望ましい条件の3段階で整理しておくと、移植医療の安全性を支える考え方とともに理解が深まります。
解答・解説
正解はbです
脳死下または心停止後に臓器を提供する人(死体ドナー)から腎臓を移植する際、誰がドナー候補になり得るかを問う問題である。 死体腎移植のドナー適応を考えるときの基本は、「提供される腎臓そのものが機能を保っているか」と「腎臓を介してレシピエント(移植を受ける人)へ病気を持ち込まないか」の2点である。レシピエントは移植後に免疫抑制薬を長期間使い続けるため、ドナー由来の感染症や悪性腫瘍が持ち込まれると重症化しやすい。そのため、日本の臓器移植ネットワークが定める腎臓提供者の適応基準では、全身性の活動性感染症がないこと、HIV抗体・HTLV-1抗体・HBs抗原などが陰性であること、Creutzfeldt-Jakob病(プリオン病)やその疑いがないこと、悪性腫瘍がないこと(ただし原発性脳腫瘍と治癒したと考えられるものは除く)が求められている。 一方、年齢・血液型・腎機能については、「絶対にだめ」という除外条件ではなく、「望ましい条件」や「慎重に判断する条件」として扱われる点を区別できるかが本問の鍵である。選択肢のうち、明確に除外条件に当たるのはB型肝炎ウイルス(HBV)の感染を示すHBs抗原陽性である。
選択肢考察
- ×a. 70歳男性
ドナーの年齢に上限は設けられておらず、基準では「70歳以下が望ましい」とされているにとどまる。70歳はこの望ましい範囲に入っており、さらに70歳を超えていても全身状態や腎機能が良好であれば提供は可能である。高齢ドナーの腎臓は加齢による糸球体硬化などで機能がやや劣ることがあるため条件付きで評価されるが、年齢だけで候補から外れることはない。したがってドナー候補として不適切とはいえない。
- ○b. HBs抗原陽性
HBs抗原はB型肝炎ウイルスの表面抗原で、陽性であれば現在HBVに感染していることを示す。HBVは血液や臓器を介して伝播し、移植後に免疫抑制薬を使うレシピエントでは劇症化や慢性肝炎の急速な進行をきたす危険がある。腎臓提供者の適応基準ではHBs抗原陰性が条件の一つであり、HIV抗体陽性・HTLV-1抗体陽性と同様に除外される。よって本選択肢がドナー候補として適切でないものに当たる。なお、C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性は一律の除外ではなく、「慎重に適応を決定する」条件に分類されている点と区別して覚えるとよい。
- ×c. 原発性脳腫瘍
悪性腫瘍をもつ人は、腫瘍細胞が移植臓器とともにレシピエントへ持ち込まれる危険があるため原則としてドナーになれない。しかし原発性脳腫瘍は例外として扱われる。脳腫瘍は中枢神経系の外へ転移することがまれであり、脳死の原因疾患としても少なくないためである。同様に、治療後長期間再発がなく治癒したと判断される悪性腫瘍も除外されない。したがって原発性脳腫瘍はドナー候補から外す理由にならない。
- ×d. 血液型AB型Rh(-)
血液型そのものはドナー適応の除外条件ではない。AB型Rh(-)は頻度の低い血液型であるが、疾患や異常を意味するものではない。血液型はドナーとして適格かどうかではなく、どのレシピエントに腎臓を配分するかを決める際に考慮される要素である。現在の腎移植では、血漿交換や脱感作療法によりABO血液型不適合移植も行われている。Rh型の違いは腎移植の成否に大きく影響しない。したがってドナー候補として問題はない。
- ×e. 血清クレアチニン0.8 mg/dL
血清クレアチニン(Cr)は腎機能の指標で、成人男性の基準値はおおむね0.6〜1.1 mg/dL程度である。0.8 mg/dLは基準範囲内で、腎機能が保たれていることを示す。基準では器質的腎疾患(尿所見や血液生化学で示される腎臓そのものの病気)がある場合に慎重に適応を決めるとされているが、本選択肢はそれに当たらず、むしろ良好な提供腎であることを示す所見である。
腎臓提供者(死体ドナー)の適応基準の整理
1. 除外される条件 ・全身性の活動性感染症がある ・HIV抗体、HTLV-1抗体、HBs抗原などが陽性である ・Creutzfeldt-Jakob病(プリオン病)またはその疑いがある ・悪性腫瘍がある(ただし原発性脳腫瘍、および治癒したと考えられるものは除く) 2. 慎重に適応を判断する条件 ・血液生化学や尿所見などから器質的腎疾患が疑われる ・HCV抗体が陽性である 3. 年齢 ・制限はないが、70歳以下が望ましい
除外条件の考え方
移植を受けた人は拒絶反応を防ぐため免疫抑制薬を長期に使用する。そのため、ドナー由来のウイルス(HBV、HIV、HTLV-1など)やプリオン、腫瘍細胞が持ち込まれると、健常者よりはるかに重篤な経過をたどる。除外条件の多くはこの「持ち込み」を防ぐ目的で設定されている。
血液型と腎移植
死体腎移植では原則としてABO血液型の一致または適合するレシピエントに配分される。生体腎移植では、抗体除去療法(血漿交換など)やリツキシマブなどを用いた脱感作によりABO血液型不適合移植も行われ、良好な成績が得られている。
脳死と心停止後の提供
腎臓は心停止後でも提供可能な臓器である。一方、心臓・肺・肝臓・小腸などは原則として脳死下での提供となる。
POINT
・腎臓ドナーの除外条件:活動性感染症、HIV抗体・HTLV-1抗体・HBs抗原陽性、Creutzfeldt-Jakob病(疑いを含む)、悪性腫瘍 ・悪性腫瘍の例外:原発性脳腫瘍と治癒したと考えられる腫瘍はドナーになり得る ・HCV抗体陽性と器質的腎疾患は「慎重に判断」であり、一律除外ではない ・年齢制限はない(70歳以下が望ましい) ・血液型はドナー適格性の条件ではない
