StudyMed医師国家試験

赤血球の「大きさ」が語る原因―大球性貧血を見抜くMCVの読み方

第108回医師国家試験 E問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第33問

大球性貧血をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.慢性腎不全
  2. b.心臓弁膜症術後
  3. c.骨髄異形成症候群
  4. d.長期アルコール多飲
  5. e.ヒトパルボウイルスB19感染

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、貧血を赤血球の大きさで分類できるかを問う問題だ。カギはMCV、つまり赤血球1個あたりの平均の大きさ。それぞれの病態が「造血の量の問題」なのか「赤芽球の成熟の質の問題」なのかを考えると整理しやすい。MCVによる分類は覚えているかな。
医学生医学生
80 fL未満が小球性、80〜100 fLが正球性、100 fLを超えると大球性ですよね。CBTの前に何度も確認しました。
ドクタードクター
その通り。小球性はヘモグロビン合成の障害、たとえば鉄欠乏性貧血やサラセミアで起こる。では大球性はどういう仕組みで赤血球が大きくなるんだろう。
医学生医学生
ビタミンB12や葉酸が足りないと、DNA合成がうまくいかなくて……核の成熟が遅れるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。核の成熟が遅れる一方で細胞質は育っていくから、細胞が大きくなる。これが巨赤芽球性貧血で、大球性貧血の代表だ。この「核と細胞質の成熟のずれ」という考え方が、今回の正解2つにも共通している。まず長期アルコール多飲から見ていこう。
医学生医学生
お酒を飲む人は食事が偏るので、葉酸不足になるからでしょうか。
ドクタードクター
それも一つだね。ただ機序は複数ある。摂取不足に加えて、アルコールは葉酸の吸収や腸肝循環、肝臓での貯蔵を妨げる。さらにアルコールそのものが骨髄の赤芽球に直接毒性を示すし、アルコール性肝障害が加わると赤血球膜の脂質組成が変わって赤血球が大きくなる。だから貧血がなくてもMCVだけ高い、という人も珍しくない。
医学生医学生
健診でMCVとγ-GTPが高い人を見たら、飲酒歴を聞くということですね。
ドクタードクター
まさに臨床でよくある場面だ。もう一つの正解が骨髄異形成症候群。どんな病気か説明できるかな。
医学生医学生
血液内科の実習で骨髄塗抹を見ました。造血幹細胞の異常で、血球の形が変になる病気ですよね。
ドクタードクター
そうだね。造血幹細胞に後天的な遺伝子変異が積み重なったクローン性の造血器腫瘍で、血球は作られるけれど異形成があって成熟途中で壊れてしまう。これを無効造血という。だから骨髄は正〜過形成なのに末梢では血球減少になる。赤芽球系では核と細胞質の成熟の不均衡から巨赤芽球様の変化がみられ、大球性や正球性の貧血になることが多いんだ。
医学生医学生
ビタミンB12や葉酸が正常なのに大球性の高齢者だったら、骨髄異形成症候群を疑うわけですね。
ドクタードクター
その通り。全例が大球性ではないけれど、必ず鑑別に挙げるべき疾患だ。では誤りの選択肢を見よう。慢性腎不全はどうかな。
医学生医学生
腎性貧血ですね。エリスロポエチンが減るから……作る数が減るだけなので、大きさは変わらない、ということでしょうか。
ドクタードクター
完璧だ。エリスロポエチンは腎臓の尿細管周囲の間質細胞で作られるから、腎機能が落ちると赤血球の産生量が減る。でも赤芽球の成熟そのものは正常だから正球性正色素性貧血になる。透析に伴う鉄欠乏が強ければ、小球性に傾くこともあるけどね。
医学生医学生
心臓弁膜症術後は、人工弁で赤血球が壊れる溶血ですよね。溶血だと網赤血球が増えて大きくなる気もするんですが。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。人工弁周囲の乱流や弁周囲逆流で赤血球が機械的に壊され、破砕赤血球やLDH上昇、ハプトグロビン低下がみられる。網赤血球は大型の若い赤血球だから、著しく増えればMCVが軽く上がることはある。でも赤芽球の成熟は正常で、基本は正球性貧血だ。典型的な大球性貧血の原因としては扱わない。慢性の血管内溶血で尿から鉄が失われると、むしろ小球性に傾くこともある。
医学生医学生
パルボウイルスB19は、小児科で伝染性紅斑の子を診ました。赤芽球に感染するんでしたよね。
ドクタードクター
そう。赤芽球前駆細胞のP抗原を受容体として感染し、一過性に赤血球産生を止める。既にある赤血球の大きさは変わらないから正球性で、網赤血球は著減する。健常者なら赤血球寿命が約120日と長いので貧血は目立たないけれど、遺伝性球状赤血球症のような慢性溶血性貧血の患者では急激な高度貧血、いわゆる無形成発作を起こすから要注意だ。
医学生医学生
量が減る病態は正球性、成熟がずれる病態は大球性、と考えればいいんですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。最後に臨床での進め方をまとめておこう。大球性貧血をみたら、まずビタミンB12と葉酸を測る。欠乏があれば悪性貧血や胃切除後などの原因を探す。欠乏がなければ飲酒歴、肝機能、甲状腺機能、網赤血球数、メトトレキサートやヒドロキシカルバミドなどの薬剤歴を確認し、それでも説明がつかず他の血球減少も伴うなら骨髄検査で骨髄異形成症候群を評価する。網赤血球数も、骨髄が反応しているかどうかを判断する大事な手がかりになるよ。

まとめ

貧血はMCVによって小球性(80 fL未満)、正球性(80〜100 fL)、大球性(100 fL超)に分類され、大球性は主に赤芽球の核の成熟が遅れる病態で生じます。代表はビタミンB12・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血で、長期アルコール多飲(葉酸欠乏、骨髄への直接毒性、肝障害)や、無効造血と異形成を示す骨髄異形成症候群も大球性貧血の重要な原因です。一方、エリスロポエチン不足による腎性貧血、人工弁による機械的溶血、パルボウイルスB19による一過性赤芽球癆は、いずれも基本的に正球性貧血となります。大球性貧血をみたらビタミンB12・葉酸の測定から始め、飲酒歴・肝機能・甲状腺機能・薬剤歴を確認し、説明がつかなければ骨髄検査を考えます。「量の問題か、成熟の質の問題か」という視点は、貧血の鑑別を効率よく進めるための基本となります。

解答・解説

正解はc, dです

貧血の原因を赤血球の大きさから分類できるかを問う問題である。 貧血の鑑別では、まず平均赤血球容積(MCV:mean corpuscular volume、赤血球1個あたりの平均の大きさ)に注目する。MCVは「ヘマトクリット÷赤血球数」で求められ、基準はおおむね80〜100 fLである。MCV<80 fLを小球性、80〜100 fLを正球性、MCV>100 fLを大球性貧血とよぶ。 小球性貧血は、ヘモグロビン合成が障害される病態(鉄欠乏性貧血、慢性炎症に伴う貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血)で起こる。大球性貧血は、主に赤芽球の核の成熟が遅れて細胞質だけが大きくなる病態で起こり、代表はビタミンB12欠乏・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血である。そのほか、長期のアルコール多飲、骨髄異形成症候群(MDS)の一部、肝疾患、甲状腺機能低下症、網赤血球(大型の若い赤血球)が著しく増えている状態、DNA合成を阻害する薬剤(メトトレキサート、ヒドロキシカルバミドなど)でも大球性となる。これら以外の多くの貧血、すなわち産生低下(腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆)、急性出血、多くの溶血性貧血などは正球性となる。 本問では、各選択肢の病態を「造血の量の問題(正球性)」か「赤芽球の成熟の質の問題(大球性)」かに振り分けて考えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  慢性腎不全

    慢性腎不全では腎性貧血をきたす。赤血球産生を促すホルモンであるエリスロポエチン(EPO)は主に腎臓の尿細管周囲の間質細胞で産生されるため、腎機能が低下するとEPOが不足し、骨髄での赤血球産生量が減る。産生される数が減るだけで赤芽球の成熟過程自体は正常であるため、赤血球の大きさは保たれ正球性正色素性貧血となる。尿毒症物質による赤血球寿命の短縮や、透析に伴う失血・鉄欠乏が加わることもあり、鉄欠乏が強ければ小球性に傾くこともある。治療は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)やHIF-PH阻害薬などである。

  2. ×b.  心臓弁膜症術後

    人工弁置換術後などでは、人工弁周囲の乱流や弁周囲逆流(弁周囲リーク)により赤血球が機械的に壊される。これを機械的溶血性貧血(破砕赤血球を伴う血管内溶血)といい、末梢血に破砕赤血球(schistocyte)がみられ、LDHや間接ビリルビンの上昇、ハプトグロビンの低下を伴う。赤芽球の成熟には異常がないため、基本的には正球性貧血となる。なお、どのような溶血でも網赤血球が著しく増えるとMCVが軽度上昇することはあるが、典型的な大球性貧血の原因としては扱わない。また慢性の血管内溶血で尿中に鉄が失われると鉄欠乏を合併し、小球性に傾くこともある。

  3. ○c.  骨髄異形成症候群

    骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞に後天的な遺伝子変異が蓄積して生じるクローン性の造血器腫瘍である。血球は骨髄内で作られるものの、形態や機能に異常(異形成)があり成熟途中で壊れてしまう「無効造血」のため、骨髄は正〜過形成なのに末梢血では血球減少(しばしば汎血球減少)となる。赤芽球系では核と細胞質の成熟の不均衡により巨赤芽球様変化がみられることが多く、その結果、大球性(または正球性)貧血を呈する。MDSは多様な病態を含む症候群であり全例が大球性ではないが、ビタミンB12・葉酸が正常な高齢者の大球性貧血では必ず鑑別に挙げるべき疾患である。

  4. ○d.  長期アルコール多飲

    長期の大量飲酒は大球性貧血(あるいは貧血を伴わないMCV上昇)の代表的な原因である。機序は複数ある。第一に、偏った食事による葉酸摂取不足に加え、アルコールが葉酸の吸収や腸肝循環、肝臓での貯蔵・利用を妨げるため葉酸欠乏となり、巨赤芽球性変化をきたす。第二に、アルコールそのものが骨髄の赤芽球に直接毒性を示し、葉酸欠乏がなくても赤血球を大きくする。第三に、アルコール性肝障害を合併すると赤血球膜の脂質組成が変化し、赤血球が大きくなる(標的赤血球の出現など)。したがって大球性貧血をきたす。

  5. ×e.  ヒトパルボウイルスB19感染

    ヒトパルボウイルスB19は伝染性紅斑(りんご病)の原因ウイルスで、赤芽球前駆細胞の表面にあるP抗原を受容体として感染し、細胞をアポトーシスに導く。そのため一過性に赤血球産生が止まり、網赤血球が著減する(一過性赤芽球癆)。既に作られている赤血球の大きさには影響しないため、貧血は正球性である。健常者では赤血球寿命が約120日と長いため貧血はほとんど目立たないが、遺伝性球状赤血球症や鎌状赤血球症などの慢性溶血性貧血の患者では赤血球寿命が短く骨髄の代償に依存しているため、急激な高度貧血(無形成発作、aplastic crisis)を起こす。

MCVによる貧血の分類

1. 小球性貧血(MCV<80 fL):ヘモグロビン合成の障害 ・鉄欠乏性貧血 ・慢性炎症に伴う貧血(ACD、一部) ・サラセミア ・鉄芽球性貧血 2. 正球性貧血(MCV 80〜100 fL) ・産生低下:腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆、白血病・骨髄への癌転移など ・喪失・破壊:急性出血、溶血性貧血(多くの場合) ・慢性炎症に伴う貧血(多くの場合) 3. 大球性貧血(MCV>100 fL) ・巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏:悪性貧血、胃切除後など/葉酸欠乏:摂取不足、妊娠、薬剤など) ・長期アルコール多飲 ・骨髄異形成症候群(一部) ・肝疾患、甲状腺機能低下症 ・網赤血球の著増(溶血や出血からの回復期) ・DNA合成を阻害する薬剤(メトトレキサート、ヒドロキシカルバミドなど)

大球性貧血をみたときの進め方

まずビタミンB12と葉酸を測定する。欠乏があれば巨赤芽球性貧血として原因(悪性貧血、胃切除、摂取不足など)を調べる。欠乏がなければ、飲酒歴、肝機能、甲状腺機能、網赤血球数、薬剤歴を確認し、それでも説明がつかず他の血球減少を伴う場合は骨髄検査でMDSを評価する。

網赤血球数による整理

網赤血球が増えていれば、骨髄は反応しており出血や溶血を考える。減っていれば、腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆(パルボウイルスB19感染を含む)など骨髄での産生低下を考える。

POINT

・MCVで貧血を小球性(<80 fL)、正球性(80〜100 fL)、大球性(>100 fL)に分ける ・大球性貧血:巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)、アルコール多飲、MDSの一部、肝疾患、網赤血球著増 ・腎性貧血、機械的溶血、パルボウイルスB19による赤芽球癆は正球性 ・パルボウイルスB19は慢性溶血性貧血患者で無形成発作を起こす

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。