赤血球の「大きさ」が語る原因―大球性貧血を見抜くMCVの読み方
第108回医師国家試験 E問題 第33問
国試問題にチャレンジ
大球性貧血をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.慢性腎不全
- b.心臓弁膜症術後
- c.骨髄異形成症候群
- d.長期アルコール多飲
- e.ヒトパルボウイルスB19感染
対話形式の解説
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ドクターまとめ
貧血はMCVによって小球性(80 fL未満)、正球性(80〜100 fL)、大球性(100 fL超)に分類され、大球性は主に赤芽球の核の成熟が遅れる病態で生じます。代表はビタミンB12・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血で、長期アルコール多飲(葉酸欠乏、骨髄への直接毒性、肝障害)や、無効造血と異形成を示す骨髄異形成症候群も大球性貧血の重要な原因です。一方、エリスロポエチン不足による腎性貧血、人工弁による機械的溶血、パルボウイルスB19による一過性赤芽球癆は、いずれも基本的に正球性貧血となります。大球性貧血をみたらビタミンB12・葉酸の測定から始め、飲酒歴・肝機能・甲状腺機能・薬剤歴を確認し、説明がつかなければ骨髄検査を考えます。「量の問題か、成熟の質の問題か」という視点は、貧血の鑑別を効率よく進めるための基本となります。
解答・解説
正解はc, dです
貧血の原因を赤血球の大きさから分類できるかを問う問題である。 貧血の鑑別では、まず平均赤血球容積(MCV:mean corpuscular volume、赤血球1個あたりの平均の大きさ)に注目する。MCVは「ヘマトクリット÷赤血球数」で求められ、基準はおおむね80〜100 fLである。MCV<80 fLを小球性、80〜100 fLを正球性、MCV>100 fLを大球性貧血とよぶ。 小球性貧血は、ヘモグロビン合成が障害される病態(鉄欠乏性貧血、慢性炎症に伴う貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血)で起こる。大球性貧血は、主に赤芽球の核の成熟が遅れて細胞質だけが大きくなる病態で起こり、代表はビタミンB12欠乏・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血である。そのほか、長期のアルコール多飲、骨髄異形成症候群(MDS)の一部、肝疾患、甲状腺機能低下症、網赤血球(大型の若い赤血球)が著しく増えている状態、DNA合成を阻害する薬剤(メトトレキサート、ヒドロキシカルバミドなど)でも大球性となる。これら以外の多くの貧血、すなわち産生低下(腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆)、急性出血、多くの溶血性貧血などは正球性となる。 本問では、各選択肢の病態を「造血の量の問題(正球性)」か「赤芽球の成熟の質の問題(大球性)」かに振り分けて考えるとよい。
選択肢考察
- ×a. 慢性腎不全
慢性腎不全では腎性貧血をきたす。赤血球産生を促すホルモンであるエリスロポエチン(EPO)は主に腎臓の尿細管周囲の間質細胞で産生されるため、腎機能が低下するとEPOが不足し、骨髄での赤血球産生量が減る。産生される数が減るだけで赤芽球の成熟過程自体は正常であるため、赤血球の大きさは保たれ正球性正色素性貧血となる。尿毒症物質による赤血球寿命の短縮や、透析に伴う失血・鉄欠乏が加わることもあり、鉄欠乏が強ければ小球性に傾くこともある。治療は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)やHIF-PH阻害薬などである。
- ×b. 心臓弁膜症術後
人工弁置換術後などでは、人工弁周囲の乱流や弁周囲逆流(弁周囲リーク)により赤血球が機械的に壊される。これを機械的溶血性貧血(破砕赤血球を伴う血管内溶血)といい、末梢血に破砕赤血球(schistocyte)がみられ、LDHや間接ビリルビンの上昇、ハプトグロビンの低下を伴う。赤芽球の成熟には異常がないため、基本的には正球性貧血となる。なお、どのような溶血でも網赤血球が著しく増えるとMCVが軽度上昇することはあるが、典型的な大球性貧血の原因としては扱わない。また慢性の血管内溶血で尿中に鉄が失われると鉄欠乏を合併し、小球性に傾くこともある。
- ○c. 骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞に後天的な遺伝子変異が蓄積して生じるクローン性の造血器腫瘍である。血球は骨髄内で作られるものの、形態や機能に異常(異形成)があり成熟途中で壊れてしまう「無効造血」のため、骨髄は正〜過形成なのに末梢血では血球減少(しばしば汎血球減少)となる。赤芽球系では核と細胞質の成熟の不均衡により巨赤芽球様変化がみられることが多く、その結果、大球性(または正球性)貧血を呈する。MDSは多様な病態を含む症候群であり全例が大球性ではないが、ビタミンB12・葉酸が正常な高齢者の大球性貧血では必ず鑑別に挙げるべき疾患である。
- ○d. 長期アルコール多飲
長期の大量飲酒は大球性貧血(あるいは貧血を伴わないMCV上昇)の代表的な原因である。機序は複数ある。第一に、偏った食事による葉酸摂取不足に加え、アルコールが葉酸の吸収や腸肝循環、肝臓での貯蔵・利用を妨げるため葉酸欠乏となり、巨赤芽球性変化をきたす。第二に、アルコールそのものが骨髄の赤芽球に直接毒性を示し、葉酸欠乏がなくても赤血球を大きくする。第三に、アルコール性肝障害を合併すると赤血球膜の脂質組成が変化し、赤血球が大きくなる(標的赤血球の出現など)。したがって大球性貧血をきたす。
- ×e. ヒトパルボウイルスB19感染
ヒトパルボウイルスB19は伝染性紅斑(りんご病)の原因ウイルスで、赤芽球前駆細胞の表面にあるP抗原を受容体として感染し、細胞をアポトーシスに導く。そのため一過性に赤血球産生が止まり、網赤血球が著減する(一過性赤芽球癆)。既に作られている赤血球の大きさには影響しないため、貧血は正球性である。健常者では赤血球寿命が約120日と長いため貧血はほとんど目立たないが、遺伝性球状赤血球症や鎌状赤血球症などの慢性溶血性貧血の患者では赤血球寿命が短く骨髄の代償に依存しているため、急激な高度貧血(無形成発作、aplastic crisis)を起こす。
MCVによる貧血の分類
1. 小球性貧血(MCV<80 fL):ヘモグロビン合成の障害 ・鉄欠乏性貧血 ・慢性炎症に伴う貧血(ACD、一部) ・サラセミア ・鉄芽球性貧血 2. 正球性貧血(MCV 80〜100 fL) ・産生低下:腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆、白血病・骨髄への癌転移など ・喪失・破壊:急性出血、溶血性貧血(多くの場合) ・慢性炎症に伴う貧血(多くの場合) 3. 大球性貧血(MCV>100 fL) ・巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏:悪性貧血、胃切除後など/葉酸欠乏:摂取不足、妊娠、薬剤など) ・長期アルコール多飲 ・骨髄異形成症候群(一部) ・肝疾患、甲状腺機能低下症 ・網赤血球の著増(溶血や出血からの回復期) ・DNA合成を阻害する薬剤(メトトレキサート、ヒドロキシカルバミドなど)
大球性貧血をみたときの進め方
まずビタミンB12と葉酸を測定する。欠乏があれば巨赤芽球性貧血として原因(悪性貧血、胃切除、摂取不足など)を調べる。欠乏がなければ、飲酒歴、肝機能、甲状腺機能、網赤血球数、薬剤歴を確認し、それでも説明がつかず他の血球減少を伴う場合は骨髄検査でMDSを評価する。
網赤血球数による整理
網赤血球が増えていれば、骨髄は反応しており出血や溶血を考える。減っていれば、腎性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆(パルボウイルスB19感染を含む)など骨髄での産生低下を考える。
POINT
・MCVで貧血を小球性(<80 fL)、正球性(80〜100 fL)、大球性(>100 fL)に分ける ・大球性貧血:巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)、アルコール多飲、MDSの一部、肝疾患、網赤血球著増 ・腎性貧血、機械的溶血、パルボウイルスB19による赤芽球癆は正球性 ・パルボウイルスB19は慢性溶血性貧血患者で無形成発作を起こす
