StudyMed医師国家試験

「拡げる・切る・止める・つかむ」―処置具の目的から読み解く内視鏡治療

第108回医師国家試験 E問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第19問

内視鏡治療と使用する機器の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.食道狭窄の拡張術 ―― バルーン
  2. b.食道静脈瘤の止血術 ―― 高周波ナイフ
  3. c.胃内異物の除去術 ―― クリップ
  4. d.消化性潰瘍の止血術 ―― スネア
  5. e.早期胃癌の粘膜下層剝離術 ―― バスケット鉗子

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な消化管の内視鏡治療と、そこで使う処置具の組合せを問う問題だ。器具の名前を丸暗記するより、「その処置で何をしたいのか」を考えるのがコツだよ。拡げたいのか、切りたいのか、止めたいのか、つかみたいのか。この4つの目的で整理すると、ぐっと分かりやすくなる。
医学生医学生
器具の名前は聞いたことがあっても、実物をイメージできるものが少ないです。消化器内科の実習で内視鏡室には入ったんですが、介助の看護師さんが次々に器具を渡していて追いきれませんでした。
ドクタードクター
最初はみんなそうだよ。処置具はどれも内視鏡の鉗子口、つまりチャンネルから細長いカテーテルとして挿入し、先端の部分が目的ごとに違う形をしている。まず食道狭窄の拡張術から考えてみよう。狭くなった内腔に対して何をしたい?
医学生医学生
広げたいので、風船のようなもので押し広げるイメージです。バルーンは合っていると思います。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。食道癌術後の吻合部狭窄やESD後の瘢痕狭窄、腐食性食道炎後の狭窄、アカラシアなどに対して、しぼんだバルーンを狭窄部に置き、水や造影剤で膨らませて内腔を押し広げる。ブジーという棒状の拡張器を使う方法もある。主な合併症は穿孔だから、慎重に段階的に拡げていくんだ。
医学生医学生
では食道静脈瘤の止血に高周波ナイフ、というのはどうでしょう。電気で焼いて止めるのかと一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいね。高周波ナイフは組織を「切る・剝がす」ための器具で、静脈瘤を切ったら大出血になってしまう。食道静脈瘤では、ゴム製のOリングで静脈瘤を縛るEVL(内視鏡的静脈瘤結紮術)か、硬化剤を注入するEIS(内視鏡的静脈瘤硬化療法)が基本だ。内視鏡で止めきれないときの一時しのぎには、SBチューブでバルーン圧迫をすることもある。
医学生医学生
SBチューブは救急の講義で出てきました。食道と胃の2つのバルーンで圧迫するんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。次は胃内異物の除去にクリップ。クリップは何のための器具だろう?
医学生医学生
組織を挟んで閉じる器具なので、止血や傷を閉じるのに使うものだと思います。異物をつかんで引き抜くには向かなさそうです。
ドクタードクター
正しい理解だ。クリップは出血源を挟んで止血したり、切除後の粘膜欠損や小さな穿孔を縫縮したりするために使う。異物の回収には把持鉗子、回収ネット、スネア、バスケット鉗子など「つかむ・回収する」器具を使う。PTPシートや魚骨のように鋭いものは、食道を傷つけないようにオーバーチューブや先端フードを併用することもあるんだ。
医学生医学生
逆に、消化性潰瘍の止血にはクリップが合いますね。そうするとスネアは違う、と。
ドクタードクター
その通り。出血性潰瘍では、露出血管をクリップで挟む方法、止血鉗子での熱凝固、高張Na-エピネフリン液や純エタノールの局注、薬剤散布などが使われる。スネアは輪っか状のワイヤーでポリープの茎などを絞めて、高周波電流で切り取る器具だ。ポリペクトミーやEMRで使うもので、潰瘍の止血には使わない。
医学生医学生
最後の早期胃癌のESDにバスケット鉗子、というのは明らかに変ですね。バスケットは胆管結石のときに使うものだと習いました。
ドクタードクター
そう。バスケット鉗子はワイヤーでかご状に結石を包み込んで回収する器具で、主にERCP下での総胆管結石除去に使う。ESDでは、病変の下の粘膜下層に液体を局注して持ち上げ、高周波ナイフで周囲を切開し、粘膜下層を剝がして一括切除する。出血したら止血鉗子で凝固する、という流れだ。
医学生医学生
つまり、高周波ナイフはESD、スネアはポリペクトミーやEMR、クリップは止血、バスケットは胆管結石、と目的で振り分ければいいんですね。
ドクタードクター
まさにその整理で十分戦える。発展知識も押さえておこう。ESDとEMRの違いは頻出だ。EMRはスネアで絞めて切るから、大きな病変では分割切除になりやすい。ESDはナイフで剝がしていくので、大きな病変でも一括切除ができ、断端や深達度の病理評価を正確に行いやすいのが利点なんだ。
医学生医学生
一括で取れると、追加の外科手術が必要かどうかの判断もしやすくなるということですね。
ドクタードクター
その通り。それから胆管結石では、乳頭括約筋を切開するESTや乳頭をバルーンで拡げるEPBDのあとにバスケットや採石用バルーンで結石を取り出し、大きな結石は機械的に砕石する。胃静脈瘤では組織接着剤の注入やBRTOといった別の選択肢もある。処置具は「何をしたいか」と結びつけて覚えると、臨床で器具を扱うときにも迷わなくなるよ。

まとめ

内視鏡治療の処置具は、目的によって「拡げる(バルーン、ブジー)」「切る・剝がす(高周波ナイフ、スネア)」「止める(クリップ、止血鉗子、局注)」「つかむ・回収する(把持鉗子、回収ネット、バスケット鉗子)」に整理できます。食道狭窄の拡張にはバルーンを用いるのが正しい組合せで、食道静脈瘤はEVL・EIS、出血性潰瘍はクリップや熱凝固・局注で止血します。スネアはポリペクトミーやEMR、高周波ナイフはESD、バスケット鉗子は主にERCP下の総胆管結石除去に使われます。ESDは大きな病変でも一括切除でき、正確な病理評価につながる点がEMRとの違いです。器具を名前ではなく目的で理解することが、内視鏡治療の全体像をつかみ、臨床現場で手技を理解する土台になります。

解答・解説

正解はaです

消化管の代表的な内視鏡治療について、それぞれで使用する処置具(デバイス)を正しく対応させられるかを問う問題である。 内視鏡の処置具は内視鏡の鉗子口(チャンネル)から挿入して使用し、目的ごとにおおよそ次のように整理できる。 ・拡げる:バルーン(バルーンダイレーター)、ブジー ・切る・剝がす:高周波ナイフ(ESD用ナイフ)、スネア(ポリープを絞めて切除) ・止める(止血):クリップ、止血鉗子(凝固)、局注針、アルゴンプラズマ凝固(APC) ・静脈瘤を処理する:結紮用のO(オー)リング(EVL)、硬化剤注入用の穿刺針(EIS) ・つかむ・回収する:把持鉗子、回収ネット、スネア、バスケット鉗子(胆管結石など) 各選択肢の治療について「何をしたい処置か」を考え、それに合う機器かどうかで判断すると迷わない。食道狭窄の拡張術は「内腔を広げる」処置であり、バルーンとの組合せが正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  食道狭窄の拡張術 ―― バルーン

    食道狭窄(食道癌術後の吻合部狭窄、ESD後の瘢痕狭窄、腐食性食道炎後の狭窄、アカラシアなど)に対しては、内視鏡的バルーン拡張術が広く行われる。狭窄部に収縮したバルーンを位置させ、水や造影剤で膨らませて内腔を押し広げる。内視鏡の鉗子口を通して用いるタイプのほか、ガイドワイヤーに沿って挿入するタイプもある。穿孔が主な合併症である。組合せとして正しい。

  2. ×b.  食道静脈瘤の止血術 ―― 高周波ナイフ

    食道静脈瘤の内視鏡的止血には、静脈瘤をゴム製のOリングで縛る内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL:endoscopic variceal ligation)や、静脈瘤内外に硬化剤を注入する内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS:endoscopic injection sclerotherapy)が用いられる。内視鏡的止血が困難な場合の一時的止血にはSB(Sengstaken-Blakemore)チューブによるバルーン圧迫が行われる。高周波ナイフは組織を切開・剝離する器具であり、静脈瘤を切れば大出血を招くため用いない。高周波ナイフはESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)で使用する。

  3. ×c.  胃内異物の除去術 ―― クリップ

    胃内異物(PTP包装シート、硬貨、ボタン電池、義歯、魚骨など)の除去には、把持鉗子、回収ネット、スネア、バスケット鉗子などの「つかむ・回収する」処置具を用いる。鋭利な異物では食道や咽頭を傷つけないよう、オーバーチューブや先端フードを併用することもある。クリップは組織を挟んで閉じる器具であり、主に出血源の止血や、切除後の粘膜欠損・小さな穿孔の縫縮に用いるもので、異物の回収には用いない。

  4. ×d.  消化性潰瘍の止血術 ―― スネア

    出血性消化性潰瘍の内視鏡的止血には、露出血管をクリップで挟むクリップ法、止血鉗子や電極による熱凝固法、高張Na-エピネフリン液(HSE)や純エタノールの局注法、止血薬の散布法などがある。スネアは輪状のワイヤーでポリープの茎などを絞めて高周波電流で切除する器具で、大腸ポリープなどの内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)に用いる。潰瘍の止血には用いない。

  5. ×e.  早期胃癌の粘膜下層剝離術 ―― バスケット鉗子

    内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)では、病変周囲の粘膜下層に液体を局注して病変を持ち上げたうえで、高周波ナイフで周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を剝離して病変を一括切除する。術中の出血には止血鉗子を用いる。バスケット鉗子はワイヤーでかご状に結石を包み込んで回収する器具で、主に内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)下での総胆管結石の除去(必要に応じて砕石)に用いる。ESDには用いない。

主な内視鏡治療と処置具の対応

・食道・消化管狭窄の拡張:バルーン、ブジー。悪性狭窄では金属ステント留置も行う。 ・食道・胃静脈瘤:EVL(Oリングによる結紮)、EIS(硬化剤注入)。胃静脈瘤ではシアノアクリレート系組織接着剤の注入やBRTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術)も用いられる。一時止血にはSBチューブ。 ・出血性潰瘍:クリップ、止血鉗子による熱凝固、HSE局注、APC など。 ・ポリープ・早期癌の切除:スネア(ポリペクトミー、EMR)、高周波ナイフ(ESD)。 ・異物除去:把持鉗子、回収ネット、スネア、バスケット鉗子、オーバーチューブ。 ・総胆管結石:ERCP下で内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を行い、バスケット鉗子や採石用バルーンで結石を除去する。大きな結石は機械的砕石具で砕く。

ESDとEMRの違い

EMRはスネアで病変を絞扼して切除するため、大きな病変では分割切除になりやすい。ESDは高周波ナイフで粘膜下層を剝離するため、大きな病変でも一括切除が可能で、正確な病理学的評価に有利である。

POINT

・食道狭窄の拡張にはバルーン(またはブジー)を用いる。 ・食道静脈瘤はEVL(Oリング結紮)・EIS(硬化剤注入)、一時止血はSBチューブ。 ・消化性潰瘍の止血はクリップ・熱凝固・局注。 ・スネアはポリペクトミー・EMR、高周波ナイフはESD。 ・バスケット鉗子は胆管結石の除去に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。