StudyMed医師国家試験

黒い脳室、白い皮質―3つの手がかりでMRIシーケンスを見抜く

第108回医師国家試験 E問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第18問

物忘れを主訴に来院した70歳男性の頭部MRIを別に示す。  この画像はどれか。

第108回 E問題 第18問の問題画像
  1. a.T1強調像
  2. b.T2強調像
  3. c.FLAIR像
  4. d.拡散強調像
  5. e.プロトン密度強調像

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭部MRIの1枚から撮像法、つまりシーケンスを当てる問題だ。病名を問うのではなく「この画像は何か」を問う、画像診断の基本中の基本だね。注目すべきは、脳室や脳溝を満たす脳脊髄液の色、灰白質と白質のどちらが白いか、そして画質の粗さの3点だよ。
医学生医学生
脳室が黒いので、T1強調像かなと思いました。放射線医学の講義で「水が黒いのはT1」と習ったので。
ドクタードクター
その覚え方は半分正解なんだけど、それだけで決めると落とし穴にはまる。脳脊髄液が黒く写るシーケンスはT1強調像だけじゃないんだ。FLAIR像も拡散強調像も、脳脊髄液は黒くなる。
医学生医学生
えっ、そうなんですか。じゃあ水の色だけでは絞りきれないんですね。
ドクタードクター
そう。そこで2つ目の手がかり、灰白質と白質の関係を見る。この画像では、皮質の灰白質のほうが白質よりやや白く写っている。T1強調像ではどうなる?
医学生医学生
T1強調像は髄鞘の脂質が多い白質のほうが白く見えるので、白質>灰白質です。この画像とは逆ですね。
ドクタードクター
その通り。「灰白質>白質」はT2強調像系のコントラストなんだ。ではT2強調像かというと……。
医学生医学生
T2強調像なら水は真っ白なはずです。脳室が黒いから違いますね。
ドクタードクター
そういうこと。T2強調像のコントラストを保ちながら、脳脊髄液だけが黒く抑えられている。これがFLAIR像、つまり水抑制反転回復法の画像だ。反転パルスをかけて自由水の信号をほぼゼロにした「水を消したT2強調像」と考えるとわかりやすい。
医学生医学生
では拡散強調像はどう見分けるんですか。あれも水が黒いんですよね。
ドクタードクター
3つ目の手がかり、画質だ。拡散強調像は水分子の動きが制限された部分を白く描く撮像法で、解像度もS/N比も低く、全体にざらっと粗い。さらに副鼻腔や頭蓋底など空気と骨の境界付近でゆがみが出やすい。この画像は灰白質と白質の境界まで細かく描出されているから、拡散強調像ではないと判断できる。
医学生医学生
神経内科の実習で、脳梗塞疑いの救急患者さんでまず拡散強調像を撮っていたのを見ました。確かに画像がぼやっとしていた気がします。
ドクタードクター
いい経験だね。拡散強調像は発症からごく早期の超急性期脳梗塞をCTより早くとらえられるのが最大の強みだ。残るプロトン密度強調像はどうだろう。
医学生医学生
名前は聞いたことがありますが、脳の画像ではあまり見た覚えがないです。
ドクタードクター
それで正しい感覚だよ。プロトン密度強調像は長いTRと短いTEで撮って、T1・T2緩和の影響を小さくし、水素原子の量を反映させた画像だ。脳脊髄液は脳実質と大差ない灰色に写るので、この画像のようにくっきり黒くはならない。今は頭部のルーチン検査ではほとんど使われず、主に膝の半月板や靱帯など骨軟部領域で用いられる。
医学生医学生
まとめると、まず水が白いか黒いか、次に灰白質と白質のどちらが白いか、最後に画質の粗さ、という順で見ればいいんですね。
ドクタードクター
完璧だ。水が白ければT2強調像、黒ければT1強調像・FLAIR像・拡散強調像に絞り、白質が白ければT1強調像、灰白質が白ければT2系、粗くてゆがむなら拡散強調像。これで主なシーケンスはほぼ見分けられる。
医学生医学生
FLAIR像は臨床ではどんな場面で役立つんですか。今回は物忘れの患者さんでした。
ドクタードクター
FLAIR像の利点は、T2強調像だと白い脳脊髄液に紛れて見えにくい、脳室周囲や脳表近くの病変が浮かび上がることだ。物忘れを訴える高齢者なら、脳室周囲や深部白質の慢性虚血性変化の広がりや、海馬を含む萎縮の程度を評価するのに使われる。多発性硬化症の脱髄斑やくも膜下出血の検出にも有用だよ。
医学生医学生
拡散強調像で白く見えたら、すぐに急性期梗塞と考えていいんでしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だ。T2強調像で高信号の病変は、拡散制限がなくても拡散強調像で白く見えることがある。これをT2 shine-throughと呼ぶ。だからADCマップで本当に拡散が制限されているかを確認する習慣をつけよう。画像の「色」を覚えるだけでなく、なぜその色になるのかという原理まで理解しておくと、臨床で迷わなくなるよ。

まとめ

頭部MRIのシーケンスは、脳脊髄液の信号、灰白質と白質の信号の上下関係、画質の粗さの3点で見分けられます。脳脊髄液が黒く、灰白質が白質より高信号で、境界まで鮮明に描出された画像はFLAIR像であり、T1強調像(白質>灰白質)、T2強調像(水が白い)、拡散強調像(画質が粗くゆがみやすい)、プロトン密度強調像(水が灰色)とは区別されます。FLAIR像は水の信号を抑えたT2強調系の画像で、脳室周囲や脳表近くの白質病変、脱髄斑、くも膜下出血などの検出に優れ、物忘れを訴える高齢者の評価でも頻用されます。拡散強調像は超急性期脳梗塞の早期診断に有用ですが、T2 shine-throughに注意してADCマップと併せて評価します。各シーケンスの信号の原理を理解しておくことは、画像所見を正しく読み、適切な検査を選ぶための土台になります。

解答・解説

正解はcです

頭部MRIの撮像法(シーケンス)を画像から見分ける問題である。判別の手がかりは主に次の3つの組織の信号である。 ①脳脊髄液(CSF:脳室や脳溝を満たす水) ②灰白質(大脳皮質・基底核など)と白質の信号の上下関係 ③画像の解像度・S/N(拡散強調像は画質が粗く、ゆがみが出やすい)

本画像の読み取り

・脳室や脳溝の脳脊髄液が黒い(低信号)。 ・灰白質(皮質)が白質よりもやや白い(高信号)。 ・脳実質の輪郭や灰白質と白質の境界が細かく描出されており、拡散強調像のような粗い画像ではない。

考え方

「灰白質>白質」という信号の関係はT2強調像系の特徴である(T1強調像では逆に白質>灰白質となる)。一方、T2強調像であれば脳脊髄液は真っ白に写るはずである。T2強調像と同じコントラストを持ちながら脳脊髄液だけが黒く抑制されている画像、すなわちFLAIR像と判断できる。 なお、物忘れを主訴とする高齢者では、FLAIR像で脳室周囲や深部白質の高信号域(慢性虚血性変化)、海馬の萎縮などを評価することが多く、臨床的にもよく用いられる撮像法である。

選択肢考察

  1. ×a.  T1強調像

    T1強調像では脳脊髄液は黒く(低信号)写る点は本画像と同じだが、髄鞘に富む白質が灰白質よりも白く写る(白質>灰白質)。本画像は灰白質の方が白質より高信号であり、T1強調像のコントラストとは逆である。なおT1強調像では脂肪が高信号となり、解剖学的構造の把握や造影効果(ガドリニウム造影)の評価に適する。

  2. ×b.  T2強調像

    T2強調像では灰白質が白質より高信号となる点は本画像と一致するが、水分が多い組織ほど白く写るため、脳脊髄液は非常に強い高信号(真っ白)となる。本画像では脳室・脳溝が黒いので、T2強調像ではない。T2強調像は浮腫・炎症・腫瘍など水分量が増える病変を高信号として描出する基本的な撮像法である。

  3. ○c.  FLAIR像

    FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery:水抑制反転回復法)像は、反転パルスを加えて自由水(脳脊髄液)の信号をゼロに近づけたT2強調系の画像である。そのため、灰白質が白質よりやや高信号というT2強調像に近いコントラストを保ちつつ、脳脊髄液は黒く写る。本画像の「脳脊髄液が低信号・灰白質>白質」という所見はこれに合致する。T2強調像では明るい脳脊髄液に紛れて見えにくい脳室周囲や脳表近くの病変(脳室周囲白質病変、脱髄斑、ラクナ梗塞、くも膜下出血など)を高信号として見つけやすいのが利点である。

  4. ×d.  拡散強調像

    拡散強調像(DWI:diffusion-weighted imaging)は、水分子の拡散(ブラウン運動)が制限された部位を高信号として描出する撮像法である。細胞性浮腫を生じる超急性期脳梗塞を発症後早期(数十分〜数時間)から検出でき、CTより早く診断できる。脳脊髄液は拡散が自由なため低信号となるが、画像は解像度・S/N比が低く粗い印象で、空気と骨の境界付近でゆがみ(磁化率アーチファクト)が出やすい。本画像のように灰白質と白質の境界まで鮮明に描出された画像とは異なる。

  5. ×e.  プロトン密度強調像

    プロトン密度強調像は、長いTR(繰り返し時間)と短いTE(エコー時間)で撮像し、T1緩和(縦緩和)・T2緩和(横緩和)の影響を小さくして、組織内の水素原子(プロトン)の量を反映させた画像である。脳では脳脊髄液が脳実質とあまり差のない灰色〜やや高信号となり、本画像のように明瞭に黒くはならない。現在の頭部ルーチン検査ではほとんど用いられず、主に関節の軟骨・半月板・靱帯など骨軟部領域の評価に使われる。

頭部MRI主要シーケンスの信号の目安

・T1強調像:脳脊髄液=黒、白質>灰白質、脂肪=白。解剖の把握、造影効果の評価、亜急性期出血(メトヘモグロビン)の高信号など。 ・T2強調像:脳脊髄液=白、灰白質>白質。浮腫・腫瘍・炎症など水分の多い病変が高信号。 ・FLAIR像:脳脊髄液=黒、灰白質>白質。脳室周囲・脳表の病変、白質病変、くも膜下出血の検出に有用。 ・拡散強調像:拡散制限のある部位が高信号。超急性期脳梗塞、膿瘍、類表皮嚢胞、クロイツフェルト・ヤコブ病(皮質のリボン状高信号)など。T2強調像で高信号の病変が拡散強調像でも白く見える現象(T2 shine-through)に注意し、ADC(見かけの拡散係数)マップで確認する。 ・プロトン密度強調像:プロトン量を反映。主に骨軟部領域で使用。

見分け方の手順

1. 脳脊髄液が白いか黒いか(白→T2強調像、黒→T1強調像・FLAIR像・拡散強調像) 2. 灰白質と白質の上下関係(白質が白い→T1強調像、灰白質が白い→T2系) 3. 画質が粗く頭蓋底付近がゆがむ→拡散強調像

MRIの一般的特徴

CTに比べ軟部組織のコントラストが高く、放射線被曝がない。骨によるアーチファクトが少ないため、後頭蓋窩や頭蓋底の病変評価に優れる。一方、検査時間が長く、心臓ペースメーカー(MRI非対応型)や一部の金属留置物がある患者では禁忌・注意となる。

POINT

・脳脊髄液が黒く、灰白質が白質より高信号の画像はFLAIR像である。 ・T1強調像:水=黒、白質>灰白質。T2強調像:水=白、灰白質>白質。 ・FLAIR像は「水の信号を消したT2強調像」で、脳室周囲や脳表の病変の検出に優れる。 ・拡散強調像は超急性期脳梗塞の早期診断に有用で、画質が粗いのが見た目の特徴。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。