ぼんやりする高齢者の発作―焦点発作の第一選択薬と「高齢者ならでは」の薬選び
第108回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
高齢者の複雑部分発作の治療薬として最も適切なのはどれか。
- a.バルプロ酸
- b.ジアゼパム
- c.クロナゼパム
- d.カルバマゼピン
- e.フェノバルビタール
対話形式の解説
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ドクターまとめ
複雑部分発作は意識減損を伴う焦点発作(現在の名称は焦点意識減損発作)で、動作停止や自動症が特徴です。高齢者のてんかんは脳血管障害や認知症などを背景とする焦点てんかんが多く、けいれんが目立たないため認知症やせん妄と誤認されやすい点に注意が必要です。焦点発作の代表的な第一選択薬はカルバマゼピンで、全般発作にはバルプロ酸、重積状態の初期治療にはジアゼパムを用い、鎮静作用の強いフェノバルビタールやベンゾジアゼピン系薬は高齢者の長期治療に不向きです。カルバマゼピンは低ナトリウム血症、心伝導障害、重症薬疹、CYP3A4誘導による相互作用に注意し、合併症や多剤併用のある高齢者ではレベチラセタムやラモトリギンが優先されることもあります。発作型と患者背景の両面から薬を選ぶ視点は、てんかん診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
てんかんの発作型に応じた抗てんかん薬(抗てんかん発作薬)の選択を問う問題である。
発作型の整理
複雑部分発作とは、脳の一部(焦点)から始まり、意識障害(意識減損)を伴う発作をいう。動作停止、一点凝視、口をもぐもぐさせる・手をまさぐるといった自動症がみられ、発作中の記憶がないのが典型である。側頭葉てんかんで多い。2017年の国際抗てんかん連盟(ILAE)分類では「焦点意識減損発作」と呼ばれ、従来の「部分発作」は「焦点発作」に改められた。
高齢者てんかんの特徴
高齢になるとてんかんの発症率は再び上昇し、脳血管障害、認知症(Alzheimer型認知症など)、脳腫瘍、頭部外傷などを背景とする焦点てんかんが大部分を占める。発作は二次性全般化(焦点起始両側強直間代発作)を伴わない複雑部分発作が多く、けいれんが目立たないため認知症やせん妄と誤認されやすい。高齢者は薬物に対する感受性が高く、肝・腎機能の低下や併用薬の多さから、少量で開始し、鎮静・認知機能低下などの副作用や薬物相互作用の少ない薬を選ぶことが重要である。
正解を導く考え方
焦点発作に対する標準的な第一選択薬は、選択肢の中ではカルバマゼピンである。バルプロ酸は全般発作の第一選択薬、ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム、クロナゼパム)は重積発作の頓用や特定の発作型への補助薬、フェノバルビタールは鎮静・認知機能への影響が大きく高齢者の長期治療には不向きである。したがって最も適切なのはカルバマゼピンである。なお、現在の診療ではラモトリギンやレベチラセタムも焦点発作の第一選択薬とされ、合併症のある高齢者ではこれら新規抗てんかん薬がむしろ優先されることがある。
選択肢考察
- ×a. バルプロ酸
バルプロ酸は広域スペクトラムの抗てんかん薬で、強直間代発作・欠神発作・ミオクロニー発作など全般発作の第一選択薬である。焦点発作にも一定の効果はあるが、カルバマゼピンなどに比べ第一選択とはされない。副作用として肝障害、高アンモニア血症、膵炎、血小板減少、体重増加、振戦などがあり、催奇形性(神経管閉鎖障害など)が高いため妊娠可能年齢の女性では使用を避ける。てんかん以外に双極性障害の気分安定薬や片頭痛の発作予防にも用いられる。高齢者の焦点発作に対する最適な薬剤とはいえない。
- ×b. ジアゼパム
ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬で、GABA-A受容体の作用を増強して速やかに発作を止める。てんかん重積状態(発作が5分以上持続する、または意識が戻らないうちに発作を繰り返す状態)の初期治療として静注で用いられる。作用時間が短く脂肪組織への再分布で効果が切れやすいこと、耐性や依存、鎮静・ふらつき・呼吸抑制を生じることから、発作の長期予防薬には用いない。特に高齢者では転倒やせん妄の原因となるため不適切である。
- ×c. クロナゼパム
クロナゼパムは長時間作用型のベンゾジアゼピン系抗てんかん薬で、ミオクロニー発作や脱力発作などの全般発作、Lennox-Gastaut症候群やWest症候群(点頭てんかん)といった難治性てんかんに補助的に用いられる。耐性が生じやすく、眠気、ふらつき、気道分泌物の増加などの副作用がある。焦点発作の第一選択薬ではなく、高齢者では鎮静や転倒のリスクも高いので適切でない。
- ○d. カルバマゼピン
カルバマゼピンは電位依存性ナトリウムチャネルを阻害して神経の反復発火を抑える薬で、焦点発作(複雑部分発作を含む)に対する代表的な第一選択薬である。本邦のガイドラインでも、合併症のない高齢者の焦点発作に対し、カルバマゼピンはラモトリギン、レベチラセタム、ガバペンチンとともに推奨されている。高齢者では少量から開始し、低ナトリウム血症(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群様)、めまい・ふらつき、房室ブロックなどの心伝導障害、骨髄抑制、薬疹(Stevens-Johnson症候群。HLA-A*31:01 保有者で起こりやすい)に注意する。また肝の薬物代謝酵素(CYP3A4)を誘導するためワルファリンなど併用薬の血中濃度を下げる点にも留意が必要である。なお、全般発作のうち欠神発作やミオクロニー発作は増悪させることがあるので、発作型の見極めが前提となる。
- ×e. フェノバルビタール
フェノバルビタールはバルビツール酸系の薬で、GABA-A受容体を介して抑制性伝達を強める。古くから焦点発作・全般発作に用いられてきたが、眠気・認知機能低下・ふらつきなどの鎮静作用が強く、強力な肝酵素誘導による薬物相互作用も多い。現在では第一選択薬とはされず、特に高齢者の長期治療には不向きである。現在は主にてんかん重積状態の二次治療薬(静注)や新生児発作などで用いられる。
発作型別の抗てんかん薬選択(本邦のてんかん診療ガイドラインの考え方)
・焦点発作(部分発作):第一選択はカルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム。次いでゾニサミド、トピラマートなど。 ・全般発作: 強直間代発作 → バルプロ酸(妊娠可能年齢の女性ではラモトリギン、レベチラセタムなど) 欠神発作 → バルプロ酸、エトスクシミド ミオクロニー発作 → バルプロ酸、クロナゼパム、レベチラセタム ・てんかん重積状態:ジアゼパムまたはロラゼパム静注 → ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタム、ミダゾラムなど → 全身麻酔療法。
高齢者の焦点発作
・合併症のない高齢者:カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、ガバペンチンが推奨される。 ・合併症(脳卒中後、認知症、多剤併用など)のある高齢者:相互作用や副作用の少ないレベチラセタム、ラモトリギン、ガバペンチンが優先される。 ・新規抗てんかん薬(レベチラセタム、ラモトリギンなど)は肝酵素誘導作用がほとんどなく、薬物相互作用が少ない。以前は本邦では併用療法に限って承認されていたが、現在はレベチラセタムやラモトリギンなどで単剤療法も認められている。 ・少量から開始し、緩徐に増量することが原則である。
主な抗てんかん薬の副作用
カルバマゼピン:低ナトリウム血症、薬疹(SJS/TEN)、骨髄抑制、心伝導障害、酵素誘導 バルプロ酸:肝障害、高アンモニア血症、膵炎、催奇形性 フェニトイン:歯肉増殖、多毛、小脳失調、眼振 ラモトリギン:重症薬疹(急速な増量やバルプロ酸併用で起こりやすい) レベチラセタム:易刺激性・抑うつなどの精神症状
POINT
・複雑部分発作は意識減損を伴う焦点発作(現在の名称は焦点意識減損発作)で、自動症が特徴。 ・焦点発作の第一選択薬はカルバマゼピン(ほかにラモトリギン、レベチラセタム)。 ・全般発作の第一選択薬はバルプロ酸。 ・ジアゼパムは重積発作の初期治療薬で、長期予防には使わない。 ・高齢者では副作用・相互作用の少ない薬を少量から用いる。合併症のある高齢者ではレベチラセタム、ラモトリギンなどが優先される。
