StudyMed医師国家試験

胆管上皮を傷つけるもの―肝内胆管癌のリスクは「慢性炎症」と「胆汁中の発癌物質」で整理する

第119回医師国家試験 C問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第35問

肝内胆管癌のリスクファクターはどれか。3つ選べ。

  1. a.飲酒
  2. b.肝内結石
  3. c.経口避妊薬
  4. d.塩素系有機溶剤
  5. e.原発性硬化性胆管炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肝内胆管癌のリスクファクターを選ぶ問題だ。ポイントは、癌が生まれる場所が「肝細胞」ではなく「胆管上皮」だということ。胆管上皮に何が起きると癌化しやすいのか、という視点で選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
肝臓の癌と聞くと、つい肝炎ウイルスやお酒を思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
それは肝細胞癌のイメージだね。原発性肝癌の大部分は肝細胞癌で、肝内胆管癌は数%程度にすぎない。肝内胆管癌は肝内の胆管上皮から発生する腺癌で、腫瘍マーカーもAFPやPIVKA-IIではなく、CA19-9やCEAが上がりやすい。由来が違えば、リスクの考え方も変わるんだ。
医学生医学生
消化器内科の講義で、胆管癌は胆管に長く炎症が続くと起きやすいと習った気がします。
ドクタードクター
まさにそれが一つ目の軸。胆汁うっ滞や結石で胆管炎が繰り返されると、上皮は傷ついては再生する、を延々と繰り返す。その過程で異形成を経て癌化していく。もう一つの軸は、胆汁中に排泄される発癌物質に胆管上皮がさらされること。この2つで整理すると覚えやすい。
医学生医学生
そうすると、肝内結石は一つ目の軸にぴったり当てはまりますね。
ドクタードクター
その通り。肝内結石は多くがビリルビンカルシウム石で、胆汁の流れを妨げ、細菌感染を伴う胆管炎を繰り返す。肝内結石症の数%から10%前後に胆管癌が合併するとされ、結石を取り除いた後も発癌リスクが残るので、長く経過を見る必要があるんだ。
医学生医学生
原発性硬化性胆管炎も、名前からして胆管の慢性炎症ですよね。潰瘍性大腸炎との合併が有名だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。原発性硬化性胆管炎は肝内外の胆管に原因不明の炎症と線維化が起き、胆管が狭窄と拡張を繰り返して数珠状になる。慢性炎症と胆汁うっ滞を背景に、生涯で1割前後に胆管癌を合併するとされる。厄介なのは、もともと狭窄がある病気なので、良性の狭窄か癌による狭窄かの区別が難しいこと。だから定期的な画像検査やCA19-9での監視が大切になる。
医学生医学生
塩素系有機溶剤は、公衆衛生の講義で聞いた印刷工場の話でしょうか。
ドクタードクター
そう、2012年に大阪の印刷事業場で、校正印刷に従事していた若い労働者に胆管癌が多発した事例だ。インクの洗浄に使われていた1,2-ジクロロプロパンやジクロロメタンへの高濃度・長期間の曝露が原因と考えられている。これらは肝で代謝されて胆汁中に出ていく過程で胆管上皮を障害すると推定されていて、二つ目の軸の典型例だね。職業性胆管癌として労災認定され、規制も強化された。
医学生医学生
若い人に胆管癌が集まったからこそ、異常に気づけたんですね。では飲酒はどうでしょう。肝臓に悪いので、つい選びたくなります。
ドクタードクター
その迷いはもっともだ。飲酒は肝細胞癌の代表的なリスクファクターで、肝内胆管癌についても肝硬変を介した関連を示す疫学研究はある。ただ、胆管上皮を直接障害する経路ではなく、肝内結石や原発性硬化性胆管炎ほど確立した因子ではない。この問題では、胆管上皮そのものを傷つける因子を優先して選ぶのが妥当だね。
医学生医学生
経口避妊薬は肝臓の腫瘍と関係があった気がしますが……。
ドクタードクター
関係があるのは肝細胞腺腫だ。若い女性で経口避妊薬を長く飲んでいると発生しやすく、中止で縮小することもある。腺腫は出血や破裂、まれに悪性化を起こすことがあるけれど、肝内胆管癌の確立したリスクではない。肝の良性腫瘍とセットで覚えておこう。
医学生医学生
胆管上皮の慢性炎症と、胆汁中の発癌物質。この2本立てで考えれば、肝内結石、原発性硬化性胆管炎、塩素系有機溶剤の3つになるわけですね。
ドクタードクター
その通り。同じ軸で整理できるリスクとして、膵・胆管合流異常や先天性胆道拡張症、Caroli病などの胆管拡張症、東アジアの肝吸虫や東南アジアのタイ肝吸虫も押さえておきたい。歴史的には造影剤のトロトラストも原因になった。さらに肝内胆管癌では、B型・C型慢性肝炎や肝硬変、肥満・糖尿病・脂肪性肝疾患も関連が指摘されている。
医学生医学生
画像ではどう見分けるんですか。臨床実習で肝細胞癌の造影CTは早期濃染とwash outと教わりました。
ドクタードクター
肝内胆管癌は線維性の間質が豊富なので、辺縁から徐々に、遅い相で濃染される傾向がある。末梢胆管の拡張や肝被膜の陥凹を伴うこともある。症状が出にくく進行して見つかることが多いから、リスクのある人を意識して追いかけることが、臨床では何より大切なんだ。

まとめ

肝内胆管癌は肝内の胆管上皮から発生する腺癌で、そのリスクファクターは「胆管上皮の慢性炎症・胆汁うっ滞」と「胆汁中に排泄される発癌物質」の2つの軸で整理できます。前者の代表が肝内結石と原発性硬化性胆管炎で、ほかに膵・胆管合流異常、胆管拡張症、肝吸虫感染などがあり、後者の代表が印刷工場での集団発生で知られる1,2-ジクロロプロパンやジクロロメタンなどの塩素系有機溶剤です。飲酒は肝細胞癌の代表的なリスクで、肝内胆管癌とは肝硬変を介した間接的な関連にとどまり、経口避妊薬は肝細胞腺腫と関連します。腫瘍マーカーは肝細胞癌がAFP・PIVKA-II、肝内胆管癌がCA19-9・CEAと異なり、細胞の由来から考えることで鑑別とリスク評価を一貫して理解できます。症状に乏しく進行して見つかりやすい癌だからこそ、高リスク患者を把握して定期的に経過を追う姿勢が重要です。

解答・解説

正解はb, d, eです

肝内胆管癌とは

肝内胆管癌(ICC: intrahepatic cholangiocarcinoma、胆管細胞癌)は、肝内の胆管上皮から発生する悪性腫瘍で、原発性肝癌の約5%を占める(大部分は肝細胞癌)。肉眼的に腫瘤形成型・胆管浸潤型・胆管内発育型に分けられ、自覚症状に乏しく進行して見つかることが多いため予後不良である。腫瘍マーカーではCA19-9やCEAが上昇しやすく、AFPが上昇しやすい肝細胞癌との違いになる。

発癌の背景にある共通の機序

胆管癌のリスクファクターの多くは、「胆管上皮に慢性的な炎症や刺激が加わる状態」としてまとめられる。 ・胆汁うっ滞や結石による持続的な炎症 → 胆管上皮の再生・増殖が繰り返される → 異形成(胆管内上皮内腫瘍〈BilIN〉など)を経て癌化 ・胆汁中に排泄される発癌物質への曝露 → 胆管上皮のDNA損傷

考え方

選択肢のうち、肝内結石(慢性胆管炎・胆汁うっ滞)、原発性硬化性胆管炎(胆管の慢性炎症と線維化)、塩素系有機溶剤(胆汁に排泄される化学発癌物質)は、いずれも胆管上皮そのものを直接障害する確立したリスクファクターである。一方、飲酒は肝細胞癌の代表的なリスクファクターであり、肝内胆管癌については肝硬変を介した間接的な関連が指摘されるにとどまる。経口避妊薬は肝細胞腺腫に関連する薬剤である。胆管上皮を直接障害する因子を3つ選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  飲酒

    飲酒は、アルコール代謝物アセトアルデヒドによるDNA損傷や酸化ストレスを介して、口腔・咽頭・食道・肝細胞癌などのリスクを高める。肝内胆管癌についても、アルコール性肝障害や肝硬変を背景とした発生率の上昇が疫学研究で報告されているが、飲酒そのものが胆管上皮を直接障害して癌化させるという関連は、肝内結石や原発性硬化性胆管炎ほど確立していない。また肝外胆管癌を含む胆管癌全体のリスクファクターとしては一般に挙げられない。胆管上皮の慢性炎症という典型的な発癌経路に当てはまる他の3つと比べ、本問では正解に含まれない。

  2. ○b.  肝内結石

    肝内結石は肝内胆管にできる結石で、多くはビリルビンカルシウム石である。胆汁の流れが滞り、細菌感染を伴う胆管炎を繰り返すことで、胆管上皮に慢性炎症と再生・増殖が続き、異形成を経て肝内胆管癌が発生する。肝内結石症の数%〜10%前後に胆管癌の合併がみられるとされ、結石を除去した後も発癌リスクが残るため長期の経過観察が必要である。

  3. ×c.  経口避妊薬

    経口避妊薬(エストロゲンとプロゲスチンの合剤)の長期服用は、肝細胞腺腫の発生と関連する良性腫瘍のリスク因子として知られ、服用中止で縮小することもある。そのほか血栓症(Budd-Chiari症候群を含む)や乳癌・子宮頸癌のわずかなリスク上昇との関連が指摘される一方、子宮体癌・卵巣癌のリスクはむしろ低下させる。肝内胆管癌の確立したリスクファクターではない。

  4. ○d.  塩素系有機溶剤

    2012年、大阪の印刷事業場で校正印刷に従事した若年労働者に胆管癌が集団発生し、インクの洗浄剤として使われていた塩素系有機溶剤の1,2-ジクロロプロパンとジクロロメタンへの高濃度・長期間の曝露が原因と考えられた。これらは肝で代謝されて胆汁中に排泄される過程で胆管上皮を障害すると推定されている。厚生労働省は労働災害(職業性胆管癌)として認定し、1,2-ジクロロプロパンは国際がん研究機関(IARC)でグループ1(ヒトに対して発がん性がある)に分類された。こうした事例を受けて、労働安全衛生法の特定化学物質として規制が強化されている。

  5. ○e.  原発性硬化性胆管炎

    原発性硬化性胆管炎(PSC: primary sclerosing cholangitis)は、肝内外の胆管に原因不明の慢性炎症と線維化が起こり、胆管が多発性に狭窄・拡張して数珠状となる疾患である。潰瘍性大腸炎の合併が多い。慢性炎症と胆汁うっ滞を背景に胆管癌の発生率が高く、生涯で約1割前後に胆管癌を合併するとされる。胆管狭窄が良性か悪性かの区別が難しいため、定期的な画像検査とCA19-9による経過観察が重要である。

胆管癌(肝内・肝外)の主なリスクファクター

・胆管の慢性炎症・胆汁うっ滞をきたす疾患: 肝内結石症、原発性硬化性胆管炎、膵・胆管合流異常(特に先天性胆道拡張症を伴うもの)、Caroli病などの胆管拡張症 ・寄生虫感染: 肝吸虫(Clonorchis sinensis、東アジア)、タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini、東南アジア) ・化学物質: 1,2-ジクロロプロパン、ジクロロメタン(職業性胆管癌)。歴史的にはX線造影剤トロトラストも原因となった ・肝内胆管癌で特に指摘されるもの: B型・C型慢性肝炎、肝硬変、さらに肥満・糖尿病・非アルコール性脂肪性肝疾患など。飲酒は肝硬変を介した関連が報告されている

肝細胞癌との比較

・肝細胞癌: 背景肝はB型・C型肝炎ウイルス、アルコール、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)などによる慢性肝疾患・肝硬変が多い。腫瘍マーカーはAFP、PIVKA-II。造影CTで早期濃染・後期wash out。 ・肝内胆管癌: 正常肝からも発生しうる。腫瘍マーカーはCA19-9、CEA。造影CTでは線維性間質に富むため辺縁から徐々に、遅延相で濃染される傾向がある。末梢胆管の拡張や肝被膜の陥凹を伴うことがある。

経口避妊薬と肝腫瘍

経口避妊薬は肝細胞腺腫(特に若年女性)との関連が知られ、腺腫は腫瘍内出血や破裂、まれに悪性化をきたすことがある。限局性結節性過形成(FNH)は経口避妊薬が原因ではないが、増大に影響しうるとされる。

POINT

・肝内胆管癌のリスクファクターは「胆管上皮の慢性炎症・胆汁うっ滞」と「胆汁中に排泄される発癌物質」で整理する。 ・代表例: 肝内結石、原発性硬化性胆管炎、膵・胆管合流異常/先天性胆道拡張症、肝吸虫、塩素系有機溶剤(1,2-ジクロロプロパン、ジクロロメタン)。 ・2012年の大阪の印刷工場での集団発生は職業性胆管癌として労災認定された。 ・飲酒は肝細胞癌の代表的リスクファクター、経口避妊薬は肝細胞腺腫の原因として押さえる。 ・肝内胆管癌の腫瘍マーカーはCA19-9・CEA、肝細胞癌はAFP・PIVKA-II。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。