StudyMed医師国家試験

絵筆を持った手に走った痛み―関節リウマチが静かに削る伸筋腱

第108回医師国家試験 D問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第32問

65歳の女性。手指を伸ばせないことを主訴に来院した。数日前に絵を描いていたら,右手から前腕に痛みが走り,環指と小指とを自力では伸ばせなくなったという。手指を伸ばすように指示した際の手の写真(A)と手関節部エックス線写真(B)とを別に示す。環指と小指の中手指節関節を他動的に伸展させることは可能であり,屈曲は自動,他動共に可能である。また母指,示指,中指および手関節の自動伸展と自動屈曲は可能である。感覚障害はない。15年前に関節リウマチの診断を受け,現在はメトトレキサートとプレドニゾロンにて治療中である。  病態として考えられるのはどれか。

第108回 D問題 第32問の問題画像
  1. a.頸椎性脊髄症
  2. b.手根管症候群
  3. c.橈骨神経麻痺
  4. d.指伸筋腱断裂
  5. e.中手指節関節強直

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、関節リウマチの患者さんで突然指が伸ばせなくなったとき、その原因がどこにあるのかを見極める問題だ。指が伸びない原因は「関節」「神経」「筋・腱」の3つに大きく分けられる。手の写真、他動運動の所見、感覚、そして手関節のエックス線から、どれに当てはまるかを考えていこう。
医学生医学生
指が伸びないと聞くと、まず橈骨神経麻痺の下垂手を思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。でも手の写真をよく見ると、手関節はしっかり伸びていて、指を伸ばそうとしても環指と小指だけが付け根の中手指節関節で曲がったまま垂れ下がっている。母指から中指までは問題なく伸びているんだ。まずは関節から考えよう。他動的には伸ばせるという所見は何を意味するかな。
医学生医学生
他人が動かせば伸びるので、関節そのものが固まっているわけではない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。関節強直は骨や線維組織が癒合して他動的にも動かなくなる状態だから、まず否定できる。リウマチでは中手指節関節の亜脱臼や尺側偏位でも指が伸びにくくなるけれど、その場合も他動的に伸ばしにくいのが普通だ。では神経はどうだろう。
医学生医学生
感覚障害がないので、神経は考えにくいと思います。手根管症候群なら正中神経領域のしびれが出るはずですし。
ドクタードクター
手根管症候群についてはいい判断だ。正中神経はそもそも指を伸ばす筋を支配していないから、指の伸展障害の説明にはならない。頸椎性脊髄症も、手のしびれや巧緻運動障害、腱反射亢進を伴いながら緩やかに進むことが多く、痛みとともに突然2本の指だけが伸びなくなる経過とは合わない。ただ「感覚障害がない=神経ではない」と一括りにするのは少し危ないんだ。
医学生医学生
えっ、感覚障害のない神経麻痺があるんですか。
ドクタードクター
橈骨神経の運動枝である後骨間神経の麻痺がそうだ。手関節の伸展は比較的保たれ、感覚障害もなく、指の付け根で伸ばせない下垂指になる。だから本来は有力な鑑別になる。
医学生医学生
整形外科の講義で、下垂手と下垂指の違いは障害部位の高さで決まると習いました。では今回はどうやって区別するんですか。
ドクタードクター
ポイントは障害の分布と経過だ。後骨間神経麻痺なら通常、母指から小指まで複数の指の伸展が障害される。今回は母指・示指・中指が正常で、小指側の2本だけが伸びない。しかも絵を描くという軽い動作で痛みが走り、その直後から伸ばせなくなった。神経麻痺よりも、腱が切れたと考えるほうが自然なんだ。
医学生医学生
なるほど、だから指伸筋腱断裂ですね。でも転んだわけでもないのに、腱が切れるものなんでしょうか。
ドクタードクター
そこが関節リウマチの怖いところだ。手関節の背側では伸筋腱を包む腱鞘に滑膜炎が起こり、腱自体がもろくなる。さらに遠位橈尺関節が破壊されると尺骨頭が背側へ突出し、そのざらざらした骨の縁で腱が毎日こすれる。これが積み重なって、外傷なしに切れる皮下断裂が起こる。エックス線で尺骨頭周囲の骨破壊や遠位橈尺関節の不整が見えるのは、まさにその土台があることを示しているんだ。
医学生医学生
尺骨頭は小指側にあるので、小指や環指へ向かう腱から切れていくわけですね。
ドクタードクター
よく気づいたね。小指伸筋腱、続いて総指伸筋腱の小指・環指へ向かう腱、さらに中指・示指へと、小指側から母指側へ順に断裂が進む。これをVaughan-Jackson症候群と呼ぶ。長期のステロイド内服も腱を弱くする要因になる。
医学生医学生
臨床実習の膠原病内科で、リウマチ患者さんの手を診察したとき尺骨頭が飛び出しているのを触りました。あれが腱を削っていたんですね。
ドクタードクター
いい経験だね。もうひとつ、診察で使える鑑別法を覚えておこう。手関節を他動的に掌屈させると、伸筋腱が引っ張られて指の付け根が受動的に伸びる。これを腱固定効果という。腱が切れていればこの動きが起こらず、後骨間神経麻痺なら腱はつながっているので保たれる。
医学生医学生
神経か腱かを、手首を曲げるだけで見分けられるんですね。治療はどうするんですか。
ドクタードクター
切れた腱の断端は縮んでしまうので、端と端を直接縫い合わせるのは難しい。隣の健常な腱に縫い付ける腱移行術や腱移植術を行い、原因となった尺骨頭の切除や滑膜切除を組み合わせる。放っておくと断裂は母指側へ次々と広がり、本数が増えるほど再建が難しくなる。だから1〜2本の段階での早期手術が大切なんだ。
医学生医学生
小指だけ伸びにくい、くらいの訴えでも見逃してはいけないということですね。
ドクタードクター
その通り。初期は小指だけの伸展障害で、本人も気づかなかったり、年のせいと思われたりしやすい。ほかにもリウマチでは、橈骨遠位のリスター結節で長母指伸筋腱が切れたり、手根骨の掌側の骨突出で長母指屈筋腱が切れたりすることもある。リウマチの手を診るときは、関節の変形だけでなく腱の機能にも目を向けよう。

まとめ

長期の関節リウマチ患者が軽い動作を契機に突然、環指・小指を伸ばせなくなった場合は、指伸筋腱の皮下断裂を第一に考えます。腱鞘滑膜炎による腱の脆弱化と、遠位橈尺関節の破壊で背側に突出した尺骨頭による摩耗が原因で、断裂は小指側から母指側へ進行します(Vaughan-Jackson症候群)。他動伸展が可能なら関節強直は否定され、感覚障害がなく障害が小指側の2指に限られる分布は神経障害では説明しにくく、後骨間神経麻痺との鑑別には腱固定効果の消失が役立ちます。治療は腱移行術・腱移植術に尺骨頭切除や滑膜切除を組み合わせ、断裂が広がる前の早期手術が望まれます。「関節・神経・腱」の順に原因を切り分ける考え方は、手の機能障害を診るすべての場面で役立ちます。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・65歳の女性で、15年来の関節リウマチ(RA: rheumatoid arthritis)があり、メトトレキサートとプレドニゾロン(副腎皮質ステロイド)で治療中である。 ・絵を描いていたときに右手から前腕にかけて痛みが走り、その直後から環指と小指を自力で伸ばせなくなった。軽い動作を契機とする突然の発症である。 ・写真(A)では、指を伸ばすよう指示しても、環指・小指は中手指節関節(MP関節:指の付け根の関節)で屈曲したまま下垂している。 ・環指・小指のMP関節は他動的には伸展でき、屈曲は自動・他動とも可能である。つまり関節そのものは動き、屈筋腱も機能している。 ・母指・示指・中指と手関節の自動伸展・屈曲は保たれている。 ・感覚障害はない。 ・手関節部エックス線写真(B)では、長期のRAによる手関節の破壊・変形がみられ、特に尺骨頭(尺骨の遠位端)周囲の骨破壊や、遠位橈尺関節(橈骨と尺骨の遠位端がつくる関節)の不整がうかがえる。

病態を考えるプロセス

指が自力で伸ばせない原因は、大きく分けて①関節の障害(強直・拘縮・脱臼)、②神経の障害(中枢〜末梢の運動神経麻痺)、③筋・腱の障害(伸筋腱の断裂・脱臼)の3つがある。 ①他動的には伸展できるので、関節が固まって動かない状態ではない。 ②感覚障害がなく、障害が環指・小指の伸展だけに限られ、しかも痛みとともに突然発症している。神経性であれば、感覚障害を伴うか、あるいは同じ神経が支配する他の筋にも麻痺が及ぶのが通常であり、本例の分布とは合わない。 ③RAの手関節では、滑膜の炎症(腱鞘滑膜炎)で伸筋腱自体が弱くなり、さらに破壊され背側へ突出した尺骨頭の骨の縁で腱が繰り返しこすれる。その結果、手関節の背側の尺側(小指側)を走る伸筋腱が小指側から順に摩耗・断裂する。これを皮下断裂(外傷によらない腱断裂)といい、軽微な動作をきっかけに生じる。 よって、RAに伴う環指・小指の指伸筋腱断裂が最も考えられる。長期のステロイド使用も腱の脆弱化を助長する要因となる。

選択肢考察

  1. ×a.  頸椎性脊髄症

    誤り。頸椎性脊髄症は、頸椎の変性(椎間板の膨隆、骨棘、靱帯の肥厚・骨化など)で頸髄が圧迫される病態である。手指のしびれ・感覚障害、巧緻運動障害(箸が使いにくい、ボタンがかけにくい)、腱反射亢進などの錐体路徴候、歩行障害を呈する。手では、小指・環指を伸展・内転位に保持できずに外転・屈曲してしまう所見(myelopathy hand、finger escape sign)がみられることがある。ただし感覚障害を伴うことが多く、発症は緩徐である。本例の痛みを伴う突然の発症、感覚障害がないこと、環指・小指のMP関節伸展だけが完全に不能であることは説明できない。なおRAでは環軸椎亜脱臼による頸髄症にも注意が必要だが、その場合も感覚障害や四肢の錐体路徴候を伴うのが普通である。

  2. ×b.  手根管症候群

    誤り。手根管症候群は、手関節の掌側にある手根管の内圧が上がり正中神経が圧迫される絞扼性神経障害である。RAの滑膜炎は原因の一つとなる。母指から環指の橈側半分(母指側半分)のしびれ・感覚障害、夜間や明け方に強いしびれ、母指球筋の萎縮による母指の対立運動の障害が特徴で、Tinel徴候(手根管部の叩打で放散するしびれ)やPhalen徴候(手関節屈曲保持でしびれが増悪)が陽性となる。正中神経は指の伸展を担う筋を支配していないため、指が伸ばせなくなることはない。感覚障害もない本例とは合わない。

  3. ×c.  橈骨神経麻痺

    誤り。橈骨神経は手関節と手指の伸筋群を支配する。上腕骨の橈骨神経溝の部位など高位で麻痺すると、手関節の背屈もできない下垂手(drop hand)となり、手背の母指側に感覚障害が出る。本例は手関節の伸展が保たれているので、高位麻痺ではない。橈骨神経の運動枝である後骨間神経の麻痺では、手関節伸展は比較的保たれ、感覚障害もなく指の付け根で伸ばせない下垂指(drop finger)となるので、本例との鑑別に挙がる。RAでは肘関節の滑膜炎で後骨間神経が圧迫されることもある。しかし後骨間神経麻痺では通常、母指から小指まで複数の指の伸展障害が生じ、母指・示指・中指が正常で環指・小指だけが伸ばせないという本例の分布には合わない。また痛みとともに突然発症した経過や手関節の骨破壊の所見も、腱断裂を支持する。両者の鑑別には、手関節を他動的に掌屈させたときに指のMP関節が受動的に伸展するか(腱固定効果)をみる方法が有用で、腱が断裂していればこの受動的な伸展が起こらない。

  4. ○d.  指伸筋腱断裂

    正しい。RAの手関節では、伸筋腱を包む腱鞘の滑膜炎で腱が弱くなるうえ、遠位橈尺関節が破壊されて尺骨頭が背側へ突出(亜脱臼)し、その不整な骨表面で伸筋腱が繰り返しこすれて摩耗する。そのため、手関節背側の尺側を走る小指伸筋腱や、総指伸筋腱のうち小指・環指へ向かう腱から順に断裂しやすい(Vaughan-Jackson症候群)。本例は長期のRAとステロイド使用を背景に、軽い動作を契機として痛みとともに環指・小指の伸展が突然できなくなった。他動的な伸展が可能で関節は保たれていること、感覚障害がなく神経障害では説明できない分布であること、エックス線で手関節・遠位橈尺関節の破壊がみられることは、いずれも伸筋腱の皮下断裂に合致する。断裂は放置すると橈側(母指側)の指の腱へ次々と進行するため、早めの手術(断端を隣の健常な腱に縫い合わせる腱移行術や腱移植術に、腱をこすっていた尺骨頭の切除・滑膜切除を組み合わせる)が勧められる。

  5. ×e.  中手指節関節強直

    誤り。関節強直とは、骨や線維性組織の癒合によって関節が固まり、自動運動だけでなく他動運動もできなくなった状態である。本例では環指・小指のMP関節を他動的に伸展させることができ、屈曲も自動・他動ともに可能であるため、関節は強直していない。RAでは中手指節関節の滑膜炎で関節が破壊され、掌側への亜脱臼や尺側偏位(指が小指側へ傾く変形)を生じることがあり、これらでも指の伸展が妨げられる。しかし、その場合も他動的に伸ばしにくいのが通常であり、本例の所見とは合わない。

関節リウマチ(RA)の手の変形と腱障害

・尺骨頭症候群(caput ulnae syndrome): 遠位橈尺関節の滑膜炎によって靱帯が緩み、尺骨頭が背側へ亜脱臼する。手関節は掌側に亜脱臼して回外し、橈側に偏位しやすい。背側に突出した尺骨頭が伸筋腱の摩耗・断裂の原因となる。 ・伸筋腱断裂(Vaughan-Jackson症候群): 小指伸筋腱 → 総指伸筋腱の小指・環指へ向かう腱 → 中指・示指へ向かう腱の順に、尺側から橈側へ向かって断裂が進む。初期には小指だけが伸びないこともあるが、見逃されやすい。 ・長母指伸筋腱断裂: 橈骨遠位のリスター結節(伸筋腱が方向を変える骨の突起)の部分で摩耗して断裂し、母指のIP関節(指先側の関節)が伸展できなくなる。RAのほか、橈骨遠位端骨折の後にも起こる。 ・屈筋腱断裂(Mannerfelt症候群): 手根骨(舟状骨)掌側の骨の突出によって長母指屈筋腱などが断裂する。 ・手指の変形: 尺側偏位、スワンネック変形(PIP関節過伸展・DIP関節屈曲)、ボタン穴変形(PIP関節屈曲・DIP関節過伸展)、母指のZ変形、ムチランス変形(高度の骨破壊で指が短縮し、関節が異常にぐらつく変形)など。

指の伸展障害の鑑別の要点

・伸筋腱断裂: 痛みやプツッという感覚とともに突然発症、感覚障害なし、他動伸展可能、腱固定効果(手関節を掌屈させるとMP関節が受動的に伸展する)が消失する。 ・後骨間神経麻痺: 感覚障害なし、手関節伸展は保たれる、下垂指。腱固定効果は保たれる。 ・高位の橈骨神経麻痺: 手関節背屈も不能(下垂手)、手背の母指側に感覚障害あり。 ・伸筋腱の脱臼: RAではMP関節背側で伸筋腱が尺側へ脱臼し、伸展力が低下することがある。脱臼した腱を元の位置に戻せば伸展できる。 ・関節強直・拘縮: 他動運動も制限される。

治療

・RAによる伸筋腱の皮下断裂は自然には治らず、切れた腱の端が縮んでしまうため、端と端を直接縫い合わせることは難しい。隣の健常な腱に縫い付ける腱移行術(端側縫合)や腱移植術を行い、あわせて腱が擦れる原因の尺骨頭切除(Darrach法)や、遠位橈尺関節の固定と尺骨の一部切除を組み合わせた手術(Sauvé-Kapandji法)、滑膜切除を行う。 ・腱の断裂が増えるほど再建が難しくなるため、1〜2本の断裂の段階での早期手術が望ましい。

POINT

・長期の関節リウマチ患者で、軽い動作を契機に突然、環指・小指が伸ばせなくなった → 指伸筋腱の皮下断裂を考える。 ・機序は、腱鞘滑膜炎による腱の脆弱化と、背側に突出した尺骨頭(尺骨頭症候群)による摩耗。断裂は小指側から母指側へ進行する(Vaughan-Jackson症候群)。 ・他動伸展が可能 → 関節強直ではない。感覚障害なし・分布が合わない → 神経障害ではない。 ・後骨間神経麻痺との鑑別には腱固定効果が有用(腱断裂では消失する)。 ・治療は腱移行術・腱移植術に尺骨頭切除・滑膜切除を組み合わせる。断裂が進行する前の早期手術が望ましい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。