StudyMed医師国家試験

妊娠34週0日、休業の根拠はどこに?―産前休業を定める法律を見抜く

第108回医師国家試験 B問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第41問

35歳の初妊婦。妊娠33週6日。妊婦健康診査のため来院した。これまでの妊娠経過には異常を認めていなかった。脈拍96/分,整。血圧126/68 mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-)。子宮底長29 cm。腹囲94 cm。内診で子宮口は閉鎖している。胎児推定体重2,120 g,羊水指数〈AFI〉18 cm。胎盤は子宮底部に位置している。明日から休業を申請するという。  この妊婦の休業を規定する法律はどれか。

  1. a.健康増進法
  2. b.母子保健法
  3. c.母体保護法
  4. d.労働基準法
  5. e.次世代育成支援対策推進法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産科の症例の形をとっているけれど、実は問われているのは法律、つまり公衆衛生の知識だ。ポイントは2つ。まず妊娠経過に異常があるかどうか、次に「明日から休業」という時期が何を意味するかだ。所見を見てどう感じた?
医学生医学生
35歳の初妊婦なので高年初産ですが、血圧も尿蛋白も問題なく、子宮底長や推定体重も週数相当に見えます。異常はなさそうです。
ドクタードクター
その通り。羊水量も正常範囲で、胎盤は子宮底部にあって前置胎盤ではないし、子宮口も閉じているから切迫早産を疑う所見もない。つまり医学的な理由で休む話ではなく、順調な妊婦さんの通常の休業が問題になっているんだ。では「明日」は妊娠何週何日かな。
医学生医学生
今日が33週6日なので、明日は34週0日です。分娩予定日が40週0日だから……ちょうど6週間前ですね。
ドクタードクター
よく計算できたね。予定日前6週間、この数字にピンとくるものはある?
医学生医学生
産前休業ですか。でも、妊婦さんのことなので母子保健法で決まっていそうな気がします。
ドクタードクター
そこがひっかけどころなんだ。産前休業を定めているのは労働基準法だよ。労働基準法第65条で、6週間以内、多胎なら14週間以内に出産予定の女性が休業を請求した場合、使用者はその女性を就業させてはならないとされている。「労働者として働く・休む」ことは労働関係の法律が扱う、と整理するとわかりやすい。
医学生医学生
請求した場合、ということは本人が希望しなければ働き続けてもいいんですか。
ドクタードクター
そう、産前休業は本人の請求によるものだから、請求しなければ就業を続けることもできる。一方、産後休業は違って、産後8週間は原則として就業させてはならない。ただし産後6週間を過ぎて本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務なら就業できる。
医学生医学生
産前は請求制、産後は原則禁止なんですね。では母子保健法は何を決めている法律でしたっけ。
ドクタードクター
母子保健法は母性と乳幼児の健康の保持増進が目的で、妊娠の届出、母子健康手帳の交付、妊産婦や新生児の訪問指導、低出生体重児の届出、1歳6か月児・3歳児健診などを定めている。妊婦健診も市町村の事業として位置づけられているけれど、就労する妊婦の休業は扱っていない。
医学生医学生
母体保護法は、名前からすると母体を守るための休業も入っていそうですが……。
ドクタードクター
名前に惑わされやすいところだね。母体保護法は不妊手術と人工妊娠中絶、受胎調節の実地指導を定める法律で、中絶を行う指定医師もこの法律に基づく。休業とは無関係だ。健康増進法は健康日本21の法的基盤で、国民健康・栄養調査や受動喫煙の防止などを定めている。次世代育成支援対策推進法は少子化対策の法律で、一定規模以上の企業に両立支援の行動計画の策定を求めるものだから、個々の妊婦の休業を直接定めてはいない。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、母子健康手帳に妊婦健診の記録を書き込むのを見ましたが、あれは母子保健法なんですね。休業とは別の法律だと整理できました。
ドクタードクター
その整理が大事だ。発展として、働く妊婦さんを守る法律をもう少し広げておこう。労働基準法にはほかにも、妊産婦の危険有害業務の就業制限、妊婦の請求による軽易業務への転換、請求による時間外・休日・深夜業の制限、1歳未満の子を育てる女性の育児時間などがある。
医学生医学生
妊婦健診に行く時間を確保するのも労働基準法ですか。
ドクタードクター
それは男女雇用機会均等法なんだ。保健指導や健診を受ける時間の確保、医師の指導事項を守るための時差通勤や休憩、勤務時間短縮などの措置を事業主に義務づけている。そのとき使うのが母性健康管理指導事項連絡カードだね。そして子が原則1歳になるまでの育児休業は育児・介護休業法だ。
医学生医学生
休業でも、産前産後は労働基準法、育児休業は育児・介護休業法と、法律が分かれているんですね。
ドクタードクター
そう。臨床では、妊婦健診の場で「いつから休めますか」「仕事を減らしたい」と相談されることが多い。医師が指導事項を連絡カードで伝えることで職場の対応につながるから、どの法律が何を守っているかを知っておくと、妊婦さんへの説明がずっと具体的になるよ。

まとめ

産前休業は労働基準法第65条に規定され、出産予定日前6週間(多胎妊娠では14週間)以内の女性が請求すれば、使用者は就業させてはなりません。妊娠33週6日の翌日は34週0日で予定日のちょうど6週間前にあたり、本例は経過順調な妊婦の通常の産前休業です。産後8週間は原則就業禁止(6週経過後は本人請求と医師の許可で一部就業可)で、妊婦健診の時間確保などの母性健康管理措置は男女雇用機会均等法、育児休業は育児・介護休業法が定めます。母子健康手帳や妊娠の届出は母子保健法、人工妊娠中絶は母体保護法と、名前の似た法律の守備範囲を区別することが重要です。働く妊婦からの相談に適切に応じるためにも、労働関係と母子保健関係の法律を整理して理解しておきましょう。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・35歳の初妊婦:35歳以上で初めて妊娠した高年初妊婦にあたるが、これまでの経過に異常はない。 ・血圧126/68 mmHg、尿蛋白(-):妊娠高血圧症候群を示唆する所見はない。尿糖(-)。 ・子宮底長29 cm:妊娠週数(33〜34週)に見合った値である。 ・胎児推定体重2,120 g:妊娠34週前後の標準的な体重で、胎児発育は正常範囲である。 ・羊水指数(AFI)18 cm:羊水量の目安で、おおむね5〜24 cmが正常範囲であり、羊水過多・過少はない。 ・胎盤は子宮底部:前置胎盤ではない。 ・内診で子宮口閉鎖:切迫早産を疑わせる所見はない。 したがって、本例は経過順調な正常妊娠であり、医学的理由による休業ではなく、通常の産前休業が問題となっている。

設問の考え方

現在妊娠33週6日で、「明日から」すなわち妊娠34週0日から休業を申請するという。分娩予定日は妊娠40週0日であるから、34週0日は予定日のちょうど6週間前にあたる。 労働基準法第65条は、6週間(多胎妊娠では14週間)以内に出産予定の女性が休業を請求した場合、使用者はその女性を就業させてはならないと定めている(産前休業)。本例の休業はこの規定に基づくものであり、根拠法は労働基準法である。 母子保健・妊婦に関連する法律は多数あるが、「労働者としての就業・休業」に関する事項は労働関係の法律(労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)が扱う、と整理しておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  健康増進法

    健康増進法は2002年に制定された法律で、国民の健康の増進の総合的な推進を目的とする。健康日本21の法的基盤であり、国民健康・栄養調査、健康増進事業(がん検診等の市町村事業)、特定給食施設の栄養管理、受動喫煙の防止などを規定している。妊婦の休業については定めていない。

  2. ×b.  母子保健法

    母子保健法は、母性ならびに乳児・幼児の健康の保持増進を目的とする法律で、妊娠の届出、母子健康手帳の交付、妊産婦・新生児・未熟児の訪問指導、低出生体重児(2,500 g未満)の届出、養育医療、1歳6か月児・3歳児健康診査などを定めている。妊婦健康診査の実施も市町村の事業として位置づけられているが、就労する妊婦の休業は規定していない。

  3. ×c.  母体保護法

    母体保護法は、不妊手術および人工妊娠中絶に関する事項を定め、母性の生命と健康を保護することを目的とする法律である。人工妊娠中絶の適応や、指定医師(都道府県医師会が指定)による実施、受胎調節の実地指導などを規定しており、産前休業とは関係がない。

  4. ○d.  労働基準法

    労働基準法第65条により、出産予定日前6週間(多胎妊娠では14週間)以内の女性が請求した場合、使用者は就業させてはならない(産前休業)。妊娠34週0日は予定日の6週間前にあたり、本例の休業申請はこの規定に基づく。産前休業は本人の請求によるものであり、請求しなければ就業を続けることもできる。同法はほかに、産後8週間の就業禁止(産後6週間を経過し本人が請求し医師が支障ないと認めた業務は可)、妊産婦の危険有害業務の就業制限、妊婦の請求による軽易業務への転換、請求による時間外・休日・深夜業の制限、1歳未満の子を育てる女性の育児時間などを定めている。

  5. ×e.  次世代育成支援対策推進法

    次世代育成支援対策推進法は、急速な少子化の進行に対応し、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ育つ環境を整備するため、2003年に制定された法律である。国・地方公共団体・事業主などの責務を定め、一定規模以上の企業に仕事と子育ての両立支援のための行動計画(一般事業主行動計画)の策定を求めている。期限付きの法律(時限立法)であり、延長を重ねている。個々の妊婦の休業を直接規定するものではない。

働く女性の妊娠・出産・育児に関する主な法律

・労働基準法:産前休業(予定日前6週間、多胎14週間、本人の請求による)、産後休業(産後8週間は原則就業禁止。6週間経過後は本人の請求と医師の許可があれば就業可)、妊産婦の危険有害業務の就業制限、軽易業務への転換、時間外労働・深夜業等の制限(請求による)、育児時間(1歳未満の子を育てる女性は1日2回各30分以上) ・男女雇用機会均等法:妊娠中・出産後の女性が保健指導や健康診査を受けるための時間の確保、医師等の指導事項を守るための措置(時差通勤、休憩、勤務時間短縮など)を事業主に義務づける。母性健康管理指導事項連絡カードはこの措置を伝えるためのものである。妊娠・出産を理由とする不利益取扱いも禁止している。 ・育児・介護休業法:原則として子が1歳(条件により最長2歳)になるまでの育児休業、産後パパ育休(出生時育児休業)、子の看護休暇、短時間勤務制度などを定める。

母子保健に関する法律

・母子保健法:妊娠の届出、母子健康手帳、妊婦健診、乳幼児健診、訪問指導、養育医療など ・母体保護法:不妊手術、人工妊娠中絶、受胎調節の実地指導 ・児童福祉法:助産施設、保育所、障害児支援など

妊娠週数と予定日

分娩予定日は妊娠40週0日である。予定日から逆算して6週間前は妊娠34週0日、14週間前は妊娠26週0日となる。

POINT

・産前休業・産後休業は労働基準法が規定する ・産前休業:予定日前6週間(多胎14週間)、本人の請求による ・産後休業:8週間は原則就業禁止(6週経過後は本人請求+医師の許可で就業可) ・妊婦健診の時間確保など母性健康管理措置は男女雇用機会均等法、育児休業は育児・介護休業法 ・母子健康手帳・妊娠の届出は母子保健法、人工妊娠中絶は母体保護法

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。