StudyMed医師国家試験

同じ部屋にいるだけでうつる―空気感染の「3つだけ」を見極める

第108回医師国家試験 B問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第33問

空気感染を起こす病原体はどれか。2つ選べ。

  1. a.インフルエンザウイルス
  2. b.風疹ウイルス
  3. c.麻疹ウイルス
  4. d.百日咳菌
  5. e.結核菌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病原体ごとの感染経路、とくに空気感染と飛沫感染の区別を問う問題だ。感染対策の現場で毎日のように判断が求められる、とても実践的なテーマだよ。まずは、そもそも空気感染と飛沫感染の違いを説明できるかな。
医学生医学生
どちらも咳やくしゃみで広がるイメージなので、正直あまり区別がついていません。
ドクタードクター
多くの人がそこで混乱するんだ。違いのカギは粒子の大きさ。咳やくしゃみ、会話で出る水分を含んだ粒子が飛沫で、直径5μm以上と比較的大きく重いから、1〜2 m程度で床に落ちる。だから感染者のすぐ近くにいる人しかうつらない。
医学生医学生
では空気感染は、もっと小さな粒子ということですか。
ドクタードクター
そう。飛沫の水分が蒸発して残った5μm未満の小さな粒子を飛沫核という。これは長時間空気中を漂い、気流に乗って遠くまで運ばれる。だから感染者と同じ部屋や同じ空調系統の空間にいるだけで感染しうるんだ。しかも小さい粒子は鼻や気管の粘液・線毛の防御をすり抜けて、細気管支や肺胞まで届く。
医学生医学生
微生物学の講義で、空気感染は麻疹・水痘・結核の3つと習いました。この選択肢だと麻疹と結核でしょうか。
ドクタードクター
正解。感染対策上、空気感染を主な経路として扱うのは、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌の3つだ。まず麻疹は、感染力がきわめて強く、免疫のない人が接触するとほぼ全員が発症すると言われる。発疹が出る前のカタル期、つまり発熱・咳・鼻汁・結膜充血がみられる時期の感染力が最も強いのが厄介なところだ。
医学生医学生
発疹が出る前だと、まだ麻疹と気づかれずに外来の待合室にいる可能性がありますね。
ドクタードクター
まさにそこが怖い。待合室にいた人が後から次々に発症することもあるから、麻疹を疑ったら早めに隔離するのが鉄則だ。次に結核。喀痰塗抹陽性の肺結核患者が咳をすると、結核菌を1〜数個含む1〜5μm程度の飛沫核が生じる。これを吸い込むと肺胞まで達して感染が成立する。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、結核疑いの患者さんの病室に入るときにN95マスクのフィットテストをしました。
ドクタードクター
いい経験だね。空気感染予防策では、患者を陰圧個室に収容し、医療者は微粒子を捕集できるN95マスクを着ける。患者本人が移動するときはサージカルマスクだ。誰がどちらのマスクを着けるかは混同しやすいから注意しよう。では残りの選択肢を見ていこう。インフルエンザはどうかな。
医学生医学生
院内で一気に広がるイメージがあるので、空気感染かと思いそうになりました。
ドクタードクター
広がりやすいのは確かだけれど、主な感染経路は飛沫感染で、手指や物品を介した接触感染も起こる。小さな粒子による伝播も一部で議論されているが、感染対策上は飛沫感染予防策の対象で、サージカルマスクと患者間距離の確保、個室やコホート隔離で対応する。
医学生医学生
風疹は麻疹と名前が似ていますけど、こちらは飛沫感染ですよね。
ドクタードクター
その通り。名前が似ているからこそ、試験でよく狙われる。風疹は発疹の約1週間前から発疹後約1週間まで感染力があり、症状が乏しい時期にも広げてしまう。妊娠初期に感染すると白内障、先天性心疾患、感音難聴などの先天性風疹症候群を起こすから、ワクチンによる予防が重要だ。
医学生医学生
百日咳は、小児科の講義で乳児が重症化すると習いました。これも飛沫感染でしょうか。
ドクタードクター
そう。百日咳菌はGram陰性桿菌で、気道分泌物を含む飛沫で主に感染する。感染力が強いのはかぜに似たカタル期で、ワクチン未接種の乳児では無呼吸発作を起こして重症化しやすい。対策は飛沫感染予防策だ。
医学生医学生
整理すると、空気感染は麻疹と結核で、インフルエンザ・風疹・百日咳は飛沫感染ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、感染経路別予防策をまとめておこう。空気感染予防策は麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)、結核。飛沫感染予防策はインフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマ肺炎、髄膜炎菌感染症などだ。接触感染予防策はMRSAなどの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬などで、手袋・ガウンと手指衛生が中心になる。そして、どの経路でもその土台には標準予防策がある。
医学生医学生
新型コロナでは、エアロゾルによる感染も言われていましたよね。
ドクタードクター
そうだね。換気の悪い密閉空間ではエアロゾルを介した感染が起こりうるし、気管挿管などエアロゾルが発生する処置ではN95マスクを使う。ただ、試験で「空気感染する病原体」と問われたら、原則として麻疹・水痘・結核の3つと考えてよい。臨床では、病原体が確定する前の段階から、疑った時点で適切な予防策をとることが何より大切だよ。

まとめ

飛沫感染は直径5μm以上の粒子が1〜2 m程度で落下するため感染者の近くで起こり、空気感染(飛沫核感染)は5μm未満の飛沫核が空気中を長く漂い、同じ空間にいるだけで感染しうる点が異なります。感染対策上の空気感染の代表は麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌の3つで、陰圧個室への収容と医療者のN95マスク着用が必要です。インフルエンザ、風疹、百日咳、ムンプス、マイコプラズマなどは飛沫感染予防策の対象であり、とくに名前の似た麻疹と風疹の混同に注意します。麻疹は発疹前のカタル期に感染力が最も強いため、疑った段階で早期に隔離することが院内感染防止の鍵となります。感染経路を正しく区別し、それに応じた予防策を選べることは、患者と医療者の双方を守る臨床の基本です。

解答・解説

正解はc, eです

病原体ごとの主な感染経路、とくに空気感染と飛沫感染の区別を問う問題である。

空気感染と飛沫感染の違い

・飛沫感染:咳・くしゃみ・会話で出る、水分を含んだ比較的大きな粒子(直径5μm以上)による感染である。粒子は重いため、1〜2 m程度しか飛ばずにすぐ落下する。したがって感染者の近くにいる人に限って感染が起こる。 ・空気感染(飛沫核感染):飛沫の水分が蒸発して残った小さな粒子(飛沫核、直径5μm未満)に病原体が含まれ、長時間空気中を漂って気流に乗り、遠くまで運ばれる。同じ部屋や同じ空調系統の空間にいるだけで感染しうる。また小さな粒子は鼻腔や気管の粘液・線毛による防御をすり抜け、細気管支や肺胞まで到達する。

空気感染する代表的な病原体

感染対策上、空気感染を主な経路とする病原体として扱われるのは、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌の3つである。これらの患者には空気感染予防策(陰圧個室への収容、医療者のN95マスク着用など)をとる。 選択肢のうち、この3つに含まれるのは麻疹ウイルスと結核菌である。インフルエンザウイルス、風疹ウイルス、百日咳菌は飛沫感染予防策の対象となる病原体である。

選択肢考察

  1. ×a.  インフルエンザウイルス

    インフルエンザウイルスは上気道で増殖し、咳やくしゃみで出る飛沫を近くの人が吸い込むことで主に感染する。ウイルスが付着した手指や物品を介した接触感染も起こる。感染対策としては、標準予防策に加えて飛沫感染予防策(サージカルマスクの着用、患者間の距離を約1〜2 m以上とる、個室またはコホート隔離)の対象である。小さな粒子(エアロゾル)による伝播も一部で起こりうると考えられているが、主な感染経路は飛沫感染であり、空気感染の病原体には分類されない。

  2. ×b.  風疹ウイルス

    風疹ウイルスは、鼻咽頭の分泌物を含む飛沫を介して感染する飛沫感染の病原体である。感染力をもつ期間は発疹が出る約1週間前から発疹出現後約1週間までと長い。そのため、発疹が出る前の症状が乏しい時期にも周囲へ感染を広げることがある。妊娠初期に感染すると先天性風疹症候群(白内障、先天性心疾患、感音難聴など)を起こすため、予防接種による対策が重要である。名前が似ている麻疹と混同しないようにする。

  3. ○c.  麻疹ウイルス

    麻疹ウイルスは空気感染(飛沫核感染)を起こす代表的な病原体であり、飛沫感染と接触感染も起こす。感染力はきわめて強く、免疫のない人が感染者と接触するとほぼ全員が発症する。感染力をもつ期間は、発熱などの前駆症状が出る1日ほど前(発疹が出る約5日前)から発疹出現後4〜5日程度までである。とくに発疹が出る前のカタル期(発熱・咳・鼻汁・結膜充血がみられる時期)の感染力が最も強い。感染者と同じ空間にいただけでも感染しうるため、陰圧個室での空気感染予防策が必要である。

  4. ×d.  百日咳菌

    百日咳菌(Bordetella pertussis)はGram陰性桿菌で、鼻咽頭や気道の分泌物を含む飛沫によって主に感染する。分泌物が付着した手指や物品を介した接触感染も起こりうる。感染対策は飛沫感染予防策であり、空気感染には該当しない。感染力はカタル期(かぜに似た症状の時期)に最も強い。ワクチンを受けていない乳児がかかると無呼吸発作などを起こして重症化しやすい。

  5. ○e.  結核菌

    肺結核(とくに喀痰塗抹陽性例)の患者が咳をすると、結核菌を1〜数個含む直径1〜5μm程度の飛沫核が生じる。飛沫核は長時間空気中を漂い、吸い込まれると肺胞まで到達して感染が成立する。これが空気感染(飛沫核感染)である。排菌している患者は陰圧個室(空気感染隔離室)に収容し、医療者は微粒子を捕集できるN95マスクを、患者本人はサージカルマスクを着用する。

感染経路別予防策(標準予防策に追加して行う対策)

・空気感染予防策:麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)、結核  → 陰圧個室、医療者はN95マスク、患者の移動時は患者にサージカルマスク ・飛沫感染予防策:インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマ肺炎、髄膜炎菌感染症、ジフテリアなど  → 個室またはコホート隔離、サージカルマスク ・接触感染予防策:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬など  → 手袋・ガウンの着用、手指衛生

粒子の大きさと到達部位

直径5μm以上の粒子は、上気道の粘液に捕まり、線毛運動によって排除されやすい。一方、5μm未満の粒子はこの防御をすり抜けて下気道へ入り、終末細気管支から肺胞まで達する。空気感染では、この小さな粒子が感染を成立させる。

新型コロナウイルスなどについて

SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)などでは、換気の悪い密閉空間でエアロゾル(微小な粒子)を介した感染が起こることが知られている。このため、エアロゾルが発生する処置(気管挿管など)の際にはN95マスクを用いる。国家試験で「空気感染する病原体」として問われるのは、原則として麻疹・水痘・結核の3つである。

POINT

・空気感染(飛沫核感染)の三大病原体:麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌。 ・飛沫は直径5μm以上で1〜2 m程度で落下し、飛沫核は5μm未満で空中を長く漂う。 ・空気感染予防策:陰圧個室+医療者はN95マスク。 ・インフルエンザ、風疹、百日咳、ムンプス、マイコプラズマは飛沫感染。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。