枕ひとつ、顎ひと押し―3本の軸をそろえるスニッフィングポジション
第108回医師国家試験 B問題 第28問
国試問題にチャレンジ
成人男性の仰臥位の写真(①~⑤)を別に示す。 全身麻酔導入時に,喉頭鏡を用いて直視下に声帯を確認し,経口気管挿管を行うのに最も適した体位はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喉頭鏡を用いた経口気管挿管では、口腔軸・咽頭軸・喉頭軸の3本をできるだけ一直線に近づけることが声門直視のカギであり、そのための体位がスニッフィングポジションです。後頭部に枕を入れて下位頸椎を前屈させると咽頭軸と喉頭軸がそろい、さらに環椎後頭関節で頭部を後屈させると口腔軸も近づきます。枕なしの頭部後屈は気道確保(マスク換気)の体位であって挿管には不十分であり、逆に枕を入れるだけで頭部後屈がない姿勢や、顎を引いた過度の前屈も声門を見通せません。外耳道と胸骨切痕を水平にそろえる目安や、肥満でのramped position、頸椎損傷疑いでの頸椎中間位保持とビデオ喉頭鏡の活用もあわせて押さえておきましょう。「なぜその体位なのか」を軸の考え方で理解しておくと、気道管理の場面で応用が利くようになります。
解答・解説
正解はdです
本問は、喉頭鏡を使って声門(声帯)を直接見ながら経口気管挿管を行う際の、最適な頭頸部の位置(スニッフィングポジション)を写真から選ぶ問題である。
写真の整理
①:枕なし。頭部はほぼ中間位で、下顎がやや引けている。 ②:枕なし。頭部を後屈(顎を上げる)している。 ③:枕あり。頭が持ち上がり、頸部が前屈して下顎が胸に近づいている(頭部の後屈はない)。 ④:枕あり(下位頸椎の前屈)に加えて、頭部を後屈(環椎後頭関節の伸展)し、顎を突き出している。 ⑤:枕あり。頸部は軽く前屈しているが、頭部はほぼ中間位で後屈は加えていない。
考え方:3つの軸をそろえる
口から声門を直視するには、口腔の軸(OA:oral axis)、咽頭の軸(PA:pharyngeal axis)、喉頭の軸(LA:laryngeal axis)の3本をできるだけ一直線に近づける必要がある。 ・枕なしの仰臥位では、口腔軸と咽頭・喉頭軸がほぼ直角に交わり、咽頭軸と喉頭軸の間にもずれがある。この状態では口から声門は見えない。 ・後頭部の下に7〜10cm程度の枕を入れて下位頸椎を前屈させると、咽頭軸と喉頭軸が近づいてほぼ一直線になる。 ・さらに環椎後頭関節で頭部を後屈させると、口腔軸がこれらに近づく。 この「頸部前屈+頭部後屈」の組み合わせが、においを嗅ぐときのように顎を前へ突き出した姿勢であることからスニッフィングポジション(sniffing position)と呼ばれる。喉頭鏡のブレードで舌と喉頭蓋を持ち上げれば、残るわずかな角度も補正され、声門を直視できる。写真では④がこれに相当する。
選択肢考察
- ×a. ①
枕を使わず、頭部をほぼ中間位に置いた仰臥位である。口腔軸と咽頭・喉頭軸がほぼ直角に交わったままで、頸部前屈も頭部後屈も得られていない。さらに下顎がやや引けているため舌根が咽頭側に落ち込みやすく、気道確保の点でも不利であり、喉頭展開で声門を見ることは難しい。
- ×b. ②
枕なしで頭部を後屈させた姿勢である。頭部後屈と下顎挙上は用手的な気道確保(マスク換気)には有効だが、頸部の前屈がないため咽頭軸と喉頭軸のずれが解消されない。このため口腔軸と喉頭軸を一直線にそろえることができず、喉頭が前方(患者の腹側)に位置して見えにくくなる。気道確保に適した体位と挿管に適した体位は異なることを示す選択肢である。
- ×c. ③
枕で頭を高くしているが、頸部が強く前屈して顎が胸に近づいている。頸部前屈によって咽頭軸と喉頭軸は近づくものの、頭部の後屈がないため口腔軸が大きく下を向いたままで、口から声門を見通すことができない。加えて、顎が引けた姿勢は開口しにくく、喉頭鏡の挿入そのものも困難にする。
- ○d. ④
後頭部に枕を入れて下位頸椎を前屈させ、さらに環椎後頭関節で頭部を後屈させて顎を前方へ突き出した姿勢であり、スニッフィングポジションに相当する。頸部前屈で咽頭軸と喉頭軸がそろい、頭部後屈で口腔軸もこれに近づくため、3つの軸がほぼ一直線になる。この状態で喉頭鏡により舌と喉頭蓋を持ち上げれば、声門を直視して気管チューブを進めることができる。したがって経口気管挿管に最も適した体位である。
- ×e. ⑤
枕を入れて頸部を軽く前屈させた姿勢で、咽頭軸と喉頭軸はある程度近づいている。しかし頭部の後屈が加えられていないため、口腔軸が咽頭・喉頭軸に対して大きな角度をなしたままであり、喉頭展開時に声門を直視しにくい。④との違いは頭部後屈の有無であり、枕を入れるだけではスニッフィングポジションにならない点が重要である。
スニッフィングポジションの要点
・構成要素は「下位頸椎の前屈(約35°)」と「環椎後頭関節での頭部伸展(約15°)」の2つである。 ・実践上は、後頭部の下に7〜10cm程度の枕を置き、頭部を後屈させる。側面から見て外耳道と胸骨切痕が同じ水平線上に来ることが目安とされる。 ・肥満患者では肩から背部にかけて傾斜をつけて上半身を持ち上げる姿勢(ramped position)をとると、同様の効果が得られやすい。
気道確保体位との違い
・マスク換気などの気道確保では、頭部後屈・顎先挙上(head tilt-chin lift)や下顎挙上(jaw thrust)で舌根沈下を防ぐ。 ・一方、挿管では声門を見通すことが目的であり、頭部後屈だけでは不十分で頸部前屈が必要となる。
注意すべき場面
・頸椎損傷が疑われる外傷患者では頭頸部を動かせないため、スニッフィングポジションはとらず、用手的に頸椎を中間位に保持(manual in-line stabilization)したまま挿管する。この場合、ビデオ喉頭鏡や気管支ファイバースコープが有用である。 ・関節リウマチ(環軸椎亜脱臼)やDown症候群なども頸部の過度な操作に注意が必要である。
挿管困難の予測
開口制限、Mallampati分類の高いクラス、甲状オトガイ間距離の短縮、頸部可動域制限、肥満、小顎などは喉頭展開困難の予測因子である。
POINT
・喉頭鏡による経口気管挿管はスニッフィングポジション(頸部前屈+頭部後屈)で行う。 ・枕で頸部を前屈→咽頭軸と喉頭軸がそろう。頭部を後屈→口腔軸もそろう。 ・枕なしで頭部後屈するだけ(気道確保の体位)では挿管には不十分。 ・枕を入れるだけで頭部後屈がないのも不十分。 ・頸椎損傷疑いでは頸椎中間位を保持して挿管する。
