待つことも治療のうち―Fallot四徴症、心内修復術は「肺動脈が育ってから」
第107回医師国家試験 I問題 第54問
国試問題にチャレンジ
2か月の男児。生後まもなく心雑音を指摘され,心エコー検査で右室流出路狭窄,心室中隔欠損および大動脈騎乗を指摘されている。 この患児の治療方針として正しいのはどれか。
- a.肺動脈絞扼術を行う。
- b.根治治療は成人期に行う。
- c.プロスタグランディンを投与する。
- d.直ちに心室中隔欠損閉鎖術を行う。
- e.肺動脈の発育後に心内修復術を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
右室流出路狭窄、心室中隔欠損、大動脈騎乗、右室肥大を呈するFallot四徴症は、右左短絡により肺血流が少なくチアノーゼをきたす、最も頻度の高いチアノーゼ性先天性心疾患です。根治は心室中隔欠損閉鎖と右室流出路狭窄解除を同時に行う心内修復術で、肺動脈と体格の発育を待ち、現在は乳児期に行うことが多くなっています。肺動脈の発育不良や無酸素発作がある場合は、Blalock-Taussig短絡術で肺血流を増やしてつなぎます。肺血流を減らす肺動脈絞扼術、動脈管依存性疾患に用いるプロスタグランジンE1、心室中隔欠損のみの閉鎖、成人期までの根治先延ばしはいずれも不適切です。「肺血流が多いか少ないか」で手術や薬の向きを判断する考え方は、先天性心疾患全般の治療を理解する土台になり、術後遠隔期の長期フォローの重要性もあわせて押さえておきたいところです。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・生後2か月の男児。生後まもなく心雑音を指摘された。 ・心エコー検査:右室流出路狭窄、心室中隔欠損(VSD)、大動脈騎乗(大動脈が心室中隔の上にまたがり、左右両心室から血液を受ける状態)。
診断へのプロセス
右室流出路狭窄・VSD・大動脈騎乗がそろえば、Fallot四徴症と診断できる。4つ目の要素である右室肥大は、狭い右室流出路に向かって右室が高い圧で血液を送り出し続けることの結果として生じる。 Fallot四徴症の血行動態の要点は、右室流出路(肺動脈弁下の漏斗部など)が狭いために肺への血流が少なく、右室の静脈血の一部がVSDを通って騎乗した大動脈へ流れ込む(右左短絡)ことである。そのためチアノーゼを呈し、狭窄の程度が強いほどチアノーゼは重い。胸骨左縁上部に聴こえる収縮期駆出性雑音は、VSDではなく右室流出路狭窄を血液が通過する音である。
設問の考え方
治療の最終目標は心内修復術(根治手術)で、VSDをパッチで閉鎖し、同時に右室流出路の狭窄を解除して肺へ十分な血液を送れるようにする。ただし乳児早期は体が小さく肺動脈も細いため、手術の危険性が高い。そこで、肺動脈や体が育つのを待ってから心内修復術を行うのが基本方針である。現在は乳児期(おおむね生後6か月〜1歳前後)に心内修復術を行う施設が多い。 肺動脈が細く低酸素が強い場合や、無酸素発作(低酸素発作)を繰り返す場合には、根治術までのつなぎとして、鎖骨下動脈と肺動脈を人工血管でつなぐBlalock-Taussig短絡術(体肺動脈短絡術)を行い、肺血流を増やして肺動脈の発育を促す。
選択肢考察
- ×a. 肺動脈絞扼術を行う。
肺動脈絞扼術(肺動脈バンディング)は、肺動脈をテープで締めて肺血流を減らす手術である。大きなVSDなどで左右短絡のため肺血流が多すぎる疾患において、心不全や肺高血圧を防ぐ目的で行う。Fallot四徴症はもともと肺血流が少ない疾患であり、肺血流をさらに減らせばチアノーゼが悪化する。肺血流を増やしたい場合に行うのは、逆のBlalock-Taussig短絡術である。
- ×b. 根治治療は成人期に行う。
根治術を先延ばしにすると、慢性の低酸素と圧負荷によって右室の肥大・線維化が進み、術後の心機能や不整脈のリスクが悪化する。長期のチアノーゼは多血症(二次性赤血球増加症)、脳膿瘍、脳血栓塞栓症、感染性心内膜炎などの合併症も招く。そのため心内修復術は乳幼児期に行うのが原則で、成人期まで待つのは不適切である。
- ×c. プロスタグランディンを投与する。
プロスタグランジンE1製剤は動脈管を開いた状態に保つ薬であり、肺動脈閉鎖など肺血流を動脈管に頼っている動脈管依存性の疾患で、新生児期に使用する。本児は生後2か月で、右室流出路は狭いながらも開いており、肺血流を動脈管に依存していない。また生後2か月では動脈管はすでに閉鎖しており、投与しても効果は期待しにくい。
- ×d. 直ちに心室中隔欠損閉鎖術を行う。
Fallot四徴症でVSDだけを閉じると、右室の血液は狭い右室流出路以外に逃げ場がなくなり、右室圧が著しく上昇して右心不全に陥る。VSD閉鎖は必ず右室流出路の狭窄解除とあわせて心内修復術として行う必要がある。また生後2か月の時点では肺動脈や体格が小さいため、無酸素発作などの緊急事態がない限り、直ちに根治術を行う状況ではない。
- ○e. 肺動脈の発育後に心内修復術を行う。
Fallot四徴症の根治は、VSDのパッチ閉鎖と右室流出路狭窄の解除(漏斗部の心筋切除、必要に応じ流出路の拡大形成)を同時に行う心内修復術である。修復後に右室から十分な血液を送るためには肺動脈がある程度の太さに育っている必要があり、体格が小さく肺動脈も細い乳児早期は手術のリスクが高い。そのため肺動脈と体の発育を待ってから心内修復術を行う。肺動脈の発育が不十分な場合や無酸素発作がある場合は、先にBlalock-Taussig短絡術を行って肺動脈の発育を促す。
Fallot四徴症
・四徴:肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、心室中隔欠損、大動脈騎乗、右室肥大。チアノーゼ性先天性心疾患の中で最も多い。 ・発生:円錐中隔(漏斗部中隔)が前方・頭側へ偏位することで、流出路の狭窄、VSD、大動脈騎乗が一度に生じる。 ・症状:チアノーゼ、ばち指(年長児)、蹲踞(しゃがみこみ:体血管抵抗を上げて右左短絡を減らし、肺血流を増やす)、無酸素発作(啼泣や哺乳を契機に漏斗部が攣縮し、チアノーゼの急激な増悪・意識障害をきたす)。 ・聴診:胸骨左縁上部の収縮期駆出性雑音、II音の単一化。無酸素発作時は雑音が弱くなる。 ・胸部エックス線:木靴型心陰影(右室肥大による心尖挙上と、肺動脈の低形成による左第2弓の陥凹)、肺血管陰影の減少。約25%で右側大動脈弓。 ・心電図:右軸偏位、右室肥大。 ・22q11.2欠失症候群との合併がある。
無酸素発作への対応
胸膝位(膝を胸に引きつけた姿勢)、酸素投与、鎮静(モルヒネ)、輸液、β遮断薬(プロプラノロール)投与、代謝性アシドーシスの補正、フェニレフリンなどで体血管抵抗を上げる。予防にβ遮断薬の内服を用いる。
外科治療
・Blalock-Taussig短絡術:鎖骨下動脈と肺動脈を人工血管でつなぐ姑息術。現在は人工血管を用いる変法(modified BT shunt)が主流。 ・心内修復術:VSD閉鎖+右室流出路再建。乳児期に行うことが多い。 ・術後遠隔期には肺動脈弁逆流による右室拡大、不整脈、突然死が問題となり、成人後も定期的な経過観察が必要である。
POINT
・右室流出路狭窄+VSD+大動脈騎乗(+右室肥大)→ Fallot四徴症。 ・肺血流が少ない疾患なので肺動脈絞扼術は禁忌的で、必要なら逆にBlalock-Taussig短絡術で肺血流を増やす。 ・根治は心内修復術(VSD閉鎖+右室流出路狭窄解除)で、肺動脈と体の発育を待って乳幼児期に行う。 ・VSDだけの閉鎖は右心不全を招くため行わない。 ・プロスタグランジンE1は新生児期の動脈管依存性疾患に使う。
