感染は「精液の通り道」をさかのぼる―男性の性器クラミジア感染症の合併症を解剖から読み解く
第107回医師国家試験 I問題 第37問
国試問題にチャレンジ
性器クラミジア感染症の男性における合併症はどれか。2つ選べ。
- a.骨盤腹膜炎
- b.間質性膀胱炎
- c.精巣上体炎
- d.前立腺炎
- e.亀頭包皮炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
性器クラミジア感染症は偏性細胞内寄生菌Chlamydia trachomatisによる国内最多の性感染症で、男性では淋菌性より潜伏期が長く症状の軽い尿道炎として発症し、無症状のことも少なくありません。男性の尿道には前立腺の導管と射精管が開口しているため、感染が精路をさかのぼると前立腺炎や精巣上体炎を合併し、若年男性の精巣上体炎ではクラミジアと淋菌が主な原因となります。一方、骨盤腹膜炎や肝周囲炎(Fitz-Hugh–Curtis症候群)は生殖管が腹腔とつながる女性の合併症であり、間質性膀胱炎は非感染性疾患、亀頭包皮炎は一般細菌やカンジダが主な原因です。治療にはβ-ラクタム系が無効なためマクロライド系やテトラサイクリン系を用い、淋菌との混合感染の検査やパートナーの同時治療が再感染や不妊の予防に重要です。感染の広がりを解剖学的な管のつながりから考える視点は、性感染症の合併症を男女で整理するうえで役立ちます。
解答・解説
正解はc, dです
性器クラミジア感染症は、偏性細胞内寄生菌であるChlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマティス)による性感染症(STI)で、国内で最も多いSTIである。 男性では主に尿道炎として発症する。潜伏期間は1〜3週間程度と淋菌性尿道炎(2〜7日程度)より長い。症状も軽く、排尿時の軽い痛みや違和感、漿液性(さらさらした)の少量の分泌物にとどまり、無症状のことも少なくない。 合併症を考えるうえでの基本は、「感染が尿道から精液の通り道(精路)をさかのぼって広がる」ことである。男性の尿道には前立腺の導管と射精管が開口しており、射精管は精管を経て精巣上体につながる。このため、尿道炎が上行すると前立腺炎や精巣上体炎を起こす。一方、女性では子宮頸管炎から子宮内膜、卵管、骨盤腹膜へと上行し、骨盤内炎症性疾患や肝周囲炎を起こす。本問では男性の合併症を問うているので、精路の上行感染である精巣上体炎と前立腺炎を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 骨盤腹膜炎
骨盤腹膜炎は女性の性器クラミジア感染症の合併症である。女性では子宮頸管炎から子宮内膜炎、卵管炎へと上行し、卵管采から腹腔内へ広がって骨盤腹膜炎を起こす。さらに肝臓の表面に及ぶと肝周囲炎(Fitz-Hugh–Curtis症候群)となる。女性の生殖管は腹腔とつながっているが、男性の生殖管は腹腔とつながっていないため、男性の合併症とはならない。
- ×b. 間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は、膀胱の痛みや頻尿・尿意切迫感が慢性に続く原因不明の非感染性疾患で、中高年女性に多い。尿の細菌培養は陰性で、膀胱鏡でHunner病変(ハンナ病変:膀胱粘膜の発赤した病変)がみられる型がある。クラミジアを含む病原微生物が原因とは考えられておらず、クラミジア感染症の合併症ではない。
- ○c. 精巣上体炎
尿道のクラミジア感染が射精管から精管をさかのぼって精巣上体に達すると、急性精巣上体炎を起こす。陰嚢の片側の腫れと痛み、精巣上体の圧痛・腫大を示し、発熱を伴うこともある。性的活動期の若年男性(おおむね35歳未満)の精巣上体炎では、クラミジアと淋菌が主な原因菌である(中高年では大腸菌などの尿路感染症の起炎菌が多い)。両側に起こり瘢痕化すると、精路の閉塞により男性不妊の原因となりうる。
- ○d. 前立腺炎
前立腺の導管は後部尿道に開口しているため、尿道炎から感染が前立腺へ上行して前立腺炎を起こしうる。クラミジアは男性の尿道炎から生じる前立腺炎の原因微生物の一つとされ、会陰部の不快感、排尿時痛、射精時痛などを示す。細胞内寄生菌であるため、治療には細胞内へよく移行するマクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系の抗菌薬を用いる。
- ×e. 亀頭包皮炎
亀頭包皮炎は亀頭と包皮の炎症で、包茎による不衛生や糖尿病を背景に、ブドウ球菌・レンサ球菌などの一般細菌やカンジダによって起こることが多い。クラミジアは尿道の粘膜上皮に感染するのが基本で、亀頭包皮炎の主要な原因とはならない。
性器クラミジア感染症の概要
病原体:Chlamydia trachomatis(血清型D〜K)。細胞内でしか増えない細菌で、細胞壁のペプチドグリカンをほとんどもたないため、β-ラクタム系抗菌薬は無効である。 男性:尿道炎(非淋菌性尿道炎の主な原因)、精巣上体炎、前立腺炎。 女性:子宮頸管炎、卵管炎、骨盤内炎症性疾患(PID)、骨盤腹膜炎、肝周囲炎(Fitz-Hugh–Curtis症候群)。後遺症として卵管性不妊や異所性妊娠の原因となる。妊婦では産道感染により新生児の結膜炎や肺炎を起こす。 男女共通:咽頭感染(オーラルセックスによる)、直腸感染、反応性関節炎(尿道炎・結膜炎・関節炎の3徴で知られる)。
淋菌性尿道炎との比較
淋菌性:潜伏期2〜7日、症状が強く、黄白色の膿性分泌物が多い。 クラミジア性:潜伏期1〜3週、症状が軽く、漿液性の分泌物が少量、無症状も多い。 両者の混合感染も少なくないため、両方を検査することが勧められる。
診断と治療
初尿(出始めの尿)や子宮頸管の擦過検体を用いた核酸増幅法(PCR法など)で診断する。治療はアジスロマイシン1回内服、ドキシサイクリンの7日間内服などを用いる。再感染を防ぐため、パートナーも同時に検査・治療することが重要である。
血清型の違い
血清型A〜Cはトラコーマ(慢性角結膜炎)、L1〜L3は性病性リンパ肉芽腫の原因となる。
POINT
・男性の性器クラミジア感染症は尿道炎で始まり、精路を上行して精巣上体炎・前立腺炎を合併する。 ・女性では上行して卵管炎・骨盤腹膜炎・肝周囲炎(Fitz-Hugh–Curtis症候群)を起こし、不妊や異所性妊娠の原因となる。 ・潜伏期は淋菌より長く、症状が軽く、無症状例も多い。 ・β-ラクタム系は無効。マクロライド系・テトラサイクリン系を用い、パートナーも治療する。
