転んで手をついた子どもの肘―骨折線の「高さ」で見抜く上腕骨顆上骨折
第107回医師国家試験 I問題 第18問
国試問題にチャレンジ
男児の左肘のエックス線写真(A)(B)を別に示す。 診断として正しいのはどれか。

- a.肘関節脱臼骨折
- b.Monteggia骨折
- c.上腕骨顆上骨折
- d.上腕骨外側顆骨折
- e.上腕骨遠位骨端離開
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児の肘外傷では、骨折線の高さ、上腕骨と前腕骨の関節の対応、前腕骨の骨折・橈骨頭脱臼の有無を順に確認することが読影の基本です。骨折線が関節面より近位の骨幹端を横断し、遠位骨片が後方へ転位していれば伸展型の上腕骨顆上骨折と診断でき、関節内に抜ける外側顆骨折、成長軟骨板で分離する骨端離開、尺骨骨折に橈骨頭脱臼を伴うMonteggia骨折とは区別されます。顆上骨折は小児の肘周辺骨折で最も多く、上腕動脈損傷、正中・橈骨神経損傷、コンパートメント症候群によるVolkmann拘縮といった重い合併症に注意が必要で、転位が大きい場合は整復と鋼線固定が行われます。後遺変形は顆上骨折では内反肘、外側顆骨折では外反肘と遅発性尺骨神経麻痺が代表的です。骨折型の診断と合併症の評価をセットで行う姿勢は、小児整形外傷の診療全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はcです
画像所見
正面像(A)では、上腕骨遠位部の顆部より近位(骨幹端部)を横切る骨折線があり、骨片が重なり合って骨幹端の輪郭が乱れている。骨折線は外側だけでなく内側まで達している。橈骨頭・尺骨近位部の形態には異常がない。 側面像(B)では、上腕骨遠位の骨幹端部で骨が完全に断裂し、遠位骨片(上腕骨小頭の骨端核を含む顆部)が近位骨片に対して後方へ大きく転位している。遠位骨片と橈骨・尺骨の位置関係(関節の適合)は保たれており、肘関節自体は脱臼していない。前腕骨にも骨折はみられない。
診断の考え方
小児の肘外傷のエックス線写真を読むときは、①骨折線がどこにあるか(関節外の骨幹端か、関節内に及ぶ顆部か、成長軟骨板か)、②上腕骨遠位部と前腕骨の位置関係(関節の脱臼の有無)、③前腕骨の骨折や橈骨頭脱臼の有無、を順に確認する。本例は、骨折線が関節面より近位の顆上部を横断し、遠位骨片が後方へ転位した伸展型の上腕骨顆上骨折である。小児の肘周辺骨折で最も頻度が高く、典型的には手をついて転倒し、肘が過伸展されて生じる。
選択肢考察
- ×a. 肘関節脱臼骨折
誤り。肘関節脱臼骨折では、上腕骨遠位の関節面(滑車・小頭)と尺骨・橈骨の関節面との対応が失われる。本例では遠位骨片と前腕骨との関節の適合は保たれており、ずれているのは上腕骨の骨幹端部どうしである。したがって関節の脱臼ではなく、関節より近位での骨折である。
- ×b. Monteggia骨折
誤り。Monteggia骨折は尺骨骨幹部(主に近位 1/3)の骨折に橈骨頭の脱臼を合併した損傷である。本例では尺骨に骨折はなく、橈骨頭も上腕骨小頭と正しく向き合っており脱臼はない。Monteggia骨折では橈骨頭脱臼を見逃しやすいため、尺骨骨折をみたら橈骨の長軸の延長線が上腕骨小頭の中心を通るかを必ず確認する。
- ○c. 上腕骨顆上骨折
正しい。正面像で上腕骨遠位の顆部より近位を横断する骨折線があり、側面像で遠位骨片が後方へ完全に転位している。関節面より近位の骨幹端部での骨折であり、上腕骨顆上骨折(伸展型)と診断できる。伸展型が全体の大部分を占め、本例のように転位が大きいもの(Gartland分類のⅢ型に相当する完全転位)は、上腕動脈損傷や正中神経・橈骨神経・前骨間神経の損傷、コンパートメント症候群(Volkmann拘縮の原因)に注意が必要で、通常は整復と経皮的鋼線固定などの手術治療の対象となる。
- ×d. 上腕骨外側顆骨折
誤り。上腕骨外側顆骨折は、外側の骨幹端から斜めに入った骨折線が関節面(小頭と滑車の間付近)へ抜け、外側顆部が一つの骨片として分離する関節内骨折である。本例では骨折線が外側に限局せず内側まで横断しており、顆部全体が一塊となって転位しているため、外側顆骨折の所見とは異なる。外側顆骨折は骨片に前腕伸筋群が付着して転位しやすく、偽関節や外反肘(遅発性尺骨神経麻痺の原因)を残しやすい。
- ×e. 上腕骨遠位骨端離開
誤り。上腕骨遠位骨端離開は、成長軟骨板(骨端線)のレベルで上腕骨遠位の骨端全体が分離する損傷で、主に乳幼児(おおむね 2〜3歳以下)にみられる。骨端核がまだ十分に骨化していないため、単純写真では骨端核(小頭)と前腕骨がまとめて上腕骨骨幹端に対してずれて見えるのが特徴で、肘関節脱臼と紛らわしい。本例では骨折線は成長軟骨板ではなく、より近位の骨幹端部にあり、骨端核の位置関係にも異常はない。
上腕骨顆上骨折
・好発:幼児〜学童期(おおむね 5〜8歳頃)。小児の肘周辺骨折の中で最も多い。 ・受傷機転:肘伸展位で手をついて転倒。伸展型(遠位骨片が後方へ転位)が大部分を占め、屈曲型はまれである。 ・分類(Gartland分類):Ⅰ型は転位なし、Ⅱ型は後方の骨皮質が連続した転位あり、Ⅲ型は完全転位。 ・合併症: 上腕動脈損傷(橈骨動脈の拍動消失、末梢循環障害) 神経損傷(正中神経・前骨間神経、橈骨神経、屈曲型や鋼線刺入時には尺骨神経) コンパートメント症候群 → Volkmann拘縮 内反肘(遠位骨片の内反・回旋変形が残ることによる。最も多い変形治癒) ・治療:転位の小さいものはギプス固定、転位の大きいものは徒手整復と経皮的鋼線固定。
コンパートメント症候群の徴候(5P)
疼痛(pain)、蒼白(pallor)、脈拍消失(pulselessness)、感覚異常(paresthesia)、麻痺(paralysis)。特に他動的に手指を伸展したときの強い痛みは早期の重要な徴候であり、脈が触れても否定できない。
小児肘のエックス線読影のポイント
・肘周辺には複数の骨端核(小頭、橈骨頭、内側上顆、滑車、肘頭、外側上顆)があり、出現時期を知っておくと骨片と骨端核を区別しやすい。判断に迷うときは健側と比較する。 ・側面像での fat pad sign(関節内血腫により脂肪体が押し上げられて見える所見)は、骨折線がはっきりしない潜在骨折の手がかりとなる。 ・側面像で上腕骨前縁の延長線(anterior humeral line)が小頭の中央 1/3 を通らない場合は、顆上骨折による転位を疑う。
POINT
・上腕骨顆上骨折は小児の肘周辺骨折で最多。肘伸展位で手をついて受傷し、大部分は伸展型(遠位骨片が後方転位) ・骨折線が関節より近位の骨幹端部を横断する(外側顆骨折は関節内に及ぶ) ・合併症:上腕動脈損傷、正中・橈骨神経損傷、コンパートメント症候群(Volkmann拘縮)、内反肘 ・Monteggia骨折=尺骨骨幹部骨折+橈骨頭脱臼 ・外側顆骨折は外反肘 → 遅発性尺骨神経麻痺、顆上骨折は内反肘
