7歳女児の乳房腫大―最初の一手は「手のエックス線」で骨年齢を見る
第107回医師国家試験 I問題 第19問
国試問題にチャレンジ
両側乳房の腫大が認められる7歳の女児に対して,診断のためまず行うべき検査はどれか。
- a.頭部MRI
- b.血中hCG測定
- c.腹部超音波検査
- d.手エックス線撮影
- e.血中プロラクチン測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
二次性徴が早期に出現した小児では、まず手エックス線撮影で骨年齢を評価し、性ステロイドが持続的に作用しているかを判断します。骨年齢の促進や成長率の加速があれば思春期早発症を疑ってLH・FSH・エストラジオール測定やGnRH負荷試験へ進み、中枢性なら頭部MRI、末梢性なら腹部画像検査で原因を探します。骨年齢が暦年齢相当であれば、乳房だけが発育する早発乳房の可能性が高く、多くは経過観察となりますが、一部は思春期早発症へ移行するため追跡が必要です。hCG産生腫瘍による性早熟はほとんどが男児であり、プロラクチンは乳房発育そのものには主に関与しない点も押さえておきましょう。簡便な検査でふるい分けてから精密検査へ進む段階的な診断の考え方は、小児内分泌疾患に限らず臨床推論全般の基本となります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
7歳の女児に両側の乳房腫大がみられる。この年齢の乳房発育は、病的意義の乏しい早発乳房(早期乳房発育症、premature thelarche)の場合もあれば、治療を要する思春期早発症(性早熟症)の初発症状である場合もある。両者を振り分けるために、最初に行うべき簡便でスクリーニング的な検査が問われている。
考え方
思春期早発症では、性ステロイド(女児ではエストロゲン)の作用が早くから持続的に加わるため、身長の伸び(成長率)が加速し、同時に骨の成熟も進む。骨成熟の程度は「骨年齢」として評価でき、左手(手根骨・指骨の骨端核)のエックス線写真を標準図譜と比べることで判定する。 ・骨年齢が暦年齢より明らかに進んでいる → 性ステロイドが持続的に作用していると考え、思春期早発症を疑って内分泌検査(LH・FSH・エストラジオール、GnRH〈ゴナドトロピン放出ホルモン〉負荷試験)へ進む。 ・骨年齢が暦年齢相当で、成長率の加速もない → 早発乳房の可能性が高く、経過観察とすることが多い。 このように、手エックス線撮影は被曝がごくわずかで侵襲も少なく、しかも次の検査へ進むべきかを判断する材料になるため、「まず行う」検査としてふさわしい。 頭部MRI、腹部超音波検査、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)・プロラクチン測定は、思春期早発症やその他の疾患が疑われ、原因を詳しく調べる段階で選ぶ検査であり、最初の一手ではない。
選択肢考察
- ×a. 頭部MRI
骨年齢の促進やゴナドトロピンの上昇などから中枢性(ゴナドトロピン依存性)思春期早発症と判断された後に、視床下部過誤腫や胚細胞腫瘍、その他の頭蓋内病変を探すために行う検査である。原因検索の段階で重要だが、早発乳房かどうかもわからない段階で最初に行う検査ではない。
- ×b. 血中hCG測定
hCG産生腫瘍(松果体部・鞍上部の胚細胞腫瘍、肝芽腫など)を疑うときに測定する。hCGはLH(黄体形成ホルモン)に似た作用で精巣のライディッヒ細胞を刺激しテストステロン分泌を起こすため、hCG産生腫瘍による性早熟はほとんどが男児にみられる。女児ではLH作用だけでは卵巣のエストロゲン産生が十分に起こりにくく、乳房腫大を主訴とする女児でまず測る検査ではない。
- ×c. 腹部超音波検査
エストラジオールが高いのにGnRH負荷試験でLH・FSHの反応が思春期パターンを示さない場合(末梢性・ゴナドトロピン非依存性の思春期早発症)に、卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫など)や卵巣嚢腫、副腎腫瘍を検索する目的で行う。子宮・卵巣の大きさから思春期化を補助的に評価することもあるが、最初に行う振り分けの検査としては手エックス線撮影が優先される。
- ○d. 手エックス線撮影
手エックス線写真で骨年齢を評価する。性ステロイドが持続的に作用する思春期早発症では骨年齢が暦年齢より進むが、一過性の早発乳房では通常進まない。簡便・低侵襲で、骨年齢の促進があれば思春期早発症を疑ってゴナドトロピンや性ステロイドの測定へ進む、という次の方針を決める根拠となるため、まず行うべき検査である。骨年齢は最終身長の予測にも用いられる。
- ×e. 血中プロラクチン測定
乳汁漏出、頭痛、視野障害などがあり、プロラクチノーマなどによる高プロラクチン血症を疑うときに測定する。プロラクチンは乳汁分泌を促すホルモンで、乳房の発育(乳腺の増大)そのものはおもにエストロゲンによって起こる。乳房腫大のみの女児で最初に測定する意義は乏しい。
早発乳房(早期乳房発育症)
・乳房の発育だけが早期にみられ、他の二次性徴(陰毛、初経)を伴わない状態。2歳ころまでの乳幼児に多い。 ・成長率の加速や骨年齢の促進はなく、乳房は自然に退縮するか大きくならずにとどまることが多い。一部は思春期早発症へ移行するため経過観察が必要である。
思春期早発症(性早熟症)
・二次性徴が通常より著しく早く出現する状態。女児は乳房発育、男児は精巣の増大で始まることがほとんどである。 ・わが国の中枢性思春期早発症の診断の手引きでは、女児ではおよそ「7歳6か月未満の乳房発育」「8歳未満の陰毛発生」「10歳6か月未満の初経」などが目安とされる。本問の7歳女児の乳房腫大は、この目安に当てはまりうる年齢であり、鑑別のための検査が必要となる。 ・女児では特発性の中枢性(ゴナドトロピン依存性)が大部分を占める。男児では器質的疾患(脳腫瘍など)の頻度が相対的に高い。 ・放置すると、早い時期に骨端線が閉じて最終身長が低くなる(小児期には高身長でも成人時は低身長となる)ほか、早すぎる月経などによる心理社会的な問題が生じる。 ・中枢性の治療にはGnRHアナログ(持続投与により下垂体のGnRH受容体を脱感作させ、ゴナドトロピン分泌を抑える)を用いる。
分類と検査の流れ
1. 問診・診察(二次性徴の段階をタナー分類で評価、成長曲線で成長率を確認) 2. 手エックス線撮影による骨年齢評価 3. 血中LH・FSH・エストラジオール、GnRH負荷試験 ・LH優位の思春期型反応 → 中枢性 → 頭部MRIで視床下部過誤腫・脳腫瘍などを検索 ・ゴナドトロピン抑制+性ステロイド高値 → 末梢性 → 腹部超音波・CTで卵巣・副腎を検索(マッキューン・オルブライト症候群、卵巣腫瘍など) 4. 男児ではhCG産生腫瘍も鑑別に挙げ、血中hCGを測定する。
POINT
・二次性徴の早期出現をみたら、まず手エックス線撮影で骨年齢を評価する。 ・骨年齢の促進があれば思春期早発症を疑い、ゴナドトロピン・性ステロイド測定、GnRH負荷試験へ進む。 ・中枢性なら頭部MRI、末梢性なら腹部画像検査で原因を探す。 ・早発乳房は骨年齢の促進・成長加速を伴わず、多くは経過観察でよい。 ・hCG産生腫瘍による性早熟はほとんどが男児である。
