本人も家族も「同意できない」とき―精神保健福祉法の隙間を埋める応急入院
第107回医師国家試験 G問題 第40問
国試問題にチャレンジ
48歳の男性。警察官に伴われて来院した。2週前から公園で寝泊まりしているところを目撃されていた。2日前から意味不明の言動が認められるようになったが,他人に危害を加える様子はなかった。公園の管理者が通報し受診となった。受診時,幻覚妄想状態を示し,十分な疎通性が得られず,入院加療が必要と考えられた。体温36.8℃。脈拍88/分,整。血圧136/88 mmHg。入院の必要性を説明したが了解を得られない。所持品から遠隔地にある医療機関の診察券が発見され身元は判明した。配偶者がいるようだが連絡がとれない。 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉に基づく入院として適切なのはどれか。
- a.応急入院
- b.措置入院
- c.任意入院
- d.医療保護入院
- e.緊急措置入院
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
精神保健福祉法の入院形態は、自傷他害のおそれの有無、本人の同意、家族等の同意の順に判断します。自傷他害のおそれがあれば都道府県知事の権限による措置入院(指定医2名)または緊急措置入院(指定医1名・72時間)、なければ本人の同意による任意入院が原則で、同意がなければ家族等の同意による医療保護入院となります。本例のように入院が急がれるのに本人が拒否し、配偶者とも連絡がつかず家族等の同意を得られない場合は、応急入院指定病院で指定医の診察に基づき72時間まで入院させる応急入院が適切で、その間に家族等の同意が得られれば医療保護入院へ移行します。警察官の同行だけでは措置入院の要件にならないこと、保護者制度が廃止され現在は家族等の同意が要件であることも押さえておきましょう。非自発的入院は患者の人権に直結するため、制度の要件を正確に理解することが、精神科に限らずすべての臨床医にとって欠かせません。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・2日前から意味不明な言動がみられ、受診時は幻覚妄想状態にある。十分な疎通性が得られず、医師は入院加療が必要と判断している。 ・入院の必要性を説明しても了解が得られない。本人の同意による入院はできない。 ・他人に危害を加える様子はない。バイタルサインは安定しており、自殺企図や自傷行為の記載もない。つまり、自傷他害のおそれ(措置入院の要件)は示されていない。 ・身元は判明し、配偶者がいるようだが、現時点では連絡がとれない。
入院形態の選び方
精神保健福祉法に基づく入院形態は、次の順に考えると整理しやすい。 ①自傷他害のおそれがあるか。ある場合は、都道府県知事(政令指定都市の市長)の権限による措置入院、または緊急措置入院となる。 ②本人が入院に同意するか。同意すれば任意入院となる。 ③同意しない場合、家族等(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人・保佐人)の同意が得られるか。得られれば医療保護入院となる。 ④急速を要するのに家族等の同意を得ることができない場合は、応急入院となる。 本例では、①自傷他害のおそれが示されていないため、措置入院の要件を満たさない。②本人は入院を拒んでいる。③配偶者はいるが連絡がつかず、その同意を得ることができない。一方で、幻覚妄想状態のまま路上生活を続けさせるわけにはいかず、ただちに入院させる必要がある。このように「医療と保護のために入院が急がれるが、本人も家族等も同意できない」隙間を埋めるための制度が応急入院である。応急入院は、厚生労働大臣の定める基準に適合するとして都道府県知事が指定した病院(応急入院指定病院)で、精神保健指定医の診察に基づき、72時間に限って行うことができる。その間に配偶者と連絡をとり、同意が得られれば医療保護入院へ切り替える。
選択肢考察
- ○a. 応急入院
応急入院は、次の条件がそろったときに適用される。 ・精神保健指定医が診察して、精神障害者であり、ただちに入院させなければ医療・保護を図るうえで著しく支障があると判断した。 ・本人が任意入院の状態にない。 ・急速を要し、家族等の同意を得ることができない。 この場合、応急入院指定病院の管理者は、本人や家族等の同意がなくても72時間を限度として入院させることができる。緊急その他やむを得ない場合は、指定医に代えて特定医師が診察することもでき、その場合の上限は12時間である。入院させたときは、ただちに都道府県知事に届け出る。本例は、入院が必要で本人は拒否し、配偶者とも連絡がとれないため、この制度が最も適切である。
- ×b. 措置入院
措置入院は、精神障害のために自身を傷つけ、または他人に害を及ぼすおそれ(自傷他害のおそれ)がある者について行われる。2名以上の精神保健指定医が診察し、その結果が一致した場合に、都道府県知事(政令指定都市の市長)の命令で入院させる行政処分である。警察官からの通報などを契機に行われることが多いが、警察官に伴われて来院したこと自体が要件になるわけではない。本例では他害の様子はなく、自傷のおそれも示されていないため、要件を満たさない。
- ×c. 任意入院
任意入院は、本人の同意に基づく入院である。精神保健福祉法では、精神科病院の管理者は、本人の同意に基づいて入院が行われるよう努めなければならないとされている。つまり、まず検討すべき最も望ましい形態である。入院時には本人から書面で同意を得る。本例では本人が入院の必要性を了解しておらず、同意が得られないため選択できない。なお、任意入院中の患者が退院を申し出た場合でも、指定医が医療・保護のために入院継続が必要と判断すれば、72時間(特定医師の場合は12時間)に限り退院を制限できる。
- ×d. 医療保護入院
医療保護入院は、本人の同意が得られない場合に、精神保健指定医が入院の必要性を認め、家族等のうちいずれかの者の同意を得て行う入院である。かつては「保護者」の同意が必要とされていたが、2013年の法改正(2014年施行)で保護者制度は廃止され、現在は家族等の同意が要件となっている。家族等がいない場合や、家族等の全員が意思を表示できない場合には、市町村長の同意で行う。本例には配偶者がいるが、連絡がつかないため現時点で同意を得ることができない。そのためすぐには医療保護入院とすることができない。応急入院で入院させ、その間に配偶者と連絡がつけば医療保護入院に移行する流れとなる。
- ×e. 緊急措置入院
緊急措置入院は、自傷他害のおそれが著しく、急速を要するために、通常の措置入院の手続き(指定医2名による診察など)をとることができない場合に行う。指定医1名の診察に基づき、都道府県知事の権限で72時間を限度として入院させる。その間に措置入院の手続きを行う、いわば措置入院への橋渡しである。前提として自傷他害のおそれが必要であり、本例は該当しない。
精神保健福祉法に基づく主な入院形態
・任意入院:本人の同意によって入院する。指定医の診察は入院時の要件ではない。期間の制限はない。退院の申し出があっても、指定医の判断により72時間(特定医師の場合は12時間)まで退院を制限できる。 ・医療保護入院:本人の同意がなく、家族等(いなければ市町村長)の同意を得て入院させる。指定医1名(特定医師の場合は12時間まで)の診察に基づいて行う。2022年の法改正(2024年施行)で入院期間が定められ、一定期間ごとに要件を確認して更新する仕組みとなった。 ・応急入院:急速を要し、本人・家族等の同意を得ることができない場合に行う。応急入院指定病院で、指定医1名の診察に基づき、72時間(特定医師の場合は12時間)まで入院させることができる。 ・措置入院:自傷他害のおそれがある場合に行う。指定医2名以上の診察結果が一致したとき、都道府県知事(政令指定都市の市長)の命令で入院させる。期間の定めはないが、症状が消退すれば措置を解除する。 ・緊急措置入院:自傷他害のおそれが著しく、急速を要する場合に行う。指定医1名の診察に基づき、72時間を限度として入院させる。
判断の流れ
自傷他害のおそれがあれば措置入院または緊急措置入院となる。なければ、本人の同意があれば任意入院とする。同意がなければ、家族等の同意が得られる場合は医療保護入院、急を要するのに得られない場合は応急入院となる。
精神保健指定医
一定の精神科実務経験と研修を経て、厚生労働大臣が指定する医師である。本人の意思によらない入院の判定や、行動制限(隔離・身体的拘束)の判断などを担う。特定医師は、一定の要件を満たす特定病院で、緊急時に限り指定医に代わって診察できる医師である。
POINT
・自傷他害のおそれがある場合は措置入院(指定医2名)または緊急措置入院(指定医1名、72時間)。いずれも都道府県知事の権限による。 ・本人が同意すれば任意入院とする。本人の同意による入院が最も望ましい。 ・本人が同意しなければ、家族等の同意による医療保護入院とする(保護者制度は2014年に廃止)。 ・入院が急がれるのに本人も家族等も同意できない場合は、応急入院(応急入院指定病院で72時間まで)。 ・警察官に伴われての受診でも、自傷他害のおそれがなければ措置入院にはならない。
