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「怖い治療」はもう昔の話―修正型電気けいれん療法の適応と現在地

第107回医師国家試験 G問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第31問

電気けいれん療法について正しいのはどれか。

  1. a.高齢者に行ってはならない。
  2. b.重症うつ病は適応疾患である。
  3. c.脳神経外科医の協力が必要である。
  4. d.最近は行われることがまれである。
  5. e.患者やその保護者の同意なしに実施できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は電気けいれん療法、ECTについての知識を問う問題だ。適応となる疾患、誰の協力で行うのか、現在の位置づけ、そして同意の扱いという4つの視点で整理すると解きやすい。まず、ECTにどんなイメージを持っているかな。
医学生医学生
正直、映画で見たような、患者さんが全身けいれんを起こして押さえつけられている場面が浮かびます。昔の治療というイメージです。
ドクタードクター
多くの人がそう思っているね。実際、かつては麻酔なしで通電して全身の強直間代けいれんを起こさせる方法が行われ、骨折や脱臼の合併症があったうえ、十分な同意なしに行われた歴史もあって負のイメージが広まった。でも今は、麻酔科医の管理下で静脈麻酔薬で眠らせ、筋弛緩薬で筋肉のけいれんを抑えてから通電する修正型ECTが標準なんだ。発作は脳波モニタ上で確認する。
医学生医学生
筋肉は動かないのに、脳の中では発作が起きている状態をつくるということですか。
ドクタードクター
その通り。治療効果に必要なのは脳内の全般性発作活動で、体のけいれんではないからね。作用機序は完全には解明されていないけれど、神経伝達物質や神経内分泌系の変化、神経可塑性の促進などが関与すると考えられている。では、代表的な適応は何だと思う?
医学生医学生
精神科の実習で、ご飯を食べられなくなって昏迷状態になったうつ病の患者さんにECTを予定していると聞きました。重症うつ病でしょうか。
ドクタードクター
正解。重症うつ病はECTの代表的な適応だ。特に、自殺の危険が差し迫っている、昏迷や拒食で全身状態が危ない、妄想などの精神病症状を伴う、複数の抗うつ薬を十分使っても効かない、副作用で薬が使えない、といった場合に検討される。抗うつ薬は効果が出るまで数週間かかることが多いけれど、ECTは比較的速やかに効き、寛解率も高い。急を要する重症例で選ばれる理由はそこにある。
医学生医学生
時間をかけられない患者さんにこそ向いている治療なんですね。でも高齢者には負担が大きそうなので、行ってはいけないのかなと思いました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。年齢そのものは禁忌ではない。むしろ高齢者は抗うつ薬の抗コリン作用によるせん妄や尿閉、起立性低血圧による転倒、QT延長などが出やすく、薬物療法が難しいことが多い。そういうときECTは比較的安全で効果も得られやすい選択肢になる。もちろん心血管疾患などの合併症は事前にしっかり評価するよ。妊娠中に薬を避けたい場合に選ばれることもある。
医学生医学生
頭に電気を流すので、脳神経外科の先生も立ち会うものだと思っていました。
ドクタードクター
電極は頭皮上に置くだけで、開頭などの外科的処置はないから脳神経外科医は不要だ。必要なのは、全身麻酔、筋弛緩薬の投与、マスク換気による呼吸管理、通電時の血圧・心拍の変動への対応ができる麻酔科医の協力なんだ。
医学生医学生
麻酔科の実習で、朝一番に精神科の患者さんの短い麻酔があったのを思い出しました。あれがECTだったのかもしれません。
ドクタードクター
きっとそうだね。そうやって実際に多くの病院で行われているから、「最近はまれ」というのも誤りだ。修正型の普及で安全性が高まり、刺激装置も少ない電気量で発作を誘発できる短パルス矩形波装置が主流になった。治療抵抗性うつ病などに有効な治療として再評価され、うつ病の診療ガイドラインでも選択肢に位置づけられている。
医学生医学生
同意についてはどうでしょう。昏迷で話せない患者さんだと、本人の同意は取れないですよね。
ドクタードクター
だからといって同意なしに行ってよいわけではない。ECTは全身麻酔を伴い、記憶障害などの副作用もありうる治療だから、目的、効果、副作用、代替治療を説明して、原則として本人から文書で同意を得る。本人に同意能力がない場合も、家族等から同意を得る必要がある。過去に同意なく行われて問題になった経緯を考えれば、なおさら大切な手続きだね。
医学生医学生
適応は重症うつ病、協力するのは麻酔科医、高齢者でも可能、今も広く行われていて、同意は必須。こう整理するとすっきりします。
ドクタードクター
よくまとまっているね。発展知識も押さえておこう。通常は週2〜3回、合計6〜12回程度を1クールとし、寛解後に再発予防の維持ECTを行うこともある。うつ病以外にも、双極性障害、統合失調症の緊張病症状、緊張病そのもの、悪性症候群に有効だ。絶対的禁忌は定められていないけれど、頭蓋内圧亢進、最近の心筋梗塞や脳血管障害、脳動脈瘤などの血管病変、褐色細胞腫ではリスクが高く慎重に判断する。
医学生医学生
副作用で一番気をつけるのは記憶のことですか。
ドクタードクター
そうだね。治療前後の出来事を思い出せない一過性の記憶障害や、発作後のもうろう状態・せん妄が代表的だ。ほかに頭痛や筋肉痛、そして通電直後の迷走神経刺激による徐脈と、その後の交感神経刺激による頻脈・血圧上昇といった循環変動がある。患者さんや家族に説明するときは、こうした副作用と回復の見通しを具体的に伝えることが、安心して治療を受けてもらう鍵になるよ。

まとめ

電気けいれん療法は頭皮上の電極から通電して脳内に全般性発作を誘発する治療で、現在は麻酔科医の協力のもと静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用いる修正型ECTが標準となり、安全性が大きく向上しています。代表的な適応は重症うつ病で、自殺の危険が切迫している、昏迷や拒食がある、精神病症状を伴う、薬物療法に抵抗性であるといった場合に、速やかな効果と高い寛解率が期待されます。高齢であることは禁忌ではなく、薬物の副作用が問題となる高齢者ではむしろ有用な選択肢となり、現在も多くの施設で実施されています。全身麻酔や記憶障害などのリスクを伴うため、十分な説明と文書による同意が必須です。かつての負のイメージにとらわれず、適応・体制・副作用・同意を正しく理解しておくことは、重症精神疾患の患者さんに適切な治療選択肢を示すうえで欠かせません。

解答・解説

正解はbです

電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)は、頭皮上に置いた電極から脳に短時間通電し、全般性のけいれん発作(脳波上の発作活動)を人工的に誘発することで精神症状の改善を図る治療法である。作用機序は完全には解明されていないが、神経伝達物質系や神経内分泌系の変化、神経可塑性の促進などが関与すると考えられている。 かつては麻酔をかけずに通電し、全身の強直間代けいれんを起こさせる方法(従来型・非修正型ECT)が行われていた。骨折や脱臼などの合併症や、患者の同意を十分に得ないまま実施された歴史があり、「怖い治療」という負のイメージが広まった。現在は、麻酔科医の管理下で静脈麻酔薬により意識を消失させ、筋弛緩薬で筋肉のけいれんを抑えたうえで通電する修正型電気けいれん療法(modified ECT:m-ECT)が標準となっている。刺激装置も、少ない電気量で発作を誘発できる短パルス矩形波装置が主流となり、安全性は大きく向上した。 本問では、ECTの適応、実施体制(どの診療科の協力が必要か)、現在の位置づけ、インフォームド・コンセントの要否を整理して判断する。ECTは重症のうつ病、特に自殺の危険が切迫している例、昏迷や拒食で全身状態が悪化している例、精神病症状を伴う例、薬物療法が無効な例で高い有効性を示す。そのため「重症うつ病は適応疾患である」が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  高齢者に行ってはならない。

    年齢そのものはECTの禁忌ではない。高齢者は抗うつ薬の副作用(抗コリン作用による便秘・尿閉・せん妄、起立性低血圧による転倒、QT延長など)が出やすく、薬物療法が十分に行えないことが多い。そのような場合、ECTは効果の発現が速く比較的安全な選択肢となる。実際、高齢者のうつ病はECTの効果が得られやすいとされている。妊娠中も、胎児への薬物の影響を避けたい場合に選択されることがある。もちろん高齢者では心血管系疾患などの合併症を事前に評価する必要があるが、「行ってはならない」は誤りである。

  2. ○b.  重症うつ病は適応疾患である。

    重症うつ病はECTの代表的な適応である。特に、(1)自殺の危険が差し迫っている、(2)うつ病性昏迷や拒食・拒薬により身体的に危険な状態にある、(3)妄想などの精神病症状を伴う、(4)複数の抗うつ薬を十分量・十分期間使っても改善しない(治療抵抗性)、(5)薬物療法の副作用で薬が使えない、といった状況で検討される。抗うつ薬は効果発現まで数週間かかることが多いのに対し、ECTは比較的速やかに効果が現れ、寛解率も高いことが、急を要する重症例で選ばれる理由である。したがって正しい。

  3. ×c.  脳神経外科医の協力が必要である。

    ECTは開頭などの外科的処置を伴わず、頭皮上の電極から通電するだけの治療であるため、脳神経外科医の関与は不要である。現在の修正型ECTでは、静脈麻酔薬による全身麻酔、筋弛緩薬の投与、マスク換気などの呼吸管理、通電時の血圧・心拍変動への対応が必要になる。このため協力が必要なのは麻酔科医であり、誤りである。

  4. ×d.  最近は行われることがまれである。

    修正型ECTの普及により安全性が高まり、治療抵抗性うつ病や緊急性の高い重症例に対する有効な治療として再評価されている。うつ病の診療ガイドラインでも選択肢の一つに位置づけられており、現在も多くの精神科医療機関で実施されている。「まれにしか行われない」とはいえず、誤りである。

  5. ×e.  患者やその保護者の同意なしに実施できる。

    ECTは全身麻酔を伴い、記憶障害などの副作用もありうる侵襲的な治療である。実施にあたっては、目的、期待される効果、副作用、代替治療などを説明し、原則として患者本人から文書による同意を得る。重度の昏迷などで本人に同意能力がない場合でも、家族等から同意を得る必要がある。過去に同意なしで行われたことが大きな問題となった経緯もあり、同意なしに実施できるとする記述は誤りである。

修正型電気けいれん療法(m-ECT)の実際

・静脈麻酔薬(プロポフォール、チオペンタールなど)で入眠させ、スキサメトニウムなどの筋弛緩薬を投与したうえで、酸素化しながら頭部に通電する。 ・けいれん発作が起こったことは脳波モニタで確認する。 ・通常、週2〜3回、合計6〜12回程度を1クールとして行う。 ・寛解後も再発予防として間隔をあけて続ける維持ECTが行われることがある。

主な適応

・重症うつ病(自殺の危険が切迫、昏迷、拒食、精神病症状を伴う、薬物療法抵抗性) ・双極性障害の躁状態・うつ状態 ・統合失調症(緊張病症状、薬物療法抵抗性の興奮など) ・緊張病(カタトニア) ・悪性症候群

注意を要する状態(相対的禁忌・高リスク)

絶対的な禁忌は定められていないが、以下では危険性が高く慎重に判断する。 ・頭蓋内圧亢進(脳腫瘍などの占拠性病変) ・最近発症した心筋梗塞や脳血管障害 ・脳動脈瘤、大動脈瘤などの血管病変 ・褐色細胞腫 ・重度の呼吸器疾患など麻酔リスクが高い状態

主な副作用

・一過性の記憶障害(治療前後の出来事の健忘)、発作後のもうろう状態・せん妄 ・頭痛、筋肉痛、悪心 ・通電直後の迷走神経刺激による徐脈、続いて交感神経刺激による頻脈・血圧上昇などの循環変動

POINT

・電気けいれん療法の代表的な適応は重症うつ病(自殺の危険、昏迷、拒食、精神病症状、治療抵抗性)である。緊張病や悪性症候群にも有効である。 ・現在は麻酔科医の協力のもと、全身麻酔と筋弛緩薬を用いる修正型ECTが標準である。 ・高齢者や妊婦も年齢・妊娠だけでは禁忌とならず、薬物療法より安全な選択肢となる場合がある。 ・実施には十分な説明と文書による同意が必要である。 ・主な副作用は一過性の記憶障害、頭痛、循環変動である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。