StudyMed医師国家試験

救急車はどこへ向かう?―「特殊疾病」で選ぶ高度救命救急センターの役割

第107回医師国家試験 G問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第3問

高度救命救急センターで受け入れるべきなのはどれか。

  1. a.下肢の骨折
  2. b.肩関節脱臼
  3. c.急性虫垂炎
  4. d.重症広範囲熱傷
  5. e.十二指腸潰瘍穿孔

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、日本の救急医療体制の中で高度救命救急センターがどんな患者を受け入れる施設なのかを問う問題だ。ポイントは、救急医療が重症度に応じて段階的に役割分担されていることと、その頂点にある施設に何が求められているかを理解することだよ。
医学生医学生
救急は一次、二次、三次の3段階に分かれている、と公衆衛生の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。まず一次救急、つまり初期救急は入院の必要がない軽症患者が対象で、休日夜間急患センターや在宅当番医がこれを担う。二次救急は入院や手術が必要な患者を受け入れる病院で、病院群輪番制などで地域の夜間休日を支えている。三次救急は、二次では対応できない生命の危機にある重篤な患者を24時間体制で受け入れる救命救急センターだ。
医学生医学生
じゃあ高度救命救急センターは、三次救急のさらに上の段階ということですか。
ドクタードクター
段階が別にあるというより、救命救急センターのうち、広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒といった特殊疾病に対応できる高度な機能をもつ施設、と理解するといい。厚生労働大臣が定める基準を満たした施設で、大学病院などに置かれていることが多いんだ。
医学生医学生
特殊疾病が例示されているなら、選択肢の中では重症広範囲熱傷がまさにそれですね。
ドクタードクター
正解。では、なぜ広範囲熱傷が高度な施設を必要とするのか、病態から考えてみよう。熱傷が広い範囲に及ぶと、体の中で何が起こるかな。
医学生医学生
皮膚のバリアが失われるので、水分が蒸発して脱水になる、というイメージです。
ドクタードクター
それも一因だけど、もっと大きいのは全身の毛細血管透過性の亢進なんだ。血漿成分が血管の外へ大量に漏れ出して、受傷早期から循環血液量減少性ショック、いわゆる熱傷ショックに陥る。だからParkland法などを目安にした大量輸液と、尿量を見ながらの厳密な循環管理が必要になる。
医学生医学生
救急科の臨床実習で、熱傷の患者さんの輸液量の多さに驚いた記憶があります。気道熱傷もあると挿管が必要になるんですよね。
ドクタードクター
そう。気道熱傷では上気道の浮腫が急速に進んで閉塞するおそれがあるから、早めの気道確保が求められる。さらに急性期を乗り越えても、創部感染から敗血症、多臓器不全へ進むリスクがあるし、壊死組織の切除と植皮術を何度も繰り返す必要がある。集中治療、形成外科、感染管理を含む長期の集学的治療ができる施設でないと救命が難しいんだ。
医学生医学生
では急性虫垂炎や十二指腸潰瘍穿孔はどうでしょう。手術が必要なので重症に思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが迷いやすいところだね。どちらも緊急手術になりうるけれど、虫垂切除術や大網被覆術は一般外科のある病院で十分に行える。だから原則は二次救急の守備範囲だ。もちろん汎発性腹膜炎から敗血症性ショックに至れば三次救急の対象になりうるけれど、疾患そのものが高度な施設を必要とするわけではない。
医学生医学生
下肢の骨折も、整形外科があれば整復固定や手術で対応できるので二次救急ですね。
ドクタードクター
その通り。ただし、骨盤骨折や大腿骨骨折で大量出血がある場合、多発外傷、高所墜落のような高エネルギー外傷では三次救急の対象になりうる。「骨折だから軽い」と決めつけず、受傷機転と全身状態を見る姿勢が大切だよ。
医学生医学生
肩関節脱臼は、神経や血管の損傷がなければ徒手整復して固定すれば帰宅できるので、初期救急レベルでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。最も頻度の高い脱臼で、多くは前方脱臼だ。ここで熱傷の重症度評価も押さえておこう。面積は成人なら9の法則、小児なら5の法則、患者さんの手掌を体表面積の約1%とみなす手掌法で見積もる。Burn IndexはIII度熱傷面積にII度熱傷面積の半分を足したもので、10から15以上で重症とされる。
医学生医学生
Artzの基準では、II度30%以上やIII度10%以上、顔面や手、会陰部の熱傷、気道熱傷があると重症でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。電撃傷や化学損傷も重症として扱う。救急現場では、こうした重症度評価をもとに、どの医療機関へ搬送するかを判断するんだ。患者さんを適切な施設に届けることが、救命率を左右するんだよ。

まとめ

日本の救急医療は、軽症を扱う初期(一次)救急、入院や手術を要する患者を扱う二次救急、生命の危機にある重篤な患者を扱う三次救急(救命救急センター)に役割分担されています。高度救命救急センターは救命救急センターのうち、広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒などの特殊疾病に対応する施設で、本問では重症広範囲熱傷が受け入れるべき患者にあたります。広範囲熱傷は毛細血管透過性亢進による熱傷ショック、気道熱傷、感染から敗血症・多臓器不全への進展を起こしやすく、大量輸液、呼吸管理、植皮術を含む集学的治療が必要です。一方、骨折、急性虫垂炎、消化性潰瘍穿孔は原則として二次救急、肩関節脱臼は初期救急で対応できますが、合併症や重篤化があれば三次救急の対象となりえます。救急体制の階層と各施設の役割を理解することは、国試対策だけでなく、搬送先の判断や地域医療連携を考えるうえでも欠かせません。

解答・解説

正解はdです

問われていること

わが国の救急医療体制は、患者の重症度に応じて初期(一次)・二次・三次の3段階に分けられている。高度救命救急センターは三次救急医療機関である救命救急センターの中でも特に高度な診療機能をもつ施設であり、本問はその役割に見合う患者を選ぶ問題である。

考え方

・初期(一次)救急:入院を必要としない軽症患者を扱う。休日夜間急患センター、在宅当番医など。 ・二次救急:入院や手術を必要とする中等症〜重症患者を扱う。病院群輪番制病院など、一般的な手術・入院設備をもつ病院。 ・三次救急:二次救急では対応できない、生命に危険が及ぶ重篤な患者を24時間体制で受け入れる。救命救急センターがこれにあたる。 ・高度救命救急センター:救命救急センターのうち、広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒などの特殊疾病患者に対する救命医療を行うものとして厚生労働大臣が定める基準を満たす施設で、多くは大学病院などに設置されている。 選択肢のうち、下肢骨折、急性虫垂炎、十二指腸潰瘍穿孔は手術や入院が必要になりうるが、一般的な外科・整形外科の設備をもつ二次救急病院で対応可能である。肩関節脱臼は整復で済むことが多い初期救急レベルの病態である。これに対し重症広範囲熱傷は、大量輸液による循環管理、気道熱傷に対する呼吸管理、感染対策、植皮術を含む集学的治療を要し、死亡率も高い。まさに高度救命救急センターが担う特殊疾病の代表である。

選択肢考察

  1. ×a.  下肢の骨折

    単独の下肢骨折は、整形外科のある一般病院で整復・固定や観血的整復固定術(手術)を行えばよく、二次救急で対応できる。ただし、大腿骨骨幹部骨折や骨盤骨折で大量出血を伴う場合、他部位の損傷を伴う多発外傷、高エネルギー外傷(高所墜落、交通事故での車外放出など)では三次救急の対象となりうる。選択肢の条件だけでは高度救命救急センターで受け入れるべき患者とはいえない。

  2. ×b.  肩関節脱臼

    肩関節脱臼は最も頻度の高い脱臼で、多くは前方脱臼である。神経血管損傷や骨折がなければ、徒手整復と一定期間の固定で外来治療が可能であり、初期救急レベルの病態である。高度救命救急センターの対象ではない。

  3. ×c.  急性虫垂炎

    急性虫垂炎は、抗菌薬による保存的治療または虫垂切除術で治療する頻度の高い急性腹症であり、一般外科のある二次救急病院で対応できる。穿孔して汎発性腹膜炎や敗血症性ショックに至れば重篤となりうるが、通常は高度救命救急センターの対象とはならない。

  4. ○d.  重症広範囲熱傷

    広範囲熱傷では、毛細血管透過性の亢進により血漿成分が血管外へ大量に漏出し、受傷早期から循環血液量減少性ショック(熱傷ショック)に陥る。そのため大量の輸液(初期輸液の目安としてParkland法などが用いられる)と厳密な循環管理が必要である。さらに気道熱傷による上気道閉塞や呼吸不全、創部感染から敗血症、多臓器不全を起こしやすく、救命には集中治療と繰り返しの壊死組織切除・植皮術を含む長期の集学的治療が求められる。広範囲熱傷は、指肢切断・急性中毒とともに高度救命救急センターの対象として明示される特殊疾病であり、受け入れるべき患者として最も適切である。

  5. ×e.  十二指腸潰瘍穿孔

    十二指腸潰瘍穿孔は、腹膜刺激症状や腹腔内遊離ガスで診断され、状態に応じて保存的治療(絶食、胃管による減圧、プロトンポンプ阻害薬、抗菌薬)または大網被覆術などの手術を行う。緊急手術が必要となりうるが、一般的な外科の設備で対応可能であり、二次救急で扱う病態である。汎発性腹膜炎から敗血症性ショックに至るなど重篤化すれば三次救急の対象となりうるが、疾患そのものが高度救命救急センターを必要とするわけではない。

救急医療体制の整理

・初期救急医療:軽症患者(帰宅可能)。休日夜間急患センター、在宅当番医制。 ・二次救急医療:入院・手術を要する患者。病院群輪番制、共同利用型病院。 ・三次救急医療:生命に危険が及ぶ重篤な患者。救命救急センター(おおむね人口100万人に1か所を目安に整備が始まった)。 ・高度救命救急センター:救命救急センターのうち、広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒など特殊疾病患者に対応する施設。

三次救急の主な対象

心肺停止、重症外傷・多発外傷、重症熱傷、四肢切断、急性中毒、急性呼吸不全、ショック(循環不全)、重度の意識障害、重症の高体温・低体温など。

熱傷の重症度評価

・熱傷深度:I度(表皮のみ、発赤)、浅達性II度・深達性II度(真皮まで、水疱形成)、III度(皮膚全層、白色・炭化、痛覚消失)。 ・熱傷面積:成人は9の法則、小児は5の法則、手掌法(患者の手掌が体表面積の約1%)で見積もる。 ・Burn Index(BI)=III度熱傷面積(%)+1/2×II度熱傷面積(%)。10〜15以上で重症とされる。 ・Artzの基準で重症熱傷とされるもの:II度30%以上、III度10%以上、顔面・手・足・会陰部の熱傷、気道熱傷、軟部組織損傷や骨折を伴うもの、電撃傷、化学損傷など。これらは総合病院や熱傷専門施設での入院治療の対象となる。

POINT

・高度救命救急センターは、救命救急センターの中でも広範囲熱傷・指肢切断・急性中毒などの特殊疾病に対応する施設。 ・一次救急は軽症、二次救急は入院・手術を要する患者、三次救急は生命の危機にある重篤患者を扱う。 ・骨折、虫垂炎、消化性潰瘍穿孔は原則として二次救急、脱臼は初期救急で対応できる。 ・重症熱傷の目安:II度30%以上、III度10%以上、気道熱傷の合併、BI 10〜15以上など。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。