その義務、どの法律から?―医師法と民法を分ける「医師固有」という物差し
第107回医師国家試験 G問題 第2問
国試問題にチャレンジ
民法で規定されているのはどれか。
- a.注意義務
- b.療養指導義務
- c.処方箋交付義務
- d.診断書作成義務
- e.診療録保存義務
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医師の義務は根拠法ごとに整理すると覚えやすくなります。診療契約は準委任契約と解され、民法の善管注意義務(注意義務)が医師に課されるため、本問では注意義務が民法に規定された義務にあたります。一方、応招義務と診断書等の交付義務(第19条)、処方箋交付義務(第22条)、療養指導義務(第23条)、診療録の記載と5年間の保存義務(第24条)は、医師という資格に固有の義務として医師法に定められています。さらに医師の守秘義務は刑法の秘密漏示罪に、診療に関する諸記録の2年保存は医療法に根拠があり、医療過誤では民法上の債務不履行責任と不法行為責任が問われます。「医師固有か、一般的か」という物差しをもつことは、法規の問題を解く助けになるだけでなく、医療紛争やインフォームド・コンセントを考える土台にもなります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
医師が負う義務には、医師という資格に固有のものとして医師法に定められた義務と、医師に限らず契約関係や社会生活一般に当てはまる義務として民法などに根拠をもつものがある。本問は、選択肢の義務がどの法律に由来するかを見分ける問題である。
考え方
医師法は医師の免許と業務について定める法律で、応招義務、診断書等の交付義務、無診察治療等の禁止、処方箋交付義務、療養指導義務、診療録の記載・保存義務など、医師の業務に固有の義務を列挙している(第19条〜第24条)。 一方、医療は患者と医師(医療機関)との間の診療契約に基づいて行われると考えられている。診療契約は、法律行為でない事務の委託である「準委任契約」と解されるのが一般的で、受任者には民法上「善良な管理者の注意」(善管注意義務)をもって事務を処理する義務が生じる(民法第644条、第656条で準委任に準用)。医療過誤訴訟では、この注意義務に違反したかどうかが、債務不履行責任(民法第415条)や不法行為責任(民法第709条)の成否を判断する中心的な論点となる。 このように、医師以外の職業にも共通する一般的な義務は民法に、医師に固有の業務上の義務は医師法に規定されていると整理すると、注意義務だけが民法に由来するものとして選び出せる。
選択肢考察
- ○a. 注意義務
診療契約は準委任契約と解され、民法第644条(第656条により準委任に準用)の「善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務」、すなわち善管注意義務が医師に課される。これは、その職業や地位にある人に社会通念上通常期待される程度の注意を払う義務であり、医師の場合は診療当時の臨床医学の実践における医療水準に照らして判断される。この義務に違反して患者に損害が生じれば、債務不履行(民法第415条)または不法行為(民法第709条)として損害賠償責任を問われる。医師に限らない一般的な義務であり、民法に規定されている。
- ×b. 療養指導義務
医師法第23条に規定されている。医師は診療をしたときに、本人またはその保護者に対して、療養の方法その他保健の向上に必要な事項を指導しなければならない。医師という資格に固有の業務上の義務であり、民法の規定ではない。
- ×c. 処方箋交付義務
医師法第22条に規定されている。医師は、治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合、患者またはその看護にあたっている者に処方箋を交付しなければならない。ただし、患者や看護者が交付不要と申し出た場合、暗示的効果を期待する場合、診断・治療を困難にするおそれがある場合、応急措置として投与する場合など、例外が同条に定められている。医薬分業を支える規定であり、民法ではなく医師法による。
- ×d. 診断書作成義務
医師法第19条第2項に規定されている。診察・検案をした医師、または出産に立ち会った医師は、診断書、検案書、出生証明書、死産証書の交付を求められた場合、正当な事由がなければ拒むことができない。同条第1項の応招義務(診療の求めを正当な事由なく拒んではならない)と並ぶ医師法上の義務である。
- ×e. 診療録保存義務
医師法第24条に規定されている。第1項で医師は診療をしたときに遅滞なく診療録に記載することが義務づけられ、第2項で診療録を5年間保存することが定められている。保存責任者は、病院・診療所に勤務する医師の診療録であればその施設の管理者、それ以外は当該医師である。なお、処方箋、手術記録、検査所見記録、エックス線写真などの「診療に関する諸記録」については、医療法とその施行規則により病院に2年間の保存が求められている。いずれも民法の規定ではない。
医師法に定められた主な義務
・第19条第1項:応招義務(診療に従事する医師は、診療の求めを正当な事由なく拒んではならない) ・第19条第2項:診断書・検案書・出生証明書・死産証書の交付義務 ・第20条:無診察治療等の禁止(自ら診察せずに治療・診断書・処方箋を交付してはならない。自ら検案せずに検案書を交付してはならない) ・第21条:異状死体等の届出義務(検案して異状を認めたら24時間以内に所轄警察署へ届け出る) ・第22条:処方箋交付義務 ・第23条:療養指導義務 ・第24条:診療録の記載および5年間の保存義務
他の法律に由来する義務
・守秘義務:医師については刑法第134条(秘密漏示罪)に規定される。看護師は保健師助産師看護師法に規定がある。 ・善管注意義務(注意義務):民法第644条。診療契約を準委任契約とみる立場から導かれる。 ・説明義務:法律上の明文規定は限られるが、診療契約上の義務や患者の自己決定権から判例で確立している。医療法第1条の4第2項には、医療の担い手が適切な説明を行い理解を得るよう努める努力義務がある。
医療過誤と民事責任
医療事故で患者が損害賠償を求める場合、診療契約上の義務違反を理由とする債務不履行責任(民法第415条)と、故意・過失による権利侵害を理由とする不法行為責任(民法第709条)の二つの法的構成がある。どちらでも、医師が当時の医療水準に照らして求められる注意を尽くしたかどうかが争点となる。
POINT
・注意義務(善管注意義務)は民法第644条に規定される。診療契約は準委任契約と解される。 ・療養指導義務(第23条)、処方箋交付義務(第22条)、診断書交付義務(第19条第2項)、診療録の記載・保存義務(第24条、保存期間5年)は医師法。 ・医師の守秘義務は刑法第134条。 ・医療過誤では債務不履行(民法第415条)と不法行為(民法第709条)が問題となる。
