StudyMed医師国家試験

押しても戻る足のむくみ―粘液水腫が「へこまない」理由

第107回医師国家試験 F問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第107回 F問題 第9問

圧痕を残さない浮腫の原因となるのはどれか。

  1. a.心不全
  2. b.塩分過剰摂取
  3. c.深部静脈血栓
  4. d.甲状腺機能低下症
  5. e.ネフローゼ症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は浮腫を「押してへこむかどうか」で分ける問題だ。ポイントは、圧痕が残るかどうかが、間質に何がたまっているかを反映しているということ。まず、浮腫の診察ではどうやって圧痕を確かめるか覚えているかな。
医学生医学生
脛骨の前面や足背を指で数秒押して、離したあとにくぼみが残るかを見ます。OSCEの練習で何度もやりました。
ドクタードクター
そうだね、5〜10秒ほどしっかり押す。くぼみが残るのが圧痕性浮腫、残らないのが非圧痕性浮腫。では、なぜ残る浮腫と残らない浮腫があるんだろう。
医学生医学生
むくみの程度が軽いと、すぐ戻ってくぼみが残らない……ということでしょうか。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、本質は程度ではなく「中身」なんだ。圧痕性浮腫でたまっているのは、水とナトリウムを主体とした流動性の高い液体。押すと周りに逃げて戻るのに時間がかかるから、くぼみが残る。一方、非圧痕性浮腫では間質にムコ多糖類、つまりグリコサミノグリカンや蛋白が沈着していて、水がそれに結合してゲル状になっている。だから押しても液体が動かないんだ。
医学生医学生
なるほど、水がゼリーに閉じ込められているイメージですね。それなら、ムコ多糖類がたまる病気を探せばいいわけですか。
ドクタードクター
その通り。代表が甲状腺機能低下症による粘液水腫だ。甲状腺ホルモンが不足すると、皮膚や皮下組織にヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸が沈着し、強い親水性で水を抱え込む。これが今回の正解になる。
医学生医学生
内分泌の講義で、顔がむくんで舌が大きくなって、声がかすれる、と習いました。あれも同じ沈着が原因なんですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。眼瞼のむくみ、皮膚の乾燥や肥厚、巨舌、嗄声はどれもムコ多糖類の沈着で説明できる。ほかに寒がり、便秘、徐脈、体重増加、アキレス腱反射の弛緩相遅延、高コレステロール血症やCK上昇も伴いやすい。では、残りの選択肢がなぜ圧痕性になるのか、Starlingの法則で整理しよう。心不全はどうかな。
医学生医学生
右心不全で静脈にうっ滞して、毛細血管の静水圧が上がるからですね。
ドクタードクター
そう。さらに心拍出量が落ちるとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が働いて、ナトリウムと水が貯留する。たまるのは水だから圧痕性。重力の影響を受けるので、歩ける人では下腿や足背、寝たきりの人では仙骨部や背部に出やすいんだ。
医学生医学生
塩分のとりすぎも、結局は水が増えるということでしょうか。
ドクタードクター
正解。食塩をとると口渇で飲水が増え、ADHも分泌されて水が保持され、細胞外液量が増える。とくに心疾患や腎疾患の患者では浮腫の悪化因子になる。これも水の貯留だから圧痕性だ。深部静脈血栓はどうだろう。
医学生医学生
血栓で静脈還流が止まって、末梢側の静水圧が上がる。これも水なので圧痕性ですね。循環器内科の実習で、片足だけ腫れていたらDVTを疑えと言われました。
ドクタードクター
大事な教えだね。片側性で、疼痛や熱感、色調変化を伴うのが特徴で、肺血栓塞栓症の原因にもなるから見逃せない。最後にネフローゼ症候群は?
医学生医学生
大量の蛋白尿で低アルブミン血症になって、膠質浸透圧が下がるから……でも、蛋白が関係するなら非圧痕性になりませんか。
ドクタードクター
いい疑問だ。ここが引っかけどころ。ネフローゼでは蛋白は尿に失われていて、間質にたまるのは蛋白に乏しい水なんだ。だから圧痕性。むしろ低アルブミン血症の浮腫は、圧痕が比較的速く戻る「fast edema」になりやすいことも知られている。
医学生医学生
蛋白が血管内から減るのと、間質に何かが沈着するのとは、まったく逆の話なんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に発展知識。非圧痕性浮腫は甲状腺機能低下症以外にもある。Basedow病では、機能亢進症なのに脛骨前面にムコ多糖類が沈着する前脛骨粘液水腫が起こる。慢性のリンパ浮腫も、長期化すると皮下の線維化が進んで硬く、圧痕を残しにくくなる。顔や口唇、喉頭に急に起こる血管性浮腫も圧痕を残しにくく、ACE阻害薬や遺伝性のブラジキニン性のものもあるから注意が必要だ。
医学生医学生
浮腫を見たら、押してみることと、全身性か局所性かを見ることがセットなんですね。
ドクタードクター
そのとおり。分布と圧痕の有無、それに随伴症状を組み合わせれば、ベッドサイドでかなり原因を絞り込める。押すだけの簡単な診察だけれど、病態生理がそのまま表れているんだよ。

まとめ

浮腫は指で圧迫してくぼみが残るかで圧痕性と非圧痕性に分けられ、その違いは間質にたまっている物質の性状を反映します。心不全、塩分過剰摂取、深部静脈血栓症、ネフローゼ症候群などは、静水圧上昇や膠質浸透圧低下、ナトリウム・水貯留によって流動性の高い水がたまるため圧痕性浮腫となります。一方、甲状腺機能低下症ではムコ多糖類が皮下に沈着して水をゲル状に抱え込むため、押しても圧痕を残さない粘液水腫を生じます。非圧痕性浮腫にはほかにBasedow病の前脛骨粘液水腫、慢性リンパ浮腫、血管性浮腫などがあります。圧痕の有無と分布を確かめる基本的な身体診察から病態を推論する力は、日常診療での浮腫の鑑別に直結します。

解答・解説

正解はdです

浮腫とは、間質(細胞と細胞の間のすき間)に過剰な液体が貯留した状態である。診察では、脛骨前面や足背などを指で5〜10秒ほど押し、指を離した後にくぼみ(圧痕)が残るかどうかを確かめる。圧痕が残るものを圧痕性浮腫(pitting edema)、残らないものを非圧痕性浮腫(non-pitting edema)とよぶ。 両者の違いは、間質にたまっている物質の性状にある。圧痕性浮腫では、たまっているのは主に水とナトリウムからなる流動性の高い液体であり、指で圧迫すると液体が周囲へ押しやられ、戻るまでに時間がかかるためくぼみが残る。その背景には、毛細血管内の静水圧の上昇(心不全、静脈閉塞、ナトリウム・水の貯留)や、血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症)といった、Starlingの法則に基づく体液移動の異常がある。 一方、非圧痕性浮腫では、間質にムコ多糖類(グリコサミノグリカン)や蛋白質が多く沈着し、水はこれらに結合してゲル状になっているため、押しても液体が移動しにくく、くぼみが残らない。代表が甲状腺機能低下症による粘液水腫である。 したがって本問では、各選択肢の浮腫が「水・ナトリウムの移動による浮腫」なのか「基質の沈着による浮腫」なのかを考えればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  心不全

    心不全、とくに右心不全やうっ血性心不全では、静脈系に血液がうっ滞して毛細血管の静水圧が上昇する。さらに心拍出量低下に反応してレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化され、腎臓でナトリウムと水が再吸収されて循環血漿量が増える。こうして水分が間質へ漏れ出すため、圧痕性浮腫となる。浮腫は重力の影響を受けて体の低い部位に出やすく、歩行できる患者では下腿・足背に、寝たきりの患者では仙骨部や背部にみられることが多い。

  2. ×b.  塩分過剰摂取

    食塩(NaCl)を多くとると、細胞外液の浸透圧を保つために口渇が生じて飲水が増え、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌も増えて水が保持される。その結果、細胞外液量が増加し、間質にも水分がたまるため、生じる浮腫は圧痕性である。とくに心疾患や腎疾患でナトリウム排泄能が低下している患者では、塩分摂取が浮腫の悪化因子となる。なお、食塩を極端に過剰摂取して水分補給が追いつかない場合は高ナトリウム血症となり、水が細胞内から細胞外へ移動して細胞が縮小するが、いずれにしても基質の沈着による非圧痕性浮腫をつくる病態ではない。

  3. ×c.  深部静脈血栓

    深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)では、血栓で静脈還流が妨げられ、閉塞部より末梢側の毛細血管静水圧が上昇して水分が間質へ漏れ出す。したがって浮腫は圧痕性である。典型的には片側の下肢に、疼痛・圧痛・腫脹・熱感・皮膚の色調変化(発赤や暗紫色)を伴って生じる点が、全身性浮腫との鑑別に重要である。肺血栓塞栓症の原因となるため、片側性の下肢腫脹をみたら見逃してはならない。

  4. ○d.  甲状腺機能低下症

    甲状腺ホルモンが不足すると、皮膚や皮下組織にヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのムコ多糖類(グリコサミノグリカン)が沈着する。これらは強い親水性をもち、水を抱え込んでゲル状の組織となるため、指で押しても液体が移動せず、圧痕を残さない。これを粘液水腫(myxedema)とよび、非圧痕性浮腫の代表的な原因である。顔面(とくに眼瞼)のむくみ、皮膚の乾燥・肥厚、舌の肥大、嗄声などとして現れる。ほかに寒がり、便秘、徐脈、体重増加、アキレス腱反射の弛緩相遅延、高コレステロール血症、クレアチンキナーゼ(CK)上昇なども伴いやすい。

  5. ×e.  ネフローゼ症候群

    ネフローゼ症候群では、糸球体から大量の蛋白が尿中に失われ(1日3.5g以上の蛋白尿)、低アルブミン血症(血清アルブミン3.0g/dL以下)となる。血漿膠質浸透圧が低下して血管内に水を引き留める力が弱まり、さらに腎臓でのナトリウム貯留も加わって、水分が間質へ移動する。貯留するのは蛋白に乏しい水分であり、浮腫は圧痕性である。全身性に生じ、眼瞼や顔面、下肢に目立ち、高度になると胸水・腹水を伴う。低アルブミン血症による浮腫では、圧痕が比較的速やかに(40秒未満程度で)戻る「fast edema」となりやすいことも知られている。

浮腫の発生機序(Starlingの法則)

毛細血管と間質の間の水の出入りは、主に次の力のバランスで決まる。 ・毛細血管静水圧の上昇:心不全、静脈閉塞(深部静脈血栓症など)、腎不全や塩分過剰摂取によるナトリウム・水の貯留 ・血漿膠質浸透圧の低下:ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養、蛋白漏出性胃腸症 ・毛細血管透過性の亢進:炎症、熱傷、敗血症、アレルギー ・リンパ還流の障害:リンパ浮腫(悪性腫瘍の手術後、リンパ節郭清後、フィラリア症など)

非圧痕性浮腫をきたす主な病態

・甲状腺機能低下症(粘液水腫):ムコ多糖類の沈着による。 ・Basedow病の前脛骨粘液水腫:甲状腺機能亢進症でありながら、自己免疫機序で脛骨前面にムコ多糖類が沈着し、限局性の非圧痕性浮腫を生じる。 ・慢性のリンパ浮腫:初期は圧痕を残すこともあるが、長期化すると蛋白に富むリンパ液の貯留から皮下組織の線維化・脂肪沈着が進み、硬く圧痕を残しにくくなる。 ・血管性浮腫(Quincke浮腫):顔面・口唇・舌・喉頭などに急激に生じる限局性の腫脹で、圧痕を残しにくい。ヒスタミンによるもの、ブラジキニンによるもの(遺伝性血管性浮腫、アンジオテンシン変換酵素阻害薬によるもの)がある。

浮腫の分布による鑑別

・全身性:心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、腎不全、低栄養、甲状腺機能低下症、薬剤性(Ca拮抗薬、NSAIDs、グルココルチコイドなど) ・局所性:深部静脈血栓症、静脈瘤、リンパ浮腫、炎症(蜂窩織炎など)、血管性浮腫

POINT

・指で圧迫して、くぼみが残るのが圧痕性浮腫、残らないのが非圧痕性浮腫である。 ・圧痕性浮腫は水・ナトリウムの貯留によるもので、心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、腎不全、深部静脈血栓症、塩分過剰摂取など多くの浮腫がこれにあたる。 ・非圧痕性浮腫の代表は甲状腺機能低下症による粘液水腫で、ムコ多糖類の沈着が原因である。 ・ほかに非圧痕性となりうるものとして、Basedow病の前脛骨粘液水腫、慢性リンパ浮腫、血管性浮腫を押さえる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。