StudyMed医師国家試験

迅速診断の検体は「生のまま、乾かさず」―凍結切片を支える手術室での一手間

第107回医師国家試験 F問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第107回 F問題 第10問

凍結切片による迅速診断時の組織の取扱いで適切なのはどれか。

  1. a.アルコール固定液につける。
  2. b.ホルマリン固定液につける。
  3. c.ドライヤーでよく乾燥させる。
  4. d.生理食塩液で湿らせたガーゼで包む。
  5. e.グルタールアルデヒド固定液につける。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、術中迅速病理診断に出す組織をどう扱うかという問題だ。着眼点は2つ。凍結切片は「固定していない生の組織」からつくること、そして組織は「乾燥に弱い」こと。この2つを押さえれば答えは自然に決まるよ。
医学生医学生
病理の検体といえば、まずホルマリンに入れるものだと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるね。通常の病理標本、いわゆる永久標本ならその通りだ。でも術中迅速診断は、手術の最中に採った組織をその場で凍らせて薄く切り、短時間で染色して診断する検査なんだ。ドイツ語の名残で「ゲフリール」とも呼ばれる。
医学生医学生
病理実習で、クリオスタットという冷えた箱の中で切片を切っているのを見学しました。あれが凍結切片ですね。
ドクタードクター
そう、冷却したミクロトームで新鮮な組織を数μmに薄切する。ここで大事なのは、組織が固定液に浸かってしまうと固定による変化が起きて凍結切片の作製や判読に支障が出ることだ。だから迅速診断の検体はどの固定液にも入れない。
医学生医学生
ということは、アルコールもホルマリンもグルタールアルデヒドも全部だめなんですね。
ドクタードクター
その通り。それぞれ本来の用途を整理しておこう。ホルマリンは永久標本の標準的な固定液で、パラフィン包埋などの工程を経るから完成まで数日かかる。アルコールは細胞診のPapanicolaou染色をする塗抹標本の湿固定などに使う。グルタールアルデヒドは細胞内の微細構造をよく保つので、腎生検の電子顕微鏡検索のような電顕用の固定に使うんだ。
医学生医学生
固定液はどれも「時間をかけてじっくり見る標本」用で、迅速診断とは目的が違うということですね。じゃあ、余計な水分がつかないようにドライヤーで乾かすのはどうでしょう。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。組織が乾燥すると細胞が収縮・変性して、核や細胞質の形が崩れてしまう。そうなると診断に耐える標本がつくれない。組織検体は乾燥させないのが大原則だよ。
医学生医学生
細胞診のMay-Giemsa染色では風乾すると習ったので、乾かしてもいいのかと思っていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。それは塗抹標本でのGiemsa系染色に限った別の手技で、組織の迅速診断とは別物だ。混同しないようにしよう。そうなると、正解は生理食塩液で湿らせたガーゼで包むことになる。
医学生医学生
生理食塩液は細胞外液とほぼ等張だから、浸透圧で組織を傷めずに乾燥だけ防げる、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。ひとつ細かい注意点として、ガーゼをびしょびしょにしたり組織を生理食塩液に長く浸けたりはしない。水分を含みすぎると、凍結時に氷の結晶ができて人工的な変化、つまりアーチファクトが増えるからね。「軽く湿らせて、すぐ病理へ」が合言葉だ。
医学生医学生
外科の実習で、器械出しの看護師さんが小さなガーゼに検体を包んで走って届けていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその場面だね。では迅速診断が何のために行われるかも確認しよう。良性か悪性かの判定、切除断端に腫瘍が残っていないかの確認、乳癌のセンチネルリンパ節のような転移の有無の確認、腹膜播種の確認などだ。結果次第で、その場で切除範囲や術式が変わる。
医学生医学生
手術の方針をリアルタイムで決めるための検査なんですね。迅速診断の結果がそのまま最終診断になるんですか。
ドクタードクター
いや、あくまで暫定診断だ。凍結切片は氷晶によるアーチファクトが入りやすく、脂肪の多い組織や石灰化・骨を含む組織は薄切しにくいという限界がある。だから診断後の組織もホルマリン固定して永久標本をつくり、最終診断はそちらで確定する。ちなみに、蛍光抗体法や遺伝子・酵素の解析でも未固定の新鮮組織を凍結して使うことがあるよ。
医学生医学生
検査の目的ごとに「固定するのか、しないのか」「何で固定するのか」を整理しておくのが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。検体の扱いを一つ間違えると、どんなに優秀な病理医でも診断できなくなる。手術室にいる全員が知っておくべき基本だよ。

まとめ

術中迅速病理診断は、手術中に採取した未固定の新鮮組織を急速凍結し、クリオスタットで薄切・染色して短時間で診断する検査であり、検体は固定液に入れず、乾燥させないよう生理食塩液で軽く湿らせたガーゼに包んで速やかに病理へ届けます。ホルマリンは永久標本、アルコールは細胞診のPapanicolaou染色、グルタールアルデヒドは電子顕微鏡用の固定に用いるもので、いずれも迅速診断には適しません。乾燥は細胞の収縮・変性を招き、逆に生理食塩液に浸けすぎると氷晶アーチファクトが増えるため、「軽く湿らせる」程度が適切です。迅速診断は良悪性の判定や断端・リンパ節転移の確認によって術式をその場で決めるための暫定診断で、最終診断は永久標本で確定します。目的に応じた検体の扱いを理解することは、正確な病理診断を支える医療チーム全体の基本です。

解答・解説

正解はdです

術中迅速病理診断は、手術の最中に採取した組織をその場で凍結して薄切・染色し、短時間(おおむね十数分〜数十分)のうちに病理医が顕微鏡で診断して、結果を手術室へ伝える検査である。凍結切片標本は、ドイツ語のGefrierschnittに由来して「ゲフリール」ともよばれる。 迅速診断の要点は、「固定をせず、生(なま)の組織のまま凍らせる」ことにある。凍結切片は、新鮮な組織を液体窒素などで急速に凍結し、クリオスタット(冷却ミクロトーム)で薄く切って作製する。組織が固定液に浸かってしまうと、固定による変化で凍結切片の作製・判読に支障をきたし、迅速診断の意味が失われる。また、組織が乾燥すると細胞が変性・収縮し、診断に耐える標本がつくれなくなる。 そのため手術室では、採取した組織を固定液に入れず、乾燥しないように生理食塩液で軽く湿らせたガーゼで包み、直ちに病理検査室へ届けるのが正しい取扱いである。本問は、「迅速診断=未固定・乾燥させない」という原則と、各固定液の使い分け(永久標本、電子顕微鏡)を区別できるかを問うている。

選択肢考察

  1. ×a.  アルコール固定液につける。

    アルコール(エタノールなど)は蛋白質を脱水・凝固させることで組織や細胞を固定する。細胞診のPapanicolaou染色を行う塗抹標本の湿固定(95%エタノール)や、グリコーゲンなど水に溶けやすい成分を保存したい場合の組織固定などに用いられる。いずれも固定を前提とした標本作製の処理であり、生の組織を凍結させる術中迅速診断の検体を入れるものではない。

  2. ×b.  ホルマリン固定液につける。

    ホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)は、通常の病理組織標本(永久標本)をつくるときの標準的な固定液である。一般に10〜20%の中性緩衝ホルマリンが用いられ、固定後に脱水・脱脂・パラフィン包埋・薄切・染色という工程を経るため、標本完成までに通常は数日を要する。術中迅速診断の検体をホルマリンに入れると凍結切片の作製・判読に適さなくなるため誤りである。なお、迅速診断に用いた組織も、診断後には解凍してホルマリン固定し、改めて永久標本を作製して最終診断を確認する。

  3. ×c.  ドライヤーでよく乾燥させる。

    組織を乾燥させると、細胞が収縮・変性して核や細胞質の形態が崩れ、正確な組織診断ができなくなる。組織検体は乾燥を避けるのが原則であり、ドライヤーで乾かすことは行わない。なお、細胞診ではMay-Giemsa染色などのGiemsa系染色を行う場合に、塗抹標本を速やかに風乾(空気乾燥)させる方法がとられるが、これは組織の迅速診断とは別の手技である。

  4. ○d.  生理食塩液で湿らせたガーゼで包む。

    生理食塩液は細胞外液とほぼ等張であるため、組織を浸透圧の変化で傷めることなく、乾燥から守ることができる。採取した組織は固定せずに、生理食塩液で軽く湿らせたガーゼに包み、速やかに病理検査室へ提出する。病理検査室では、この未固定の新鮮組織を急速凍結して凍結切片を作製し、主にHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色を行って診断する。なお、ガーゼを過度に濡らしたり組織を生理食塩液に長時間浸けたりすると、組織が水分を含みすぎて凍結時の氷晶による人工的変化(アーチファクト)が増えるため、「軽く湿らせる」程度にとどめるのがよい。

  5. ×e.  グルタールアルデヒド固定液につける。

    グルタールアルデヒドは、蛋白質どうしを強く架橋して細胞内の微細構造(細胞小器官や膜構造)をよく保つため、電子顕微鏡用の検体の固定に用いられる(前固定にグルタールアルデヒド、後固定に四酸化オスミウムを用いるのが一般的である)。腎生検の電子顕微鏡検索などで使われるが、術中迅速診断には用いない。

術中迅速病理診断の目的

・病変の良性・悪性の判定(術前に組織診断が得られていない腫瘍など) ・切除断端に腫瘍が残っていないかの確認(断端陽性なら追加切除を検討) ・リンパ節転移の有無の確認(例:乳癌のセンチネルリンパ節生検。転移の有無で郭清範囲を決める) ・腹膜播種など、手術の進め方を左右する病変の確認 これらの結果によって、術式や切除範囲をその場で決定・変更できる。

凍結切片(迅速標本)の作製の流れ

新鮮組織の提出(生理食塩液で湿らせたガーゼに包む)→ 包埋剤(OCTコンパウンドなど)に埋めて液体窒素などで急速凍結 → クリオスタットで数μmの厚さに薄切 → 短時間で固定・HE染色 → 鏡検・診断 → 手術室へ報告

凍結切片の限界

・氷晶形成などによるアーチファクトが入りやすく、永久標本より組織像の質が劣る。 ・脂肪の多い組織(乳腺や脂肪組織)や石灰化・骨を含む組織は薄切しにくい。 ・そのため迅速診断はあくまで暫定的なものであり、最終診断は永久標本で確定する。

固定法の使い分け

・通常の組織標本(永久標本):10〜20%中性緩衝ホルマリン ・細胞診のPapanicolaou染色:95%エタノールによる湿固定(乾燥させない) ・細胞診のMay-Giemsa染色:風乾(空気乾燥) ・電子顕微鏡:グルタールアルデヒド(+四酸化オスミウム) ・蛍光抗体法(腎生検など)や遺伝子・酵素の解析:未固定の新鮮組織を凍結して用いる

POINT

・術中迅速診断は未固定の新鮮組織を凍結して行うため、固定液には入れない。 ・組織は乾燥させず、生理食塩液で湿らせたガーゼに包んで速やかに病理検査室へ届ける。 ・ホルマリンは永久標本、グルタールアルデヒドは電子顕微鏡、アルコールは細胞診(Papanicolaou染色)などの固定に用いる。 ・迅速診断は暫定診断であり、最終診断は永久標本で行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。