StudyMed医師国家試験

硬くなる血管、硬くなる心臓―加齢心は「拡張」と「予備能」から衰える

第107回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第107回 F問題 第3問

加齢に伴う心臓の変化で正しいのはどれか。

  1. a.心房容積は減少する。
  2. b.左室後負荷は減少する。
  3. c.左室拡張機能は低下する。
  4. d.運動時に左室駆出率の増加が著明になる。
  5. e.運動時に到達可能な最大心拍数は増加する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病気がなくても起こる加齢による心臓の生理的変化を問う問題です。ばらばらに暗記するより、「血管が硬くなる」「心筋が硬くなる」「予備能が落ちる」という3段階の流れで理解すると、どの選択肢も筋道立てて判断できます。まず、年をとると動脈はどう変わるでしょうか。
医学生医学生
動脈硬化が進んで、収縮期血圧が上がると習いました。高齢者は収縮期高血圧が多いですよね。
ドクタードクター
その通りです。大動脈のような弾性動脈では弾性線維が減ってコラーゲンが増え、石灰化も加わって壁が硬くなります。すると収縮期に血管が広がって圧を受け流す働きが弱まり、さらに脈波伝播速度が速くなって末梢からの反射波が収縮期のうちに戻ってくるので、収縮期圧が押し上げられます。では、このとき左室の後負荷はどうなりますか。
医学生医学生
血管が硬くて抵抗が増えるなら、後負荷は増えるはずです。減少するというのは逆ですね。
ドクタードクター
正解です。後負荷とは、左室が血液を送り出すときに打ち勝たなければならない負荷のこと。加齢では増大し、これに適応して左室壁が厚くなっていきます。ここが2段階目の「心筋が硬くなる」につながります。
医学生医学生
壁が厚くなるなら、むしろ心臓が強くなって有利なようにも思えるんですが。
ドクタードクター
そう感じるのも無理はありません。でも、厚くなった壁には間質の線維化も進み、心筋細胞内でカルシウムを筋小胞体へ取り込むのも遅れます。その結果、拡張早期に血液を吸い込むように満たす弛緩能と、伸びやすさであるコンプライアンスが落ちる。つまり左室拡張機能が低下するんです。これが今回の正解です。
医学生医学生
心エコーではどう見えるんでしょうか。循環器内科の実習で僧帽弁口血流のE波とA波を見せてもらいました。
ドクタードクター
いいところに気づきましたね。拡張早期の急速流入を示すE波が小さくなり、心房収縮による流入を示すA波が大きくなるので、E/A比が低下します。若年者ではE/Aが1を超えるのが普通ですが、高齢者では1未満になることが多いです。
医学生医学生
心房収縮に頼る割合が増えるなら、心房にも負担がかかりそうです。心房容積は減るどころか増えるんですか。
ドクタードクター
その推論で正しいです。硬い左室に血液を送り込むため左房圧が上がりやすく、負荷が続いて左房は拡大します。心房容積が減少するという選択肢は誤りです。左房拡大は高齢者に心房細動が多い一因でもあり、心房細動では左心耳に血栓ができやすく、心原性脳塞栓症につながります。
医学生医学生
では運動時はどうでしょう。年をとっても駆出率をぐっと上げて頑張れるのかなと迷いました。
ドクタードクター
ここが3段階目の「予備能の低下」です。安静時の左室駆出率は、病気がなければ加齢でほとんど変わりません。ところが運動時は、β受容体を介した交感神経刺激への反応が鈍くなるため、収縮力の増強が小さく、駆出率の上昇幅はむしろ若年者より小さくなります。高齢者は拡張末期容積を増やしてFrank-Starling機序で1回拍出量を補う割合が大きいんです。
医学生医学生
最大心拍数も同じ理屈で下がるんですね。生理学の講義で「220-年齢」という目安を習いました。
ドクタードクター
その通りです。β受容体の反応性低下に加え、洞結節のペースメーカー細胞も減るので、到達できる最大心拍数は加齢で低下します。20歳なら約200、70歳なら約150が目安です。心拍出量は1回拍出量×心拍数なので、最大心拍出量や最大酸素摂取量も落ち、高齢者が運動で息切れしやすい理由の一つになります。
医学生医学生
まとめると、安静時はほぼ保たれていても、拡張機能と運動時の余力が落ちている、ということですね。
ドクタードクター
完璧です。臨床で大事な発展知識も押さえましょう。まず、高齢者の心不全には左室駆出率が保たれた心不全、HFpEFが多く、とくに高齢女性や高血圧のある人に目立ちます。駆出率が正常だからといって心不全を否定してはいけません。
医学生医学生
心房に頼っている高齢者が心房細動になると、その分の充満が失われて一気に悪化しそうです。
ドクタードクター
まさにその通りで、高齢者は心房細動の発症をきっかけに急に心不全を起こしやすいんです。ほかにも、刺激伝導系の細胞減少や線維化が洞不全症候群や房室ブロックの背景になり、圧受容器反射の感度低下で起立性低血圧も起こりやすくなります。病理実習で見るリポフスチン沈着による褐色萎縮や、野生型トランスサイレチンによるアミロイド沈着も加齢心の特徴として覚えておくとよいでしょう。

まとめ

加齢に伴う心臓の変化は、動脈壁が硬くなって後負荷が増大し、左室壁の肥厚と線維化によって弛緩能とコンプライアンスが低下する、という流れで理解できます。その結果、左室拡張機能が低下し、心エコーではE/A比が下がり、心房収縮への依存が強まって左房は拡大します。安静時の左室駆出率はほぼ保たれますが、β受容体刺激への反応性が低下するため、運動時の駆出率の上昇や最大心拍数(目安は220-年齢)は小さくなり、予備能が落ちます。臨床では、高齢者の心不全に駆出率が保たれたHFpEFが多いことや、心房細動を契機に心不全が急に悪化しやすいことに注意が必要です。「安静時は保たれ、拡張機能と予備能が落ちる」という加齢心の基本像は、高齢者の循環器疾患を診るうえでの土台となります。

解答・解説

正解はcです

加齢に伴う心血管系の変化は、病気がなくても起こる「生理的な変化」として整理しておく必要がある。要点は次の3つである。 1. 血管が硬くなる:大動脈などの弾性動脈では、弾性線維の減少・断裂とコラーゲンの増加、石灰化によって壁が硬くなる(動脈壁硬化)。その結果、収縮期血圧と脈圧が上昇し、左室にかかる後負荷が増える。 2. 心筋が硬くなる:増えた後負荷に適応して左室壁は厚くなり(求心性の肥大傾向)、心筋間質の線維化も進む。心室が硬くなると、拡張早期に血液を吸い込むように充満させる能力(弛緩能)と、伸びやすさ(コンプライアンス)が低下する。これが左室拡張機能の低下である。拡張早期の充満が減るぶんを、心房収縮による充満で補うようになり、心房には負担がかかって左房は拡大する。 3. 予備能が低下する:安静時の心拍出量や左室駆出率はおおむね保たれるが、交感神経(β受容体)刺激への反応が鈍くなるため、運動時の心拍数の上昇や心収縮力の増強が小さくなる。そのため運動時の最大心拍数、最大心拍出量、最大酸素摂取量は低下する。 つまり「安静時はほぼ保たれるが、拡張機能と運動時の予備能が落ちる」というのが加齢心の基本像である。この枠組みで各選択肢を判断すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  心房容積は減少する。

    加齢により左室が硬くなると、拡張早期の受動的な充満が減り、心室充満のより大きな割合を心房収縮に頼るようになる。また、硬い左室に血液を送り込むために左房圧が上がりやすい。こうした負荷が続くことで心房は拡大し、心エコーでは左房径・左房容積の増大として観察される。心房容積は減少ではなく増加する。左房の拡大は高齢者に心房細動が多い一因でもあり、心房細動では左房(とくに左心耳)の血流がうっ滞して血栓ができやすく、心原性脳塞栓症の原因となる。

  2. ×b.  左室後負荷は減少する。

    後負荷とは、左室が血液を駆出するときに打ち勝たなければならない抵抗(負荷)のことである。加齢により大動脈をはじめとする動脈の壁が硬くなると、収縮期に血管が広がって圧を緩衝する働きが弱まり、収縮期血圧が上昇する。さらに脈波伝播速度が速くなるため、末梢からの反射波が収縮期のうちに中枢へ戻ってきて、収縮期圧をさらに押し上げる。高血圧の合併も加わって、左室後負荷は減少ではなく増大する。この後負荷増大が、加齢に伴う左室壁の肥厚の主な原因となる。

  3. ○c.  左室拡張機能は低下する。

    加齢により心筋細胞の肥大、間質の線維化(コラーゲンの増加)、心筋細胞内カルシウムの取り込み(筋小胞体への再取り込み)の遅れなどが生じ、左室の弛緩能とコンプライアンスが低下する。すなわち左室拡張機能は低下する。心エコーの僧帽弁口血流速波形では、拡張早期の急速流入を示すE波が小さくなり、心房収縮による流入を示すA波が大きくなるため、E/A比が低下する(健常な若年者ではE/A>1だが、高齢者では1未満になることが多い)。拡張機能の低下は、左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction)の主な背景であり、高齢者、とくに高齢女性や高血圧のある人の心不全に多い。

  4. ×d.  運動時に左室駆出率の増加が著明になる。

    運動時には交感神経が興奮し、心収縮力が強まって左室駆出率が上昇するのが通常の反応である。しかし加齢に伴いβ受容体を介する反応性が低下するため、運動時の心収縮力の増強は小さくなり、左室駆出率の上昇幅は若年者よりむしろ小さくなる。高齢者では、拡張末期容積を増やしてFrank-Starling機序(心室が引き伸ばされるほど収縮力が強くなる性質)で1回拍出量を補う割合が大きくなる。したがって「増加が著明になる」は誤りである。なお、病的でなければ安静時の左室駆出率は加齢によってほとんど変わらない。

  5. ×e.  運動時に到達可能な最大心拍数は増加する。

    運動時に到達できる最大心拍数は加齢とともに低下する。目安として「220-年齢(拍/分)」という推定式が広く用いられ、たとえば20歳では約200拍/分、70歳では約150拍/分となる。背景には、β受容体刺激への反応性低下や、洞結節のペースメーカー細胞の減少がある。心拍出量は1回拍出量×心拍数で決まるため、最大心拍数の低下は運動時の最大心拍出量と運動耐容能(最大酸素摂取量)の低下に直結し、高齢者が運動時に息切れや疲労を感じやすい原因の一つとなる。

加齢に伴う心血管系の主な変化

形態 ・左室壁の肥厚(とくに心室中隔)。左室内腔の大きさはほぼ不変か、やや小さくなる ・左房の拡大 ・弁の変性・石灰化(大動脈弁の硬化、僧帽弁輪石灰化など) ・心筋へのリポフスチン沈着(褐色萎縮)、アミロイド沈着(野生型トランスサイレチンによる老人性アミロイドーシス) ・刺激伝導系の細胞減少や線維化(洞不全症候群・房室ブロックが増える背景) 血管 ・弾性動脈の硬化と拡張(大動脈が太く、長く、蛇行する) ・収縮期血圧と脈圧の上昇(高齢者では収縮期高血圧が多い)、脈波伝播速度の上昇 ・圧受容器反射の感度低下(起立性低血圧を起こしやすい) 機能 ・安静時:心拍出量・左室駆出率はほぼ保たれる ・拡張機能:低下(E/A比の低下、心房収縮への依存度の上昇) ・運動時:最大心拍数、最大心拍出量、最大酸素摂取量が低下。β受容体刺激への反応性が低下

臨床との関連

・拡張機能の低下と心房への依存度の上昇のため、高齢者は心房細動を起こすと心房収縮による充満が失われ、心不全を急に起こしやすい ・高齢者の心不全は左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)が多く、左室駆出率が正常でも心不全を否定できない ・心臓は加齢で肥大・拡大の方向へ変化し、多くの臓器が加齢で萎縮するのとは対照的である(前立腺も加齢で肥大する例外である)

POINT

・加齢心の基本:安静時の収縮機能は保たれるが、拡張機能と運動時の予備能が低下する ・動脈硬化で後負荷は増大 → 左室壁肥厚・線維化 → 左室拡張機能低下(E/A比低下) ・拡張機能低下を心房収縮で補うため左房は拡大し、心房細動が増える ・運動時は左室駆出率の上昇も最大心拍数(目安220-年齢)も小さくなる ・高齢者の心不全ではHFpEF(駆出率の保たれた心不全)を念頭に置く

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。