「家に帰りたい」と「家では看られない」―終末期の意見対立を解きほぐすチームの力
第107回医師国家試験 F問題 第24問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。病期Ⅳの胃癌で緩和ケアのため入院中である。在宅ホスピスへの移行に際し,患者本人と家族との間で療養環境について意見の対立が起こったため担当医師が患者本人と家族の意見をそれぞれ十分に聞いた。 次に行う対応として最も適切なのはどれか。
- a.弁護士に相談する。
- b.看護部長に相談する。
- c.福祉事務所に相談する。
- d.多職種からなるチームで話し合う。
- e.担当医師が単独で方針を決定する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
終末期の療養場所をめぐって本人と家族の意見が対立した場合、双方の意見を十分に聞いたうえで、医師・看護師・医療ソーシャルワーカー・薬剤師・訪問看護師・ケアマネジャーなどの多職種チームで話し合い、合意形成を支援するのが適切です。対立の背景には家族の介護負担や急変時の不安があることが多く、訪問診療・訪問看護・介護保険サービス・レスパイト入院などを組み合わせて具体的に解消策を示すことが鍵になります。厚生労働省のガイドラインでも、方針は本人の意思を基本としつつ医師単独ではなく医療・ケアチームで決め、話し合いを繰り返すこと(アドバンス・ケア・プランニング)が示されています。看護部長や福祉事務所、弁護士は療養方針の調整を担う相手ではなく、医師単独の決定はパターナリズムとなります。緩和ケアが患者と家族の全人的苦痛に向き合うチーム医療であることを理解しておくことは、終末期の患者に関わるすべての医師にとって欠かせない姿勢です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・72歳男性、病期Ⅳ(遠隔転移などを伴う進行期)の胃癌で、治癒を目指す治療ではなく緩和ケアを目的に入院中である。 ・在宅ホスピス(自宅で緩和ケアを受けながら療養すること)への移行を検討している。 ・療養環境について、患者本人と家族の意見が対立している。 ・担当医師はすでに本人と家族それぞれの意見を十分に聞いている。
設問の考え方
在宅での療養は、患者本人の希望だけでなく、実際に介護を担う家族の理解と協力がなければ成り立たない。本人は住み慣れた自宅での生活を望み、家族は介護負担や急変時の不安から入院継続を望む、といった対立は終末期医療でしばしばみられる。このとき、どちらか一方の意見で押し切るのではなく、対立の背景にある不安や負担を具体的に明らかにし、それを解消する手段(訪問診療・訪問看護・訪問介護、介護保険サービス、レスパイト入院など)を組み合わせて、双方が納得できる方針を探ることが重要である。 これには医学的判断だけでなく、看護、薬剤、リハビリテーション、社会資源の調整、心理的支援など多方面の知識と視点が必要となる。そのため、双方の意見を聞いた次の段階としては、医師・看護師・医療ソーシャルワーカー(MSW)・薬剤師・訪問看護師・ケアマネジャーなどからなる多職種チームで話し合い、合意形成を支援するのが最も適切である。 厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」でも、方針は本人の意思を基本としつつ、医師単独ではなく多職種から構成される医療・ケアチームが本人・家族と繰り返し話し合って決定すること、合意が得られない場合には複数の専門家からなる話し合いの場を設けて検討・助言を受けることが示されている。
選択肢考察
- ×a. 弁護士に相談する。
本例の対立は療養の場所や方法をめぐる本人と家族の意見の相違であり、法的な紛争が生じているわけではない。まずは医療・ケアの側で話し合いによる合意形成を図るべき段階で、弁護士への相談は不要である。また、余命が限られた患者にとって、法的手段を検討して時間を費やすことは現実的でもない。
- ×b. 看護部長に相談する。
看護部長は病院の看護部門全体を統括する管理職であり、個々の患者の療養方針を決める立場にはない。看護職の関与自体は重要だが、相談すべきは患者に直接関わる病棟看護師や、在宅移行後にケアを担う訪問看護師などであり、それも多職種チームの一員として関わる形が望ましい。管理職一人に相談して解決する問題ではない。
- ×c. 福祉事務所に相談する。
福祉事務所は都道府県・市などが設置する行政機関で、生活保護の実施や、児童・母子・高齢者・障害者などの福祉に関する相談・措置を担う。本人と家族の療養環境をめぐる意見調整は福祉事務所の役割ではない。経済的問題や社会資源の活用について支援が必要な場合も、まずは院内の医療ソーシャルワーカーに相談し、必要に応じて外部機関につなぐのが順序である。
- ○d. 多職種からなるチームで話し合う。
緩和ケアは身体的苦痛だけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛(全人的苦痛)にも対応するものであり、多職種によるチーム医療が基本である。医師、病棟看護師、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、訪問看護師、ケアマネジャー、緩和ケアチームなどがそれぞれの立場から情報と意見を持ち寄ることで、家族の介護負担の軽減策や急変時の対応体制など、具体的な解決策を示しやすくなる。本人・家族との話し合いを繰り返して合意形成を支援する、現在の終末期医療の決定プロセスに沿った対応である。
- ×e. 担当医師が単独で方針を決定する。
人生の最終段階における療養方針は、本人の意思を尊重しつつ、家族を含めた話し合いによって決めるべきものであり、医師の判断だけで一方的に決めるのはパターナリズム(医師主導の父権的な決定)で不適切である。また、在宅療養の実現には看護・介護・社会資源など医師だけではカバーできない知識と支援が必要で、医師以外の職種は患者・家族の心理的支援の面でも大きな役割を果たす。
緩和ケアとチーム医療
WHOは緩和ケアを、生命を脅かす疾患に直面する患者と家族の生活の質(QOL)を向上させるアプローチと定義しており、ケアの対象には家族も含まれる。患者の苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな側面が絡み合った全人的苦痛(トータルペイン)として捉えられ、その対応には多職種による集学的なアプローチ(multidisciplinary approach)が欠かせない。
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセス
厚生労働省のガイドライン(2007年策定、2018年改訂)の要点は以下のとおりである。 ・医師などから適切な情報提供と説明を行い、本人が医療・ケアチームと十分に話し合ったうえで、本人の意思決定を基本として進める。 ・本人の意思は変化しうるため、話し合いは繰り返し行う。本人が意思を示せなくなる場合に備え、家族など信頼できる人も交えて話し合っておく。 ・方針の決定は医師単独ではなく、多職種から構成される医療・ケアチームで慎重に判断する。 ・本人・家族と医療・ケアチームの間で合意が得られない場合などには、複数の専門家からなる話し合いの場を設けて検討・助言を受ける。 ・こうした将来の医療・ケアについて前もって繰り返し話し合うプロセスをアドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」)という。
在宅移行を支える職種・制度
・病院側:主治医、病棟看護師、退院調整看護師、医療ソーシャルワーカー(MSW)、薬剤師、緩和ケアチーム ・在宅側:在宅療養支援診療所の医師(訪問診療)、訪問看護師、ケアマネジャー(介護支援専門員)、訪問介護員、訪問薬剤師 ・退院前カンファレンスで病院と在宅の担当者が情報を共有し、介護保険サービス(末期癌は40〜64歳でも特定疾病として利用可能)などを調整する。
POINT
・緩和ケアの対象は患者本人と家族であり、全人的苦痛に多職種チームで対応する。 ・本人と家族の意見が対立したら、双方の意見を聞いたうえで多職種チームで話し合い、合意形成を支援する。 ・終末期の方針は本人の意思を基本に、医師単独ではなく医療・ケアチームで決める。 ・福祉事務所は生活保護などを担う行政機関であり、療養方針の調整窓口ではない。院内ではまず医療ソーシャルワーカーに相談する。
