尿道カテーテルは「上向き」に―入れた後の管理で差がつく感染予防と尿道保護
第107回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
80歳の男性。発熱のため搬入された。数日前から38℃台の発熱が続き,食事もとれなくなってきた。尿が出なくなったため,長女が救急車を要請した。導尿時混濁尿を認め,尿路感染症と診断し,尿道カテーテルを留置した。 対応として適切なのはどれか。
- a.尿道カテーテルと連結する蓄尿バッグは開放式回路を用いる。
- b.尿道カテーテルは陰茎を頭側に向けて下腹部に固定する。
- c.尿道カテーテルを3日ごとに入れ換える。
- d.入院中は連日膀胱洗浄を行う。
- e.留置中は安静臥床を促す。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
尿道カテーテル留置中の管理は、感染予防、尿道損傷の予防、臥床に伴う合併症の予防の3点で考えます。男性では陰茎陰嚢角で尿道が屈曲しているため、陰茎を頭側に向けて下腹部に固定し、尿道潰瘍や尿道皮膚瘻を防ぎます(女性は大腿内側に固定)。感染予防の基本は閉鎖式回路の維持と蓄尿バッグを膀胱より低く保つことで、ルーチンの膀胱洗浄や頻回・定期的なカテーテル交換はかえって細菌の侵入機会を増やすため行いません。カテーテル留置は安静臥床の理由にならず、早期離床を進めるとともに、不要になれば速やかに抜去することが重要です。病棟で日常的に出会う処置だからこそ、解剖と感染対策の原理から理由を理解しておくことが、安全な医療につながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・80歳の高齢男性で、数日前から38℃台の発熱と食欲低下が続いている。 ・尿が出なくなった(尿閉)ため救急搬送された。 ・導尿で混濁尿を認め、尿路感染症と診断された。尿閉に対して尿道カテーテルが留置されている。
病態の推定
高齢男性の尿閉の原因として最も多いのは前立腺肥大症であり、ほかに前立腺癌、神経因性膀胱、抗コリン作用をもつ薬剤(抗ヒスタミン薬、抗うつ薬など)の影響、急性前立腺炎などが挙げられる。膀胱に尿が停滞すると細菌が増殖しやすく、発熱を伴う尿路感染症(急性腎盂腎炎や急性前立腺炎)を合併しやすい。本文の情報だけでは尿閉の原因は確定できないが、設問で問われているのは原因疾患ではなく、留置した尿道カテーテルの適切な管理である。
設問の考え方
尿道カテーテル留置中の管理で重要なのは、①カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)の予防、②尿道の損傷の予防、③長期臥床に伴う合併症の予防である。感染予防のためには閉鎖式回路を維持し、蓄尿バッグを膀胱より低い位置に保って逆流を防ぐ。不要な操作(回路の開放、ルーチンの膀胱洗浄、頻回の入れ換え)はかえって細菌の侵入機会を増やす。男性では、陰茎を下向きにしたまま固定すると陰茎陰嚢角(陰茎の付け根の屈曲部)で尿道が圧迫され、潰瘍や尿道皮膚瘻を生じるため、陰茎を頭側に向けて下腹部に固定する。これらを踏まえて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ×a. 尿道カテーテルと連結する蓄尿バッグは開放式回路を用いる。
カテーテルと蓄尿バッグの接続部を外せる開放式回路では、接続を外すたびに外界の細菌が回路内に入り込み、尿路へ逆行性に感染が広がる危険が高い。カテーテルと蓄尿バッグがあらかじめ一体化され、排液口以外から回路を開けない閉鎖式回路を用い、原則として接続部を外さないことが、カテーテル関連尿路感染症の予防の基本である。
- ○b. 尿道カテーテルは陰茎を頭側に向けて下腹部に固定する。
男性の尿道は陰茎の付け根(陰茎陰嚢角)で下方に大きく屈曲している。陰茎を下向きのまま大腿などに固定すると、カテーテルがこの屈曲部の尿道壁を内側から圧迫し続け、圧迫壊死による尿道潰瘍や尿道皮膚瘻、のちの尿道狭窄の原因となる。陰茎を頭側に向けて下腹部に固定すると尿道の屈曲がゆるみ、圧迫を避けられる。また、しっかり固定することで、カテーテルの動きによる尿道粘膜の刺激・違和感や、牽引による事故抜去(バルーンを膨らませたままの抜去による尿道損傷)を防ぐことができる。なお女性では大腿内側に固定する。
- ×c. 尿道カテーテルを3日ごとに入れ換える。
カテーテルの入れ換えは、そのたびに尿道粘膜を傷つけ、細菌を持ち込む機会となるうえ、患者の苦痛も大きい。閉塞、破損、閉鎖回路の汚染、感染などの問題がなければ頻回の交換は不要である。かつては2〜4週間程度ごとの定期交換が一般的だったが、現在の感染対策ガイドラインでは、決まった間隔でのルーチン交換は推奨されず、閉塞や感染など臨床的な必要性に応じて交換するとされている。3日ごとの交換は明らかに過剰である。
- ×d. 入院中は連日膀胱洗浄を行う。
膀胱洗浄を行うには閉鎖回路を開放する必要があり、かえって細菌の侵入機会を増やす。ルーチンの膀胱洗浄にカテーテル関連尿路感染症の予防効果はなく、推奨されない。膀胱洗浄は、血尿による凝血塊や浮遊物でカテーテルが閉塞した(あるいは閉塞が予想される)場合などに限って行う。
- ×e. 留置中は安静臥床を促す。
カテーテル留置自体は安静臥床の理由にならない。特に高齢者では、不要な臥床は筋力低下や関節拘縮などの廃用症候群、深部静脈血栓症、誤嚥性肺炎、褥瘡、せん妄などを招く。全身状態が落ち着けば、蓄尿バッグを膀胱より低い位置に保つよう注意しながら、早期から離床・歩行を進める。
尿道カテーテル留置の管理の要点
・適応を限定し、不要になれば速やかに抜去する(留置期間が長いほど感染リスクが高まる)。 ・挿入は無菌操作で行う。 ・閉鎖式回路を用い、接続部を外さない。 ・蓄尿バッグは常に膀胱より低い位置に置き、床には直接つけない。チューブの屈曲やねじれを避け、尿の流れを保つ。 ・固定:男性は陰茎を頭側に向けて下腹部、女性は大腿内側に固定する。 ・ルーチンの膀胱洗浄、定期的な予防的抗菌薬投与、決まった間隔でのカテーテル交換は行わない。 ・陰部は日常的な清潔ケア(石けんと微温湯での洗浄など)で清潔を保つ。
カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)
留置カテーテルは院内感染としての尿路感染症の最大の原因である。細菌はカテーテルの外側(尿道との隙間)や内腔(回路の開放部)を逆行して膀胱に達する。カテーテル表面には細菌がバイオフィルム(細菌と粘性物質からなる膜)を形成し、抗菌薬が効きにくくなる。長期留置例では無症候性細菌尿がほぼ必発だが、症状がなければ通常は抗菌薬治療の対象にならない。
高齢男性の尿閉
原因として前立腺肥大症が最も多く、前立腺癌、神経因性膀胱(糖尿病、脊髄疾患など)、薬剤性(抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、感冒薬など)、飲酒、便秘なども誘因となる。尿閉を放置すると水腎症や腎後性腎不全、尿路感染症をきたすため、導尿やカテーテル留置による速やかな排尿が必要である。なお、急性細菌性前立腺炎が強く疑われる場合には、尿道からの操作が炎症を悪化させうるため、尿道カテーテルの代わりに恥骨上からの膀胱瘻造設が選択されることもある。
POINT
・蓄尿バッグは閉鎖式回路を用い、膀胱より低い位置に保つ。 ・男性の尿道カテーテルは陰茎を頭側に向けて下腹部に固定し、陰茎陰嚢角での尿道圧迫(潰瘍・尿道皮膚瘻)を防ぐ。女性は大腿内側に固定する。 ・閉塞や感染がなければ頻回・定期的なカテーテル交換やルーチンの膀胱洗浄は行わない。 ・カテーテル留置は安静臥床の理由にならず、早期離床を進める。 ・不要になったカテーテルは速やかに抜去する。
