同意の主役は誰か―インフォームドコンセントを「自己決定権」から読み解く
第107回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
インフォームドコンセントについて正しいのはどれか。
- a.看護師も情報提供することができる。
- b.新薬の臨床試験においては必要ない。
- c.病名告知には親族の了解が必要である。
- d.未成年の患者では本人の承諾は必要ない。
- e.事前の意思が不明な意識障害の患者には救命処置をしてはならない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
インフォームドコンセントとは、患者が病状や治療の目的・方法・危険性・代替手段などについて十分な説明を受けて理解したうえで、自らの意思で医療を受けるかどうかを決めることであり、その根本は患者の自己決定権です。説明は医師に限られず、医療法上も看護師などの医療の担い手が適切な説明に努めるとされ、チームで患者の理解を支えます(医学的判断の説明は医師が担います)。治験では文書による説明と同意が必須で、病名告知に家族の了解は不要、未成年者でも保護者の代諾に加えて本人のインフォームドアセントを得るよう努め、意思不明の緊急時には推定同意に基づいて救命処置を行います。「本人の意思が最優先」という原則から考える姿勢は、告知、終末期医療、臨床研究など、あらゆる場面での判断の土台になります。
解答・解説
正解はaです
インフォームドコンセント(informed consent:説明を受けたうえでの同意)は、患者が自らの病状、検査・治療の目的と方法、期待される効果、危険性や副作用、ほかに取りうる選択肢、何もしなかった場合の見通しなどについて十分な説明を受け、それを理解したうえで、自分の意思で医療行為を受けるかどうかを決めるという考え方である。根底にあるのは患者の自己決定権(自律尊重)であり、医療者側の一方的な判断ではなく、患者本人の意思を中心に据える点が本質である。 この原則から考えると、本問の各選択肢は次の観点で判断できる。 ・説明は誰が担うのか(医師だけに限られるのか、医療チームで担うのか) ・臨床研究のように患者にとって不確実性の大きい場面で同意を省略できるのか ・同意や告知の判断主体は本人か家族か ・判断能力が十分でない未成年者で、本人の意思をどう扱うか ・本人が意思を示せない緊急時にはどう行動すべきか 「本人の意思が最優先」「医療はチームで説明と支援を行う」「緊急時は推定同意にもとづいて救命を優先する」という3点を押さえれば、正解は選べる。
選択肢考察
- ○a. 看護師も情報提供することができる。
インフォームドコンセントの説明を医師に限定する規定はない。医療法第1条の4第2項でも、医師・歯科医師・薬剤師・看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するにあたり適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めるとされている。看護師は日常のケアや療養生活の指導を幅広く担い、患者と接する時間も長いため、ケアの内容、検査の準備や流れ、療養上の注意点などを説明する役割に適している。患者が医師の説明を理解できているかを確かめ、疑問を拾い上げて補うことも重要な役割である。ただし、診断や治療方針の選択といった医学的判断そのものの説明は医師が責任をもって行うものであり、看護師が医師に代わってそれを行うわけではない。
- ×b. 新薬の臨床試験においては必要ない。
新薬の臨床試験(治験)は、有効性や安全性がまだ確立していない薬を人に投与するものであり、被験者の自由意思による同意が最も厳格に求められる場面である。ヘルシンキ宣言や「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP:Good Clinical Practice)では、試験の目的・方法、予想される利益と危険性、ほかの治療法の有無、いつでも不利益なく参加を取りやめられることなどを文書で説明し、文書で同意を得ることが義務づけられている。「必要ない」は明らかに誤りである。
- ×c. 病名告知には親族の了解が必要である。
病名や病状に関する情報は患者本人のものであり、告知するかどうか、どこまで知りたいかを決めるのは本人である。本人が知りたいと望んでいれば、家族の了解がなくても告知してよい。むしろ家族の同意を前提とすると、本人の知る権利や自己決定権を損ない、個人情報を本人より先に第三者へ伝えることにもなる。実際には、告知後の支援のために家族の同席や協力を得ることは多いが、それは本人の意向を確認したうえで行うものであり、告知の要件ではない。本人が「知りたくない」と意思表示している場合には、その意思(知らないでいる権利)も尊重される。
- ×d. 未成年の患者では本人の承諾は必要ない。
未成年者は法的な同意能力が十分でない場合が多いため、親権者など保護者からの同意(代諾)を得る。しかし、それで本人の意思を無視してよいわけではない。子どもの年齢や理解力に合わせて病状や治療をわかりやすく説明し、本人が納得して受け入れること(インフォームドアセント:informed assent)を得るよう努めるのが原則である。とくに年長児や思春期の患者では判断能力がかなり備わっており、本人の意向を尊重する必要性はより大きい。保護者の同意と本人のアセントの両方を得るのが望ましい姿である。
- ×e. 事前の意思が不明な意識障害の患者には救命処置をしてはならない。
意識障害で本人が意思を示せず、事前の意思も確認できない緊急時には、「本人が意思を示せるなら、救命のための処置を望むはずである」とみなす推定同意にもとづいて救命処置を行う。救命処置を控えてよいのは、本人があらかじめ明確に拒否の意思を示していた場合(事前指示書、DNAR指示〈Do Not Attempt Resuscitation:心肺蘇生を行わないという指示〉など)に限られる。意思が不明だからといって処置を行わなければ、救えた命を失うことになり、医の倫理上許されない。
インフォームドコンセントの構成要素
一般に次の要素がそろって初めて有効な同意とされる。 ・同意能力:患者が説明内容を理解し、判断できる能力をもつこと ・十分な説明(情報開示):病名・病状、検査や治療の目的・方法・利益・危険性、代替手段、治療しない場合の見通し ・理解:患者が説明を理解していること ・自発性:強制や誘導によらない自由な意思決定であること ・同意(または拒否):患者自身が決定を表明すること。同意はいつでも撤回できる
同意の例外
・緊急時:生命の危機が迫り、本人の意思が確認できない場合は推定同意で救命処置を行う ・本人が説明を望まない場合(知らないでいる権利) ・法律に基づく強制的な措置(感染症法による入院勧告・措置入院など)
特別な配慮が必要な対象
・未成年者:保護者の代諾+本人のインフォームドアセント ・判断能力が低下した成人(重度認知症など):本人の推定意思を尊重し、家族など代理人と話し合って決定する ・臨床研究・治験の被験者:文書による説明と文書による同意が必須(ヘルシンキ宣言、GCP省令)
関連する概念
・リビングウィル(事前指示書):将来意思を示せなくなったときに受けたい医療・受けたくない医療をあらかじめ示した文書 ・アドバンス・ケア・プランニング(ACP):今後の医療やケアについて、患者・家族・医療者が繰り返し話し合って方針を共有するプロセス ・セカンドオピニオン:主治医以外の医師に意見を求めること。自己決定を支える手段の一つ
POINT
・インフォームドコンセントの根本は患者の自己決定権であり、本人の意思が最優先 ・説明は医師だけの役割ではなく、看護師などの医療チームも担う(医学的判断の説明は医師が行う) ・治験・臨床研究では文書による説明と文書による同意が必須 ・病名告知に家族の了解は不要。本人の意向に従う ・未成年者は保護者の同意に加え、本人への説明と了解(インフォームドアセント)を得る ・意思確認ができない緊急時は推定同意で救命処置を行う。控えるのは明確な事前の拒否がある場合のみ
