溝を知れば血管が見える―冠動脈の「住所」を整理しよう
第107回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
冠動脈について正しいのはどれか。
- a.右冠動脈近位部は前室間溝を走行する。
- b.左冠動脈前下行枝は冠状溝を走行する。
- c.左冠動脈前下行枝から心室中隔枝が分枝する。
- d.左冠動脈回旋枝近位部は後室間溝を走行する。
- e.左冠動脈前下行枝はValsalva洞から起始する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
冠動脈は大動脈基部のValsalva洞から右冠動脈と左冠動脈主幹部として起始し、主幹部はすぐに前下行枝と回旋枝に分かれます。前下行枝は前室間溝を心尖へ下行し、真下の心室中隔へ中隔枝を出して中隔の前方約3分の2を灌流するほか、対角枝で左室前壁を養います。右冠動脈と回旋枝は冠状溝を走り、後室間溝を走る後下行枝は多くの人で右冠動脈から出ます(右冠動脈優位型)。こうした走行と灌流域の対応を理解しておくと、前壁中隔梗塞での脚ブロックや下壁梗塞での房室ブロック、心電図誘導からの責任血管推定、AHA区域番号の理解へと自然につながります。冠動脈の「どの溝を走るか」を地図として押さえることが、虚血性心疾患の診療の基盤になります。
解答・解説
正解はcです
冠動脈の起始と、心臓表面のどの溝を走るかを問う解剖の問題である。
心臓表面の溝
・冠状溝(房室間溝): 心房と心室の境界を輪のように一周する溝。 ・前室間溝: 心臓の前面(胸肋面)で右室と左室の境界を心尖へ向かって走る溝。 ・後室間溝: 心臓の下面(横隔面)で右室と左室の境界を走る溝。 室間溝の深部には心室中隔がある。
冠動脈の起始と走行
冠動脈は大動脈基部のValsalva洞(大動脈弁のすぐ上にある3つのふくらみ)から出る。右冠動脈(RCA)は右冠尖側の洞から、左冠動脈主幹部(LMT)は左冠尖側の洞から起始する。 ・右冠動脈: 右の冠状溝を回り込むように走り、心臓の下面で多くは後室間溝に入って後下行枝となる。 ・左冠動脈主幹部: 短い幹で、すぐに前下行枝と回旋枝に分かれる。 ・前下行枝(LAD): 前室間溝を心尖に向かって下行し、心室中隔へ中隔枝を、左室前壁へ対角枝を出す。 ・回旋枝(LCX): 左の冠状溝を後方へ回り込む。 この「どの血管がどの溝を走るか」という対応を整理できていれば、各選択肢の正誤は容易に判断できる。前室間溝の直下には心室中隔があるので、そこを走る前下行枝が中隔へ枝(中隔枝)を送るのは解剖学的に自然である。
選択肢考察
- ×a. 右冠動脈近位部は前室間溝を走行する。
右冠動脈は近位部から右房と右室の間の冠状溝(右房室間溝)を走り、心臓の右縁を回って下面へ向かう。前室間溝を走行するのは左冠動脈前下行枝である。
- ×b. 左冠動脈前下行枝は冠状溝を走行する。
前下行枝は前室間溝を心尖方向へ下行する。左側の冠状溝を走るのは回旋枝である。
- ○c. 左冠動脈前下行枝から心室中隔枝が分枝する。
前下行枝は心室中隔の真上にあたる前室間溝を走るため、そこから中隔に向かって垂直に潜り込む枝(中隔枝、septal branch)を何本も出す。これにより心室中隔の前方およそ3分の2が前下行枝から血流を受ける(後方の約3分の1は後下行枝の中隔枝が担う)。前下行枝はこのほか左室前壁に対角枝を出し、左室前壁・心室中隔・心尖部を広く灌流する。前下行枝近位部の閉塞で前壁中隔梗塞が起こり、刺激伝導系(右脚・左脚前枝)が中隔を走るため脚ブロックを合併しうるのはこのためである。
- ×d. 左冠動脈回旋枝近位部は後室間溝を走行する。
回旋枝の近位部は左房と左室の間の冠状溝(左房室間溝)を後方へ走る。後室間溝を走るのは後下行枝で、多くの人では右冠動脈の遠位部から出る(右冠動脈優位型)。回旋枝が後下行枝を出すのは左冠動脈優位型の場合であり、その場合も後室間溝に入るのは回旋枝の遠位部であって近位部ではない。
- ×e. 左冠動脈前下行枝はValsalva洞から起始する。
Valsalva洞(左冠尖側の洞)から起始するのは左冠動脈主幹部である。前下行枝は主幹部が回旋枝と二又に分かれた枝の一方であり、直接Valsalva洞から出るわけではない。
AHA分類による冠動脈の区域番号
冠動脈造影ではAHA(米国心臓協会)の区域番号が広く用いられる。 ・右冠動脈: #1〜#4(#1近位部、#2中間部、#3遠位部、#4は後下行枝〈4PD〉と房室結節枝〈4AV〉) ・左冠動脈主幹部: #5 ・前下行枝: #6〜#10(#9・#10は対角枝) ・回旋枝: #11〜#15(#12は鈍縁枝、#14は後側壁枝など)
冠動脈の優位性
後下行枝をどちらの冠動脈が出すかで優位性を分類する。右冠動脈優位型が大多数を占め、左冠動脈(回旋枝)優位型、両者がほぼ同等のバランス型がある。
主な灌流域
・右冠動脈: 右室、左室下壁、心室中隔後部、洞結節(約6割)、房室結節(右優位型の多く) ・前下行枝: 左室前壁、心室中隔前部約3分の2、心尖部 ・回旋枝: 左室側壁・後壁 右冠動脈閉塞による下壁梗塞で徐脈や房室ブロックが起こりやすいのは、洞結節枝・房室結節枝を右冠動脈が出すことが多いためである。
心電図の誘導との対応(目安)
・前壁中隔: V1〜V4(前下行枝) ・側壁: I、aVL、V5、V6(回旋枝・対角枝) ・下壁: II、III、aVF(多くは右冠動脈)
POINT
・冠動脈はValsalva洞から起始する(右冠動脈と左冠動脈主幹部)。前下行枝・回旋枝は主幹部の分枝である。 ・前室間溝: 前下行枝。冠状溝: 右冠動脈と回旋枝。後室間溝: 後下行枝(多くは右冠動脈由来)。 ・前下行枝は中隔枝(心室中隔前方約3分の2)と対角枝(左室前壁)を出す。 ・後下行枝をどちらが出すかで優位性が決まり、右優位型が多い。
