StudyMed医師国家試験

溝を知れば血管が見える―冠動脈の「住所」を整理しよう

第107回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第9問

冠動脈について正しいのはどれか。

  1. a.右冠動脈近位部は前室間溝を走行する。
  2. b.左冠動脈前下行枝は冠状溝を走行する。
  3. c.左冠動脈前下行枝から心室中隔枝が分枝する。
  4. d.左冠動脈回旋枝近位部は後室間溝を走行する。
  5. e.左冠動脈前下行枝はValsalva洞から起始する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は冠動脈の解剖の問題だ。ポイントは、冠動脈がどこから起始し、心臓表面のどの溝を走るかという対応関係。これが整理できていれば、選択肢は一つずつ判断できるよ。まず、心臓表面の溝にはどんなものがあったかな。
医学生医学生
冠状溝と、前室間溝・後室間溝ですよね。解剖実習で心臓を取り出したとき、溝に沿って脂肪と一緒に血管が走っていたのを覚えています。
ドクタードクター
いいね。冠状溝は房室間溝とも呼ばれ、心房と心室の境界を輪のように一周する溝。前室間溝は心臓前面で右室と左室の境界を心尖へ向かう溝、後室間溝は心臓下面、横隔面で同じく左右心室の境界を走る溝だ。そして室間溝の深部には心室中隔がある。ここが今回のカギになる。
医学生医学生
心室中隔の真上を走る血管なら、中隔に枝を出しそう、ということですか。
ドクタードクター
まさにそう。前室間溝を走るのは左冠動脈前下行枝で、ここから中隔に向かって垂直に潜り込む中隔枝を何本も出す。だから前下行枝から心室中隔枝が分枝する、という記述が正しい。心室中隔の前方およそ3分の2を前下行枝が、後方の約3分の1を後下行枝の中隔枝が担っているんだ。
医学生医学生
右冠動脈の近位部が前室間溝を走る、というのも一瞬それっぽく見えました。
ドクタードクター
そこは整理しておこう。右冠動脈は近位部から右房と右室の間の冠状溝を走り、心臓の右縁を回り込んで下面へ向かう。前室間溝ではないね。前室間溝はあくまで前下行枝の通り道だ。
医学生医学生
逆に、前下行枝が冠状溝を走る、というのも入れ替えのひっかけですね。左の冠状溝を走るのは回旋枝でした。
ドクタードクター
その通り。前下行枝は前室間溝を心尖へ下行し、回旋枝は左房と左室の間の冠状溝を後方へ回り込む。では回旋枝の近位部が後室間溝を走る、という記述はどうかな。
医学生医学生
後室間溝は後下行枝ですよね。でも回旋枝から後下行枝が出る人もいると聞いたことがあって、少し迷います。
ドクタードクター
鋭いね。後下行枝をどちらが出すかを冠動脈の優位性といって、多くは右冠動脈優位型だ。左冠動脈優位型では回旋枝が後下行枝を出すけれど、その場合でも後室間溝に入るのは回旋枝の遠位部であって、近位部ではない。だからこの記述は誤りだ。
医学生医学生
最後の、前下行枝がValsalva洞から起始する、というのは……冠動脈はValsalva洞から出るので正しい気もします。
ドクタードクター
ここが落とし穴。Valsalva洞から出るのは右冠動脈と左冠動脈主幹部だ。主幹部は短い幹で、すぐに前下行枝と回旋枝に分かれる。つまり前下行枝は主幹部の枝であって、Valsalva洞から直接出るわけではないんだ。
医学生医学生
起始は右冠動脈と主幹部、前室間溝は前下行枝、冠状溝は右冠動脈と回旋枝、後室間溝は後下行枝、と覚えればいいですね。
ドクタードクター
完璧だ。ここからは臨床とのつながりを押さえよう。カテーテル検査ではAHA分類の区域番号が使われ、右冠動脈が1〜4番、主幹部が5番、前下行枝が6〜10番、回旋枝が11〜15番だ。循環器内科を回ったときに「シャープ7が99%」といった会話を聞かなかったかい。
医学生医学生
聞きました!番号の意味がわからずにいたのですが、前下行枝の中間部のことだったんですね。
ドクタードクター
そう。灌流域も大事だよ。前下行枝は左室前壁、心室中隔の前部、心尖部、回旋枝は左室側壁・後壁、右冠動脈は右室、左室下壁、中隔後部を灌流することが多い。前下行枝近位部の閉塞では前壁中隔梗塞となり、心電図ではV1〜V4に変化が出やすい。刺激伝導系の脚が中隔を走るので脚ブロックを合併しうる。
医学生医学生
右冠動脈の閉塞で下壁梗塞になると、徐脈や房室ブロックが起こりやすいのも、洞結節枝や房室結節枝を右冠動脈から出すことが多いからでしたね。
ドクタードクター
その通り。II、III、aVFに変化があれば右冠動脈を、I、aVL、V5、V6なら回旋枝や対角枝を考える、というように、解剖を知っていると心電図から責任血管を推定できる。解剖は暗記科目ではなく、臨床判断の地図なんだ。

まとめ

冠動脈は大動脈基部のValsalva洞から右冠動脈と左冠動脈主幹部として起始し、主幹部はすぐに前下行枝と回旋枝に分かれます。前下行枝は前室間溝を心尖へ下行し、真下の心室中隔へ中隔枝を出して中隔の前方約3分の2を灌流するほか、対角枝で左室前壁を養います。右冠動脈と回旋枝は冠状溝を走り、後室間溝を走る後下行枝は多くの人で右冠動脈から出ます(右冠動脈優位型)。こうした走行と灌流域の対応を理解しておくと、前壁中隔梗塞での脚ブロックや下壁梗塞での房室ブロック、心電図誘導からの責任血管推定、AHA区域番号の理解へと自然につながります。冠動脈の「どの溝を走るか」を地図として押さえることが、虚血性心疾患の診療の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

冠動脈の起始と、心臓表面のどの溝を走るかを問う解剖の問題である。

心臓表面の溝

・冠状溝(房室間溝): 心房と心室の境界を輪のように一周する溝。 ・前室間溝: 心臓の前面(胸肋面)で右室と左室の境界を心尖へ向かって走る溝。 ・後室間溝: 心臓の下面(横隔面)で右室と左室の境界を走る溝。 室間溝の深部には心室中隔がある。

冠動脈の起始と走行

冠動脈は大動脈基部のValsalva洞(大動脈弁のすぐ上にある3つのふくらみ)から出る。右冠動脈(RCA)は右冠尖側の洞から、左冠動脈主幹部(LMT)は左冠尖側の洞から起始する。 ・右冠動脈: 右の冠状溝を回り込むように走り、心臓の下面で多くは後室間溝に入って後下行枝となる。 ・左冠動脈主幹部: 短い幹で、すぐに前下行枝と回旋枝に分かれる。 ・前下行枝(LAD): 前室間溝を心尖に向かって下行し、心室中隔へ中隔枝を、左室前壁へ対角枝を出す。 ・回旋枝(LCX): 左の冠状溝を後方へ回り込む。 この「どの血管がどの溝を走るか」という対応を整理できていれば、各選択肢の正誤は容易に判断できる。前室間溝の直下には心室中隔があるので、そこを走る前下行枝が中隔へ枝(中隔枝)を送るのは解剖学的に自然である。

選択肢考察

  1. ×a.  右冠動脈近位部は前室間溝を走行する。

    右冠動脈は近位部から右房と右室の間の冠状溝(右房室間溝)を走り、心臓の右縁を回って下面へ向かう。前室間溝を走行するのは左冠動脈前下行枝である。

  2. ×b.  左冠動脈前下行枝は冠状溝を走行する。

    前下行枝は前室間溝を心尖方向へ下行する。左側の冠状溝を走るのは回旋枝である。

  3. ○c.  左冠動脈前下行枝から心室中隔枝が分枝する。

    前下行枝は心室中隔の真上にあたる前室間溝を走るため、そこから中隔に向かって垂直に潜り込む枝(中隔枝、septal branch)を何本も出す。これにより心室中隔の前方およそ3分の2が前下行枝から血流を受ける(後方の約3分の1は後下行枝の中隔枝が担う)。前下行枝はこのほか左室前壁に対角枝を出し、左室前壁・心室中隔・心尖部を広く灌流する。前下行枝近位部の閉塞で前壁中隔梗塞が起こり、刺激伝導系(右脚・左脚前枝)が中隔を走るため脚ブロックを合併しうるのはこのためである。

  4. ×d.  左冠動脈回旋枝近位部は後室間溝を走行する。

    回旋枝の近位部は左房と左室の間の冠状溝(左房室間溝)を後方へ走る。後室間溝を走るのは後下行枝で、多くの人では右冠動脈の遠位部から出る(右冠動脈優位型)。回旋枝が後下行枝を出すのは左冠動脈優位型の場合であり、その場合も後室間溝に入るのは回旋枝の遠位部であって近位部ではない。

  5. ×e.  左冠動脈前下行枝はValsalva洞から起始する。

    Valsalva洞(左冠尖側の洞)から起始するのは左冠動脈主幹部である。前下行枝は主幹部が回旋枝と二又に分かれた枝の一方であり、直接Valsalva洞から出るわけではない。

AHA分類による冠動脈の区域番号

冠動脈造影ではAHA(米国心臓協会)の区域番号が広く用いられる。 ・右冠動脈: #1〜#4(#1近位部、#2中間部、#3遠位部、#4は後下行枝〈4PD〉と房室結節枝〈4AV〉) ・左冠動脈主幹部: #5 ・前下行枝: #6〜#10(#9・#10は対角枝) ・回旋枝: #11〜#15(#12は鈍縁枝、#14は後側壁枝など)

冠動脈の優位性

後下行枝をどちらの冠動脈が出すかで優位性を分類する。右冠動脈優位型が大多数を占め、左冠動脈(回旋枝)優位型、両者がほぼ同等のバランス型がある。

主な灌流域

・右冠動脈: 右室、左室下壁、心室中隔後部、洞結節(約6割)、房室結節(右優位型の多く) ・前下行枝: 左室前壁、心室中隔前部約3分の2、心尖部 ・回旋枝: 左室側壁・後壁 右冠動脈閉塞による下壁梗塞で徐脈や房室ブロックが起こりやすいのは、洞結節枝・房室結節枝を右冠動脈が出すことが多いためである。

心電図の誘導との対応(目安)

・前壁中隔: V1〜V4(前下行枝) ・側壁: I、aVL、V5、V6(回旋枝・対角枝) ・下壁: II、III、aVF(多くは右冠動脈)

POINT

・冠動脈はValsalva洞から起始する(右冠動脈と左冠動脈主幹部)。前下行枝・回旋枝は主幹部の分枝である。 ・前室間溝: 前下行枝。冠状溝: 右冠動脈と回旋枝。後室間溝: 後下行枝(多くは右冠動脈由来)。 ・前下行枝は中隔枝(心室中隔前方約3分の2)と対角枝(左室前壁)を出す。 ・後下行枝をどちらが出すかで優位性が決まり、右優位型が多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。