StudyMed医師国家試験

空気を変えるか、働き方を変えるか―労働衛生の3管理を「誰に働きかけるか」で分ける

第107回医師国家試験 E問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第31問

労働衛生管理のうち作業環境管理はどれか。2つ選べ。

  1. a.換気装置の設置
  2. b.健康診断の実施
  3. c.労働時間の短縮
  4. d.防毒マスクの着用
  5. e.気中有害物質濃度の測定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、労働衛生管理の基本である「3管理」の分類問題だ。作業環境管理、作業管理、健康管理の3つがあって、それぞれ働きかける相手が違う。その相手を見極めるのが着眼点だよ。まず3管理の名前は言えるかな。
医学生医学生
作業環境管理、作業管理、健康管理ですね。公衆衛生の講義で覚えましたが、作業環境管理と作業管理の区別がいつも曖昧になります。
ドクタードクター
名前が似ているから混乱しやすいよね。コツは「何を相手にしているか」で分けること。作業環境管理は作業場の環境そのもの、作業管理は作業のやり方や時間、健康管理は労働者の身体を相手にする。言い換えると、環境・設備に働きかけるのか、作業の方法に働きかけるのか、労働者の身体を調べるのか、だ。
医学生医学生
では換気装置の設置は、作業場の空気そのものをきれいにするので作業環境管理ですね。
ドクタードクター
その通り。換気には、有害物質が出る場所の近くにフードを置いて拡散前に吸い取る局所排気装置と、作業場全体の空気を入れ替えて薄める全体換気装置がある。発生源で捕まえられる局所排気のほうが優先されるよ。ほかにも、有害性の低い物質への切り替えや工程の密閉化・自動化も作業環境管理だ。
医学生医学生
気中有害物質濃度の測定も、作業場の空気の状態を調べるものなので作業環境管理でしょうか。
ドクタードクター
正解。作業環境測定は作業環境管理の出発点なんだ。測らなければ環境が良いのか悪いのか判断できないからね。有機溶剤や粉じん、鉛などを扱う指定の作業場では、多くは6か月以内ごとに1回の定期測定が義務づけられている。結果は第1から第3の管理区分で評価して、第3管理区分なら直ちに設備や工程を改善する必要がある。
医学生医学生
健康診断は労働者の身体を調べるので健康管理ですね。臨床実習の合間に産業医の先生の職場巡視に同行したとき、特殊健診の話を聞きました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。一般健康診断に加えて、有機溶剤や鉛、電離放射線、じん肺などの有害業務には特殊健康診断がある。健診後の事後措置や保健指導、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックも健康管理に含まれる。
医学生医学生
労働時間の短縮は、働く人の健康のためなので健康管理かと思ったのですが…。
ドクタードクター
そこがひっかかりやすいポイントだ。目的は健康を守ることでも、働きかけている対象は「作業の時間」だよね。作業負担や有害因子にさらされる時間を減らす対策だから、作業管理に分類される。連続作業時間の制限や休憩の確保、作業姿勢の改善、VDT作業の時間管理も同じ仲間だ。
医学生医学生
防毒マスクの着用はどうでしょう。有害物質から守るので作業環境管理に入れたくなります。
ドクタードクター
国試でもよく狙われる落とし穴だね。マスクを着けても作業場の空気は何も変わらない。あくまで労働者一人ひとりの曝露を減らす作業の方法の工夫なので、作業管理にあたる。しかも着け方が悪かったり吸収缶が破過したりすると効果がなくなるから、保護具はあくまで補助的な対策と位置づけられるんだ。
医学生医学生
空気そのものを変えるのが作業環境管理、空気は同じでも働き方や身に着けるもので曝露を減らすのが作業管理、と考えればいいんですね。
ドクタードクター
まさにその整理で大丈夫。発展として、対策の優先順位も押さえておこう。有害因子への対策は、発生源対策、つまり代替や密閉化が最優先で、次に局所排気などの伝播経路対策、最後に保護具や作業時間管理といった受け手側の対策と考える。上流の対策ほど多くの労働者を同時に、確実に守れるからだ。
医学生医学生
第3管理区分になったときも、改善されるまでの間だけ保護具でしのぐ、という順番になるわけですね。
ドクタードクター
その通り。それから、3管理に総括管理と労働衛生教育を加えて5管理とよぶこともある。衛生委員会などの体制づくりや、労働者に3管理の意味を理解してもらう教育がないと、せっかくの対策もうまく回らない。将来産業医として職場に関わるときにも、この枠組みで職場を見る視点が役に立つよ。

まとめ

労働衛生の3管理は、作業場の環境を対象とする作業環境管理、作業の方法を対象とする作業管理、労働者の健康状態を対象とする健康管理からなります。換気装置の設置や気中有害物質濃度の測定(作業環境測定)は作業場そのものを評価・改善するため作業環境管理にあたり、労働時間の短縮や防毒マスクなど保護具の着用は作業管理、健康診断や事後措置は健康管理に分類されます。特に保護具の着用は環境自体を変えないため作業管理である点がよく問われます。有害因子対策は発生源対策、伝播経路対策、受け手側の対策の順に優先され、作業環境測定の管理区分に応じて改善を行います。「何に働きかけているか」で対策を分類する視点は、産業保健の現場で職場の課題を整理し、効果的な対策を選ぶための基礎となります。

解答・解説

正解はa, eです

労働衛生管理の基本である「労働衛生の3管理」について、それぞれの具体策がどの管理にあたるかを分類できるかを問う問題である。

労働衛生の3管理

・作業環境管理:作業場の環境を相手にする管理である。有害因子(有害物質、粉じん、騒音、暑熱など)の状態を測って評価し、設備の改善によって作業場から有害因子を取り除き、低く抑える。 ・作業管理:作業の内容や方法を相手にする管理である。作業のやり方、作業時間、作業姿勢、保護具の使用などを適切にして、労働者一人ひとりが有害因子にさらされる量(曝露量)や作業の負担を減らす。 ・健康管理:労働者を相手にする管理である。健康診断などで健康状態を把握し、その結果に基づく事後措置や保健指導によって健康障害を防ぎ、早く見つける。

考え方

各選択肢について「環境・設備に働きかけているのか」「作業の方法に働きかけているのか」「労働者の身体を調べているのか」を考えると分類できる。換気装置の設置は作業場の空気そのものを改善する対策で、気中有害物質濃度の測定は作業環境の状態を把握する対策である。いずれも作業環境管理にあたる。

選択肢考察

  1. ○a.  換気装置の設置

    正しい。換気装置は、作業場の空気中の有害物質濃度を下げるための設備対策で、作業環境管理にあたる。換気には2つの方式がある。局所排気装置は、有害物質が出る場所の近くにフードを置き、拡散する前に吸い取る。全体換気装置は、作業場全体の空気を入れ替えて薄める。有害物質の管理では、発生源で捕まえる局所排気が優先される。作業環境管理ではほかに、有害性の低い物質への切り替え、工程の密閉化・自動化・隔離なども行う。

  2. ×b.  健康診断の実施

    誤り。健康診断は、労働者の健康状態を把握し、健康障害を早期に見つけるためのもので、健康管理にあたる。一般健康診断(雇入れ時、定期など)と、有害業務に従事する者に行う特殊健康診断(有機溶剤、鉛、電離放射線、じん肺など)がある。健診結果に基づく就業上の措置、保健指導、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックも健康管理に含まれる。

  3. ×c.  労働時間の短縮

    誤り。労働時間の短縮は、作業の時間を適切にして作業負担や有害因子への曝露時間を減らす対策で、作業管理にあたる。作業管理にはほかに、作業手順の標準化、連続作業時間の制限と休憩の確保、作業姿勢の改善、VDT作業(ディスプレイを使う作業)の作業時間管理などが含まれる。

  4. ×d.  防毒マスクの着用

    誤り。防毒マスクや防じんマスク、耳栓などの保護具を使うのは、作業の方法を工夫して個人の曝露を減らす対策で、作業管理にあたる。保護具は作業場の環境そのものを改善するものではない。着け方が悪かったり、吸収缶が破過したり(吸着能力が限界に達したり)すると効果がなくなる。そのため、まず作業環境管理で有害因子を減らし、保護具はそれを補う対策と位置づけられる。

  5. ○e.  気中有害物質濃度の測定

    正しい。空気中の有害物質の濃度を測る作業環境測定は、作業環境の状態を客観的に把握するためのもので、作業環境管理の出発点である。労働安全衛生法と作業環境測定法に基づき、有機溶剤、特定化学物質、鉛、粉じんなどを扱う指定の作業場では、定期的な測定が義務づけられている。多くは6か月以内ごとに1回である。測定結果は第1〜第3管理区分に評価する。第3管理区分(管理が適切でない状態)では、直ちに設備や作業工程の改善が必要になる。

労働衛生の5管理

3管理に、次の2つを加えて5管理とよぶこともある。 ・総括管理:3管理を計画的・組織的に進めるための体制づくり(衛生委員会、安全衛生管理体制など) ・労働衛生教育:3管理の意味を労働者に理解させるための教育(雇入れ時教育、特別教育など)

3管理の具体例の整理

・作業環境管理:作業環境測定とその評価、局所排気装置・全体換気装置の設置、有害物質の代替、工程の密閉化・自動化・遠隔操作化、騒音源の防音・遮音、照明・温湿度の調整 ・作業管理:作業方法・作業姿勢の改善、作業時間の短縮・休憩の確保、保護具(防毒マスク、防じんマスク、耳栓、保護めがね)の使用と管理、個人曝露濃度の測定 ・健康管理:一般健康診断、特殊健康診断、健診後の事後措置・保健指導、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック、健康保持増進活動

対策の優先順位

有害因子への対策は、発生源対策(代替、密閉化など)→ 伝播経路対策(局所排気、全体換気など)→ 受け手の対策(保護具、作業時間の管理)の順に考える。より上流で、多くの労働者を同時に守れる対策ほど優先される。

作業環境測定の評価

単位作業場所の測定値を管理濃度(作業環境管理の良し悪しを判断するための指標値)と比べ、管理区分を決める。 ・第1管理区分:適切 ・第2管理区分:改善の余地あり ・第3管理区分:適切でない 第3管理区分では、直ちに点検・改善を行い、その効果を確かめる。改善されるまでの間は保護具を使う。

POINT

・労働衛生の3管理は、作業環境管理、作業管理、健康管理である。 ・作業環境管理は「環境・設備への対策」で、作業環境測定、換気装置の設置、有害物質の代替、密閉化などがある。 ・作業管理は「作業方法への対策」で、作業時間の短縮、作業姿勢の改善、保護具の着用などがある。 ・健康管理は「労働者の健康状態への対策」で、健康診断、事後措置、保健指導などがある。 ・保護具の着用は作業管理であり、作業環境管理ではない点がよく問われる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。