クレアチニンが低いのは腎臓が元気だから?―検査値の「成り立ち」から考える
第107回医師国家試験 E問題 第19問
国試問題にチャレンジ
血液検査項目とその検査結果が低値となる状態の組合せで正しいのはどれか。
- a.尿酸 ―― 腎不全
- b.総蛋白 ―― 脱水
- c.カリウム ―― 検体溶血
- d.クレアチニン ―― やせ
- e.クレアチンキナーゼ ―― 甲状腺機能低下症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液検査の値は、物質の産生、排泄・代謝、体液量による濃縮・希釈、検体の取り扱いの4つの要素で決まります。クレアチニンは筋肉量に比例して産生されるため、高度のやせや高齢者、長期臥床、筋疾患では低値となり、腎機能が低下していても見逃されやすいので、シスタチンCによる評価が有用です。一方、腎不全では排泄低下で尿酸が上昇し、脱水では濃縮で総蛋白が上昇し、溶血では赤血球内カリウムの漏出で偽性高カリウム血症となり、甲状腺機能低下症ではミオパチーとクリアランス低下でCKが上昇します。検査値を機序から理解することは、偽性異常の見抜きや薬剤の用量調整など、日常診療の安全に直結する基本的な力になります。
解答・解説
正解はdです
本問は、日常的に用いる血液生化学検査の値が「なぜ上がり、なぜ下がるのか」という成り立ちを理解しているかを問う問題である。検査値は、その物質の①産生(供給)、②排泄・代謝、③体内での分布・濃縮、④検体の取り扱い(採血・保存条件)によって決まる。各組合せについて、その状態で検査値が上がるか下がるかを機序から考える。 ・腎不全では腎からの排泄が低下するため、尿酸は上昇する。 ・脱水では血液が濃縮されるため、総蛋白は見かけ上上昇する。 ・溶血では赤血球内のカリウムが血清中に漏れ出るため、カリウムは上昇する(偽性高カリウム血症)。 ・クレアチニンは筋肉内のクレアチンから一定の割合で産生されるため、筋肉量の少ないやせでは低値となる。 ・甲状腺機能低下症ではクレアチンキナーゼ(CK)は上昇する。 したがって「低値となる」組合せとして正しいのは、クレアチニンとやせである。
選択肢考察
- ×a. 尿酸 ―― 腎不全
尿酸はプリン体の最終代謝産物で、主に腎臓から尿中へ排泄される(一部は腸管から排泄)。腎不全では糸球体濾過量が減り尿酸の排泄が低下するため、血清尿酸値は上昇する。高尿酸血症は、尿酸の産生過剰型、排泄低下型、両者の混合型に分類され、排泄低下型が最も多い。排泄低下の原因として腎不全のほか、利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬)、脱水、乳酸やケトン体の蓄積などがある。一方、産生過剰の原因としては、プリン体の過剰摂取、アルコール、白血病・悪性リンパ腫(とくに化学療法後の腫瘍崩壊症候群)などの細胞破壊の亢進がある。低値ではなく高値となるため誤りである。
- ×b. 総蛋白 ―― 脱水
脱水では血漿中の水分が減少し、血液が濃縮されるため、総蛋白やアルブミン、ヘマトクリットなどが見かけ上上昇する。血清総蛋白の基準値はおおむね6.5〜8.0 g/dL程度で、高蛋白血症の原因には、脱水による濃縮のほか、多発性骨髄腫などのMタンパク血症、慢性炎症や慢性肝疾患・自己免疫疾患による多クローン性γグロブリン増加がある。低蛋白血症は主にアルブミンの減少によるもので、肝硬変などの合成低下、低栄養、ネフローゼ症候群や蛋白漏出性胃腸症などの喪失、輸液過剰による希釈などで起こる。脱水では高値となるため誤りである。
- ×c. カリウム ―― 検体溶血
カリウムは細胞内に多く(細胞内濃度は約140 mEq/Lで、血清の約30倍以上)存在する陽イオンである。採血時の細い針での強い吸引、長時間の駆血、検体の激しい振盪、全血のまま長時間置くことなどで赤血球が壊れると(溶血)、細胞内のカリウムが血清中に出てくるため、実際の体内の値より高い値となる。これを偽性高カリウム血症という。溶血以外にも、著明な血小板増多や白血球増多(血液凝固の過程で細胞からカリウムが放出される)、採血時の手の開閉(クレンチング)でも起こりうる。なお溶血ではAST、LD(乳酸脱水素酵素)なども赤血球から漏出して高値となる。低値ではなく高値となるため誤りである。
- ○d. クレアチニン ―― やせ
クレアチニンは、筋肉でエネルギー貯蔵物質として働くクレアチンリン酸(およびクレアチン)が非酵素的に分解されて生じる小分子の老廃物である。産生量は筋肉量にほぼ比例して1日あたりほぼ一定で、糸球体で濾過された後は尿細管でほとんど再吸収されずに尿中へ排泄される。このため血清クレアチニンは腎機能(糸球体濾過量)の指標として用いられるが、その値は筋肉量にも左右される。高度のやせ、高齢者、長期臥床、筋ジストロフィーなどで筋肉量が少ない人ではクレアチニンの産生量自体が少ないため、血清クレアチニンは低値となる。逆に、このような人では腎機能が低下していても血清クレアチニンが上がりにくく、腎機能を過大評価してしまう点に注意が必要である。その場合は、筋肉量の影響を受けにくいシスタチンCによる評価が有用である。
- ×e. クレアチンキナーゼ ―― 甲状腺機能低下症
クレアチンキナーゼ(CK)は、クレアチンとクレアチンリン酸の相互変換を触媒して筋のエネルギー代謝を担う酵素で、骨格筋・心筋・脳などに多く含まれる。甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン不足による筋障害(甲状腺機能低下性ミオパチー)で筋細胞からCKが漏れ出やすくなることに加え、CKの血中からの消失(クリアランス)も遅れるため、血清CKは上昇する。甲状腺機能低下症の患者では、CKのほかAST、LD、総コレステロールの上昇もしばしばみられる。反対に、甲状腺機能亢進症ではCKは低値となりやすい。CKが上昇する他の病態には、急性心筋梗塞、心筋炎、横紋筋融解症、筋ジストロフィー、多発性筋炎・皮膚筋炎、激しい運動後、筋肉注射後などがある。低値ではなく高値となるため誤りである。
検査値の変動を考える枠組み
検査値の異常は、①産生・摂取の増減、②排泄・代謝の増減、③体液量の変化による濃縮・希釈、④検体の取り扱いによる見かけ上の変化(偽性異常)に分けて考えると整理しやすい。
クレアチニンと腎機能評価
・血清クレアチニンの基準値はおおむね男性0.6〜1.1 mg/dL、女性0.4〜0.8 mg/dL程度で、男性のほうが高いのは筋肉量の差による。 ・推算糸球体濾過量(eGFR)は血清クレアチニン、年齢、性別から算出する。筋肉量が極端に少ない(多い)人では誤差が大きくなる。 ・シスタチンCは全身の有核細胞で一定に産生される低分子蛋白で、筋肉量の影響を受けにくいため、やせた人や高齢者の腎機能評価に有用である。 ・血中尿素窒素(BUN)とクレアチニンの比(BUN/Cr比)は、脱水、消化管出血、高蛋白食などで上昇する。
主な偽性異常(検体取り扱いによる見かけ上の異常)
・溶血:K、AST、LD、Mgなどが高値となる。 ・全血のまま長時間放置:赤血球による解糖で血糖が低値となり、細胞外へのK漏出で高値となる。 ・著明な血小板増多・白血球増多:血清Kが高値となる(ヘパリン加血漿では是正される)。 ・点滴ルートの近くからの採血:輸液成分による希釈や混入が起こる。
甲状腺機能と検査値
・機能低下症:CK上昇、総コレステロール上昇、AST・LD上昇、低Na血症、貧血など。 ・機能亢進症:CK低下、総コレステロール低下、ALP上昇、血糖上昇傾向など。
POINT
・クレアチニンは筋肉量に比例して産生されるため、やせ・高齢者・筋疾患では低値となり、腎機能を過大評価しやすい。 ・腎不全では尿酸が上昇する。 ・脱水では濃縮により総蛋白が上昇する。 ・溶血では偽性高カリウム血症となる(AST、LDも上昇)。 ・甲状腺機能低下症ではCKが上昇し、機能亢進症では低下する。
