StudyMed医師国家試験

アメリカより低い医療費―日本の医療保険と福祉を「断定表現」から読み解く

第107回医師国家試験 E問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第1問

 我が国の医療と福祉の現状について正しいのはどれか。

  1. a.生活保護世帯数は最近5年間減少傾向にある。
  2. b.後期高齢者医療制度は被用者保険の一部である。
  3. c.高額療養費制度で自己負担限度額は月額30万円である。
  4. d.最近5年間の国民医療費の対GDP比はアメリカより低い。
  5. e.国民健康保険では保険料の未納世帯は医療保険を利用できない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、日本の医療保険制度の仕組みと、社会保障の統計を横断的に問う問題だ。考える軸は2つ。1つは制度の仕組み、もう1つは統計の傾向。特に制度の選択肢で「一律」「利用できない」のような断定的な表現が出てきたら、疑ってかかるのがコツだよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った範囲ですが、制度の細かい話はどうも苦手です。
ドクタードクター
大丈夫、基本構造から整理しよう。日本の公的医療保険は、会社員や公務員が入る被用者保険、自営業者などが入る国民健康保険、そして75歳以上が入る後期高齢者医療制度の3本柱で、1961年に国民皆保険が達成された。では、後期高齢者医療制度は被用者保険の一部、という記述はどうかな。
医学生医学生
75歳を過ぎても働いている人はいるので、被用者保険とつながっているのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところだね。後期高齢者医療制度は2008年に老人保健制度に代わって作られた、被用者保険とも国民健康保険とも独立した制度なんだ。75歳以上は働いていても全員がこちらに移る。運営主体は都道府県ごとの後期高齢者医療広域連合で、財源は公費が約5割、現役世代からの支援金が約4割、高齢者自身の保険料が約1割だ。
医学生医学生
独立した制度なんですね。では高額療養費制度の、自己負担限度額が月30万円というのは…。
ドクタードクター
高額療養費制度は、同じ月に窓口で払った自己負担が上限を超えたら超過分が払い戻される制度だ。でも上限額は年齢と所得区分で細かく分かれていて、一律30万円ではない。たとえば70歳未満の一般的な所得層なら、目安は約8万円に、医療費が一定額を超えた分の1%を足した程度だ。
医学生医学生
臨床実習で血液内科を回ったとき、抗がん剤治療の患者さんが限度額適用認定証の話をしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいところを見ているね。事前に認定を受けておけば、窓口での支払いを上限額までにとどめられる。世帯での合算や、何度も該当すると上限が下がる多数回該当という仕組みもある。次は、国民健康保険の保険料を払っていないと医療保険を利用できない、という記述だ。
医学生医学生
払っていないなら使えない、というのは自然な気もしますが、これも断定表現ですね。
ドクタードクター
その感覚が大事だ。滞納してもすぐに保険から締め出されるわけではなく、出題当時は有効期間の短い保険証、さらに長期滞納では資格証明書の交付へと段階的に措置が進んだ。資格証明書で受診するといったん全額を窓口で払うけれど、後から保険給付分が支給される償還払いの形で、保険診療そのものは使えたんだ。保険証の廃止に伴って制度は見直されているけれど、償還払いで給付を受けられる点は同様だよ。
医学生医学生
では統計の話ですね。生活保護世帯数が最近5年間減少傾向、というのはどうでしょう。
ドクタードクター
これは逆で、被保護世帯数は1990年代半ばを底に増え続け、特に2008年のリーマンショック後に急増した。出題当時は約153万世帯で過去最多を更新していたんだ。その後も高齢単身世帯の増加を背景に160万世帯台で推移していて、高齢者世帯が半数以上を占める。
医学生医学生
そうすると、国民医療費の対GDP比がアメリカより低い、というのが正しいんですね。アメリカは医療費がすごく高いイメージがあります。
ドクタードクター
正解。OECDの保健医療支出の対GDP比で見ると、出題当時は日本が約9.6%、アメリカは約17.7%で、アメリカは先進国の中で突出して高い。その後、国際比較の基準変更で日本の値は11%前後に修正されたけれど、アメリカより低いという関係は変わっていない。
医学生医学生
国民医療費とOECDの保健医療支出は、同じものなんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。国民医療費は国内で保険診療の対象となる傷病の治療費の推計で、正常分娩や健康診断、予防接種、差額ベッド代などは含まない。近年は年間45兆円前後で、GDP比は約8%だ。一方、OECDの保健医療支出は予防や介護の一部も含む広い指標で、国際比較ではこちらを使う。
医学生医学生
指標の範囲が違うから数字も違うんですね。CBTの勉強のときに混同していたかもしれません。
ドクタードクター
混同しやすいポイントだから、ここで整理できてよかった。日本は国民皆保険と診療報酬という公定価格によって医療費の伸びを抑えながら、長い平均寿命など良好な健康指標を実現してきたとされている。なお、生活保護を受けている人は原則として国民健康保険から外れて、医療扶助で医療を受けることも覚えておこう。
医学生医学生
患者さんがどの制度で医療を受けているかを知っておくと、退院支援やソーシャルワーカーさんとの連携でも役立ちそうです。
ドクタードクター
まさにそうだね。統計の細かい数値は年ごとに変わるけれど、制度の基本構造と大きな傾向をつかんでおけば、臨床の場でも患者さんの経済的な不安に寄り添いやすくなるよ。

まとめ

日本の公的医療保険は被用者保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度の3本柱からなり、後期高齢者医療制度は75歳以上が全員加入する独立した制度で、後期高齢者医療広域連合が運営します。高額療養費制度の自己負担上限は年齢と所得区分で異なり、国民健康保険の保険料を滞納しても段階的な措置がとられ、償還払いの形で保険給付を受けることができます。統計面では、生活保護世帯数は長期的に増加して高止まりし、保健医療支出の対GDP比はアメリカが突出して高く日本はそれより低い水準です。国民医療費とOECDの保健医療支出は範囲が異なる指標である点にも注意が必要です。制度の基本構造と大きな傾向を押さえることは、試験対策だけでなく、患者の経済的背景を踏まえた臨床やチーム医療にも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

本問は、医療保険制度の仕組み(後期高齢者医療制度・高額療養費制度・保険料滞納時の扱い)と、社会保障の統計(生活保護・医療費の国際比較)を横断的に問う問題である。 考え方の軸は次の2つである。 (1) 制度の仕組み:日本の公的医療保険は「被用者保険」「国民健康保険」「後期高齢者医療制度」の3本柱からなり、それぞれ独立している。また、患者の負担には所得・年齢に応じた上限(高額療養費)があり、保険料を滞納しても直ちに保険診療から排除されるわけではない。制度に「一律」「利用できない」といった断定的な表現が出てきたら疑ってかかるとよい。 (2) 統計の傾向:生活保護は長期的に増加してきたこと、日本の保健医療支出の対GDP比は先進国の中で中位〜やや上位であるのに対し、アメリカは突出して高いことを押さえておけば判断できる。 なお本問は出題当時(2013年)の統計・制度を前提とした問題であり、細部の数値や滞納時の手続きはその後変わっている。現在の国試対策としての重要性は高くないが、医療保険制度の基本構造を確認する題材としては有用である。

選択肢考察

  1. ×a.  生活保護世帯数は最近5年間減少傾向にある。

    生活保護の被保護世帯数は1990年代半ばを底に増加を続け、特に2008年のリーマンショック後に急増した。出題当時の2012年3月には約153万世帯と過去最多を更新しており、減少傾向ではない。その後も高齢単身世帯の増加を背景に160万世帯台で推移しており、世帯類型では高齢者世帯が半数以上を占める。

  2. ×b.  後期高齢者医療制度は被用者保険の一部である。

    後期高齢者医療制度は2008年に老人保健制度に代わって創設された、被用者保険や国民健康保険から独立した制度である。75歳以上の者全員と、65〜74歳で一定の障害があり認定を受けた者が加入する。運営主体は都道府県ごとに全市町村が加入する後期高齢者医療広域連合であり、財源は公費約5割、現役世代からの支援金約4割、高齢者自身の保険料約1割で構成される。

  3. ×c.  高額療養費制度で自己負担限度額は月額30万円である。

    高額療養費制度は、同一月(1日〜末日)に医療機関等の窓口で支払った自己負担額が上限を超えた場合、超過分が払い戻される制度である。上限額は年齢(70歳未満か以上か)と所得区分によって細かく定められており、一律30万円ではない。例えば70歳未満の一般的な所得層では約8万円+(医療費−267,000円)×1%が目安となる。同一世帯での合算や、過去12か月に3回以上該当した場合の上限引き下げ(多数回該当)の仕組みもある。

  4. ○d.  最近5年間の国民医療費の対GDP比はアメリカより低い。

    OECD(経済協力開発機構)の統計による保健医療支出の対GDP比は、出題当時(2011年)で日本約9.6%、アメリカ約17.7%であり、日本はOECD加盟国中で中位に位置していた。アメリカは先進国の中で突出して高く、日本がこれを上回ったことはない。その後、国際比較基準の変更により日本の数値は11%前後に上方修正されたが、アメリカ(16〜17%台)より低い関係は変わっていない。日本は国民皆保険と公定価格(診療報酬)によって医療費の伸びを抑えつつ、平均寿命など良好な健康指標を実現している点が特徴とされる。

  5. ×e.  国民健康保険では保険料の未納世帯は医療保険を利用できない。

    保険料を滞納しても、直ちに保険給付が受けられなくなるわけではない。出題当時は、滞納期間に応じて有効期間の短い短期被保険者証の交付、さらに1年以上の滞納で被保険者証の返還と被保険者資格証明書の交付へと段階的に措置が進んだ。資格証明書で受診した場合は窓口でいったん医療費の全額を支払い、後に保険給付分(特別療養費)の支給を受ける仕組みであり、保険診療そのものは利用できた。現在は保険証の廃止に伴い資格証明書の制度も見直されているが、滞納者でも償還払いの形で給付を受けられる点は同様である。また、18歳以下の子どもには通常の保険証(資格確認書)が交付されるなどの配慮がある。

日本の公的医療保険の体系

・被用者保険:会社員・公務員とその被扶養者が加入。組合管掌健康保険(健保組合)、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)、船員保険、各種共済組合がある。 ・国民健康保険:自営業者、農林漁業者、無職者、退職者などが加入。都道府県と市町村(特別区)が共同で運営するものと、同業者でつくる国民健康保険組合がある。 ・後期高齢者医療制度:75歳以上(および65〜74歳の一定の障害者)が加入。運営は後期高齢者医療広域連合。 これらにより国民皆保険(1961年達成)が実現している。生活保護受給者は原則として国民健康保険から外れ、医療扶助によって医療を受ける。

患者の一部負担割合

・義務教育就学前:2割 ・義務教育就学後〜69歳:3割 ・70〜74歳:2割(現役並み所得者は3割) ・75歳以上:1割(一定以上所得者は2割、現役並み所得者は3割)

高額療養費制度のポイント

・自己負担の月額上限は年齢と所得区分で異なる。 ・事前に限度額適用認定を受ける(またはマイナ保険証を利用する)と、窓口での支払いを上限額までにとどめられる。 ・世帯合算、多数回該当の仕組みがある。

医療費の指標

・国民医療費:日本国内で保険診療の対象となる傷病の治療に要した費用の推計(正常分娩、健康診断、予防接種、差額ベッド代などは含まない)。近年は年間45兆円前後で、国内総生産(GDP)比は約8%である。 ・OECDの保健医療支出:予防や介護の一部なども含む国際比較用の指標で、国民医療費より範囲が広い。国際比較ではこちらが用いられる。

POINT

・後期高齢者医療制度は被用者保険・国民健康保険から独立した制度(75歳以上全員が加入、運営は広域連合)。 ・高額療養費の上限額は年齢・所得により異なり、一律ではない。 ・保険料の滞納があっても段階的な措置がとられ、償還払いの形で保険給付は受けられる。 ・生活保護世帯数は長期的に増加し、現在は160万世帯台で高止まり。高齢者世帯が半数以上。 ・保健医療支出の対GDP比はアメリカが突出して高く、日本はそれより低い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。