StudyMed医師国家試験

お腹の中で波が伝わる―「液体の性質」から理解する腹水の身体診察

第107回医師国家試験 C問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第107回 C問題 第7問

腹水の身体診察所見はどれか。

  1. a.圧痛
  2. b.拍動
  3. c.波動
  4. d.反跳痛
  5. e.筋性防御

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腹水を身体診察でどうとらえるかを問う問題だ。ポイントは、選択肢の所見がそれぞれ「何を示すサインなのか」を区別できるかどうか。腹水は液体だから、液体ならではの性質を利用した所見を探せばいい。液体の性質というと何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
重力に従って低いところにたまる、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。もう一つは、液体は振動を伝えるということ。腹水の身体所見はこの2つの性質で説明できる。まず腹水の原因として一番多いのは何だろう。
医学生医学生
肝硬変ですね。門脈圧亢進と低アルブミン血症が重なるからだと消化器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
正解。ほかに癌性腹膜炎、心不全、ネフローゼ症候群、結核性腹膜炎なども原因になる。では視診から。腹水がたまった患者さんを仰臥位で見ると、どんな形のお腹になるかな。
医学生医学生
臨床実習で、横に張り出したお腹を指導医の先生が蛙腹と呼んでいました。
ドクタードクター
そう、液体が側腹部にたまって横に広がるから蛙腹になる。臍の突出もみられるし、肝硬変なら腹壁静脈の怒張、いわゆるメドゥーサの頭を伴うこともある。次は打診。仰臥位では腸管のガスと液体はどう分布する?
医学生医学生
ガスは軽いので腹部正中に浮いて鼓音、液体は側腹部にたまって濁音になる、ですか。
ドクタードクター
完璧だ。さらに患者さんを横向きにすると液体が下側に移動して濁音の範囲が変わる。これが濁音界の移動、shifting dullnessだ。そして触診で液体が振動を伝える性質を利用するのが波動。今回の正解はこれになる。
医学生医学生
OSCEの腹部診察の練習でやりました。片側の側腹部に手を当てて、反対側を指で軽くたたくんですよね。
ドクタードクター
そう。液体が多量にあれば、その衝撃が波として伝わって当てた手に感じられる。ただ、皮下脂肪や腹壁そのものを伝わる振動もあるから、患者さん本人か介助者に手の尺側縁を腹部正中に縦に軽く押し当ててもらう。これを忘れると偽陽性になりやすい。
医学生医学生
波動があれば必ず腹水、と考えてよいのでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。巨大な卵巣嚢腫や腸間膜嚢胞など、液体を含む大きな嚢胞性病変でも波動を触れることがある。また、波動はある程度多量の腹水がないと陽性にならない。少量の腹水なら濁音界の移動のほうが拾いやすく、最も鋭敏なのは腹部超音波検査だ。では他の選択肢も確認しよう。圧痛はどう考える?
医学生医学生
押して痛いということなので、その場所の臓器や腹膜に炎症がある、という所見ですよね。
ドクタードクター
そう。右下腹部なら虫垂炎、右季肋部なら胆嚢炎というように、病変の部位を示す手がかりになる。細菌性腹膜炎を合併すれば腹水と圧痛が併存することはあるけれど、圧痛そのものは液体の存在を示す所見ではない。
医学生医学生
反跳痛と筋性防御は、外科の実習で腹膜刺激症状としてセットで教わりました。
ドクタードクター
その通り。反跳痛はBlumberg徴候とも呼ばれ、ゆっくり押し込んで急に手を離したときに強い痛みが出る。筋性防御は炎症が壁側腹膜に及んで反射的に腹壁筋が収縮し、硬く触れる所見だ。腹壁全体が板のように硬くなれば板状硬で、消化管穿孔による汎発性腹膜炎などを考え、緊急手術の判断にもつながる。どちらも炎症のサインで、液体のサインではないね。
医学生医学生
拍動は、お腹の真ん中で触れる大動脈の拍動ですか。
ドクタードクター
そう。やせた人では臍の上の正中付近に正常でも触れることがある。拍動性で横方向にも広がる腫瘤を触れたら腹部大動脈瘤を疑う。これは血管の所見だ。
医学生医学生
整理すると、液体なら波動や濁音界の移動、炎症なら圧痛や腹膜刺激症状、血管なら拍動、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に発展知識を。腹水をみたら試験穿刺で性状を調べ、血清と腹水のアルブミン濃度差、SAAGを計算する。1.1 g/dL以上なら肝硬変や心不全など門脈圧亢進に伴う腹水、1.1 g/dL未満なら癌性腹膜炎や結核性腹膜炎など門脈圧亢進を伴わない腹水と考える。身体所見で存在に気づき、画像で確かめ、穿刺で原因に迫るという流れを意識しよう。

まとめ

腹水の身体所見は「液体は重力に従って低い所へたまる」「液体は振動を伝える」という2つの性質から理解でき、視診での蛙腹、打診での側腹部濁音と濁音界の移動、触診での波動が代表的です。波動は側腹部をたたいた振動が対側に伝わる所見で、腹壁を伝わる振動を遮るために腹部正中に手の尺側縁を当てて行いますが、多量の腹水でないと陽性になりにくく、巨大な卵巣嚢腫などでもみられます。圧痛、反跳痛、筋性防御は臓器や腹膜の炎症を示す所見、拍動は腹部大動脈やその瘤を示す所見であり、腹水の存在を示すものではありません。少量の腹水の検出には腹部超音波検査が最も鋭敏で、原因の推定には試験穿刺とSAAGによる評価が役立ちます。所見を「何のサインか」で整理しておくことは、腹部診察を的確に行い、緊急性の判断や次の検査につなげるための基本となります。

解答・解説

正解はcです

腹水とは、腹腔内に異常な量の液体が貯留した状態である。原因としては肝硬変(門脈圧亢進と低アルブミン血症)が最も多く、そのほか癌性腹膜炎、心不全、ネフローゼ症候群、結核性腹膜炎などがある。 身体診察で腹水をとらえる手がかりは、「液体は自由に動き、重力に従って低い所へたまる」「液体は振動を伝える」という二つの性質である。 ・視診:腹部全体の膨隆、仰臥位で側腹部が横に張り出す蛙腹(かえるばら)、臍の突出など ・打診:仰臥位では腸管のガスが上(腹部正中)に浮き、液体が側腹部にたまるため、正中は鼓音、側腹部は濁音となる。体位を横向きに変えると液体が移動して濁音の範囲が変わる(濁音界の移動、shifting dullness) ・触診:波動(fluid wave)。一方の側腹部を指で軽くたたくと、その振動が液体を伝わって反対側に当てた手に感じられる 本問の選択肢のうち、液体の存在そのものを示す所見は波動である。圧痛・反跳痛・筋性防御は腹膜や臓器の炎症を示す所見であり、拍動は腹部大動脈(瘤)など血管性の所見である。これらはいずれも腹水の有無を判定する所見ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  圧痛

    圧痛は、押したときに痛みが生じる所見で、その部位の臓器や腹膜に炎症などの病変があることを示す(例:右下腹部の圧痛で虫垂炎、右季肋部で胆嚢炎)。炎症による痛みは押している間持続・増強しやすく、腸管のけいれんや伸展による痛み(疝痛)はむしろ圧迫で和らぐことがある。細菌性腹膜炎などを合併すれば腹水と圧痛が併存することはあるが、圧痛は液体の存在を示す所見ではない。

  2. ×b.  拍動

    腹部で触れる拍動は、主に腹部大動脈の拍動である。やせた人では正常でも臍の上あたりの正中付近に触れることがあり、拍動性で横方向にも広がる腫瘤を触れる場合は腹部大動脈瘤を疑う。血管の所見であって、腹水の存在を示すものではない。

  3. ○c.  波動

    波動は、腹腔内の液体を介して振動が伝わる現象である。患者を仰臥位にし、検者は一方の手掌を片側の側腹部に当て、もう一方の手指で反対側の側腹部を軽くたたく。液体が多量にあれば、その衝撃が波として伝わり、当てた手に感じられる。このとき、皮下脂肪や腹壁を伝わる振動と区別するため、患者本人または介助者に手の尺側縁を腹部正中に縦に軽く押し当ててもらう。波動は液体の存在を示す所見であり、腹水の代表的な身体所見である。ただし、ある程度多量の腹水がないと陽性にならず、少量の検出には濁音界の移動や腹部超音波検査の方が有用である。なお、巨大な卵巣嚢腫、腸間膜嚢胞、巨大な粘液性腫瘍など、液体を含む大きな嚢胞性病変でも波動を触れることがある。

  4. ×d.  反跳痛

    反跳痛(Blumberg徴候)は、腹壁をゆっくり押し込んだ後に急に手を離したとき、押したときより強い痛みが生じる所見である。内臓の炎症が壁側腹膜まで及んでいること(腹膜刺激症状)を示し、虫垂炎や腹膜炎で陽性となる。腹水の存在を示すものではない。

  5. ×e.  筋性防御

    筋性防御は、腹腔内の炎症が壁側腹膜に及ぶと、その刺激が肋間神経や腰神経を介した反射として腹壁筋を収縮させ、触診で腹壁が硬く触れる所見である。反跳痛と並ぶ腹膜刺激症状であり、進行して腹壁全体が板のように硬くなったものを板状硬という(消化管穿孔による汎発性腹膜炎など)。腹水の存在を示すものではない。

腹水の身体所見のまとめ

・視診:腹部膨隆、蛙腹(仰臥位で側腹部が膨らむ)、臍の突出・臍ヘルニア、肝硬変では腹壁静脈の怒張(メドゥーサの頭) ・打診:側腹部の濁音、濁音界の移動(shifting dullness)。仰臥位から側臥位へ体位を変えると、下側になった側腹部に液体が移動して濁音となり、上側は鼓音に変わる。 ・触診:波動(fluid wave) ・身体診察で検出できるのはおおむね数百mL〜1,500 mL程度以上の腹水であり、少量の腹水の検出には腹部超音波検査が最も鋭敏である。

腹水の性状と原因

腹水は、試験穿刺で得た液体の性状から原因を推定する。血清-腹水アルブミン濃度差(SAAG)が1.1 g/dL以上なら門脈圧亢進に伴う腹水(肝硬変、うっ血性心不全、Budd-Chiari症候群など)、1.1 g/dL未満なら門脈圧亢進を伴わない腹水(癌性腹膜炎、結核性腹膜炎、膵性腹水、ネフローゼ症候群など)と考える。従来の漏出性・滲出性の区別(蛋白濃度など)も用いられる。

腹膜刺激症状

反跳痛(Blumberg徴候)、筋性防御、板状硬、咳嗽や踵落としで痛みが響く所見(叩打痛)などがあり、壁側腹膜まで炎症が及んでいることを示す。汎発性腹膜炎では緊急手術の適応判断に重要である。

POINT

・腹水の身体所見:波動、濁音界の移動(shifting dullness)、側腹部の濁音、蛙腹。 ・波動は腹水以外に巨大卵巣嚢腫など大きな嚢胞性病変でもみられる。 ・反跳痛・筋性防御は腹膜刺激症状(腹膜炎)、拍動は腹部大動脈(瘤)の所見。 ・少量の腹水の検出には腹部超音波検査が最も鋭敏である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。