StudyMed医師国家試験

血圧が高くても足はむくまない?―Starlingの法則で読み解く浮腫の4つの機序

第107回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第107回 C問題 第6問

下肢浮腫をきたしにくいのはどれか。

  1. a.妊娠
  2. b.低栄養
  3. c.腎不全
  4. d.本態性高血圧症
  5. e.下肢静脈血栓症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、どんな病態が下肢のむくみ、つまり浮腫を起こすのかを問う問題だ。選択肢を一つずつ暗記で判断するより、浮腫が起こる仕組みを整理して、それぞれの病態がどこに当てはまるかを考えると迷わない。まず、浮腫とはそもそも何かな。
医学生医学生
間質に水分が過剰にたまった状態、ですよね。生理学の講義でStarlingの法則を習いました。
ドクタードクター
その通り。毛細血管では、水を血管の外へ押し出す力である毛細血管内の静水圧と、血管内へ引き戻す力である血漿の膠質浸透圧、主にアルブミンによるもののバランスで水の出入りが決まる。さらに、間質に漏れた水はリンパ管が回収している。このどこかが崩れると浮腫になるんだ。
医学生医学生
だとすると、機序は静水圧が上がる、膠質浸透圧が下がる、あとはリンパが詰まる、の3つでしょうか。
ドクタードクター
惜しい、もう一つある。血管透過性の亢進だ。炎症やアレルギー、熱傷で血管の壁から水や蛋白が漏れやすくなる。静水圧の上昇、膠質浸透圧の低下、透過性の亢進、リンパ還流障害の4つで整理しよう。そして重力の影響で、全身性の浮腫でも立ったり座ったりしている人ではまず下肢に目立つ。では妊娠はどれに当たるかな。
医学生医学生
産婦人科の講義で、妊娠中は循環血漿量が増えると習いました。それで静水圧が上がる、ということですか。
ドクタードクター
そう。妊娠後期には循環血漿量が非妊娠時の約1.4〜1.5倍にもなり、ホルモンの作用でNaと水も貯留しやすい。加えて大きくなった子宮が下大静脈や骨盤内の静脈を圧迫して下肢からの静脈還流が妨げられる。だから妊娠後期の下肢浮腫は生理的にもよくみられるんだ。
医学生医学生
低栄養はアルブミンが下がって膠質浸透圧が低下するパターンですね。小児科の講義でクワシオルコルのお腹が膨れた写真を見ました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。蛋白質の摂取不足でアルブミン合成が落ち、血管内に水を保持できなくなる。クワシオルコルの浮腫はまさにその典型だ。腎不全はどうだろう。
医学生医学生
GFRが落ちてNaと水が出せなくなり、体液量が増えて静水圧が上がる、と考えました。
ドクタードクター
正解。さらにネフローゼ症候群のように高度の蛋白尿を伴えば、低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下も重なる。下肢静脈血栓症、いわゆる深部静脈血栓症はどうかな。
医学生医学生
血栓で静脈がふさがるので、そこより末梢の静脈圧が上がって、局所の静水圧が上昇するんですね。
ドクタードクター
そうだね。典型的には片側性の下肢の腫脹、疼痛、発赤や皮膚色の変化を示す。左右差のある下肢浮腫をみたら、まずこれを疑う習慣をつけよう。血栓が飛べば肺血栓塞栓症につながるから見逃せない。
医学生医学生
残るは本態性高血圧症ですね。でも正直、血圧が高いなら血管内の圧も高くて、水が押し出されそうな気がします。
ドクタードクター
そこが今回の落とし穴だ。高血圧で上がっているのは動脈側の圧なんだ。動脈から毛細血管に至る途中には細動脈という抵抗血管があって、ここで圧が大きく減衰する。だから毛細血管内の静水圧はほとんど上がらない。しかも本態性高血圧症では体液量の明らかな過剰もない。つまり疾患そのものは浮腫の原因にならないんだ。これが正解になる。
医学生医学生
なるほど、静水圧で問題になるのは動脈圧ではなく、毛細血管や静脈側の圧なんですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。ただし臨床では注意点がある。長期の高血圧で腎硬化症による腎機能障害や、高血圧性心疾患から心不全をきたせば浮腫は出うる。また降圧薬のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は細動脈を拡張させるため、さっきの抵抗がゆるんで毛細血管圧が上がり、副作用として下腿浮腫を起こすことがある。
医学生医学生
循環器内科の実習で、アムロジピンを飲んでいる患者さんのすねを押して圧痕を確認しました。あれは薬の副作用だったのかもしれません。
ドクタードクター
十分ありうるね。高血圧の患者さんに浮腫をみたら、腎障害や心不全の合併、薬剤性を考えるのが基本だ。ちなみに原発性アルドステロン症ではNa貯留があっても、アルドステロン・エスケープ現象により浮腫は通常みられない。これもセットで覚えておくといい。
医学生医学生
浮腫の診察で、押した凹みの戻り方にも違いがあるんですよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。多くの浮腫は押すと凹みが残る圧痕性浮腫だけど、甲状腺機能低下症の粘液水腫や慢性のリンパ浮腫では凹みが残りにくい非圧痕性浮腫になる。低アルブミン血症による浮腫は凹みが比較的早く戻るとされる。分布、左右差、圧痕の性状を組み合わせると、浮腫の原因がかなり絞り込めるよ。

まとめ

浮腫は間質に水分が過剰にたまった状態で、毛細血管内静水圧の上昇、血漿膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ還流障害の4つの機序で整理できます。妊娠は循環血漿量の増加と子宮による静脈圧迫、低栄養は低アルブミン血症、腎不全はNa・水の排泄障害、深部静脈血栓症は静脈還流障害によって下肢浮腫をきたします。一方、本態性高血圧症で上昇するのは動脈側の圧であり、細動脈の抵抗で減衰するため毛細血管内静水圧はほとんど上がらず、疾患そのものは浮腫の原因になりません。高血圧患者に浮腫をみた場合は、腎障害や心不全の合併、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の副作用などを考えます。浮腫を機序から理解しておくと、分布や左右差、圧痕の性状と合わせて原因疾患を論理的に鑑別できるようになります。

解答・解説

正解はdです

浮腫とは、間質(細胞と細胞の間の組織)に水分が過剰にたまった状態である。毛細血管では、血管内から外へ水を押し出す力(毛細血管内の静水圧)と、血管内へ水を引き戻す力(血漿の膠質浸透圧:主にアルブミンによる)のバランスで水の出入りが決まっている(Starlingの法則)。このバランスが崩れるか、組織からの水分回収路であるリンパ流が妨げられると浮腫が生じる。 浮腫の発生機序は次の4つに整理すると理解しやすい。 ①毛細血管内静水圧の上昇:循環血漿量の増加(腎不全、心不全、妊娠など)や静脈還流障害(深部静脈血栓症、静脈瘤など) ②血漿膠質浸透圧の低下:低アルブミン血症(低栄養、ネフローゼ症候群、肝硬変など) ③血管透過性の亢進:炎症、アレルギー、熱傷など ④リンパ還流障害:リンパ節郭清後、フィラリア症など 重力の影響で水分は下の方にたまりやすいため、全身性の浮腫も立位・座位の多い人ではまず下肢に目立つ。本問では各選択肢が上記のどの機序に当てはまるかを考えればよい。妊娠、低栄養、腎不全、下肢静脈血栓症はいずれも明確な機序で下肢浮腫をきたす。一方、本態性高血圧症は、動脈側の血圧が高い状態であり、細動脈での抵抗により毛細血管の静水圧はほとんど上がらず、体液量の明らかな過剰も伴わないため、それ自体では浮腫の原因とならない。

選択肢考察

  1. ×a.  妊娠

    妊娠中は胎盤への血流を確保するために循環血漿量が大きく増加し(妊娠後期には非妊娠時の約1.4〜1.5倍)、エストロゲンやアルドステロンなどの作用で体内にNaと水が貯留しやすくなる。さらに、大きくなった子宮が下大静脈や骨盤内の静脈を圧迫して下肢からの静脈還流が妨げられ、下肢の静脈圧が上昇する。そのため妊娠後期には生理的にも下肢浮腫がよくみられる。なお、浮腫そのものは妊娠高血圧症候群の診断基準には含まれないが、急激な体重増加を伴う浮腫には注意が必要である。

  2. ×b.  低栄養

    蛋白質やエネルギーの摂取が不足すると、肝臓でのアルブミン合成が低下し、さらに体の蛋白質がエネルギー源として分解されるため低アルブミン血症となる。アルブミンは血漿膠質浸透圧の大部分を担っているため、その低下により血管内に水を保持できなくなり、水分が間質へ移動して浮腫が生じる。重度の蛋白質欠乏による浮腫はクワシオルコル(kwashiorkor)の特徴でもある。

  3. ×c.  腎不全

    腎機能が低下すると糸球体濾過量が減少し、Naと水を尿中に十分排泄できなくなる。その結果、体液量(循環血漿量)が増加し、毛細血管内の静水圧が上昇して浮腫が生じる。高度の蛋白尿を伴う腎疾患(ネフローゼ症候群など)では、低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下も加わる。

  4. ○d.  本態性高血圧症

    本態性高血圧症は、明らかな原因疾患を特定できない高血圧で、高血圧患者の大部分(約9割)を占める。血圧の上昇は動脈側の現象であり、細動脈の抵抗で圧が減衰するため毛細血管内の静水圧はほとんど上昇しない。また体液量の明らかな増加もないため、本態性高血圧症そのものは浮腫の原因とならない。ただし、長期の高血圧で腎硬化症による腎機能障害や高血圧性心疾患による心不全をきたせば浮腫が出現しうるほか、降圧薬のうちジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は細動脈を拡張させて毛細血管圧を上げ、副作用として下腿浮腫を起こすことがある。これらは合併症や薬剤による二次的なものであり、疾患そのものによる浮腫ではない。

  5. ×e.  下肢静脈血栓症

    下肢の深部静脈に血栓が生じると(深部静脈血栓症:DVT)、そこから中枢側への静脈還流が妨げられ、血栓より末梢の静脈圧と毛細血管内静水圧が上昇して浮腫が生じる。典型的には片側性の下肢の腫脹・疼痛・発赤や皮膚色の変化を示し、左右差のある下肢浮腫をみたときは本症を疑う。血栓が遊離すると肺血栓塞栓症を起こしうるため重要である。

浮腫の分布による鑑別

・全身性浮腫:心不全、腎不全・ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養、甲状腺機能低下症(粘液水腫)、薬剤性(カルシウム拮抗薬、NSAIDs、ステロイド、チアゾリジン薬など)、妊娠 ・局所性浮腫:深部静脈血栓症、下肢静脈瘤、リンパ浮腫、炎症(蜂窩織炎など)、血管性浮腫(Quincke浮腫) 片側性の下肢浮腫は局所の原因(とくに深部静脈血栓症)をまず考える。

圧痕性浮腫と非圧痕性浮腫

・圧痕性浮腫(pitting edema):指で押すと凹みが残る。心・腎・肝・低栄養・静脈性など多くの浮腫が該当する。 ・非圧痕性浮腫(non-pitting edema):凹みが残りにくい。甲状腺機能低下症(ムコ多糖類の沈着)や慢性のリンパ浮腫でみられる。 ・低アルブミン血症による浮腫は、指を離すと比較的早く凹みが戻る(fast edema)とされる。

本態性高血圧症と浮腫

本態性高血圧症自体は浮腫をきたさないが、浮腫を伴う高血圧をみたら、腎疾患(腎実質性高血圧)、心不全の合併、カルシウム拮抗薬の副作用などを考える。なお原発性アルドステロン症では、Na貯留があっても「アルドステロン・エスケープ現象」により浮腫は通常みられない。

POINT

・浮腫の4大機序:毛細血管内静水圧の上昇、血漿膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ還流障害。 ・妊娠:循環血漿量増加+子宮による静脈圧迫。低栄養:低アルブミン血症。腎不全:Na・水の排泄障害。深部静脈血栓症:静脈還流障害(片側性)。 ・本態性高血圧症そのものは浮腫をきたさない。浮腫があれば腎障害・心不全の合併や、カルシウム拮抗薬の副作用を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。