StudyMed医師国家試験

吸って降りてくる腫瘤はどこから来た?―横隔膜と臓器の位置関係で解く腹部触診

第107回医師国家試験 C問題 第8問

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第107回 C問題 第8問

腹部触診で呼吸に応じて移動する腫瘤はどれか。

  1. a.膵嚢胞
  2. b.胆嚢癌
  3. c.腹部大動脈瘤
  4. d.腹膜偽粘液腫
  5. e.Krukenberg腫瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腹部腫瘤の触診で「呼吸性移動」があるかどうかから、腫瘤の由来臓器を推定する問題だ。カギは横隔膜との位置関係。まず、呼吸で腹部の臓器が動く仕組みから考えてみよう。
医学生医学生
吸気で横隔膜が収縮して下がるので、その下にある臓器が押し下げられる、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。横隔膜の直下にあって、横隔膜に接していたり靱帯でつながっていたりする臓器、つまり肝臓・胆嚢・脾臓などは、吸気で下へ、呼気で上へ動く。だから深吸気をさせると、触診している手の方に腫瘤が降りてくるように触れるんだ。
医学生医学生
OSCEの腹部診察の練習で、深呼吸してもらいながら肝臓の辺縁を触れる練習をしました。あれも同じ原理ですね。
ドクタードクター
まさにそう。では選択肢の中で、横隔膜直下の臓器に由来するものはどれだろう。
医学生医学生
胆嚢癌だと思います。胆嚢は肝臓の下面にくっついているので、肝臓と一緒に動くはずです。
ドクタードクター
正解。胆嚢は肝下面の胆嚢窩に付着していて、肝臓と一体となって上下する。胆嚢癌で腫大した胆嚢は、右季肋部で呼吸に合わせて動く腫瘤として触れるんだ。では、ほかの選択肢がなぜ動かないかも見ていこう。まず膵嚢胞は?
医学生医学生
膵臓も上腹部にあるので、少しは動きそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのも無理はないね。でも膵臓は後腹膜臓器で、後腹壁に固定されている。膵嚢胞が大きくなれば上腹部に腫瘤として触れることはあるけれど、横隔膜の動きには連動しにくいから、呼吸性移動は基本的にみられない。
医学生医学生
腹部大動脈瘤も後腹膜で、脊椎の前に沿って走っているから固定されている、ということですね。
ドクタードクター
そう。腹部大動脈瘤は臍周囲から心窩部に触れる「拍動性」の腫瘤が特徴で、呼吸では動かない。腫瘤を触れたら拍動の有無も必ず確認する習慣をつけよう。次は腹膜偽粘液腫だ。
医学生医学生
病理の講義で、虫垂の粘液性腫瘍が破れてゼリー状の粘液が腹腔内に広がる病気だと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。粘液が腹膜全体に広がり、周囲の臓器や腹壁と癒着して固定されるから、呼吸性移動は示さない。臨床的には腫瘤というより、腹部膨満で気づかれることが多い。最後にKrukenberg腫瘍はどうかな。
医学生医学生
胃癌などが卵巣に転移したもので、印環細胞が特徴でしたね。卵巣は骨盤の中だから、横隔膜からは遠すぎます。
ドクタードクター
その通り。骨盤内臓器の腫瘤は下腹部に触れ、呼吸の影響はほとんど受けない。つまり「横隔膜直下で横隔膜に連動する臓器か、後腹膜や骨盤に固定された臓器か」で整理すれば解けるわけだ。
医学生医学生
じゃあ「後腹膜臓器は全部動かない」と覚えておけばいいですか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だね。腎臓は後腹膜臓器だけれど横隔膜に接しているので、呼吸でわずかに上下する。遊走腎や腎腫瘍では移動を触れることもある。一般化しすぎず、臓器ごとの位置関係で理解しておこう。
医学生医学生
胆嚢の触診といえば、Courvoisier徴候もありましたよね。
ドクタードクター
いいつながりだ。閉塞性黄疸があって、痛みのない腫大胆嚢を触れる所見で、膵頭部癌や遠位胆管癌など、胆嚢管合流部より下流の悪性閉塞を示唆する。胆嚢癌そのものは胆石の合併が多く、高齢女性に多い。進行すると右季肋部の腫瘤や黄疸で見つかることがある。
医学生医学生
腫瘤を触れたら、部位・大きさ・硬さ・表面・圧痛・可動性・拍動、そして呼吸性移動まで確認する、ということですね。
ドクタードクター
その通り。脾腫の触診でも、右側臥位で深吸気させて降りてくる脾下極を触れる。呼吸性移動は「どの臓器から来たか」を教えてくれる、ベッドサイドで使える大切な手がかりなんだ。

まとめ

吸気時に横隔膜が下降すると、横隔膜直下の肝臓・胆嚢・脾臓などは一緒に下方へ移動するため、これらに由来する腫瘤は呼吸性移動を示します。胆嚢は肝下面に付着して肝臓と一体に動くので、胆嚢癌による腫瘤は右季肋部で呼吸に応じて移動します。一方、膵嚢胞や腹部大動脈瘤のような後腹膜に固定された病変、腹膜に広く癒着する腹膜偽粘液腫、骨盤内のKrukenberg腫瘍は呼吸性移動を示しにくく、腹部大動脈瘤では拍動性が鑑別の決め手です。ただし腎臓のように後腹膜臓器でも呼吸でわずかに動く例外があるため、臓器の位置関係で理解することが大切です。腫瘤の部位・硬さ・可動性・拍動・呼吸性移動を系統的に確認する習慣は、画像検査の前に由来臓器を推定する臨床力の基盤になります。

解答・解説

正解はbです

腹部腫瘤を触れたとき、その腫瘤が呼吸に合わせて上下に動くかどうかは、腫瘤がどの臓器に由来するかを推定する重要な手がかりになる。 吸気時には横隔膜が収縮して下降し、呼気時には弛緩して挙上する。横隔膜の直下にあり、横隔膜に接して(あるいは靱帯で結ばれて)いる臓器、すなわち肝臓・胆嚢・脾臓などは、この横隔膜の上下運動に引きずられて吸気時に下方へ移動する。したがって、これらの臓器から生じた腫瘤は、深吸気で触診している手の方へ降りてくるように触れる。一方、後腹膜に固定された臓器(膵臓・腹部大動脈など)や、横隔膜から離れた骨盤内の臓器(卵巣・子宮など)、腹膜に広く癒着・播種した病変は、横隔膜運動の影響をほとんど受けないため、呼吸性移動を示さない。 本問の選択肢のうち、横隔膜直下の肝臓に付着した臓器に由来するのは胆嚢癌のみであり、これが呼吸性移動を示す腫瘤である。

選択肢考察

  1. ×a.  膵嚢胞

    膵臓は後腹膜臓器であり、後腹壁に固定されている。膵嚢胞(仮性嚢胞や膵管内乳頭粘液性腫瘍〈IPMN〉などの嚢胞性病変)は大きくなると上腹部に腫瘤として触れることがあるが、横隔膜の上下運動に連動しないため、呼吸性移動はみられない。

  2. ○b.  胆嚢癌

    胆嚢は肝臓下面の胆嚢窩に付着しており、肝臓と一体となって動く。肝臓は横隔膜直下にあるため、吸気時に横隔膜が下降すると肝臓・胆嚢も下方へ押し下げられる。したがって、胆嚢癌による腫瘤は右季肋部で呼吸に応じて上下に移動する腫瘤として触知される。胆嚢癌で胆嚢が腫大して触れる所見は、閉塞性黄疸とともに無痛性の胆嚢腫大を触れるCourvoisier徴候としても知られる。

  3. ×c.  腹部大動脈瘤

    腹部大動脈は後腹膜腔を脊椎の前面に沿って走行し、固定されている。腹部大動脈瘤は臍周囲〜心窩部に拍動性腫瘤として触れるのが特徴であるが、呼吸による移動はない。拍動性の有無が鑑別のポイントとなる。

  4. ×d.  腹膜偽粘液腫

    腹膜偽粘液腫は、主に虫垂(ほかに卵巣など)の粘液産生腫瘍が破綻し、ゼリー状の粘液が腹腔内に広く貯留・増生する病態である。腹膜全体にびまん性に広がって周囲臓器や腹壁と癒着し、臓器を圧排するため、腫瘤は固定されており呼吸性移動は示さない。腹部膨満として気付かれることが多い。

  5. ×e.  Krukenberg腫瘍

    Krukenberg腫瘍は、胃癌などの消化管癌が卵巣に転移したもので、組織学的には印環細胞を含むことが特徴である。卵巣は骨盤腔内にあり横隔膜から離れているため、腫瘤は下腹部に触れ、呼吸に伴う移動はみられない。

呼吸性移動の有無による腹部腫瘤の鑑別

・呼吸性移動あり: 肝臓、胆嚢、脾臓など横隔膜直下の臓器に由来する腫瘤。胃(特に上部)や横行結腸も横隔膜に近く、ある程度移動することがある。腎臓は後腹膜臓器であるが、横隔膜に接するため呼吸でわずかに上下し、遊走腎や腎腫瘍では移動を触れることがある。 ・呼吸性移動なし: 膵臓、腹部大動脈、十二指腸、上行・下行結腸など後腹膜に固定された臓器の腫瘤、骨盤内臓器(卵巣、子宮、膀胱)の腫瘤、腹膜播種や癒着を伴う病変。

触診時の観察ポイント

腫瘤を触れたら、部位、大きさ、硬さ、表面の性状(平滑か凹凸か)、圧痛、可動性(用手的な可動性と呼吸性移動)、拍動の有無を確認する。深吸気をさせながら触診すると、肝臓や胆嚢の辺縁が指先に降りてくるのを触れやすい。脾腫の触診も、右側臥位で深吸気時に左季肋下へ降りてくる脾下極を触れる方法が用いられる。

関連疾患の整理

・胆嚢癌: 胆石の合併が多く、高齢女性に多い。進行すると右季肋部腫瘤、黄疸を呈する。 ・Courvoisier徴候: 閉塞性黄疸があり、無痛性に腫大した胆嚢を触れる所見。膵頭部癌や遠位胆管癌など、胆嚢管合流部より下流の悪性閉塞を示唆する。 ・腹膜偽粘液腫: 虫垂の低異型度粘液性腫瘍が原因の多くを占める。 ・Krukenberg腫瘍: 胃癌(特に印環細胞癌)の卵巣転移が代表的。

POINT

・横隔膜直下の臓器(肝臓・胆嚢・脾臓)に由来する腫瘤は呼吸性移動を示す。胆嚢は肝臓と一体となって動く。 ・後腹膜臓器(膵臓・大動脈など)、骨盤内臓器(卵巣など)、腹膜にびまん性に癒着する病変は呼吸性移動を示さない。 ・腹部大動脈瘤は拍動性腫瘤として触れる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。