StudyMed医師国家試験

Naの数値は「水」を映す鏡―体液量で読み解く低ナトリウム血症

第107回医師国家試験 B問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第36問

低ナトリウム血症がみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肝硬変症
  2. b.Addison病
  3. c.中枢性尿崩症
  4. d.Cushing症候群
  5. e.原発性アルドステロン症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、低ナトリウム血症をきたす疾患を選ぶ問題だ。丸暗記で挑むと迷いやすいけれど、「血清Na濃度はNaの量ではなく、Naに対する水の量を映している」という一点を押さえると、ぐっと整理しやすくなる。さらに細胞外液量が減っているのか、正常なのか、増えているのかで分けて考えてみよう。
医学生医学生
低ナトリウム血症というと、Naが体から抜けている状態だと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるんだけど、そうとは限らないんだ。Naの総量が増えていても、それ以上に水がたまれば濃度は下がる。逆にNaが失われても、水も同じだけ失われれば濃度は変わらない。だから「Na喪失が主体か、水過剰が主体か」を体液量から推定するのが定石なんだ。
医学生医学生
腎臓内科の講義で、低Na血症は体液量で3つに分けると習いました。脱水型、正常型、浮腫型ですね。
ドクタードクター
その通り。脱水型はNaが水以上に失われる病態で、鉱質コルチコイド欠乏、利尿薬、嘔吐・下痢などがある。体液量ほぼ正常型の代表はSIADHや甲状腺機能低下症。そして浮腫型が肝硬変、心不全、ネフローゼ症候群だ。では選択肢の肝硬変はどこに入るかな。
医学生医学生
腹水や浮腫があるので浮腫型です。でも体液が多いのに、どうしてADHが増えるのかがよくわかりません。
ドクタードクター
いい疑問だね。カギは「有効循環血液量」という考え方だ。肝硬変では門脈圧が上がり、NOなどで内臓の血管が拡張する。さらに低アルブミン血症で水が血管外へ漏れ、腹水や浮腫になる。体全体の水は多いのに、実際に血管内を流れて臓器を灌流している血液は足りない、と体は感じてしまうんだ。
医学生医学生
それで、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系や交感神経が働くわけですね。
ドクタードクター
そう。加えて、浸透圧とは関係なくADHが分泌される非浸透圧性ADH分泌が起こる。Naも貯留するけれど、水がそれを上回ってたまるので、希釈性の低ナトリウム血症になる。腹水治療の利尿薬で悪化することもあるし、低Na血症は肝硬変の予後不良因子で、肝性脳症の増悪因子でもあるんだ。消化器内科を回るときはぜひ意識してほしい。
医学生医学生
Addison病は脱水型ですね。アルドステロンが足りないのでNaが再吸収されず、Kも排泄されない、と覚えています。
ドクタードクター
そこまではばっちり。もう一つ大事なのが、コルチゾール不足の影響だ。コルチゾールにはADH分泌を抑える働きがあるから、不足するとADHが増えて水がたまり、低Naがさらに進む。原発性の副腎障害なのでアルドステロンとコルチゾールの両方が欠け、低Na・高K・脱水に加えて、ACTH上昇による色素沈着、低血糖、好酸球増多もみられる。
医学生医学生
では、中枢性尿崩症もホルモンの病気なので低Naになるのかと思いましたが、どうでしょうか。
ドクタードクター
ここは方向が逆なんだ。中枢性尿崩症はADHが足りないから、集合管で水を再吸収できず、薄い尿が大量に出る。失うのは水だから、Naはむしろ濃縮される側だ。口渇中枢が正常で自由に飲水できれば正常上限付近に保たれるけれど、意識障害などで飲めないと高張性脱水となり、高ナトリウム血症になる。
医学生医学生
Cushing症候群と原発性アルドステロン症は、鉱質コルチコイド作用が過剰になる側なので、Naは貯留する方向ですね。
ドクタードクター
その通り。原発性アルドステロン症はアルドステロンの自律的な過剰分泌で、高血圧・低K血症・代謝性アルカローシス、レニン低値をきたす。Cushing症候群では、大量のコルチゾールが腎臓の11β-HSD2の処理能力を超えて鉱質コルチコイド受容体に結合し、アルドステロン様の作用を示す。どちらも血清Naは正常から高めで、低Naにはならない。
医学生医学生
原発性アルドステロン症では、Naがたまり続けて高Na血症や浮腫が目立ちそうですが、そうでもないのですか。
ドクタードクター
鋭いね。Na貯留がある程度進むと、腎臓がNaを尿に出して釣り合いを取るアルドステロンエスケープ現象が働く。だから著しい高Na血症や浮腫はきたしにくく、血清Naは正常上限付近にとどまることが多い。主役はあくまで高血圧と低K血症なんだ。
医学生医学生
まとめると、正解は肝硬変とAddison病。浮腫で有効循環血液量が減る病態と、鉱質コルチコイドが欠乏する病態ですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、続発性副腎皮質機能低下症も押さえておこう。下垂体の障害ではアルドステロンは比較的保たれるから高Kや色素沈着は目立たないけれど、コルチゾール不足でADHが増えて低Naをきたしうる。それから、脂質異常症や高蛋白血症による偽性低Na血症、高血糖による高張性低Na血症のように、見かけ上の低Naも鑑別に入れておきたい。
医学生医学生
治療で一番気をつけることは何でしょうか。CBTの問題で浸透圧性脱髄症候群が出た気がします。
ドクタードクター
まさにそれだ。慢性の低Na血症を急速に補正すると、橋中心髄鞘崩壊症などの浸透圧性脱髄症候群を起こす危険がある。補正は24時間で8〜10 mEq/L以内を目安にする。数値を見たらすぐ補正、ではなく、まず体液量と原因を考え、補正速度に気を配る。これが臨床での基本姿勢だよ。

まとめ

血清Na濃度はNaの総量ではなく「Naに対する水の量」を反映するため、低ナトリウム血症は細胞外液量(減少・ほぼ正常・増加)で整理すると理解しやすくなります。肝硬変では有効循環血液量の減少から非浸透圧性ADH分泌が起こり、Na貯留を上回る水貯留による希釈性低Na血症をきたします。Addison病ではアルドステロン欠乏によるNa喪失とコルチゾール欠乏によるADH増加が重なり、低Na・高K・脱水を呈します。一方、中枢性尿崩症は水を失う病態で高Na血症に傾き、原発性アルドステロン症やCushing症候群は鉱質コルチコイド作用過剰により低K・高血圧が主体で、血清Naは正常〜高めです。慢性低Na血症の急速補正は浸透圧性脱髄症候群を招くため、病態の理解に基づいた原因検索と慎重な補正が臨床の基本となります。

解答・解説

正解はa, bです

血清ナトリウム(Na)濃度の基準値はおおよそ135〜145 mEq/Lで、135 mEq/L未満を低ナトリウム血症という。血清Na濃度は、体内のNaの量そのものよりも「Naに対する水の量」を反映する。そのため低ナトリウム血症を考えるときは、Naの喪失と水の過剰のどちらが主体かを、細胞外液量(体液量)の状態から整理するとわかりやすい。 ・細胞外液量が減っている(脱水):Naが水以上に失われている状態である。原因には、鉱質コルチコイド欠乏(Addison病)、利尿薬、嘔吐・下痢、塩類喪失性腎症などがある。 ・細胞外液量がほぼ正常:SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症(糖質コルチコイド欠乏)、多量の水摂取などである。 ・細胞外液量が増えている(浮腫):肝硬変、心不全、ネフローゼ症候群などである。実際に血管内を流れて臓器を灌流している血液の量(有効循環血液量)が減るため、ADH(抗利尿ホルモン、バソプレシン)の分泌が促され、Naの増加を上回って水がたまる(希釈性の低ナトリウム血症)。 これに対して、ADHの作用が不足する疾患(尿崩症)や、鉱質コルチコイドの作用が過剰になる疾患(原発性アルドステロン症、Cushing症候群)では、血清Naは正常から高めになる。低ナトリウム血症にはならない。

選択肢考察

  1. ○a.  肝硬変症

    低ナトリウム血症がみられる。非代償期の肝硬変では、門脈圧の上昇と一酸化窒素(NO)などによる内臓の血管拡張、低アルブミン血症による腹水や浮腫によって、有効循環血液量が減る。これを代償しようとしてレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系と交感神経が活性化し、さらに浸透圧とは関係なくADHの分泌が増える(非浸透圧性ADH分泌)。その結果、体内のNaの総量は増えるが、それを上回って水がたまるため、体液量が過剰な状態での希釈性低ナトリウム血症となる。腹水の治療で使う利尿薬によって悪化することもある。低ナトリウム血症は肝硬変の予後不良因子であり、肝性脳症を悪化させる因子にもなる。

  2. ○b.  Addison病

    低ナトリウム血症がみられる。Addison病は原発性の慢性副腎皮質機能低下症で、副腎皮質そのものが障害されるため、コルチゾールとアルドステロンの両方が不足する。アルドステロンが不足すると、遠位尿細管と集合管でNaの再吸収とKの排泄が減り、低ナトリウム血症・高カリウム血症・脱水(細胞外液量の減少)が起こる。さらにコルチゾールにはADHの分泌を抑える働きがあるため、コルチゾールが不足するとADHが増え、水がたまって低ナトリウム血症がさらに進む。ほかに、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の上昇による皮膚や粘膜の色素沈着、低血糖、好酸球の増加などもみられる。

  3. ×c.  中枢性尿崩症

    低ナトリウム血症はみられない。中枢性尿崩症では、視床下部または下垂体後葉の障害によってADHの分泌が低下する。集合管で水を再吸収できなくなるため、薄い尿が大量に出る(低張性多尿)。口渇中枢が正常で水を自由に飲める場合、血清Naは正常上限付近に保たれることが多い。しかし意識障害や口渇感の障害などで水を十分に飲めないと、高張性脱水となり高ナトリウム血症をきたす。

  4. ×d.  Cushing症候群

    低ナトリウム血症はみられない。Cushing症候群では、コルチゾールが慢性的に過剰になる。コルチゾールは鉱質コルチコイド受容体にも結合できる。通常は腎臓の11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)がコルチゾールを不活性なコルチゾンに変えて、この結合を防いでいる。しかしコルチゾールが大量にあるとこの酵素の処理能力を超え、アルドステロンのような作用が現れる。そのためNaの貯留・高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたすことがあり、血清Naは正常から軽く高い程度になる。

  5. ×e.  原発性アルドステロン症

    低ナトリウム血症はみられない。副腎からアルドステロンが自律的に過剰に分泌されるため、集合管などでNaの再吸収とKの排泄が増え、高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたす。レニンは抑えられて低値になる。ただしNaの貯留がある程度進むと、腎臓がNaを尿に出して釣り合いを取る仕組み(アルドステロンエスケープ現象)が働く。そのため著しい高ナトリウム血症や浮腫はきたしにくく、血清Naは正常上限付近にとどまることが多い。

低ナトリウム血症の分類(細胞外液量による)

・細胞外液量が減少:腎臓からの喪失(Addison病などの鉱質コルチコイド欠乏、利尿薬、中枢性塩類喪失症候群)と、腎臓以外からの喪失(嘔吐・下痢、熱傷など)がある。尿中Na濃度は、腎臓からの喪失では高く、腎臓以外からの喪失では低い。 ・細胞外液量がほぼ正常:SIADH、甲状腺機能低下症、糖質コルチコイド欠乏(続発性副腎皮質機能低下症)、心因性多飲、ビール多飲症(食事が少なく溶質の摂取が少ない)など ・細胞外液量が増加:肝硬変、心不全、ネフローゼ症候群、腎不全

見かけ上の低ナトリウム血症

・偽性低ナトリウム血症:脂質異常症や高蛋白血症(多発性骨髄腫など)のとき、測定法によっては血清Naが見かけ上低く出る。血漿浸透圧は正常である。 ・高血糖:糖によって血漿浸透圧が上がり、細胞内から水が移動するため、血清Naが下がる(高張性低ナトリウム血症)。

副腎疾患と電解質

・Addison病(原発性):アルドステロンとコルチゾールがともに低下する。低Na、高K、色素沈着がみられる。 ・続発性副腎皮質機能低下症(下垂体の障害):アルドステロンは比較的保たれる。高Kは目立たず色素沈着もないが、コルチゾールの不足によりADHが増えて低Naをきたしうる。 ・原発性アルドステロン症:高血圧と低Kがみられ、レニンは低値である。血清Naは正常上限付近になる。 ・Cushing症候群:高血圧、低Kをきたしうる。血清Naは正常から軽度高値である。

注意

慢性の低ナトリウム血症を急速に補正すると、浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症など)を起こす危険がある。補正速度は24時間で8〜10 mEq/L以内を目安とする。

POINT

・浮腫をきたす疾患(肝硬変、心不全、ネフローゼ症候群)では、有効循環血液量が減ってADHが増えるため、希釈性の低ナトリウム血症になる。 ・Addison病は、アルドステロン欠乏によるNaの喪失と、コルチゾール欠乏によるADHの増加が重なって、低Na・高Kをきたす。 ・尿崩症は水を失う病態なので、飲水が不十分だと高ナトリウム血症になる。 ・鉱質コルチコイド作用が過剰になる疾患(原発性アルドステロン症、Cushing症候群)では、低Kと高血圧が主体で、血清Naは正常から高めである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。