産声とともに切り替わる血流―胎児循環の3つの近道と出生後の大転換
第107回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
胎児期から新生児期にかけての循環生理で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.臍帯静脈血は臍帯動脈血より酸素分圧が低い。
- b.静脈管の血流は左心房に流入する。
- c.卵円孔は胎児期には右→左シャントである。
- d.肺血管抵抗は出生後,急速に上昇する。
- e.動脈管は出生後,血中酸素分圧の上昇に反応して収縮する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児は胎盤でガス交換を行うため、臍帯静脈血は胎児の血管の中で最も酸素分圧が高く、全身を回った後の血液を胎盤へ戻す臍帯動脈血はそれより低くなります。静脈管は臍帯静脈と下大静脈を結んで肝臓を迂回させる短絡路で、その血液は右心房に入り、肺血管抵抗が高いことによる圧差で卵円孔と動脈管はいずれも右→左シャントとなります。出生後は肺の拡張と酸素分圧の上昇で肺血管抵抗が急速に低下し、左心房圧の上昇で卵円孔が閉じ、動脈管は酸素分圧の上昇とPGE2の減少によって収縮します。臨床では、早産児の動脈管開存症にインドメタシンなど、動脈管依存性の先天性心疾患にPGE1製剤を用い、肺血管抵抗が下がらない新生児遷延性肺高血圧症にも注意が必要です。短絡の向きと出生時の変化を圧と抵抗で理解しておくことは、新生児のチアノーゼや先天性心疾患を考えるうえでの土台になります。
解答・解説
正解はc, eです
胎児は肺で呼吸をしていないので、ガス交換は胎盤で行われる。胎児循環は、胎盤で酸素化された血液をなるべく効率よく脳や心筋に届け、働いていない肺にはほとんど血液を流さない仕組みになっている。これを可能にしているのが、胎児期にだけ存在する次の3つの短絡路(シャント)である。 ・静脈管(アランチウス管):臍帯静脈と下大静脈を結び、肝臓を迂回させる。 ・卵円孔:右心房と左心房をつなぐ心房中隔の孔である。 ・動脈管(ボタロー管):肺動脈と下行大動脈を結ぶ。 血液は次の順に流れる。胎盤で酸素を受け取った血液は臍帯静脈を通って胎児に入る。静脈管から下大静脈を経て右心房に入り、その多くは卵円孔を通って左心房・左心室・上行大動脈へ向かい、脳や冠動脈に送られる。上大静脈から戻った酸素の少ない血液は主に右心室から肺動脈へ出るが、胎児期は肺血管抵抗が非常に高いため、その大部分は動脈管を通って下行大動脈へ流れる。下半身を回った血液は、内腸骨動脈から出る左右の臍帯動脈を通って胎盤へ戻る。 出生して呼吸が始まると、この流れは大きく変わる。肺が広がり肺胞の酸素分圧が上がることで肺血管抵抗が急に下がり、肺血流が増える。胎盤循環がなくなることで体血管抵抗は上がる。その結果、左心房圧が右心房圧を上回って卵円孔は閉じ、動脈管は酸素分圧の上昇とプロスタグランジンの減少によって収縮する。本問では、この胎児期の短絡の向きと出生後の変化を正しく理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 臍帯静脈血は臍帯動脈血より酸素分圧が低い。
誤り。臍帯静脈は胎盤で酸素化された血液を胎児に届ける血管なので、胎児の血管の中で最も酸素分圧が高い(おおむね30 mmHg前後)。臍帯動脈は胎児の全身を回った後の酸素が少ない血液を胎盤へ戻す血管で、酸素分圧はそれより低い(おおむね20 mmHg前後)。成人の体循環では「動脈血は酸素が多く、静脈血は少ない」が、臍帯では血管の名前が胎児の心臓から見た流れの向き(心臓へ戻るか、心臓から出るか)で付けられているため、関係が逆になる。名前に惑わされないことが大切である。臍帯動脈は2本、臍帯静脈は1本である。
- ×b. 静脈管の血流は左心房に流入する。
誤り。静脈管は臍帯静脈の血液の一部を、肝臓の類洞(肝臓内の毛細血管)を通さずに下大静脈へ流す短絡路である。下大静脈を経て右心房に流れ込み、直接左心房に入ることはない。ただし下大静脈から右心房に入る酸素の多い血液は、下大静脈弁(Eustachian弁)や心房中隔の形によって卵円孔の方へ向きやすく、結果として多くが左心房へ送られる。静脈管は出生後に閉じて静脈管索になる。
- ○c. 卵円孔は胎児期には右→左シャントである。
正しい。胎児期は肺血管抵抗が高く肺から左心房に戻る血液が少ないため、左心房圧は低い。一方で右心房には下大静脈と上大静脈から多くの血液が戻るため、右心房圧は左心房圧より高い。この圧差によって、血液は卵円孔を右心房から左心房へ流れる(右→左シャント)。この流れによって酸素の多い血液が左心系に入り、脳や心筋へ優先的に供給される。出生後は肺血流の増加で左心房への還流が増え、左心房圧が右心房圧を上回る。すると弁状の一次中隔が卵円孔を押さえて機能的に閉じ、その後癒合して卵円窩になる。
- ×d. 肺血管抵抗は出生後,急速に上昇する。
誤り。出生後、肺血管抵抗は急速に低下する。肺胞が空気で広がって肺血管が物理的に伸ばされること、肺胞内の酸素分圧が上がって低酸素による肺血管の収縮が解けること、一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が増えることがその理由である。これにより肺血流は胎児期の数倍に増える。肺血管抵抗がうまく下がらず、胎児循環のような右→左短絡が残って重いチアノーゼを示す状態を、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)という。
- ○e. 動脈管は出生後,血中酸素分圧の上昇に反応して収縮する。
正しい。動脈管の壁の平滑筋は酸素分圧の上昇に反応して収縮する性質をもつ。胎児期は酸素分圧が低いことに加え、胎盤由来のプロスタグランジンE2(PGE2)が多いため、動脈管は開いたままになっている。出生後は呼吸によって血中酸素分圧が上がり、胎盤がなくなることや肺での代謝によってPGE2も減るため、動脈管は収縮して機能的に閉じる(多くは生後数日以内)。その後、組織が線維化して動脈管索になる。この性質は治療にも利用される。動脈管が開いていないと肺血流や体血流を保てない先天性心疾患ではPGE1製剤で動脈管を開いたままにし、早産児の動脈管開存症ではシクロオキシゲナーゼを阻害する薬(インドメタシン、イブプロフェン)で閉鎖を促す。
胎児循環の短絡路と出生後の遺残構造
・臍帯静脈 → 肝円索 ・静脈管(アランチウス管) → 静脈管索 ・卵円孔 → 卵円窩 ・動脈管(ボタロー管) → 動脈管索 ・臍帯動脈 → 臍動脈索(内側臍ヒダ)。近位部は上膀胱動脈として残る。
胎児血の酸素化の特徴
胎児血に多い胎児ヘモグロビン(HbF)は成人ヘモグロビン(HbA)より酸素との親和性が高く、酸素解離曲線は左にずれている。そのため胎児は、母体血より低い酸素分圧でも胎盤で酸素を受け取ることができる。
出生時の循環の変化
1. 呼吸開始 → 肺が広がり酸素分圧が上がる → 肺血管抵抗が低下 → 肺血流が増える 2. 臍帯が結紮される → 胎盤循環がなくなる → 体血管抵抗が上がる 3. 左心房圧が右心房圧を上回る → 卵円孔が機能的に閉じる 4. 酸素分圧の上昇とPGE2の減少 → 動脈管が収縮して閉じる 5. 臍帯静脈からの血流がなくなる → 静脈管が閉じる
臨床との関連
・動脈管依存性の先天性心疾患(肺動脈閉鎖、大動脈縮窄複合、完全大血管転位など)では、PGE1製剤で動脈管を開いたままにする。 ・早産児の動脈管開存症(PDA)では、インドメタシンやイブプロフェンで閉鎖を促す。効果がなければ外科的に結紮する。 ・新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)では、胎児期の右→左短絡が残ってチアノーゼを示す。一酸化窒素吸入療法などを行う。
POINT
・臍帯静脈血(胎盤から胎児へ)は臍帯動脈血(胎児から胎盤へ)より酸素分圧が高い。 ・静脈管は臍帯静脈と下大静脈を結ぶ。その血液は右心房に入る。 ・胎児期の卵円孔と動脈管は、どちらも右→左の短絡である。 ・出生後は肺血管抵抗が急速に低下し、肺血流が増える。 ・動脈管は酸素分圧の上昇とPGE2の減少によって閉じる。PGE1で開いたままにでき、インドメタシンで閉鎖を促せる。
