左右・基部と先端・随意と不随意―対で覚える消化管解剖の落とし穴
第107回医師国家試験 B問題 第34問
国試問題にチャレンジ
成人の解剖で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.左反回神経は鎖骨下動脈を反回する。
- b.食道裂孔部は上門歯列から約40 cmの位置にある。
- c.McBurney圧痛点は虫垂の先端の位置に一致する。
- d.直腸は下腸間膜動脈と内腸骨動脈の血流を受ける。
- e.内肛門括約筋は随意筋である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
右反回神経は右鎖骨下動脈を、左反回神経は大動脈弓(動脈管索)を回るため左のほうが長く、胸部疾患による反回神経麻痺は左側に多くみられます。上門歯列からの距離は食道入口部が約15 cm、気管分岐部付近が約25 cm、食道裂孔部が約40 cmで、内視鏡所見の記載に用いられます。McBurney点は虫垂の基部、Lanz点は虫垂の先端の投影点とされ、直腸は下腸間膜動脈(上直腸動脈)と内腸骨動脈(中・下直腸動脈)の二重支配を受けます。内肛門括約筋は平滑筋で自律神経支配の不随意筋、外肛門括約筋は陰部神経支配の骨格筋で随意筋です。こうした「対になる知識」を臨床での使い道とセットで整理しておくと、引っかけ選択肢に惑わされず、手術合併症や内視鏡所見の理解にも役立ちます。
解答・解説
正解はb, dです
本問は頸部から骨盤までの消化管とその周辺構造について、臨床で使われる解剖学的知識を横断的に確認する問題である。 各選択肢のテーマは次のとおりである。 ・反回神経の走行の左右差(甲状腺・食道・肺の手術や胸部疾患に伴う嗄声で問題となる) ・内視鏡で位置を表すときに用いる、上門歯列(上顎の前歯)からの距離 ・急性虫垂炎の診察で使う圧痛点と、それが虫垂のどの部分を体表に映したものか ・直腸の動脈支配(下腸間膜動脈系と内腸骨動脈系の二重支配) ・肛門括約筋の構成と神経支配(平滑筋か骨格筋か、不随意か随意か) いずれも「左右」「基部と先端」「随意と不随意」といった対になる知識を取り違えさせる選択肢である。正しい組み合わせを正確に覚えておくことが正解への近道となる。
選択肢考察
- ×a. 左反回神経は鎖骨下動脈を反回する。
誤り。鎖骨下動脈を回るのは右反回神経である。反回神経は迷走神経の枝で、胸腔上部で分かれた後に動脈の下をくぐって向きを変え、気管と食道の間の溝(気管食道溝)を上行して喉頭に達する。右は右鎖骨下動脈の下を前から後ろへ回る。左はそれより低い位置で、大動脈弓(動脈管索の外側)の下を前から後ろへ回る。左反回神経は縦隔内の走行が長く、縦隔リンパ節腫大・肺癌・胸部大動脈瘤・食道癌などの影響を受けやすいため、胸部疾患による反回神経麻痺は左側に起こりやすい。
- ○b. 食道裂孔部は上門歯列から約40 cmの位置にある。
正しい。成人の食道は輪状軟骨の下縁(第6頸椎の高さ)から始まり、上門歯列からの距離は約15 cmである。食道の全長は約25 cmで、横隔膜の食道裂孔を通過するのは門歯列から約40 cmの位置になる。食道胃接合部はこの付近からやや肛門側にある。なお気管分岐部の高さは門歯列から約25 cm前後で、食道の第2生理的狭窄部(大動脈弓・左主気管支との交差部)はここに相当する。上部消化管内視鏡の所見は門歯列からの距離で記載されるため、これらの目安は臨床で役に立つ。
- ×c. McBurney圧痛点は虫垂の先端の位置に一致する。
誤り。McBurney点は、臍と右上前腸骨棘を結ぶ線を3等分したときの外側1/3の点で、虫垂の基部(盲腸への付着部)を体表に投影した位置とされる。虫垂の先端の位置は、骨盤内・盲腸の後ろ・回腸の前など人によって大きく異なり、一定の体表点には対応しない。一方、左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3の点であるLanz点は、虫垂先端の投影点とされる。
- ○d. 直腸は下腸間膜動脈と内腸骨動脈の血流を受ける。
正しい。直腸には主に3本の動脈が分布する。上直腸動脈は下腸間膜動脈の終枝で、主に上部の直腸を栄養する。中直腸動脈は内腸骨動脈から直接出る枝である。下直腸動脈は内腸骨動脈の枝である内陰部動脈から分かれ、下部直腸から肛門管を栄養する。このように直腸は腹部大動脈由来の下腸間膜動脈系と、内腸骨動脈系の両方から血流を受ける。静脈もこれに対応しており、上直腸静脈は下腸間膜静脈を経て門脈へ、中・下直腸静脈は内腸骨静脈を経て下大静脈へ流れる。そのため直腸周囲は門脈系と体循環系の吻合部の一つとなっている。
- ×e. 内肛門括約筋は随意筋である。
誤り。内肛門括約筋は直腸壁の内輪筋層(平滑筋)が肛門管の部分で厚くなったもので、自律神経に支配される不随意筋である。安静時の肛門内圧の大部分を担い、便が意識せずに漏れることを防いでいる。直腸に便が入って直腸壁が伸びると、反射的に弛緩する(直腸肛門反射)。これに対して外肛門括約筋は骨格筋(横紋筋)で、陰部神経(S2〜S4)の支配を受ける随意筋であり、排便を意識的に我慢するときに収縮する。
反回神経
迷走神経の枝である。右は右鎖骨下動脈を、左は大動脈弓(動脈管索)を前から後ろへ回り、気管食道溝を上行する。途中で心臓枝・気管枝・食道枝を出し、最後は下喉頭神経となって喉頭に入る。輪状甲状筋(上喉頭神経外枝の支配)を除くすべての内喉頭筋を支配するほか、声門より下の喉頭粘膜の感覚も担う。障害されると声帯が動かなくなり嗄声を生じ、両側が障害されると呼吸困難をきたしうる。甲状腺・食道・肺の手術で損傷しやすい。
食道の目安(上門歯列からの距離)
・食道入口部(第1生理的狭窄部、輪状軟骨の高さ):約15 cm ・気管分岐部付近(第2生理的狭窄部):約25 cm ・食道裂孔部(第3生理的狭窄部):約40 cm
虫垂炎の圧痛点
・McBurney点:臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点。虫垂の基部に相当する。 ・Lanz点:左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3の点。虫垂の先端に相当するとされる。
直腸の区分
解剖学的には、第2仙椎下縁から肛門までを直腸とする。臨床(外科)では、岬角から肛門までを次のように区分する。 ・直腸S状部(Rs):岬角の高さ〜第2仙椎下縁 ・上部直腸(Ra):第2仙椎下縁〜腹膜反転部 ・下部直腸(Rb):腹膜反転部〜恥骨直腸筋付着部上縁 ・肛門管(P):恥骨直腸筋付着部上縁〜肛門縁
直腸・肛門の血管と筋
・上直腸動脈:下腸間膜動脈の枝 ・中直腸動脈:内腸骨動脈の枝 ・下直腸動脈:内陰部動脈(内腸骨動脈の枝)の枝 ・内肛門括約筋:平滑筋。自律神経支配の不随意筋 ・外肛門括約筋:骨格筋。陰部神経支配の随意筋
POINT
・右反回神経は右鎖骨下動脈を、左反回神経は大動脈弓を回る。胸部疾患による麻痺は左側に多い。 ・上門歯列からの距離は、食道入口部が約15 cm、気管分岐部が約25 cm、食道裂孔部が約40 cmである。 ・McBurney点は虫垂の基部、Lanz点は虫垂の先端に対応する。 ・直腸は下腸間膜動脈(上直腸動脈)と内腸骨動脈(中・下直腸動脈)の二重支配を受ける。 ・内肛門括約筋は平滑筋で不随意筋、外肛門括約筋は骨格筋で随意筋である。
