増えたのはうつと認知症―患者調査で読み解く「入院から地域へ」の精神医療
第107回医師国家試験 B問題 第33問
国試問題にチャレンジ
厚生労働省の患者調査で平成14年と比較して20年に増加しているのはどれか。2つ選べ。
- a.気分障害の外来患者
- b.てんかんの外来患者
- c.統合失調症の入院患者
- d.Alzheimer型認知症の入院患者
- e.精神作用物質使用による精神および行動障害の入院患者
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
患者調査は厚生労働省が3年ごとに医療機関を対象に行う調査で、推計患者数や受療率、総患者数などが得られます。平成14年から20年にかけては、疾患の認知と受診の広がり、新しい抗うつ薬の普及、自殺対策の推進を背景に気分障害の外来患者が増え、高齢化とBPSDへの対応の難しさを背景にAlzheimer型認知症の入院患者も大きく増えました。一方、統合失調症や精神作用物質使用による障害の入院患者は、「入院医療中心から地域生活中心へ」という政策の流れの中で減少し、てんかんの外来患者もやや減っています。統計問題は数字の暗記に頼らず、社会背景と政策から増減の方向を推論できるようにしておくことが、地域精神医療の現状を理解するうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はa, dです
患者調査は、厚生労働省が3年ごとに実施する基幹統計調査で、全国から抽出した病院・診療所を対象に、調査日1日に受療した患者の傷病名や入院・外来の別などを調べるものである。ここから、調査日に医療機関で受療した患者数の推計値(推計患者数)や、継続的に治療を受けている患者の総数の推計値(総患者数)が算出される。 本問は平成14年(2002年)と平成20年(2008年)の精神疾患の患者数の推移を問うている。細かな数値を暗記していなくても、次の社会的な流れを理解していれば推論できる。 ・うつ病を中心とする気分障害は、疾患への認知の広がりや受診に対する抵抗感の低下、新しい抗うつ薬の普及、社会的ストレスの増大などを背景に、外来患者が大きく増加した。 ・人口の高齢化に伴い、Alzheimer型認知症の患者は入院・外来ともに増加した。 ・一方、精神科医療の方針は「入院医療中心から地域生活中心へ」と転換が進められており、統合失調症など従来の長期入院患者の多い疾患では入院患者数が減少傾向にある。 このように、「増加傾向にある疾患」と「入院から地域へ」という二つの流れを軸にすると、正解の2つを選ぶことができる。
選択肢考察
- ○a. 気分障害の外来患者
増加している。気分障害(うつ病、双極性障害など)の外来の推計患者数は、平成14年の約6.5万人から平成20年には約8.0万人に増えた。継続的に受療している総患者数でみても、平成14年の約71万人から平成20年には100万人を超えた。背景として、うつ病が広く知られるようになり精神科や心療内科への受診のハードルが下がったこと、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの副作用の少ない抗うつ薬が普及し一般医でも治療しやすくなったこと、職場のメンタルヘルス対策や自殺対策の推進などが挙げられる。うつ病は自殺の重要な危険因子であり、自殺対策の観点からも重視されている。
- ×b. てんかんの外来患者
増加していない。てんかんの外来の推計患者数は、平成14年の約2.0万人から平成20年には約1.7万人へとやや減少した。てんかんの有病率は人口の0.5〜1%程度で、時代による大きな変動は少ない疾患である。なお、高齢化に伴い脳血管障害や認知症を原因とする高齢発症のてんかんが増えていることは知られているが、本問の期間の統計上は外来患者の増加は認められない。
- ×c. 統合失調症の入院患者
減少している。統合失調症(統合失調症型障害・妄想性障害を含む分類)の入院の推計患者数は、平成14年の約19.2万人から平成20年には約17.9万人に減った。統合失調症の有病率自体は約1%弱で大きく変わらないが、2004年に示された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」により「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針が打ち出され、長期入院患者の退院促進や地域での支援体制の整備が進められた。また、副作用の少ない非定型抗精神病薬の普及により外来で維持療法を行いやすくなった。そのため入院患者は減少し、その分外来で治療を受ける患者が増えている。それでも統合失調症は精神病床の入院患者の中で最も多い疾患である。
- ○d. Alzheimer型認知症の入院患者
増加している。Alzheimer型認知症の入院の推計患者数は、平成14年の約1.9万人から平成20年には約3.3万人へと大きく増えた。Alzheimer型認知症は加齢が最大の危険因子であり、人口の高齢化に伴って患者数が増加している。精神症状や行動障害(BPSD:認知症の行動・心理症状。徘徊、興奮、妄想など)のために在宅や施設での対応が難しくなった患者が、精神科病院に入院するケースも増えた。外来患者も同様に増加しており、認知症は今後も増え続けると推計されている。
- ×e. 精神作用物質使用による精神および行動障害の入院患者
増加していない。アルコールや薬物(覚醒剤、有機溶剤など)の使用による精神および行動障害の入院の推計患者数は、平成14年の約1.8万人から平成20年には約1.4万人へと減少した。この分類の入院患者の大部分はアルコール依存症などアルコール関連の障害が占める。依存症の治療は、入院による解毒(離脱)治療の後、外来通院や自助グループ(断酒会、AA:アルコホーリクス・アノニマスなど)への参加を通じて地域で回復を支える方向へと移ってきている。
患者調査の概要
・実施主体:厚生労働省(基幹統計調査) ・周期:3年ごと ・対象:層化無作為抽出した病院・一般診療所・歯科診療所を利用する患者 ・主な指標 推計患者数:調査日1日に医療機関で受療した患者数の推計 受療率:人口10万人あたりの推計患者数 総患者数:調査日に受療していなくても継続的に治療を受けている者を含めた患者数の推計 退院患者平均在院日数
精神疾患の患者数の動向(2000年代以降の大まかな傾向)
・精神疾患の総患者数は増加が続いている。 ・増加が目立つのは、気分障害(うつ病など)、認知症(Alzheimer型など)、神経症性障害・ストレス関連障害(不安障害など)。 ・入院患者数は全体として減少傾向にあり、とくに統合失調症の入院患者が減っている。外来患者は増加している。 ・精神病床の入院患者の疾患別では統合失調症が最多で、次いで認知症(血管性・Alzheimer型など)が多く、認知症の占める割合が増している。
背景となる政策
・精神保健医療福祉の改革ビジョン(2004年):「入院医療中心から地域生活中心へ」の理念を掲げ、長期入院患者の地域移行を推進した。 ・自殺対策基本法(2006年):うつ病対策を含む自殺対策の推進。 ・医療計画において、精神疾患は2013年度から「5疾病」の一つに加えられた(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)。
POINT
・平成14年から平成20年にかけて増加したのは、気分障害(外来)とAlzheimer型認知症(入院)である。 ・増加の背景:うつ病への認知と受診の広がり、人口の高齢化。 ・統合失調症の入院患者は「入院医療中心から地域生活中心へ」の流れで減少している(外来は増加)。 ・てんかんや精神作用物質使用による障害は横ばい〜減少。 ・細かい数値を覚えるより、疾患ごとの増減の方向性とその理由を理解しておくことが重要である。
