煙の通り道と排泄の出口―喫煙と癌の関係を「2つのルート」で読み解く
第107回医師国家試験 B問題 第1問
国試問題にチャレンジ
喫煙がリスクファクターとなりにくいのはどれか。
- a.喉頭癌
- b.食道癌
- c.肺癌
- d.膀胱癌
- e.前立腺癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
喫煙が危険因子となる癌は、煙が直接触れる部位(口腔・咽頭・喉頭・肺・食道)と、吸収された発癌物質が運ばれ排泄される部位(膀胱・腎盂尿管・膵臓など)の2つのルートで整理できます。喉頭癌、食道扁平上皮癌、肺の扁平上皮癌・小細胞癌は喫煙との関連が特に強く、膀胱癌も尿中に排泄される芳香族アミンなどを介して喫煙が最大の危険因子となります。一方、前立腺癌の主な危険因子は加齢、人種、家族歴、食生活であり、喫煙との関連は乏しいとされています。発癌物質の「通り道」と「出口」を意識すると、個々の癌の危険因子を体系的に理解でき、喫煙歴の聴取や禁煙指導といった日常診療の意義も実感できるでしょう。
解答・解説
正解はeです
【テーマ】喫煙と関連の強い癌の知識を問う問題である。 たばこの煙にはベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、ニトロソアミン類、芳香族アミン類など数十種類の発癌物質が含まれる。これらが癌を起こしやすい部位は、大きく次の2つに分けて考えると整理しやすい。 ①煙が直接触れる部位:口腔、咽頭、喉頭、気管・気管支・肺、食道など。煙の通り道の粘膜が繰り返し発癌物質にさらされ、特に扁平上皮癌が生じやすい。 ②吸収された発癌物質が運ばれる・排泄される部位:膀胱・腎盂尿管(尿中に濃縮された代謝物に尿路上皮がさらされる)、膵臓、胃、肝臓、子宮頸部など。
正解を導く考え方
選択肢のうち、喉頭癌・食道癌・肺癌は①、膀胱癌は②に当てはまり、いずれも喫煙が確立した危険因子である。一方、前立腺癌はどちらにも当てはまらず、主な危険因子は加齢、人種、家族歴、食生活などである。喫煙が発症リスクを明確に高めるとはされていないため、これが正解となる。
選択肢考察
- ×a. 喉頭癌
喉頭癌は喫煙との関連が最も強い癌の一つであり、患者の大多数は喫煙者である。組織型はほとんどが扁平上皮癌で、煙が声門周囲の粘膜に直接触れることで発癌する。中高年の男性に多く、飲酒も危険因子として加わる。嗄声(声のかすれ)が続く喫煙者では喉頭癌を疑う。
- ×b. 食道癌
日本の食道癌は約9割が扁平上皮癌であり、その最大の危険因子は喫煙と飲酒である。両者が重なると相乗的にリスクが高まる。特に、飲酒で顔が赤くなる体質(アセトアルデヒドを分解するALDH2の活性が低い人)が大量飲酒すると、発癌物質であるアセトアルデヒドが蓄積しやすくリスクが高い。熱い飲食物の摂取も危険因子とされる。なお、食道腺癌はBarrett食道(胃食道逆流により下部食道の粘膜が円柱上皮に置き換わった状態)や肥満と関連する。
- ×c. 肺癌
喫煙は肺癌の最大の危険因子である。日本人の研究では、喫煙者の肺癌リスクは非喫煙者と比べて男性で約4〜5倍、女性で約2〜3倍とされる。組織型別では、太い気管支に発生しやすい扁平上皮癌と小細胞癌(中枢型)が特に喫煙との関連が強い。腺癌も喫煙で増加するが、非喫煙者にも多い組織型である。受動喫煙も肺癌のリスクを高める。
- ×d. 膀胱癌
膀胱癌の最も重要な危険因子は喫煙である。たばこ由来の芳香族アミンなどの発癌物質は体内に吸収されたのち尿中に排泄され、膀胱に貯まった尿を介して尿路上皮が長時間さらされることで発癌する。喫煙以外の危険因子には、染料・ゴム工業などでの芳香族アミン(ベンジジン、β-ナフチルアミンなど)への職業曝露、シクロホスファミドの使用、ビルハルツ住血吸虫症などによる膀胱の慢性炎症がある。無症候性肉眼的血尿が典型的な初発症状である。
- ○e. 前立腺癌
前立腺癌の主な危険因子は、加齢(高齢男性ほど多い)、人種(黒人に多く、アジア人に少ない)、家族歴(遺伝的素因)、動物性脂肪の多い欧米型の食生活などである。前立腺は煙が直接触れる臓器でも発癌物質の排泄経路でもなく、喫煙が発症リスクを明確に高めるとはされていない。喫煙者で前立腺癌の予後が悪い可能性を示す報告はあるが、他の選択肢に比べて喫煙との関連はきわめて弱く、喫煙がリスクファクターとなりにくいものとして選ぶべきである。
喫煙との関連が確立している主な癌
・呼吸器:肺癌、喉頭癌 ・頭頸部・消化管:口腔癌、咽頭癌、食道癌、胃癌 ・消化器実質臓器:肝癌、膵癌 ・尿路:膀胱癌、腎盂尿管癌、腎細胞癌 ・その他:子宮頸癌、急性骨髄性白血病など
喫煙以外の要因が主となる癌の例
・前立腺癌:加齢、人種、家族歴、食生活 ・乳癌:エストロゲンへの長期曝露(初経が早い、閉経が遅い、未産・高齢初産など)、家族歴(BRCA1/2遺伝子変異)、閉経後の肥満 ・子宮体癌:エストロゲン単独曝露、肥満、糖尿病、未産
主な癌と危険因子の対応
・食道扁平上皮癌:喫煙、飲酒(特にALDH2低活性者) ・食道腺癌:Barrett食道、胃食道逆流症、肥満 ・膀胱癌:喫煙、芳香族アミンへの職業曝露 ・肺癌:喫煙(扁平上皮癌・小細胞癌で特に強い)、アスベスト、ラドン ・中皮腫:アスベスト
禁煙の効果
禁煙後は年数とともに多くの癌のリスクが低下していく。喫煙は日本人の癌の原因として最大の予防可能な要因とされている。
POINT
・喫煙は、煙が直接触れる部位(口腔・咽頭・喉頭・肺・食道)と、発癌物質が排泄される部位(膀胱などの尿路)の癌の危険因子となる。 ・喫煙と特に関連が強い組織型は扁平上皮癌と小細胞癌。 ・膀胱癌の最大の危険因子は喫煙。 ・前立腺癌の危険因子は加齢、人種、家族歴、食生活であり、喫煙との関連は乏しい。
