StudyMed医師国家試験

酒と背中の痛みが壊すもの―慢性膵炎で「減る機能・増えるもの」を見極める

第107回医師国家試験 A問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第59問

58歳の男性。3か月前から続く背部痛と左上腹部痛とを主訴に来院した。20歳過ぎからアルコールを多飲している。意識は清明。身長165 cm,体重52 kg。脈拍76/分,整。血圧112/78 mmHg。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。背部の皮膚に異常を認めない。血液所見:赤血球385万,Hb 12.5 g/dL,Ht 36%,白血球5,800,血小板23万。血液生化学所見:空腹時血糖112 mg/dL,総蛋白6.3 g/dL,アルブミン3.4 g/dL,総ビリルビン0.7 mg/dL,AST 23 IU/L,ALT 18 IU/L,ALP 295 IU/L(基準115~359),γ-GTP 120 IU/L(基準8~50),アミラーゼ232 IU/L(基準37~160),CA19-9 32 U/mL(基準37以下)。  この患者でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.耐糖能異常
  2. b.膵液量の増加
  3. c.糞便中脂肪量の低下
  4. d.膵液中重炭酸濃度の上昇
  5. e.BT-PABA試験で尿中PABA排泄量の低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長年の飲酒と続く腹痛・背部痛から慢性膵炎を想定し、そこで膵臓の働きがどう変わるかを問う問題だ。ポイントは、膵臓には外分泌と内分泌の2つの顔があること。それぞれが「増えるのか、減るのか」を正しく判断できるかが試されているよ。
医学生医学生
アルコール多飲で背中と左上腹部が痛いので、膵臓かなと思いました。でも急性膵炎ほどアミラーゼは高くないですね。
ドクタードクター
いい着眼点だ。膵臓は後腹膜にあるから、痛みは心窩部から左上腹部、そして背部に出やすい。3か月続いていることと、アミラーゼが軽度上昇にとどまることから、急性膵炎よりもアルコール性慢性膵炎を考えたい。γ-GTPの上昇は飲酒習慣を反映していて、ASTやビリルビンが正常なので肝障害や胆道閉塞ははっきりしない。
医学生医学生
CA19-9が正常なので、膵癌は否定できますか。
ドクタードクター
積極的には疑わないけれど、腫瘍マーカーだけで完全に否定はできない。慢性膵炎そのものが膵癌の危険因子でもあるから、画像検査での確認は必要だよ。慢性膵炎の確定診断にも、膵石や主膵管の不整な拡張といった画像所見が求められる。
医学生医学生
病理学の講義で、慢性膵炎は膵実質が脱落して線維に置き換わる不可逆的な病気だと習いました。
ドクタードクター
そう、その「実質の脱落」がこの問題の核心だ。腺房細胞や導管細胞が減れば膵液をつくる外分泌機能が落ち、ランゲルハンス島が障害されればインスリン分泌、つまり内分泌機能が落ちる。では耐糖能異常はどうかな。
医学生医学生
空腹時血糖が112 mg/dLなので、正常域の110を少し超えています。インスリンが出にくくなっているということですね。
ドクタードクター
正解の一つだ。空腹時血糖異常の範囲で、内分泌機能の低下が始まっていると考えられる。進行すると膵性糖尿病になる。注意したいのは、グルカゴンを出すα細胞も同時に壊れるので、インスリン治療中に低血糖を起こしやすく、回復も遅れやすいことだ。
医学生医学生
膵液量の増加は、炎症で分泌が盛んになるイメージがあって少し迷いました。
ドクタードクター
炎症という言葉に引っ張られやすいところだね。でも慢性膵炎では膵液をつくる細胞そのものが線維に置き換わっていくから、膵液量は減る。セクレチン試験で、膵液量、重炭酸濃度、酵素分泌量がいずれも低下するのが外分泌障害の所見なんだ。
医学生医学生
ということは、膵液中の重炭酸濃度も上がるのではなく下がるんですね。重炭酸は導管細胞から出るんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。重炭酸は主に導管細胞がセクレチン刺激で分泌し、胃から流れてくる酸を中和している。導管上皮も障害されるので濃度は低下する。では糞便中の脂肪量はどうだろう。
医学生医学生
リパーゼが足りなくなると脂肪が分解できないので、便の脂肪はむしろ増えるはずです。白っぽくて水に浮く便でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。脂肪便は悪臭を伴い、一般にリパーゼ分泌が正常の約10%以下まで落ちると目立ってくるとされる。この人のやせ気味の体格や低めのアルブミンも、消化吸収障害を反映している可能性がある。最後にBT-PABA試験は?
医学生医学生
名前は聞いたことがあるのですが、仕組みがあいまいです。
ドクタードクター
BT-PABAという合成基質を飲んでもらうと、膵液中のキモトリプシンで切られてPABAが遊離し、小腸から吸収されて尿に出る。膵外分泌が落ちればキモトリプシンが減ってPABAが遊離しにくいので、尿中排泄量は低下する。内服と蓄尿だけでできる簡便な外分泌機能検査だ。これがもう一つの正解だね。
医学生医学生
整理すると、外分泌の指標は膵液量・重炭酸・BT-PABAがすべて低下して、便中脂肪だけが増える。内分泌はインスリン低下で耐糖能異常、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として臨床経過も押さえておこう。初期の代償期は痛みを繰り返して膵酵素が上がるけれど、膵が荒廃した非代償期になると酵素上昇は目立たず、痛みもむしろ軽くなることが多い。代わりに脂肪便や体重減少、膵性糖尿病が前面に出てくるんだ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、痛みが減ったのに体重が落ちていく患者さんがいて不思議に思っていましたが、そういうことだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれが非代償期の姿だ。治療の基本は禁酒と禁煙。外分泌不全には高力価の消化酵素薬を補い、極端な脂肪制限は避けて栄養を保つ。膵石には内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕術を考える。そして膵癌の危険因子として定期的な経過観察を続けることも忘れないでほしい。

まとめ

長期の大量飲酒に反復する上腹部痛・背部痛と膵酵素の上昇が加われば、アルコール性慢性膵炎を考えます。慢性膵炎では膵実質が線維化して脱落するため、外分泌機能(膵液量・重炭酸濃度・酵素分泌の低下、BT-PABA試験での尿中PABA排泄量の低下、便中脂肪の増加)と内分泌機能(インスリン分泌低下による耐糖能異常・膵性糖尿病)がともに低下します。膵性糖尿病ではグルカゴン分泌も落ちるため低血糖に注意が必要で、非代償期には痛みが軽くなる一方で消化吸収障害が目立ってきます。確定診断には膵石や主膵管の不整拡張などの画像所見が必要であり、膵癌の危険因子としての経過観察も欠かせません。各検査値が「増えるか減るか」を病態から導けるようにしておくことが、膵疾患全般の理解につながります。

解答・解説

正解はa, eです

所見の整理

・58歳男性。3か月続く背部痛と左上腹部痛。膵臓は後腹膜にあり、膵由来の痛みは心窩部〜左上腹部と背部に出やすい。 ・20歳過ぎから30年以上のアルコール多飲歴。 ・身長165 cm、体重52 kgでBMI(体格指数)は約19.1 kg/m²とやせ気味で、総蛋白6.3 g/dL、アルブミン3.4 g/dLと栄養状態もやや低下している。 ・γ-GTP 120 IU/Lの上昇は飲酒習慣を反映する。AST・ALT・ビリルビン・ALPは正常で、肝障害や胆道閉塞を示す所見はない。 ・血清アミラーゼ232 IU/Lと膵酵素が軽度上昇している。 ・空腹時血糖112 mg/dLは正常域(110 mg/dL未満)を超えており、空腹時血糖異常(110〜125 mg/dL)の範囲である。 ・CA19-9は基準内で、膵癌を積極的に示唆する所見はない(ただし膵癌を完全に否定するものではなく、画像検査での確認は必要である)。

診断へのプロセス

長期大量飲酒歴、持続する上腹部痛・背部痛、血中膵酵素の異常という組み合わせから、アルコール性慢性膵炎が最も考えられる。慢性膵炎は膵臓に炎症が繰り返し起こり、膵実質が脱落して線維に置き換わっていく不可逆的な疾患である。確定診断には膵石・主膵管の不整な拡張などの特徴的な画像所見か、特徴的な組織所見が必要であり、本例でも腹部CTなどで膵石灰化の有無を確認することになる。

設問の考え方

慢性膵炎で膵実質が破壊されると、①外分泌機能(消化酵素や重炭酸を含む膵液を十二指腸へ分泌する働き)と、②内分泌機能(ランゲルハンス島からインスリンなどを分泌する働き)の両方が低下する。外分泌機能が落ちれば膵液の量・重炭酸濃度・酵素量はすべて減り、消化不良のため便中の脂肪は増える。内分泌機能が落ちればインスリン分泌が不足して耐糖能が悪化する。すなわち、各選択肢は「膵の働きが増えるか減るか」の方向を正しく判断できるかが問われている。

選択肢考察

  1. ○a.  耐糖能異常

    慢性膵炎では線維化によってランゲルハンス島も障害され、β細胞からのインスリン分泌が低下する。その結果、耐糖能異常から糖尿病(膵性糖尿病)へと進行する。本例の空腹時血糖112 mg/dLは空腹時血糖異常の範囲であり、すでに内分泌機能の低下が始まっていると考えられる。膵性糖尿病ではグルカゴンを分泌するα細胞も同時に障害されるため、インスリン治療中に低血糖を起こしやすく、回復も遅れやすいという特徴がある。

  2. ×b.  膵液量の増加

    慢性膵炎では腺房細胞や導管細胞が線維組織に置き換わるため、膵液の分泌量は減少する。膵液量の低下はセクレチン試験(セクレチン刺激後に十二指腸から膵液を採取し、液量・重炭酸濃度・酵素量を測定する検査)で評価される外分泌障害の指標の一つである。増加するのではない。

  3. ×c.  糞便中脂肪量の低下

    膵液中のリパーゼが不足すると食事中の脂肪を分解・吸収できず、便中に排泄される脂肪が増える(脂肪便)。脂肪便は白っぽく、悪臭を伴い、水に浮くような便となる。一般にリパーゼ分泌が正常の約10%以下に低下すると脂肪便が顕在化するとされる。したがって糞便中脂肪量は増加するのであり、低下は誤りである。本例のやせや低アルブミン傾向も、消化吸収障害を反映している可能性がある。

  4. ×d.  膵液中重炭酸濃度の上昇

    重炭酸(HCO₃⁻)は主に膵導管細胞がセクレチン刺激に応じて分泌し、胃から流入する酸を中和する役割をもつ。慢性膵炎では導管上皮も障害されるため、膵液中の重炭酸濃度は低下する。重炭酸濃度の低下はセクレチン試験で外分泌障害を判定する主要な項目の一つであり、上昇するのではない。

  5. ○e.  BT-PABA試験で尿中PABA排泄量の低下

    BT-PABA試験(PFD試験:膵機能診断試験)は、BT-PABAという合成基質を内服させ、膵液中の消化酵素キモトリプシンによって切り離されたPABA(パラアミノ安息香酸)が小腸から吸収され尿中に排泄される量を測る検査である。膵外分泌機能が低下するとキモトリプシン分泌が減ってPABAが遊離しにくくなるため、尿中PABA排泄率は低下する。セクレチン試験に比べ、内服と蓄尿だけで行える簡便な外分泌機能検査である。

慢性膵炎の概要

・膵臓の内部に不規則な線維化、細胞浸潤、実質の脱落、肉芽組織などが生じ、進行すると膵外分泌・内分泌機能が低下する不可逆的な疾患である。 ・成因はアルコール性が最も多く(男性に多い)、次いで特発性である。その他、胆石性、遺伝性(膵炎関連遺伝子異常)などがある。喫煙も危険因子である。

臨床経過

・代償期:腹痛・背部痛を繰り返し、血中・尿中膵酵素が上昇する時期。膵機能は比較的保たれている。 ・移行期を経て非代償期に至ると、膵実質の荒廃により外分泌不全(脂肪便、体重減少)と内分泌不全(膵性糖尿病)が前面に出る。膵が荒廃すると酵素上昇は目立たなくなり、腹痛もむしろ軽減することが多い。

診断に用いる所見(日本の慢性膵炎臨床診断基準の主な項目)

・特徴的な画像所見(膵石、主膵管の不整な拡張など) ・特徴的な組織所見 ・反復する上腹部痛・背部痛 ・血中または尿中膵酵素値の異常 ・膵外分泌障害 ・1日60 g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴、または膵炎関連遺伝子異常 画像または組織の特徴的所見があれば確診となる。

膵外分泌機能検査

・セクレチン試験:膵液量、重炭酸濃度、アミラーゼ分泌量を測定する。慢性膵炎ではいずれも低下する。 ・BT-PABA試験(PFD試験):尿中PABA排泄率が低下する。 ・便中脂肪定量:脂肪便では増加する。

治療の要点

・禁酒・禁煙が最も重要である。 ・疼痛には鎮痛薬、蛋白分解酵素阻害薬などを用いる。膵石には内視鏡的治療や体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を行う。 ・外分泌不全には高力価の消化酵素薬を補充し、極端な脂肪制限は避けて栄養を保つ。 ・膵性糖尿病にはインスリン治療が中心となるが、低血糖に注意する。 ・慢性膵炎は膵癌の危険因子であり、定期的な経過観察が必要である。

POINT

・長期大量飲酒+反復する上腹部痛・背部痛+膵酵素上昇 → アルコール性慢性膵炎を考える。 ・慢性膵炎では外分泌機能と内分泌機能がともに低下する。 ・外分泌低下:膵液量↓、重炭酸濃度↓、酵素分泌↓、BT-PABA試験の尿中PABA排泄率↓、便中脂肪↑(脂肪便)。 ・内分泌低下:インスリン分泌↓ → 耐糖能異常・膵性糖尿病(グルカゴンも低下し低血糖を起こしやすい)。 ・確定診断には膵石・膵管の不整拡張などの画像所見が必要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。