診察室では見えない「朝の高血圧」―家庭血圧が暴く仮面高血圧と生活指導の要点
第107回医師国家試験 A問題 第58問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。自宅で測定した血圧が高いことを主訴に来院した。5年前から健康診断で高血圧を指摘されているが,自覚症状がないためそのままにしていた。高血圧症治療中の兄が1か月前に脳梗塞を発症したため心配になり,自宅で血圧を測定するようになった。最近1週間の血圧測定結果を持参して来院した。喫煙は20本/日を40年間。現在も喫煙を続けている。飲酒歴はない。身長170 cm,体重80 kg。脈拍72/分,整。血圧136/84 mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。下腿に浮腫を認めない。 この患者に対する説明で適切なのはどれか。2つ選べ。 最近1週間の家庭血圧測定結果 曜日 起床時血圧(mmHg) 就寝前血圧(mmHg) 月曜 160/90 120/80 火曜 164/96 130/78 水曜 170/98 126/82 木曜 152/92 124/78 金曜 166/96 122/82 土曜 154/94 128/80 日曜 162/94 126/80
- a.「禁煙が必要です」
- b.「短時間作用型の降圧薬が適しています」
- c.「家庭血圧は週1回の測定にしてください」
- d.「就寝前の血圧が正常なので心配ありません」
- e.「体重を減らすと起床時の血圧の低下が期待できます」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
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ドクター
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
家庭血圧の高血圧基準は135/85 mmHg以上で、診察室血圧が基準未満でも家庭血圧が高ければ仮面高血圧として扱い、起床時に高い早朝高血圧は脳卒中や心筋梗塞の危険因子として重視されます。早朝高血圧の背景にはモーニングサージ、ノンディッパー型・ライザー型、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などがあり、肥満を伴う場合は減量で起床時の血圧低下が期待できます。喫煙者には禁煙指導が必須で、薬物療法では短時間作用型ではなく長時間作用型の降圧薬を選びます。家庭血圧は毎日朝晩2回測定して評価するのが原則であり、就寝前の値だけで安心させるのは誤りです。家庭血圧の読み方と生活指導の考え方は、日常診療で最も頻繁に出会う高血圧管理の基本となります。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・60歳男性。5年前から健診で高血圧を指摘されながら未治療のまま経過している。 ・兄が高血圧治療中に脳梗塞を発症しており、心血管疾患の家族歴がある。 ・喫煙20本/日×40年(喫煙指数800)で現在も喫煙中。 ・身長170 cm、体重80 kgで、BMI(体格指数)=80÷(1.7×1.7)≒27.7 kg/m²。日本の基準(BMI 25以上)で肥満に該当する。 ・診察室血圧は136/84 mmHgで、診察室での高血圧基準(140/90 mmHg以上)には達していない。 ・家庭血圧は、起床時が152〜170/90〜98 mmHgと毎日高く、就寝前は120〜130/78〜82 mmHgとおおむね正常である。曜日による差はほとんどない。
病態の考え方
家庭血圧の高血圧基準は135/85 mmHg以上であり、診察室血圧より低く設定されている。本例は起床時の家庭血圧が毎日この基準を大きく上回っており、高血圧症と判断できる。起床後の血圧が135/85 mmHg以上となる状態を早朝高血圧と呼ぶ。一方、診察室では基準未満であるため、診察室での測定だけでは見逃される「仮面高血圧」の一型(早朝型)にあたる。早朝高血圧は脳卒中・心筋梗塞などの心血管イベントのリスクが高いことが知られており、放置してよい状態ではない。 早朝に血圧が高くなる機序には、①夜間から早朝にかけての交感神経活動の亢進(モーニングサージ)、②夜間も血圧が下がらないタイプ(ノンディッパー型・ライザー型)、③服用中の降圧薬の効果が朝までもたないこと、などがある。本例は肥満があり、夜間に血圧を上げる原因として閉塞性睡眠時無呼吸症候群(睡眠中に上気道が繰り返し塞がり、低酸素と交感神経の興奮を起こす病態)も考慮すべきである。曜日による差がないことから、職場のストレスなど特定の日に限った要因は考えにくい。
設問の考え方
患者への説明として適切なものを選ぶ。高血圧治療の基本は生活習慣の修正(減塩、減量、運動、節酒、禁煙など)であり、薬物療法を行う場合は早朝まで効果が持続する薬を選ぶ。家庭血圧は毎日測定して評価することが原則である。これらに照らして各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ○a. 「禁煙が必要です」
喫煙はニコチンによる交感神経刺激で一過性に血圧と心拍数を上げるだけでなく、血管内皮を障害して動脈硬化を進め、脳梗塞・心筋梗塞のリスクを大きく高める。本例は高血圧に加えて長期の喫煙歴、肥満、脳梗塞の家族歴と複数の危険因子が重なっており、禁煙は心血管リスクを下げるうえで最も重要な指導の一つである。高血圧治療における生活習慣修正項目にも禁煙が含まれている。
- ×b. 「短時間作用型の降圧薬が適しています」
短時間作用型の降圧薬は効果が数時間で切れるため、1日1回の服用では夜間から早朝の血圧を抑えられない。また、急激な降圧は反射性の交感神経亢進を招くことがある。早朝高血圧に対しては、24時間効果が持続する長時間作用型の降圧薬(長時間作用型カルシウム拮抗薬、ARB〔アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬〕など)を用いるのが原則であり、必要に応じて就寝前投与なども検討する。
- ×c. 「家庭血圧は週1回の測定にしてください」
家庭血圧は毎日、朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬前・朝食前、座位で1〜2分安静後)と晩(就寝前)の1日2回測定し、一定期間の平均値で評価するのが原則である(1機会に原則2回測定し平均する)。週1回では日々の変動や治療効果を正しく評価できない。本例のように、毎日の記録によって起床時だけ高いというパターンや曜日との関係が初めて明らかになる。
- ×d. 「就寝前の血圧が正常なので心配ありません」
就寝前の血圧が正常でも、起床時の血圧は毎日150〜170/90〜98 mmHg程度あり、家庭血圧の基準135/85 mmHgを明らかに超えている。早朝高血圧は心血管イベントの独立した危険因子であり、診察室血圧が基準未満の仮面高血圧も持続性高血圧と同程度にリスクが高いとされる。兄の脳梗塞発症という家族歴、喫煙、肥満もあり、「心配ない」と説明するのは誤りである。
- ○e. 「体重を減らすと起床時の血圧の低下が期待できます」
本例はBMI約27.7の肥満であり、減量は高血圧に対する生活習慣修正の柱の一つである(目標はBMI 25未満)。体重を減らすと、インスリン抵抗性の改善、交感神経活動や循環血液量の低下などを通じて血圧が下がる。さらに、肥満は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の主要な原因であり、夜間の無呼吸による交感神経亢進が早朝高血圧の一因となっている可能性がある。減量によって無呼吸が改善すれば、起床時の血圧低下も期待できる。
血圧の分類と基準(日本高血圧学会ガイドライン2019)
・診察室血圧:正常血圧は120/80 mmHg未満、高血圧は140/90 mmHg以上。その間は正常高値血圧(120〜129/80未満)、高値血圧(130〜139/80〜89)。 ・家庭血圧:高血圧は135/85 mmHg以上、正常血圧は115/75 mmHg未満。 ・家庭血圧は診察室血圧よりも心血管予後との関連が強く、両者が乖離する場合は家庭血圧による診断を優先する。
診察室血圧と診察室外血圧の組み合わせ
・白衣高血圧:診察室では高血圧だが、家庭血圧は正常。 ・仮面高血圧:診察室では正常だが、家庭血圧(または24時間自由行動下血圧)は高血圧。早朝高血圧型、昼間高血圧型(職場のストレスなど)、夜間高血圧型がある。
早朝高血圧の原因
・モーニングサージ(起床前後の急激な血圧上昇) ・夜間の血圧低下が乏しいノンディッパー型、夜間に逆に上がるライザー型 ・閉塞性睡眠時無呼吸症候群 ・降圧薬の作用が早朝までもたない場合 ・飲酒、喫煙、寒冷など
高血圧に対する生活習慣の修正
・減塩:食塩6 g/日未満 ・野菜・果物の積極的摂取、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控える ・減量:BMI 25未満を目標とする ・運動:中等度の有酸素運動を毎日30分以上(または週180分以上) ・節酒:エタノールで男性20〜30 mL/日以下、女性10〜20 mL/日以下 ・禁煙(受動喫煙の防止を含む)
POINT
・家庭血圧の高血圧基準は135/85 mmHg以上(診察室では140/90 mmHg以上)。 ・起床時の家庭血圧が高い早朝高血圧は、心血管イベントの危険因子であり放置しない。 ・診察室血圧が正常でも家庭血圧が高ければ仮面高血圧として扱う。 ・早朝高血圧には長時間作用型の降圧薬を選ぶ。 ・家庭血圧は毎日、朝晩2回測定する。 ・肥満を伴う早朝高血圧では閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑い、減量を指導する。禁煙は必須の生活指導である。
