自覚なく進む視神経の病―緑内障の眼圧を下げる点眼薬を見極める
第107回医師国家試験 A問題 第55問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。健康診断で眼底の異常を指摘され来院した。視力は右1.2(矯正不能),左1.2(矯正不能)。眼圧は右23 mmHg,左26 mmHg。左眼底写真(A)と視野(B)とを別に示す。右眼も同様の所見である。 治療として適切な点眼薬はどれか。2つ選べ。

- a.抗菌薬
- b.β遮断薬
- c.抗アレルギー薬
- d.炭酸脱水酵素阻害薬
- e.副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
眼圧上昇に加えて視神経乳頭陥凹の拡大、網膜神経線維層欠損、それに対応するBjerrum暗点を認める場合は緑内障を考え、網膜下方の神経線維障害は視野では上方の欠損として現れます。緑内障で進行抑制効果が確立した治療は眼圧下降であり、開放隅角緑内障ではまず点眼薬を用います。房水産生を抑えるβ遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬、房水流出を増やすプロスタグランジン関連薬などが代表で、β遮断薬点眼は気管支喘息・徐脈・心不全で注意が必要です。一方、副腎皮質ステロイドは眼圧を上昇させることがあるため緑内障では避け、抗菌薬や抗アレルギー薬には眼圧下降作用はありません。自覚症状に乏しく中途失明原因の第1位である緑内障を、健診所見から早期に見つけて適切な治療につなげる視点は、どの診療科に進んでも役立ちます。
解答・解説
正解はb, dです
所見の整理
・48歳女性。自覚症状はなく、健康診断の眼底写真で異常を指摘されている。 ・視力は両眼とも1.2で良好である。 ・眼圧は右23 mmHg、左26 mmHgと、両眼とも正常上限(おおむね21 mmHg)を超えている。 ・左眼底写真では、視神経乳頭の中央のくぼみ(陥凹)が拡大しており、乳頭の下耳側(時計の4〜6時方向)から弓状に広がる暗い帯状の領域、すなわち網膜神経線維層欠損(NFLD)がみられる。乳頭縁の切れ込み(ノッチ)や、陥凹縁での血管の屈曲も緑内障性変化を示す所見である。出血や白斑はない。 ・視野では、Mariotte盲点(生理的盲点)から上方へ弓状に伸びる暗点(Bjerrum暗点)がみられる。網膜の下方の神経線維が障害されると、像が上下逆に投影されるため視野では上方が欠ける。眼底の下耳側のNFLDと上方の弓状暗点は、解剖学的によく対応している。 ・右眼も同様で、両眼性である。
診断
眼圧上昇だけで視神経や視野に異常がなければ高眼圧症にとどまるが、本例は特徴的な視神経乳頭の変化(陥凹拡大、NFLD)と、それに対応する視野欠損を伴っている。軟性白斑の跡でもNFLDに似た所見と視野異常が生じうるが(高血圧性網膜症、全身性エリテマトーデス、インターフェロン網膜症など)、その場合は眼圧上昇を伴わない。視力が良好で急性発作の症状もないことから、慢性に進行した原発開放隅角緑内障(広義。眼圧が正常範囲を超えるため狭義の原発開放隅角緑内障)と考えられる。なお隅角が開放していることの確認には隅角鏡検査が必要である。
治療の考え方
緑内障の治療で、進行を抑えることが確実に証明されている唯一の方法は眼圧を下げることである。失われた視神経・視野は回復しないため、早期に眼圧下降治療を開始し、進行を止めることが目的となる。開放隅角緑内障ではまず点眼薬で治療を始める。眼圧を下げる点眼薬には、房水の産生を減らすものと、房水の流出を増やすものがあり、設問ではこの中から該当するものを2つ選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌薬の点眼は、細菌性結膜炎や角膜炎などの感染症、眼科手術前後の感染予防に用いられる。本例に感染徴候はなく、抗菌薬には眼圧を下げる作用もないため、緑内障の治療にはならない。
- ○b. β遮断薬
β遮断薬(チモロール、カルテオロールなど)の点眼は、毛様体上皮のβ受容体を遮断して房水の産生を減らし、眼圧を下げる。プロスタグランジン関連薬と並んで広く用いられる代表的な緑内障治療薬である。点眼でも一部が全身に吸収されるため、気管支喘息(気管支収縮)、徐脈、房室ブロック、コントロール不良の心不全のある患者では禁忌または慎重投与となる。
- ×c. 抗アレルギー薬
抗アレルギー薬の点眼は、花粉症などのアレルギー性結膜炎で、かゆみや充血を抑えるために使われる。眼圧を下げる作用はなく、緑内障の治療薬ではない。
- ○d. 炭酸脱水酵素阻害薬
炭酸脱水酵素阻害薬の点眼(ドルゾラミド、ブリンゾラミド)は、毛様体上皮の炭酸脱水酵素を阻害して重炭酸イオンの生成を減らし、それに伴う水の移動を抑えることで房水の産生を減少させ、眼圧を下げる。緑内障の治療薬として用いられ、β遮断薬との配合点眼薬もある。内服薬(アセタゾラミド)もあるが、低カリウム血症、代謝性アシドーシス、手足のしびれなど全身の副作用が多いため、主に急性緑内障発作や一時的な眼圧下降に使われる。
- ×e. 副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドの点眼は、ぶどう膜炎やアレルギー性結膜炎の重症例、眼科手術後の炎症などに用いられる抗炎症薬である。房水の流出路である線維柱帯の流出抵抗を高めて眼圧を上昇させることがあり(ステロイド緑内障)、緑内障患者ではむしろ避けるべき薬剤である。
緑内障とは
視神経乳頭と網膜神経線維層に特徴的な変化が起こり、それに対応した視野障害をきたす進行性の視神経症である。日本の中途失明原因の第1位である。眼圧が正常範囲(10〜21 mmHg)でも発症することがあり、日本人では眼圧が正常範囲にある正常眼圧緑内障が原発開放隅角緑内障の大部分を占める。
分類
・原発開放隅角緑内障(広義):隅角は開いているが房水の流出が悪い。慢性に進行し、自覚症状に乏しい。眼圧が正常範囲を超えるもの(狭義の原発開放隅角緑内障)と正常眼圧緑内障を含む。 ・原発閉塞隅角緑内障:隅角が狭く房水の流出路がふさがる。急性発作では、急激な眼圧上昇、眼痛、頭痛、悪心・嘔吐、充血、角膜浮腫、視力低下、中等度散瞳がみられる。治療はレーザー虹彩切開術や水晶体再建術などが中心。 ・続発緑内障:ぶどう膜炎、ステロイド使用、糖尿病網膜症の血管新生(血管新生緑内障)などによる。 ・小児緑内障(先天緑内障など)。
眼底・視野の特徴
乳頭陥凹の拡大(陥凹乳頭径比の増大)、乳頭辺縁部(リム)の菲薄化・切痕、網膜神経線維層欠損、乳頭出血。視野は初期に傍中心暗点、Bjerrum暗点(弓状暗点)、鼻側階段がみられ、進行すると視野が狭くなり、末期に中心視野のみが残る。中心視力は末期まで保たれやすいため、自覚が遅れやすい。
眼圧下降点眼薬
・房水流出を促進するもの:プロスタグランジン関連薬(ラタノプロストなど。ぶどう膜強膜流出路からの流出を増やす。第一選択として最も多く用いられる。副作用は結膜充血、睫毛が伸びる、虹彩や眼瞼の色素沈着、眼窩脂肪の萎縮による上眼瞼のくぼみ)、ROCK阻害薬(線維柱帯からの流出を増やす)、副交感神経作動薬(ピロカルピン。縮瞳させて隅角を広げ、線維柱帯からの流出を増やす)。 ・房水産生を抑えるもの:β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬。 ・両方の作用をもつもの:α2刺激薬(ブリモニジン)、α1遮断薬など。 点眼薬で眼圧が十分に下がらない場合は、レーザー線維柱帯形成術や、線維柱帯切除術・線維柱帯切開術などの手術を行う。
POINT
・高眼圧+視神経乳頭陥凹拡大+網膜神経線維層欠損+Bjerrum暗点 → 緑内障。 ・眼底の下方の神経線維障害は、視野では上方の欠損として現れる。 ・緑内障で唯一確立した治療は眼圧下降であり、開放隅角緑内障ではまず点眼薬を用いる。 ・房水産生を抑える:β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬。房水流出を増やす:プロスタグランジン関連薬(第一選択)など。 ・副腎皮質ステロイドは眼圧を上げることがあり、緑内障では避ける。 ・β遮断薬点眼は気管支喘息、徐脈、心不全で注意。
