眼圧正常でも安心できない―乳頭陥凹拡大を指摘されたら「視野」と「隅角」
第118回医師国家試験 D問題 第67問
国試問題にチャレンジ
47歳の男性。検診で両眼底に視神経乳頭陥凹拡大を指摘されたため来院した。自覚症状はない。矯正視力は両眼ともに1.0,眼圧は右眼20mmHg,左眼18mmHg。 まず行うべき検査はどれか。2つ選べ。
- a.隅角検査
- b.色覚検査
- c.視野検査
- d.Hess赤緑試験
- e.網膜電図検査〈ERG〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
視神経乳頭陥凹拡大は網膜神経節細胞の軸索消失によるリムの菲薄化を反映し、緑内障を最も疑わせる所見です。日本人では正常眼圧緑内障が最多であるため、眼圧が正常範囲でも緑内障は否定できず、視力良好・無症状であることもむしろ緑内障の経過に合致します。緑内障を疑ったら、構造変化に対応する視野欠損を確認する視野検査と、開放隅角か閉塞隅角かを判定して治療方針を決める隅角検査をまず行います。色覚検査は色覚異常、Hess赤緑試験は眼球運動障害、ERGは網膜外層の機能評価に用いるもので、初期の緑内障評価には適しません。障害部位と検査が評価する対象を対応させて考えることは、眼科に限らず検査選択の基本となる考え方です。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・47歳男性。検診の眼底写真で両眼の視神経乳頭陥凹拡大を指摘された。 ・自覚症状はなく、矯正視力は両眼とも1.0と良好である。 ・眼圧は右20mmHg、左18mmHgで、いずれも統計的な正常範囲(おおむね10〜21mmHg)に収まっている。
診断へのプロセス
視神経乳頭陥凹(cup)の拡大は、網膜神経節細胞の軸索(網膜神経線維)が失われて乳頭の辺縁部(リム)が薄くなった結果として生じ、緑内障を最も強く疑わせる所見である。緑内障は初期から中期にかけて中心視野が保たれるため視力は低下せず、自覚症状にも乏しい。本例の「無症状・視力良好」はこの経過と矛盾しない。 これに対し、視神経炎後や圧迫性視神経症などによる視神経萎縮では乳頭は主に蒼白化し、視力低下や中心暗点を伴うことが多い。本例はそうした所見を欠くため、まず緑内障(緑内障疑い)として精査を進めるのが妥当である。 眼圧が正常範囲であっても緑内障は否定できない。日本人の緑内障の多数を占めるのは、眼圧が正常範囲内で視神経障害が進行する正常眼圧緑内障(広義の原発開放隅角緑内障に含まれる)である。
設問の考え方
緑内障が疑われたときに最初に確認すべきことは2つある。 1. 視神経の形態変化に対応する機能障害(緑内障性視野欠損)があるか → 視野検査 2. 病型が開放隅角か閉塞隅角か(治療方針が大きく異なる) → 隅角検査 この2つが、診断の確定と病型分類に直結する「まず行うべき検査」である。
選択肢考察
- ○a. 隅角検査
隅角鏡(ゴニオスコープ)を角膜にのせ、角膜と虹彩の付け根の間にある房水の流出路(隅角)を直接観察する検査である。緑内障は隅角が開いている開放隅角緑内障と、虹彩が隅角をふさぐ閉塞隅角緑内障に大別され、前者は点眼による眼圧下降が治療の中心であるのに対し、後者ではレーザー虹彩切開術や水晶体再建術など隅角を開く処置が優先される。さらに、隅角の色素沈着や周辺虹彩前癒着、新生血管などから続発緑内障の手がかりも得られる。病型を決めないと治療方針が立たないため、緑内障を疑った段階で必ず行う検査である。
- ×b. 色覚検査
石原色覚検査表やパネルD-15などで色の識別能力を調べる検査で、主な対象は先天色覚異常のスクリーニングや、視神経炎・網膜疾患などによる後天色覚異常の評価である。緑内障でも進行すれば色覚が障害されうるが、初期の診断や病型分類には役立たず、乳頭陥凹拡大を指摘された段階で優先して行う検査ではない。
- ○c. 視野検査
緑内障は、視神経乳頭や網膜神経線維層の特徴的な形態変化と、それに対応する視野欠損の存在によって診断される。したがって視野検査は確定診断に欠かせない。初期の緑内障では、鼻側階段、傍中心暗点、Bjerrum領域(固視点から10〜20°付近の弓状の範囲)の弓状暗点などがみられ、これらは乳頭の陥凹拡大や網膜神経線維層欠損の部位と対応する。自覚症状がない段階でも静的視野計(Humphrey視野計など)で異常を検出でき、病期の判定や経過観察にも用いる。なお、光干渉断層計〈OCT〉で形態変化があっても視野異常が検出されない段階は前視野緑内障と呼ばれ、慎重な経過観察の対象となる。
- ×d. Hess赤緑試験
赤緑眼鏡をかけ、左右眼に別々の像を見せて各眼の視線の向きを記録し、外眼筋の麻痺や運動制限を評価する検査である。複視を訴える眼球運動障害(動眼・滑車・外転神経麻痺、甲状腺眼症、眼窩吹き抜け骨折など)で用いる。本例は複視も眼球運動障害もなく、乳頭陥凹拡大の評価とは無関係である。
- ×e. 網膜電図検査〈ERG〉
光刺激に対する網膜の電気的反応を記録し、視細胞(杆体・錐体)や双極細胞など網膜外層〜中層の機能を評価する検査である。網膜色素変性などの網膜ジストロフィーや、網膜中心動脈閉塞症などの網膜循環障害の評価に用いる。緑内障で障害されるのは網膜内層の神経節細胞とその軸索であり、通常の全視野ERGでは異常が出にくいため、緑内障の初期評価には用いない。
緑内障の定義と分類
緑内障は、視神経と視野に特徴的な変化をきたし、通常は眼圧を十分に下げることで視神経障害の進行を抑えうる眼の機能的・構造的異常を特徴とする疾患である。わが国の中途失明原因の上位を占める。 ・原発開放隅角緑内障(広義):隅角は開放。眼圧が正常上限を超えるもの(狭義の原発開放隅角緑内障)と、正常範囲内のもの(正常眼圧緑内障)を含む。日本人では正常眼圧緑内障が最も多い。 ・原発閉塞隅角緑内障:虹彩が隅角をふさいで房水流出が妨げられる。遠視眼、高齢、女性に多く、急性発作では眼痛・頭痛・悪心・霧視・充血をきたす。 ・続発緑内障:ぶどう膜炎、ステロイド使用、血管新生(糖尿病網膜症・網膜中心静脈閉塞症など)、落屑症候群などによる。 ・小児緑内障:隅角の発生異常など。
緑内障診療で行う主な検査
・眼圧測定:正常範囲はおおむね10〜21mmHg。日内変動があるため1回の測定では評価しきれない。角膜が厚いと高めに、薄いと低めに測定される。 ・眼底検査:乳頭陥凹拡大(陥凹乳頭径比の増大)、リムの菲薄化(特に上下極)、乳頭出血、網膜神経線維層欠損。 ・OCT:乳頭周囲の網膜神経線維層や黄斑部の神経節細胞層の厚みを定量し、早期の構造変化を捉える。 ・視野検査:静的視野計で中心30°や24°、必要に応じて中心10°を測定する。 ・隅角検査:開放・閉塞の判定、続発緑内障の手がかり。
緑内障の視野障害の進行
傍中心暗点・鼻側階段 → 弓状暗点(Bjerrum暗点) → 視野狭窄の拡大 → 末期には中心の小視野と耳側の島状視野が残る。中心視野は末期まで保たれやすいため、視力低下で気づく頃には進行していることが多い。
治療の概要
病型にかかわらず、確実なエビデンスがある治療は眼圧下降である。正常眼圧緑内障でも眼圧をさらに下げることで進行が抑制される。開放隅角では点眼(プロスタグランジン関連薬、β遮断薬など)、レーザー線維柱帯形成術、線維柱帯切除術などを用いる。閉塞隅角では隅角を開くレーザー虹彩切開術や水晶体再建術が中心となる。
POINT
・視神経乳頭陥凹拡大は緑内障を疑う代表的な所見である。 ・眼圧が正常範囲でも緑内障は否定できない(日本人では正常眼圧緑内障が最多)。 ・緑内障を疑ったら、確定診断のための視野検査と、病型(開放隅角か閉塞隅角か)を決める隅角検査をまず行う。 ・診断は「視神経の構造変化+それに対応する視野欠損」でなされる。 ・Hess赤緑試験は眼球運動障害、ERGは網膜外層の機能、色覚検査は先天・後天色覚異常の評価に用いる。
