StudyMed医師国家試験

右か左か、それとも両方か―副腎静脈サンプリングが決める原発性アルドステロン症の治療

第106回医師国家試験 I問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第5問

治療方針の決定のため,臓器の静脈サンプリング検査を行う必要がある内分泌疾患はどれか。

  1. a.原発性アルドステロン症
  2. b.プロラクチノーマ
  3. c.Plummer病
  4. d.Addison病
  5. e.クレチン症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、内分泌疾患の診断で行う「静脈サンプリング検査」がテーマだ。どんな検査で、どういう状況で治療方針を左右するのか。そこが分かれば、選択肢を一つひとつ吟味しなくても答えは見えてくるよ。
医学生医学生
静脈サンプリングというと、カテーテルで臓器の静脈から採血する検査ですよね。でも画像検査があれば十分な気もします。
ドクタードクター
そう思うのは自然だね。静脈サンプリングは、目的臓器から出てくる静脈までカテーテルを進めて採血し、ホルモン濃度を左右や上下など部位ごとに比べる検査だ。画像は「形」を見るけれど、この検査は「どこからホルモンが過剰に出ているか」という機能を見る。画像だけでは責任病変を決めきれないときに必要になるんだ。
医学生医学生
ということは、ホルモンが足りない病気では意味がないですね。
ドクタードクター
その通り。過剰分泌の源を探す検査だから、対象はホルモン過剰症に限られる。さらに「局所の病変なら手術、両側やびまん性なら薬物療法」というように、病変の局在で治療が変わる疾患でこそ価値がある。この条件に当てはまるのはどれだろう。
医学生医学生
原発性アルドステロン症でしょうか。内分泌内科の実習で、副腎静脈サンプリングの結果を待って手術を決めると聞きました。
ドクタードクター
正解。原発性アルドステロン症の主な病型は、片側性のアルドステロン産生腺腫と、両側副腎の過形成による特発性アルドステロン症だ。片側性なら腹腔鏡下副腎摘除術で治癒や改善が期待でき、両側性ならスピロノラクトンやエプレレノンなどのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が中心になる。
医学生医学生
でも、CTで副腎に腫瘍が見えれば、そちらを取ればいいのではないですか。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。アルドステロン産生腺腫は1cm未満と小さいことが多く、CTで写らないことがある。逆に、CTで見える副腎腫瘤がホルモンを出さない非機能性腺腫ということも中高年ではまれではない。画像だけで病側を決めると、正常な副腎を取ってしまう危険があるんだ。
医学生医学生
なるほど。だから左右の副腎静脈で実際のアルドステロン濃度を比べるわけですね。
ドクタードクター
そう。左右の副腎静脈と下大静脈から採血し、アルドステロンと一緒にコルチゾールも測る。コルチゾールは両側から同じくらい分泌されるから、カテーテルがきちんと副腎静脈に入ったかの確認と、希釈の補正に使うんだ。通常はACTH負荷下で行い、補正した値の左右比が一定以上、一般には4倍を超えれば片側性と判断する。ただ判定基準は施設や指針によって異なるよ。
医学生医学生
右副腎静脈は難しいと放射線科の先生がおっしゃっていました。
ドクタードクター
右副腎静脈は細く短く、下大静脈に直接流入するからカニュレーションが難しいんだ。では、ほかの選択肢も確認しよう。プロラクチノーマはどうかな。
医学生医学生
血中プロラクチン高値と下垂体MRIで診断できて、治療はカベルゴリンなどのドパミン作動薬が第一選択でした。局在で迷う場面はなさそうです。
ドクタードクター
その通り。多くは薬で腫瘍縮小とプロラクチン正常化が得られ、効かない例や副作用で使えない例で経蝶形骨洞手術を考える。静脈サンプリングは不要だ。Plummer病は?
医学生医学生
甲状腺の結節が勝手にホルモンを作る病気で、シンチグラフィでホット結節になるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えている。中毒性結節性甲状腺腫とも呼ばれ、結節に集積が集中して周囲の正常組織の集積は抑えられる。超音波とシンチで局在がはっきり分かるから、手術や放射性ヨウ素内用療法などを選べばよく、静脈サンプリングはいらない。
医学生医学生
Addison病とクレチン症は欠乏症なので対象外ですね。Addison病はACTH高値で色素沈着、クレチン症は新生児マススクリーニングで見つかるんでした。
ドクタードクター
完璧だ。どちらも過剰分泌の部位を探す必要がなく、Addison病はヒドロコルチゾン、クレチン症はレボチロキシンで補充する。とくにクレチン症は知能障害や成長障害を防ぐため、早期の治療開始が重要だよ。
医学生医学生
原発性アルドステロン症はそもそもどうやって見つけるんですか。
ドクタードクター
高血圧患者、特に低カリウム血症や若年発症、治療抵抗性、副腎偶発腫を伴う例で、アルドステロンとレニンを測り、アルドステロン/レニン比が高ければ疑う。次にカプトプリル負荷試験や生理食塩水負荷試験で自律分泌を確かめ、CTを撮り、手術を希望する人に副腎静脈サンプリングを行う。この順番が大事なんだ。
医学生医学生
手術を希望しない人には、サンプリングをせずに薬で治療することもあるんですね。
ドクタードクター
そう、検査はあくまで治療方針を決めるためのものだ。ほかの静脈サンプリングも覚えておこう。ACTH依存性Cushing症候群では、Cushing病と異所性ACTH産生腫瘍を区別するために下錐体静脈洞サンプリングを行う。画像で局在が分からない副甲状腺腺腫でも選択的静脈サンプリングが使われることがある。どれも「どこから出ているか」で治療が変わる場面だよ。

まとめ

静脈サンプリング検査は、臓器の流出静脈から採血してホルモン濃度を部位ごとに比較し、過剰分泌の源を機能的に特定する検査で、病変の局在によって治療方針が変わるホルモン過剰症で必要になります。原発性アルドステロン症では、アルドステロン産生腺腫が小さくCTで描出されないことや、画像上の副腎腫瘤が非機能性であることがあるため、副腎静脈サンプリングで片側性(手術)か両側性(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)かを判定します。プロラクチノーマやPlummer病は血液検査と画像・シンチグラフィで診断と方針決定ができ、Addison病やクレチン症はホルモン欠乏症のためこの検査の対象になりません。Cushing症候群での下錐体静脈洞サンプリングなど関連する検査とあわせて、「形」を見る画像と「機能」を見るサンプリングの役割の違いを理解しておくことが、内分泌疾患の診療の流れをつかむ助けになります。

解答・解説

正解はaです

静脈サンプリング検査とは、カテーテルを目的臓器の流出静脈まで進めて採血し、ホルモン濃度を部位ごと(左右や上下など)に比較する検査である。どこからホルモンが過剰に分泌されているかを「機能的に」局在診断する目的で行い、画像検査だけでは病変の局在や機能性の有無を判断できないときに必要となる。

どの疾患で必要になるか

静脈サンプリングが治療方針を左右するのは、ホルモン過剰症で、かつ「片側(局所)の病変なら手術、両側(びまん性)なら薬物療法」というように、責任病変の局在によって治療が変わる疾患である。代表が原発性アルドステロン症に対する副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling:AVS)で、アルドステロン過剰分泌が片側性か両側性かを判定し、手術適応を決める。 ほかにも、ACTH依存性Cushing症候群でCushing病と異所性ACTH産生腫瘍を鑑別する下錐体静脈洞サンプリング、局在不明の副甲状腺腺腫に対する選択的静脈サンプリングなどがあるが、選択肢のなかで該当するのは原発性アルドステロン症のみである。 他の選択肢は、ホルモン欠乏症(Addison病、クレチン症)か、画像や核医学検査で局在が十分わかり、治療方針も決まる疾患(プロラクチノーマ、Plummer病)であり、静脈サンプリングは不要である。

選択肢考察

  1. ○a.  原発性アルドステロン症

    正しい。原発性アルドステロン症は、副腎皮質からのアルドステロン自律分泌によって高血圧や低カリウム血症をきたす疾患で、主な病型は片側性のアルドステロン産生腺腫と、両側副腎の過形成による特発性アルドステロン症である。片側性なら腹腔鏡下副腎摘除術で治癒・改善が期待でき、両側性ならミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)による薬物療法が中心となる。 アルドステロン産生腺腫は径1cm未満と小さいことが多く、CTで描出できないことがある。逆に、CTで見える副腎腫瘤がホルモンを産生しない非機能性腺腫(偶発腫)であることも中高年ではまれではない。したがって画像だけで病側を決めると誤った手術につながるため、手術を希望する患者では副腎静脈サンプリングで左右の副腎静脈血のアルドステロン濃度(コルチゾールで補正した値)を比較し、片側性か両側性かを判定する。通常はACTH負荷下で行い、左右比が一定以上(一般に4倍超)であれば片側性と判断する。

  2. ×b.  プロラクチノーマ

    誤り。プロラクチノーマ(プロラクチン産生下垂体腺腫)は、血中プロラクチン高値と下垂体MRIで診断できる。治療はドパミン作動薬(カベルゴリンなど)による薬物療法が第一選択で、多くの例で腫瘍縮小とプロラクチン正常化が得られる。薬剤抵抗例や不耐例では経蝶形骨洞手術を考慮する。治療方針の決定に静脈サンプリングは用いない。

  3. ×c.  Plummer病

    誤り。Plummer病(中毒性結節性甲状腺腫)は、甲状腺結節自体がTSHに依存せず甲状腺ホルモンを過剰産生する疾患である。甲状腺ホルモン高値・TSH低値に加え、超音波で結節を確認し、甲状腺シンチグラフィ(123Iまたは99mTc)で結節に集積が集中し周囲の正常組織の集積が抑制される「ホット結節」を示すことで診断できる。治療は手術、放射性ヨウ素内用療法、経皮的エタノール注入療法などで、静脈サンプリングは不要である。

  4. ×d.  Addison病

    誤り。Addison病は自己免疫性副腎炎や結核などで両側副腎皮質が破壊される原発性副腎皮質機能低下症である。コルチゾール低値とACTH高値、迅速ACTH負荷試験でのコルチゾール反応低下で診断し、ACTH過剰による皮膚・粘膜の色素沈着が特徴的である。ホルモン欠乏症であり、過剰分泌部位を探す必要がないため静脈サンプリングは行わない。治療はヒドロコルチゾンによる補充(必要に応じ鉱質コルチコイドのフルドロコルチゾンを併用)である。

  5. ×e.  クレチン症

    誤り。クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)は、甲状腺の形成異常やホルモン合成障害などによる先天性の甲状腺ホルモン欠乏症である。わが国では新生児マススクリーニング(TSH測定)で早期発見され、精密検査でFT4低値・TSH高値を確認して診断する。知能障害や成長障害を防ぐため、早期にレボチロキシン(T4製剤)の補充を開始する。静脈サンプリングは不要である。

原発性アルドステロン症の診断の流れ

1. スクリーニング:高血圧患者(とくに低カリウム血症、若年発症、治療抵抗性、副腎偶発腫を伴う例など)で、血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)または活性型レニン濃度を測定し、アルドステロン/レニン比(ARR)が高値であれば本症を疑う。レニンはアルドステロン過剰による体液量増加のため抑制されている。 2. 機能確認検査:カプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験、フロセミド立位試験、経口食塩負荷試験などで、アルドステロン分泌が自律的であること(抑制されないこと)を確かめる。 3. 病型・局在診断:副腎CTで腫瘍の有無や副腎の形態を評価し、手術を希望する例では副腎静脈サンプリングで片側性か両側性かを判定する。 4. 治療:片側性は腹腔鏡下副腎摘除術、両側性や手術を希望しない例はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬。

副腎静脈サンプリングの要点

・左右の副腎静脈と下大静脈(末梢)から採血し、アルドステロンとコルチゾールを測定する。 ・コルチゾールは両側副腎から同程度に分泌されるため、カテーテルが副腎静脈に正しく入っているか(選択性)の確認と、希釈の補正(アルドステロン/コルチゾール比)に用いる。 ・右副腎静脈は細く短く、下大静脈に直接流入するためカニュレーションが難しい。 ・ACTH負荷により分泌を刺激して判定の精度を高めることが多い。

その他の主な静脈サンプリング

・下錐体静脈洞サンプリング:ACTH依存性Cushing症候群で、下垂体由来(Cushing病)か異所性ACTH産生腫瘍かを鑑別する。CRH(またはデスモプレシン)刺激下で中枢/末梢のACTH比をみる。 ・副甲状腺静脈サンプリング:画像で局在不明の原発性副甲状腺機能亢進症や再手術例で用いる。 ・なおインスリノーマの局在診断に用いる選択的動脈内カルシウム注入試験は、動脈から刺激薬を注入し肝静脈で採血する検査である。

POINT

・静脈サンプリングは、ホルモン過剰分泌の「部位(左右・局所)」を機能的に特定し、治療方針(手術か薬物か)を決めるために行う。 ・原発性アルドステロン症では副腎静脈サンプリングで片側性(腺腫など→手術)か両側性(過形成→MR拮抗薬)かを判定する。 ・アルドステロン産生腺腫は小さくCTで見えないことがあり、画像上の副腎腫瘤が非機能性のこともあるため、画像だけで病側を決めない。 ・Cushing病と異所性ACTH症候群の鑑別には下錐体静脈洞サンプリングを用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。