右か左か、それとも両方か―副腎静脈サンプリングが決める原発性アルドステロン症の治療
第106回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
治療方針の決定のため,臓器の静脈サンプリング検査を行う必要がある内分泌疾患はどれか。
- a.原発性アルドステロン症
- b.プロラクチノーマ
- c.Plummer病
- d.Addison病
- e.クレチン症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
静脈サンプリング検査は、臓器の流出静脈から採血してホルモン濃度を部位ごとに比較し、過剰分泌の源を機能的に特定する検査で、病変の局在によって治療方針が変わるホルモン過剰症で必要になります。原発性アルドステロン症では、アルドステロン産生腺腫が小さくCTで描出されないことや、画像上の副腎腫瘤が非機能性であることがあるため、副腎静脈サンプリングで片側性(手術)か両側性(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)かを判定します。プロラクチノーマやPlummer病は血液検査と画像・シンチグラフィで診断と方針決定ができ、Addison病やクレチン症はホルモン欠乏症のためこの検査の対象になりません。Cushing症候群での下錐体静脈洞サンプリングなど関連する検査とあわせて、「形」を見る画像と「機能」を見るサンプリングの役割の違いを理解しておくことが、内分泌疾患の診療の流れをつかむ助けになります。
解答・解説
正解はaです
静脈サンプリング検査とは、カテーテルを目的臓器の流出静脈まで進めて採血し、ホルモン濃度を部位ごと(左右や上下など)に比較する検査である。どこからホルモンが過剰に分泌されているかを「機能的に」局在診断する目的で行い、画像検査だけでは病変の局在や機能性の有無を判断できないときに必要となる。
どの疾患で必要になるか
静脈サンプリングが治療方針を左右するのは、ホルモン過剰症で、かつ「片側(局所)の病変なら手術、両側(びまん性)なら薬物療法」というように、責任病変の局在によって治療が変わる疾患である。代表が原発性アルドステロン症に対する副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling:AVS)で、アルドステロン過剰分泌が片側性か両側性かを判定し、手術適応を決める。 ほかにも、ACTH依存性Cushing症候群でCushing病と異所性ACTH産生腫瘍を鑑別する下錐体静脈洞サンプリング、局在不明の副甲状腺腺腫に対する選択的静脈サンプリングなどがあるが、選択肢のなかで該当するのは原発性アルドステロン症のみである。 他の選択肢は、ホルモン欠乏症(Addison病、クレチン症)か、画像や核医学検査で局在が十分わかり、治療方針も決まる疾患(プロラクチノーマ、Plummer病)であり、静脈サンプリングは不要である。
選択肢考察
- ○a. 原発性アルドステロン症
正しい。原発性アルドステロン症は、副腎皮質からのアルドステロン自律分泌によって高血圧や低カリウム血症をきたす疾患で、主な病型は片側性のアルドステロン産生腺腫と、両側副腎の過形成による特発性アルドステロン症である。片側性なら腹腔鏡下副腎摘除術で治癒・改善が期待でき、両側性ならミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)による薬物療法が中心となる。 アルドステロン産生腺腫は径1cm未満と小さいことが多く、CTで描出できないことがある。逆に、CTで見える副腎腫瘤がホルモンを産生しない非機能性腺腫(偶発腫)であることも中高年ではまれではない。したがって画像だけで病側を決めると誤った手術につながるため、手術を希望する患者では副腎静脈サンプリングで左右の副腎静脈血のアルドステロン濃度(コルチゾールで補正した値)を比較し、片側性か両側性かを判定する。通常はACTH負荷下で行い、左右比が一定以上(一般に4倍超)であれば片側性と判断する。
- ×b. プロラクチノーマ
誤り。プロラクチノーマ(プロラクチン産生下垂体腺腫)は、血中プロラクチン高値と下垂体MRIで診断できる。治療はドパミン作動薬(カベルゴリンなど)による薬物療法が第一選択で、多くの例で腫瘍縮小とプロラクチン正常化が得られる。薬剤抵抗例や不耐例では経蝶形骨洞手術を考慮する。治療方針の決定に静脈サンプリングは用いない。
- ×c. Plummer病
誤り。Plummer病(中毒性結節性甲状腺腫)は、甲状腺結節自体がTSHに依存せず甲状腺ホルモンを過剰産生する疾患である。甲状腺ホルモン高値・TSH低値に加え、超音波で結節を確認し、甲状腺シンチグラフィ(123Iまたは99mTc)で結節に集積が集中し周囲の正常組織の集積が抑制される「ホット結節」を示すことで診断できる。治療は手術、放射性ヨウ素内用療法、経皮的エタノール注入療法などで、静脈サンプリングは不要である。
- ×d. Addison病
誤り。Addison病は自己免疫性副腎炎や結核などで両側副腎皮質が破壊される原発性副腎皮質機能低下症である。コルチゾール低値とACTH高値、迅速ACTH負荷試験でのコルチゾール反応低下で診断し、ACTH過剰による皮膚・粘膜の色素沈着が特徴的である。ホルモン欠乏症であり、過剰分泌部位を探す必要がないため静脈サンプリングは行わない。治療はヒドロコルチゾンによる補充(必要に応じ鉱質コルチコイドのフルドロコルチゾンを併用)である。
- ×e. クレチン症
誤り。クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)は、甲状腺の形成異常やホルモン合成障害などによる先天性の甲状腺ホルモン欠乏症である。わが国では新生児マススクリーニング(TSH測定)で早期発見され、精密検査でFT4低値・TSH高値を確認して診断する。知能障害や成長障害を防ぐため、早期にレボチロキシン(T4製剤)の補充を開始する。静脈サンプリングは不要である。
原発性アルドステロン症の診断の流れ
1. スクリーニング:高血圧患者(とくに低カリウム血症、若年発症、治療抵抗性、副腎偶発腫を伴う例など)で、血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)または活性型レニン濃度を測定し、アルドステロン/レニン比(ARR)が高値であれば本症を疑う。レニンはアルドステロン過剰による体液量増加のため抑制されている。 2. 機能確認検査:カプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験、フロセミド立位試験、経口食塩負荷試験などで、アルドステロン分泌が自律的であること(抑制されないこと)を確かめる。 3. 病型・局在診断:副腎CTで腫瘍の有無や副腎の形態を評価し、手術を希望する例では副腎静脈サンプリングで片側性か両側性かを判定する。 4. 治療:片側性は腹腔鏡下副腎摘除術、両側性や手術を希望しない例はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬。
副腎静脈サンプリングの要点
・左右の副腎静脈と下大静脈(末梢)から採血し、アルドステロンとコルチゾールを測定する。 ・コルチゾールは両側副腎から同程度に分泌されるため、カテーテルが副腎静脈に正しく入っているか(選択性)の確認と、希釈の補正(アルドステロン/コルチゾール比)に用いる。 ・右副腎静脈は細く短く、下大静脈に直接流入するためカニュレーションが難しい。 ・ACTH負荷により分泌を刺激して判定の精度を高めることが多い。
その他の主な静脈サンプリング
・下錐体静脈洞サンプリング:ACTH依存性Cushing症候群で、下垂体由来(Cushing病)か異所性ACTH産生腫瘍かを鑑別する。CRH(またはデスモプレシン)刺激下で中枢/末梢のACTH比をみる。 ・副甲状腺静脈サンプリング:画像で局在不明の原発性副甲状腺機能亢進症や再手術例で用いる。 ・なおインスリノーマの局在診断に用いる選択的動脈内カルシウム注入試験は、動脈から刺激薬を注入し肝静脈で採血する検査である。
POINT
・静脈サンプリングは、ホルモン過剰分泌の「部位(左右・局所)」を機能的に特定し、治療方針(手術か薬物か)を決めるために行う。 ・原発性アルドステロン症では副腎静脈サンプリングで片側性(腺腫など→手術)か両側性(過形成→MR拮抗薬)かを判定する。 ・アルドステロン産生腺腫は小さくCTで見えないことがあり、画像上の副腎腫瘤が非機能性のこともあるため、画像だけで病側を決めない。 ・Cushing病と異所性ACTH症候群の鑑別には下錐体静脈洞サンプリングを用いる。
