「欲しいのに避けてしまう」―2度の稽留流産のあと、最初に処方すべきは検査ではなく安心
第106回医師国家試験 I問題 第47問
国試問題にチャレンジ
37歳の女性。挙児希望を主訴に来院した。最近の1年間で2回妊娠し,いずれも稽留流産と診断され,子宮内容除去術を受けた。現在は,流産や手術が怖いため避妊しているという。月経周期は28日型,整。 対応として最も適切なのはどれか。
- a.排卵誘発
- b.骨盤部CT
- c.避妊の継続
- d.精神的ケア
- e.夫の精液検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
1年間に2回妊娠していることから排卵・受精は保たれており、本例は不妊症ではなく反復流産(不育症)の状態です。挙児を希望しながら流産や手術への恐怖から避妊を続けているという希望と行動の食い違いが最大の問題であり、まず話を傾聴して不安を和らげる精神的ケアが最も適切な対応となります。早期流産の多くは胎児の偶発的な染色体異常によるもので本人の責任ではないこと、2回の流産後でも次の妊娠で出産に至る可能性は十分あることを伝えることが大切です。排卵誘発や精液検査は妊娠が成立しない場合の対応であり、子宮腔癒着(Asherman症候群)などの評価には超音波や子宮鏡、MRIを用いCTは選びません。年齢による時間的制約も踏まえ、心理的支援と不育症の原因検索を並行して進める姿勢は、患者中心の生殖医療の基本として重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・37歳の女性で、子どもを望んで受診した。 ・最近1年間で2回妊娠し、2回とも稽留流産(胎児が子宮内で死亡し、出血や腹痛などの症状がないまま子宮内にとどまっている状態)となり、子宮内容除去術を受けた。 ・流産や手術への恐怖から、現在は避妊している。 ・月経周期は28日型で整である。
病態の考え方
1年で2回妊娠しているので、排卵・受精・着床までは問題なく起こっている。つまり「妊娠できない」不妊症ではなく、「妊娠しても出産に至らない」状態である。流産を2回繰り返したものを反復流産、3回以上連続したものを習慣流産と呼ぶ。日本では、2回以上の流産・死産で生児が得られない状態を不育症と定義している。本例は反復流産であり、不育症として原因を調べる対象になる。 なお、妊娠初期の流産の最大の原因は胎児側の偶発的な染色体異常であり、その頻度は母体の年齢とともに上昇する。37歳という年齢を考えると、2回の流産がいずれも偶発的なものであった可能性も十分ある。
設問への考え方
本例の最大の問題は、挙児を希望しているにもかかわらず、流産と手術のつらい体験への恐怖から避妊を続けているという、希望と行動の食い違いである。避妊を続ける限り妊娠は成立しない。37歳という年齢を考えると、妊娠を先延ばしにするほど妊娠率は下がり、流産率は上がる。したがって、まず流産を繰り返した悲しみと恐怖に寄り添い、不安を和らげる精神的ケアを行うことが最も適切である。そのうえで、原因検索(不育症の検査)を並行して進め、次の妊娠に前向きに臨めるよう支援していく。
選択肢考察
- ×a. 排卵誘発
排卵誘発は、排卵障害のために妊娠できない場合に、クロミフェンやゴナドトロピン製剤などで排卵を起こさせる治療である。本例は月経周期が28日型で整であり、排卵は規則的に起きていると考えられる。さらに1年間に2回自然に妊娠しているので、妊娠の成立自体には問題がない。排卵誘発を行う理由はない。
- ×b. 骨盤部CT
反復流産の原因として、子宮の形態異常(中隔子宮、双角子宮など)、子宮筋腫、子宮腔内の癒着などを調べることはある。特に本例は子宮内容除去術を2回受けているので、子宮腔内に癒着ができるAsherman症候群も確認すべき対象になる。しかし、これらの評価には経腟超音波検査、子宮卵管造影、ソノヒステログラフィー(子宮腔に生理食塩水を入れて行う超音波検査)、子宮鏡、骨盤部MRIなどを用いる。CTは子宮内腔の形や軟部組織の評価に向かないうえに、妊娠を望む女性の骨盤に放射線を当てることになり、選ぶ理由がない。また、恐怖から避妊を続けている現状への対応にはならない。
- ×c. 避妊の継続
患者は子どもを望んで受診しており、避妊を続けることはその希望と正反対である。37歳という年齢では、時間の経過とともに妊娠しにくくなり、流産率も上がるため、恐怖を理由に漫然と避妊を続けることを勧めるのは適切でない。避妊をやめられない背景にある不安へ働きかけることが先決である。
- ○d. 精神的ケア
流産を繰り返した女性は、喪失の悲しみ、自責の念、次の妊娠への強い不安を抱えやすく、抑うつや不安障害に至ることもある。本例は挙児を希望しているのに、流産と手術への恐怖から避妊を続けており、この心理的な問題が妊娠に向けて進む妨げになっている。まず話をよく聴いてつらい体験を受け止める。そのうえで、妊娠初期の流産の多くは胎児の偶発的な染色体異常によるもので、本人の責任ではないこと、2回流産した後でも次の妊娠で出産に至る可能性は高いことなどを説明し、不安を和らげる。不育症の検査や妊娠中の支援体制を示すことも、安心につながる。原因の分からない不育症では、医療者による精神的支援が次の妊娠の転帰を改善しうることも報告されている。
- ×e. 夫の精液検査
精液検査は、妊娠が成立しない不妊症の場合に、男性側の原因(精子の数や運動率の低下など)を調べる基本検査である。本例は1年間に2回妊娠しており、受精は問題なく起こっているので、精液検査を優先する理由はない。なお不育症の検査としては、夫婦双方の染色体検査(均衡型転座などの確認)が行われることがあるが、これは精液検査とは別のものである。
流産の定義と分類
・流産:妊娠22週未満での妊娠の終結。全妊娠の約15%に起こり、その大部分は妊娠12週未満の早期流産である。 ・稽留流産:胎児(胎芽)が子宮内で死亡しているが、出血や腹痛などの症状がなく、子宮内にとどまっている状態。超音波検査で診断される。 ・反復流産:流産を2回繰り返したもの。 ・習慣流産:流産を3回以上連続して繰り返したもの。 ・不育症:妊娠は成立するが、2回以上の流産・死産を繰り返して生児が得られない状態。
流産の原因
早期流産の最大の原因は胎児の染色体異常(約半数以上)で、多くは偶発的に起こる。母体の年齢が高くなるほど卵子の染色体の不分離が増えるため、流産率も上昇する。
不育症の主な原因と検査
・抗リン脂質抗体症候群:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体などを測定する。低用量アスピリンやヘパリンで治療する。 ・子宮形態異常:中隔子宮、双角子宮、粘膜下筋腫、子宮腔癒着症(Asherman症候群)など。経腟超音波、ソノヒステログラフィー、子宮卵管造影、子宮鏡、MRIで評価する。 ・内分泌異常:甲状腺機能異常、糖尿病など。 ・夫婦の染色体異常:均衡型転座など。 ・凝固異常:プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症などが関連する可能性が指摘されている。 ・原因不明:検査をしても半数以上は明らかな原因が見つからない。原因不明の場合でも、次の妊娠で出産に至る可能性は比較的高い。
Asherman症候群
子宮内容除去術などで子宮内膜の基底層が傷つき、子宮腔内に癒着が生じた状態。月経量の減少や無月経、不妊、流産の原因となる。子宮鏡で診断し、子宮鏡下に癒着を剥離して治療する。
流産後の心理的支援
流産は喪失体験であり、悲嘆、自責感、抑うつ、次の妊娠への不安を生じやすい。流産の多くは避けようのない偶発的なものであり、本人の行動のせいではないことを伝え、気持ちを受け止めることが大切である。
POINT
・1年に2回妊娠できているので、排卵・受精は問題なく、不妊症ではなく反復流産(不育症)の状態である。 ・挙児希望があるのに流産・手術への恐怖から避妊している場合、まず精神的ケアで不安を和らげる。 ・早期流産の最大の原因は胎児の偶発的な染色体異常で、母体の年齢とともに増える。 ・不育症の原因検索では、抗リン脂質抗体、子宮形態異常、内分泌異常、夫婦の染色体異常などを調べる。子宮の評価は超音波・子宮卵管造影・子宮鏡・MRIで行い、CTは用いない。 ・子宮内容除去術を繰り返した後は、Asherman症候群(子宮腔癒着症)に注意する。
