胃の「こぶ」の正体を見抜け―KIT陽性で決まるGISTの診断と治療
第106回医師国家試験 I問題 第22問
国試問題にチャレンジ
胃GIST〈gastrointestinal stromal tumor〉について正しいのはどれか。
- a.胃全摘術が第一選択である。
- b.小腸GISTよりも頻度が低い。
- c.リンパ節に転移することが多い。
- d.肉眼的には潰瘍浸潤型を呈することが多い。
- e.免疫組織化学染色でKIT〈c-kit遺伝子産物〉陽性が特徴的である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
GISTはカハール介在細胞系に由来する消化管の間葉系腫瘍で、c-kitまたはPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異を背景とし、免疫染色でKIT(CD117)陽性となるのが最大の特徴です(DOG1・CD34も陽性になりやすく、デスミン・S-100は通常陰性)。発生部位は胃が最多で小腸がそれに続き、固有筋層由来のため正常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍の形をとり、胃癌のような潰瘍浸潤型にはなりません。転移は肝転移と腹膜播種が中心でリンパ節転移はまれなため、治療は被膜を破らない局所切除が基本で、系統的郭清や胃全摘は原則不要です。KITはイマチニブの標的でもあり、切除不能・転移・再発例や高リスク例の術後補助療法に用いられます。上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍の違いから形態・転移様式・術式を論理的に導く考え方は、消化管腫瘍全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
GIST(gastrointestinal stromal tumor、消化管間質腫瘍)は、消化管の壁の筋層に存在し腸の蠕動運動のペースメーカーとして働くカハール介在細胞(interstitial cells of Cajal)、またはその前駆細胞に由来すると考えられている間葉系腫瘍である。消化管に発生する間葉系腫瘍の中で最も多い。 本質的な発生機序は、受容体型チロシンキナーゼをコードするc-kit遺伝子(約80%)あるいはPDGFRA(血小板由来増殖因子受容体α)遺伝子の機能獲得型変異であり、これにより増殖シグナルが常に入りっぱなしになる。この分子病態が、診断(KIT蛋白の免疫染色)と治療(チロシンキナーゼ阻害薬イマチニブ)の両方に直結している点が重要である。 臨床的には、粘膜の下(固有筋層)から発生するため、内視鏡では表面が正常粘膜に覆われた半球状の隆起、すなわち粘膜下腫瘍(SMT)として見つかる。発生部位は胃が最も多く、次いで小腸である。転移は主に血行性(肝)と腹膜播種で、リンパ節転移はまれである。治療の基本は、腫瘍を被膜ごと破らずに取り切る外科的切除(局所切除・部分切除)であり、系統的リンパ節郭清は原則不要である。 これらの特徴、すなわち「粘膜下腫瘍」「KIT陽性」「リンパ節転移まれ」「局所切除が基本」「胃に最多」を押さえれば、各選択肢の正誤は判断できる。
選択肢考察
- ×a. 胃全摘術が第一選択である。
GISTはリンパ節転移がまれなため、胃癌のような系統的リンパ節郭清を伴う広範な胃切除は通常必要ない。腫瘍を破綻させずに適切な断端を確保して切除する局所切除(胃部分切除、楔状切除)が第一選択であり、腹腔鏡下手術や腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)も広く行われる。胃全摘術は、腫瘍が噴門部や広範囲に及び局所切除では機能を温存できない場合などに限られる。なお、腫瘍の被膜損傷・破裂は腹膜播種による再発リスクを大きく高めるため、愛護的な操作が重要である。
- ×b. 小腸GISTよりも頻度が低い。
GISTの発生部位は胃が最も多く全体の約60~70%を占め、次いで小腸(十二指腸を含む)が約20~30%である。大腸・直腸、食道はそれぞれ数%程度と少ない。したがって胃GISTは小腸GISTより頻度が高い。なお、一般に同じ大きさ・核分裂像数であれば、胃GISTの方が小腸GISTより再発リスクが低いとされる。
- ×c. リンパ節に転移することが多い。
GISTの転移様式は主に血行性転移(特に肝転移)と腹膜播種であり、リンパ節転移はまれである。肺や骨への遠隔転移は比較的少ない。この性質から、手術の際に予防的なリンパ節郭清は原則として行わない。例外として、コハク酸脱水素酵素(SDH)欠損型GIST(若年者に多い)ではリンパ節転移をきたしうることが知られている。
- ×d. 肉眼的には潰瘍浸潤型を呈することが多い。
潰瘍浸潤型は胃癌の肉眼型分類(Borrmann 3型)で用いられる形態であり、粘膜上皮から発生して周囲に浸潤する癌の特徴である。GISTは固有筋層から発生する非上皮性腫瘍で、粘膜下腫瘍の形態をとり、正常粘膜に覆われたなだらかな立ち上がりの半球状隆起(胃内腔へ突出する管内型、壁外へ発育する管外型、両方向の混合型がある)として観察される。腫瘍が大きくなると頂部に潰瘍(delle)を形成して出血の原因となることがあるが、潰瘍浸潤型の癌とは異なる。
- ○e. 免疫組織化学染色でKIT〈c-kit遺伝子産物〉陽性が特徴的である。
GISTの確定診断は病理組織の免疫組織化学染色による。GISTの大多数(約95%)はKIT(CD117)陽性であり、これが平滑筋腫・神経鞘腫など他の消化管間葉系腫瘍との鑑別の決め手となる。また約60~70%でCD34が陽性となり、DOG1も高率に陽性となる(KIT陰性例の診断に有用で、この場合はPDGFRA遺伝子変異を伴うことが多い)。一方、平滑筋系マーカーのデスミンや神経系マーカーのS-100蛋白は通常陰性である。KITはイマチニブの標的分子でもあり、切除不能・転移・再発例ではイマチニブが第一選択となる。
消化管の粘膜下腫瘍の鑑別(免疫組織化学)
・GIST:KIT(CD117)陽性、DOG1陽性、CD34陽性が多い、デスミン陰性、S-100陰性 ・平滑筋腫・平滑筋肉腫:デスミン陽性、α-SMA陽性、KIT陰性(食道では平滑筋腫が最多) ・神経鞘腫:S-100蛋白陽性、KIT陰性
臨床像
中高年(50~60歳代)に多く、性差は少ない。小さいうちは無症状で、健診の内視鏡やCTで偶然発見されることが多い。大きくなると吐下血(潰瘍部からの出血)、貧血、腹痛、腹部腫瘤として発見される。
診断
上部消化管内視鏡で粘膜下腫瘍として認識し、超音波内視鏡(EUS)で固有筋層との連続性を確認する。組織診断はEUS下穿刺吸引生検(EUS-FNA)などで行い、免疫染色で確定する。造影CTで大きさ・転移の有無を評価する。
治療方針(胃の粘膜下腫瘍)
・組織学的にGISTと診断されれば、大きさにかかわらず原則として外科的切除の適応である。 ・径5 cm以上、または2 cm以上で増大傾向・潰瘍形成・辺縁不整などの悪性を疑う所見があれば手術を考慮する。 ・2 cm未満で悪性所見がなければ経過観察も選択肢となる。 ・術式は局所切除(部分切除)が基本で、リンパ節郭清は原則不要。
再発リスク分類と薬物療法
再発リスクは腫瘍径、核分裂像数、発生部位(胃は小腸より低リスク)、腫瘍破裂の有無で評価する(modified Fletcher分類など)。高リスク例には術後補助療法としてイマチニブを3年間投与することが推奨される。切除不能・転移・再発GISTにはイマチニブが第一選択で、耐性となればスニチニブ、レゴラフェニブなどを用いる。
POINT
・GISTはカハール介在細胞由来の間葉系腫瘍で、c-kitまたはPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異が原因。 ・免疫染色でKIT(CD117)陽性が特徴(DOG1、CD34も陽性になりやすい)。 ・発生部位は胃(約60~70%)>小腸(約20~30%)。 ・形態は粘膜下腫瘍(頂部に潰瘍を伴うことはある)。 ・転移は肝・腹膜が中心で、リンパ節転移はまれ → 局所切除が基本、郭清は原則不要。 ・切除不能・転移・再発例や高リスク例の術後補助療法にはイマチニブ。
