StudyMed医師国家試験

肝円索の右はすべて腫瘍―CTで区域を読み、右3区域切除を導く

第106回医師国家試験 I問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第21問

肝細胞癌の腹部造影CT(A)(B)を別に示す。  肝切除術を行う場合の術式として適切なのはどれか。

第106回 I問題 第21問の問題画像
  1. a.左外側区域切除
  2. b.中央2区域切除
  3. c.右3区域切除
  4. d.左3区域切除
  5. e.尾状葉切除

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肝細胞癌の造影CTから、腫瘍がどの肝区域を占めているかを読み取り、適切な肝切除術式を選ぶ問題だ。カギは区域の境界となる目印、つまり肝静脈と肝円索の位置。そして「腫瘍のない区域がどこに残っているか」に注目しよう。
医学生医学生
肝区域はCouinaud分類のS1からS8を解剖で覚えましたが、CTで境界を引くのはまだ自信がありません。
ドクタードクター
大丈夫、目印を3つ押さえれば読めるようになる。右肝静脈は前区域と後区域の境界、中肝静脈は右葉と左葉の境界(Cantlie線)、肝円索や肝鎌状間膜の付着部は内側区域と外側区域の境界だ。門脈枝は区域の中心を走り、肝静脈は区域の間を走る、という関係も覚えておくといい。
医学生医学生
では、肝静脈が下大静脈に合流するレベルの断面から見ればいいですね。
ドクタードクター
その通り。上方の断面では、右肝静脈と左肝静脈の間、つまり前区域上部のS8から内側区域のS4にかけて、内部が不均一に造影される大きな腫瘤がある。さらに右外側の後区域側にも別の結節が見える。より尾側の断面では、右葉のほぼ全体から内側区域まで、複数の結節が癒合したような巨大な腫瘤が占めているんだ。
医学生医学生
腫瘤の左端はどこまで来ていますか。
ドクタードクター
いい質問だ。腫瘤の左縁は肝円索の付着部、つまり臍静脈裂の付近まで達しているけれど、それより左の外側区域、S2とS3には明らかな腫瘤がない。
医学生医学生
ということは、腫瘍は内側区域、前区域、後区域の3区域にあって、外側区域だけがきれいに残っている、と。
ドクタードクター
その通り。だから3区域をまとめて切除し、外側区域だけを残す右3区域切除が正解だ。拡大右葉切除とも呼ばれる。腫瘍を取り残さない根治性と、健常な肝臓を残す安全性の両立が肝切除の基本原則なんだ。
医学生医学生
左外側区域切除は、残すべき場所を切ってしまうことになりますね。
ドクタードクター
そう、腫瘍はまったく取れないうえに、健常肝を失うだけになる。では中央2区域切除はどうだろう。
医学生医学生
内側区域と前区域を取る術式でしたよね。中央部の腫瘍には良さそうですが……。
ドクタードクター
肝中央部に限局した腫瘍ならよい選択肢だ。でも今回は腫瘍が右肝静脈を越えて後区域にも広がっているから、後区域の病変が残ってしまい根治的にならない。左3区域切除は外側・内側・前区域を切って後区域を残す術式だから、腫瘍のない外側区域を切り、腫瘍のある後区域を残すという、まさに逆の結果になる。
医学生医学生
尾状葉切除は、下大静脈の前にある小さなS1だけを取る術式なので、今回のように広範な腫瘍には対応できませんね。
ドクタードクター
その通り。尾状葉は進展状況に応じて合わせて切除することはあっても、単独切除では腫瘍の大半が残ってしまう。
医学生医学生
消化器外科の実習で、手術前にカンファレンスで切除肝の容積を計算しているのを見ました。右3区域切除だと残肝はかなり少なくなりそうです。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。外側区域は全肝の約20%前後しかないので、右3区域切除は非常に大きな手術になる。肝細胞癌は慢性肝炎や肝硬変を背景に起こることが多いから、腫瘍の広がりだけでなく肝予備能で切除できる範囲が決まる。腹水の有無、血清ビリルビン、ICG15分停滞率などで許容切除量を判断する幕内基準が知られている。
医学生医学生
残肝が足りない場合はどうするんですか。
ドクタードクター
術前に切除側の門脈を塞栓する門脈塞栓術を行い、残す側の肝臓を肥大させてから手術することがある。実臨床では、切除が難しければ肝動脈化学塞栓療法や薬物療法など、ほかの治療も含めて総合的に判断することになるよ。

まとめ

肝切除の術式は、造影CTで腫瘍の占拠区域を正確に把握することから始まります。区域の目印は、右肝静脈(前区域と後区域の境界)、中肝静脈(Cantlie線、右葉と左葉の境界)、肝円索・臍静脈裂(内側区域と外側区域の境界)です。本例のように腫瘍が内側区域・前区域・後区域に広がり外側区域が保たれていれば、外側区域のみを残す右3区域切除が適応となり、中央2区域切除では後区域の病変が残り、左3区域切除では残すべき区域を誤ります。ただし右3区域切除は残肝が全肝の約20%前後となるため、ICG試験などによる肝予備能と残肝容積の評価が不可欠で、必要に応じて術前門脈塞栓術を行います。CT上の区域同定と術式名の対応を理解しておくことは、画像読影と外科的判断の両方の土台になります。

解答・解説

正解はcです

画像所見の整理

造影CT(A)は肝上部(肝静脈が下大静脈へ合流する付近)の断面である。肝の右前方から正中付近にかけて、内部が不均一に造影される大きな腫瘤があり、右肝静脈と左肝静脈の間の領域、すなわち前区域上部(S8)から内側区域(S4)にかけてを占めている。さらに右外側(後区域側)にも別の結節がみられる。 造影CT(B)はより尾側の断面で、肝右葉の大部分(前区域と後区域)から内側区域にかけて、複数の結節が癒合したような巨大な腫瘤が占拠している。腫瘤の左縁は肝円索・肝鎌状間膜の付着部(内側区域と外側区域の境界、臍静脈裂)付近まで達しているが、それより左側の外側区域(S2、S3)には明らかな腫瘤を認めない。

腫瘍の占拠範囲と術式の考え方

以上から、腫瘍は内側区域(S4)・前区域(S5、S8)・後区域(S6、S7)の3区域に広がり、外側区域は保たれていると判断できる。肝切除では、腫瘍を取り残さないこと(根治性)と、術後に十分な残肝量を確保すること(安全性)の両立が求められる。本例のように腫瘍が肝円索の右側全体に及んでいる場合、腫瘍を含む区域をまとめて切除し、外側区域だけを残す右3区域切除が選択される。 肝区域を判断するための目印として、肝静脈と肝円索の走行を押さえておくことが大切である。右肝静脈は前区域と後区域の境界、中肝静脈は左葉(内側区域)と右葉(前区域)の境界(Cantlie線)、肝円索(臍静脈裂)は内側区域と外側区域の境界を示す。なお、右3区域切除は残肝が外側区域のみ(全肝の約20%前後)となるため、実際には肝機能(ICG試験など)と残肝容積の評価が不可欠であり、必要に応じて術前に門脈塞栓術を行って残肝を肥大させることもある。

選択肢考察

  1. ×a.  左外側区域切除

    外側区域(S2、S3)は肝円索より左側の領域である。本例では腫瘍は肝円索より右側に広がっており、外側区域には病変を認めない。むしろ外側区域は残すべき健常肝であり、ここを切除しても腫瘍は全く取り除けない。

  2. ×b.  中央2区域切除

    中央2区域切除は内側区域(S4)と前区域(S5、S8)を切除し、外側区域と後区域を残す術式で、肝の中央部に限局した腫瘍に用いられる。本例では腫瘍が右肝静脈を越えて後区域(S6、S7)にまで広がっているため、この術式では後区域の腫瘍が残ってしまい、根治的切除にならない。

  3. ○c.  右3区域切除

    右3区域切除は、内側区域(S4)・前区域(S5、S8)・後区域(S6、S7)の3区域を切除し、外側区域(S2、S3)のみを残す術式である(拡大右葉切除とも呼ばれる)。本例の腫瘍は肝円索の右側で内側区域から前区域・後区域にかけて広範に占拠し、外側区域は保たれているため、腫瘍を一括して切除でき、かつ健常な外側区域を残せるこの術式が最も適切である。尾状葉(S1)も腫瘍の進展状況に応じて合わせて切除する。

  4. ×d.  左3区域切除

    左3区域切除は外側区域(S2、S3)・内側区域(S4)・前区域(S5、S8)を切除し、後区域(S6、S7)を残す術式である。本例では外側区域には腫瘍がない一方で後区域に腫瘍が存在するため、腫瘍のない外側区域を切除し、腫瘍のある後区域を残すことになり、適切でない。

  5. ×e.  尾状葉切除

    尾状葉(S1)は下大静脈の前面、肝門部の背側に位置する小さな領域で、尾状葉単独切除はこの部位に限局した腫瘍に対して行われる。本例の腫瘍は右葉と内側区域の広い範囲を占めており、尾状葉だけを切除しても腫瘍はほとんど残ってしまう。尾状葉を合わせて切除することはあっても、単独切除では対応できない。

肝区域の分類(Couinaud分類とHealey & Schroy分類)

・尾状葉:S1 ・外側区域:S2、S3(肝円索より左側) ・内側区域:S4(肝円索と中肝静脈・Cantlie線の間) ・前区域:S5、S8(中肝静脈と右肝静脈の間) ・後区域:S6、S7(右肝静脈より右後方) 左葉=外側区域+内側区域、右葉=前区域+後区域である。Cantlie線(胆嚢窩と下大静脈を結ぶ線)が左葉と右葉の境界で、中肝静脈がほぼこの面を走る。

境界の目印

・右肝静脈:前区域と後区域の境界 ・中肝静脈:右葉(前区域)と左葉(内側区域)の境界 ・左肝静脈:外側区域の中を走り、S2とS3の境界付近を走る ・肝円索(臍静脈裂)・肝鎌状間膜:内側区域と外側区域の境界 門脈枝は各区域の中心を走り、肝静脈は区域の間を走るという関係を理解すると、CT上で区域を同定しやすい。

代表的な肝切除術式

・部分切除(非系統的切除):腫瘍とその周囲のみを切除 ・亜区域切除:Couinaudの1亜区域(S1~S8のいずれか)を系統的に切除 ・外側区域切除:S2+S3 ・左葉切除:S2+S3+S4 ・右葉切除:S5+S6+S7+S8 ・中央2区域切除:S4+S5+S8 ・右3区域切除:S4+S5+S6+S7+S8(外側区域のみ残す) ・左3区域切除:S2+S3+S4+S5+S8(後区域のみ残す)

肝細胞癌の肝切除の安全性評価

肝細胞癌は慢性肝炎・肝硬変を背景に発生することが多く、切除範囲は腫瘍の広がりだけでなく肝予備能で決まる。腹水の有無、血清ビリルビン値、ICG15分停滞率(ICG R15)などで許容切除量を判断し(幕内基準)、大量肝切除が必要で残肝量が不足する場合は術前門脈塞栓術を検討する。

POINT

・肝区域の境界:右肝静脈(前区域|後区域)、中肝静脈(右葉|左葉)、肝円索(内側区域|外側区域)。 ・右3区域切除=内側区域+前区域+後区域(外側区域のみ残す)。 ・左3区域切除=外側区域+内側区域+前区域(後区域のみ残す)。 ・中央2区域切除=内側区域+前区域。 ・術式選択は腫瘍の占拠範囲と、肝予備能・残肝容積の両面から決める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。