StudyMed医師国家試験

「患者の権利」か「研究の倫理」か―リスボン宣言とヘルシンキ宣言を取り違えないために

第106回医師国家試験 H問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第14問

リスボン宣言に含まれないのはどれか。

  1. a.医療における選択の自由
  2. b.良質な医療を受ける権利
  3. c.自己の秘密を保持する権利
  4. d.ヒトを対象とする医学研究の原則
  5. e.意識のない患者に対する医療における手続き

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医の倫理に関する国際宣言の問題だ。世界医師会、つまりWMAはいくつもの宣言を採択していて、それぞれ扱うテーマがはっきり分かれている。カギは「リスボン宣言は何についての宣言か」をひと言で言えるかどうか。まずはそこから考えてみよう。
医学生医学生
リスボン宣言は患者の権利についての宣言だったと思います。医療倫理の講義で、ヘルシンキ宣言と並べて習いました。
ドクタードクター
その通り。リスボン宣言は1981年に採択された「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」で、医師が認識し、擁護すべき患者の権利を列挙したものだ。だから選択肢を見るときは、それが診療の場での患者の権利の話なのか、それとも別のテーマなのかで仕分けるといい。
医学生医学生
そうすると、良質な医療を受ける権利は真っ先に入っていそうですね。
ドクタードクター
そう、原則の一番最初に掲げられているのがこれだ。すべての人が差別なく適切な医療を受けられること、そして医師が外部から干渉されずに医学的・倫理的判断を下せることが求められている。治療資源が限られるときの公平な選び方や、転院時の医療の継続性にも触れているんだ。
医学生医学生
医療における選択の自由というのは、病院を選べるということですか。
ドクタードクター
そうだね。患者は医師や医療機関を自由に選び、変更する権利をもつ。さらに、どの段階でも他の医師の意見を求める権利、つまりセカンドオピニオンの権利もここに含まれている。
医学生医学生
臨床実習で、がんの患者さんが別の病院にセカンドオピニオンを聞きに行くための紹介状を、指導医の先生が快く書いていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにリスボン宣言の精神を実践している場面だね。次に、自己の秘密を保持する権利はどうかな。
医学生医学生
守秘義務のことですよね。これも患者の権利として入っていると思います。
ドクタードクター
正解。患者の健康状態や診断、予後、治療などの個人を特定できる情報は、患者の死後も含めて秘密が守られなければならない。開示できるのは、本人の明確な同意がある場合か、法律で明確に定められた場合に限られる。
医学生医学生
意識のない患者に対する医療の手続きは、患者の権利というより医師の行動の決まりのように見えて、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。でもこれは「自分で意思表示できない患者の権利をどう守るか」という話だから、リスボン宣言の中心的な項目の一つなんだ。意識のない患者では、可能な限り法律上の代理人からインフォームド・コンセントを得る。代理人がいなくて緊急の介入が必要なら、患者が拒否することが事前に明らかな場合を除いて、同意があるものと推定して治療してよい。いわゆる推定同意だね。
医学生医学生
救急科を回ったとき、身元不明で搬送された患者さんにすぐ処置を始めていたのは、この考え方に基づいているんですね。
ドクタードクター
そういうことだ。さらに、自殺企図で意識を失った患者については、医師は常に救命に努めるべきとされている点も押さえておこう。では残る、ヒトを対象とする医学研究の原則は?
医学生医学生
これは研究倫理の話なので、ヘルシンキ宣言ですね。リスボン宣言には含まれない、これが正解です。
ドクタードクター
その通り。ヘルシンキ宣言は1964年に採択された、人間を対象とする医学研究の倫理原則だ。研究計画の倫理審査委員会による審査、被験者の自由意思によるインフォームド・コンセント、そして被験者の福利を科学や社会の利益より優先することが定められている。リスボン宣言は診療の場、ヘルシンキ宣言は研究の場、と対象が違うんだ。
医学生医学生
診療か研究かで分けると、すっきり整理できますね。ほかの宣言もまとめて覚えておいたほうがいいでしょうか。
ドクタードクター
ぜひセットで整理しておこう。ニュルンベルク綱領は1947年、ナチスの人体実験への反省から生まれた人体実験の基本原則で、被験者の自発的同意を絶対条件とした。ジュネーブ宣言は1948年のWMAの宣言で、ヒポクラテスの誓いを現代化した医師の誓いだ。年代順に並べると、人体実験の反省から研究倫理が整い、やがて患者の権利へと視点が広がっていった流れが見えてくる。
医学生医学生
リスボン宣言には、ほかにどんな権利が入っているんですか。
ドクタードクター
自己決定の権利、法的無能力の患者への対応、情報を得る権利、それに知らされない権利も含まれる。ほかにも健康教育を受ける権利、苦痛緩和や尊厳ある終末期ケアを含む尊厳に対する権利、宗教的支援を受ける権利などがある。告知の場面で「詳しくは聞きたくない」という患者の意思を尊重するのも、この宣言に根拠があるんだ。
医学生医学生
宣言の名前と中身を結びつけておけば、臨床で倫理的に迷ったときの拠り所にもなりそうです。
ドクタードクター
その通り。試験のための暗記で終わらせず、目の前の患者の権利を守るための道しるべとして覚えておいてほしい。

まとめ

リスボン宣言は1981年に世界医師会が採択した患者の権利に関する宣言で、良質な医療を受ける権利、選択の自由(セカンドオピニオンを含む)、自己決定権、意識のない患者や法的無能力の患者への対応、情報を得る権利、守秘義務、尊厳や宗教的支援を受ける権利などを掲げています。意識のない患者では法律上の代理人の同意を得ることが原則で、代理人がいない緊急時には推定同意で治療を行い、自殺企図の患者では救命に努めるとされます。一方、ヒトを対象とする医学研究の倫理原則を定めたのは1964年のヘルシンキ宣言であり、倫理審査委員会による審査やインフォームド・コンセント、被験者の福利の優先を求めています。ニュルンベルク綱領は人体実験の原則、ジュネーブ宣言は医師の誓いと、宣言ごとのテーマを対応づけて整理しておくことが大切です。これらの宣言は試験知識にとどまらず、日々の診療や研究で倫理的判断を下す際の基盤となります。

解答・解説

正解はdです

医の倫理に関する国際的な宣言は、世界医師会(WMA:World Medical Association)が採択したものが多く、それぞれ扱うテーマが異なる。本問はその中でリスボン宣言の守備範囲を問うている。 リスボン宣言(患者の権利に関するWMAリスボン宣言)は1981年にポルトガルのリスボンで採択され、その後改訂が重ねられてきた。内容は「医師が認識し擁護すべき患者の権利」であり、良質な医療を受ける権利、選択の自由、自己決定権、意識のない患者・法的無能力者への対応、情報を得る権利、守秘義務、健康教育を受ける権利、尊厳への権利、宗教的支援を受ける権利などが列挙されている。 したがって、選択肢のうち「患者の権利」あるいは「患者が自ら意思表示できないときの扱い」に関するものはリスボン宣言に含まれる。一方、「ヒトを対象とする医学研究の原則」は研究倫理のテーマであり、これを定めているのはヘルシンキ宣言である。宣言ごとのテーマを対応づけて覚えておけば、迷わず正解にたどり着ける。

選択肢考察

  1. ×a.  医療における選択の自由

    リスボン宣言に含まれる。患者は医師や病院などの医療機関を自由に選び、また変更する権利をもつ。さらに、どの段階においても他の医師の意見(セカンドオピニオン)を求める権利があることも示されている。

  2. ×b.  良質な医療を受ける権利

    リスボン宣言に含まれ、原則の最初に掲げられている。すべての人は差別なく適切な医療を受ける権利をもち、医師は医学的・倫理的判断を外部から干渉されずに行えることが必要とされる。治療資源が限られる場合の公平な選択手順や、医療の継続性(転院時の協力など)についても述べられている。

  3. ×c.  自己の秘密を保持する権利

    リスボン宣言に含まれる。患者の健康状態、診断、予後、治療などに関する個人を特定できる情報は、患者の死後も含めて秘密が守られなければならない。情報の開示は、患者本人の明確な同意がある場合か法律で明確に定められた場合に限られる。

  4. ○d.  ヒトを対象とする医学研究の原則

    リスボン宣言には含まれない。人間を対象とする医学研究(臨床研究・臨床試験)の倫理原則を示したのはヘルシンキ宣言(1964年採択)である。研究計画書の倫理審査委員会による審査、被験者からの自由意思によるインフォームド・コンセント、被験者の福利を科学や社会の利益より優先することなどが定められている。リスボン宣言は診療の場における患者の権利を扱っており、研究倫理とは対象が異なる。

  5. ×e.  意識のない患者に対する医療における手続き

    リスボン宣言に含まれる。意識のない患者や自分で意思表示ができない患者では、可能な限り法律上の代理人からインフォームド・コンセントを得る。代理人がおらず緊急の医学的介入が必要な場合は、患者が拒否することが事前に明らかである場合を除き、同意があるものと推定して治療を行ってよいとされる(推定同意)。ただし、自殺企図により意識を失った患者については、医師は常に救命に努めるべきとされている。

医の倫理に関する主な宣言・綱領

・ヒポクラテスの誓い(古代ギリシャ):医師の職業倫理の原点。患者の利益の優先、守秘義務など。 ・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験への反省から生まれた、人体実験に関する基本原則。被験者の自発的同意を絶対条件とした。 ・ジュネーブ宣言(1948年、WMA):ヒポクラテスの誓いを現代化した医師の誓い。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、WMA):人間を対象とする医学研究の倫理原則。倫理審査委員会、インフォームド・コンセント、被験者保護を定める。改訂が重ねられている。 ・リスボン宣言(1981年、WMA):患者の権利。

リスボン宣言に掲げられた主な患者の権利

1.良質の医療を受ける権利 2.選択の自由の権利 3.自己決定の権利 4.意識のない患者への対応 5.法的無能力の患者への対応 6.患者の意思に反する処置(法律や医の倫理の原則に合致する例外的な場合に限る) 7.情報を得る権利(知らされない権利も含む) 8.守秘義務に対する権利 9.健康教育を受ける権利 10.尊厳に対する権利(苦痛緩和や尊厳ある安楽な終末期ケアを含む) 11.宗教的支援に対する権利

POINT

・リスボン宣言=患者の権利に関する宣言。 ・ヘルシンキ宣言=ヒトを対象とする医学研究の倫理原則。 ・ジュネーブ宣言=医師の誓い、ニュルンベルク綱領=人体実験の原則(被験者の自発的同意)。 ・意識のない患者では法定代理人の同意を得る。緊急で代理人がいなければ推定同意で治療し、自殺企図の患者では救命に努める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。