「患者の権利」か「研究の倫理」か―リスボン宣言とヘルシンキ宣言を取り違えないために
第106回医師国家試験 H問題 第14問
国試問題にチャレンジ
リスボン宣言に含まれないのはどれか。
- a.医療における選択の自由
- b.良質な医療を受ける権利
- c.自己の秘密を保持する権利
- d.ヒトを対象とする医学研究の原則
- e.意識のない患者に対する医療における手続き
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
リスボン宣言は1981年に世界医師会が採択した患者の権利に関する宣言で、良質な医療を受ける権利、選択の自由(セカンドオピニオンを含む)、自己決定権、意識のない患者や法的無能力の患者への対応、情報を得る権利、守秘義務、尊厳や宗教的支援を受ける権利などを掲げています。意識のない患者では法律上の代理人の同意を得ることが原則で、代理人がいない緊急時には推定同意で治療を行い、自殺企図の患者では救命に努めるとされます。一方、ヒトを対象とする医学研究の倫理原則を定めたのは1964年のヘルシンキ宣言であり、倫理審査委員会による審査やインフォームド・コンセント、被験者の福利の優先を求めています。ニュルンベルク綱領は人体実験の原則、ジュネーブ宣言は医師の誓いと、宣言ごとのテーマを対応づけて整理しておくことが大切です。これらの宣言は試験知識にとどまらず、日々の診療や研究で倫理的判断を下す際の基盤となります。
解答・解説
正解はdです
医の倫理に関する国際的な宣言は、世界医師会(WMA:World Medical Association)が採択したものが多く、それぞれ扱うテーマが異なる。本問はその中でリスボン宣言の守備範囲を問うている。 リスボン宣言(患者の権利に関するWMAリスボン宣言)は1981年にポルトガルのリスボンで採択され、その後改訂が重ねられてきた。内容は「医師が認識し擁護すべき患者の権利」であり、良質な医療を受ける権利、選択の自由、自己決定権、意識のない患者・法的無能力者への対応、情報を得る権利、守秘義務、健康教育を受ける権利、尊厳への権利、宗教的支援を受ける権利などが列挙されている。 したがって、選択肢のうち「患者の権利」あるいは「患者が自ら意思表示できないときの扱い」に関するものはリスボン宣言に含まれる。一方、「ヒトを対象とする医学研究の原則」は研究倫理のテーマであり、これを定めているのはヘルシンキ宣言である。宣言ごとのテーマを対応づけて覚えておけば、迷わず正解にたどり着ける。
選択肢考察
- ×a. 医療における選択の自由
リスボン宣言に含まれる。患者は医師や病院などの医療機関を自由に選び、また変更する権利をもつ。さらに、どの段階においても他の医師の意見(セカンドオピニオン)を求める権利があることも示されている。
- ×b. 良質な医療を受ける権利
リスボン宣言に含まれ、原則の最初に掲げられている。すべての人は差別なく適切な医療を受ける権利をもち、医師は医学的・倫理的判断を外部から干渉されずに行えることが必要とされる。治療資源が限られる場合の公平な選択手順や、医療の継続性(転院時の協力など)についても述べられている。
- ×c. 自己の秘密を保持する権利
リスボン宣言に含まれる。患者の健康状態、診断、予後、治療などに関する個人を特定できる情報は、患者の死後も含めて秘密が守られなければならない。情報の開示は、患者本人の明確な同意がある場合か法律で明確に定められた場合に限られる。
- ○d. ヒトを対象とする医学研究の原則
リスボン宣言には含まれない。人間を対象とする医学研究(臨床研究・臨床試験)の倫理原則を示したのはヘルシンキ宣言(1964年採択)である。研究計画書の倫理審査委員会による審査、被験者からの自由意思によるインフォームド・コンセント、被験者の福利を科学や社会の利益より優先することなどが定められている。リスボン宣言は診療の場における患者の権利を扱っており、研究倫理とは対象が異なる。
- ×e. 意識のない患者に対する医療における手続き
リスボン宣言に含まれる。意識のない患者や自分で意思表示ができない患者では、可能な限り法律上の代理人からインフォームド・コンセントを得る。代理人がおらず緊急の医学的介入が必要な場合は、患者が拒否することが事前に明らかである場合を除き、同意があるものと推定して治療を行ってよいとされる(推定同意)。ただし、自殺企図により意識を失った患者については、医師は常に救命に努めるべきとされている。
医の倫理に関する主な宣言・綱領
・ヒポクラテスの誓い(古代ギリシャ):医師の職業倫理の原点。患者の利益の優先、守秘義務など。 ・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験への反省から生まれた、人体実験に関する基本原則。被験者の自発的同意を絶対条件とした。 ・ジュネーブ宣言(1948年、WMA):ヒポクラテスの誓いを現代化した医師の誓い。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、WMA):人間を対象とする医学研究の倫理原則。倫理審査委員会、インフォームド・コンセント、被験者保護を定める。改訂が重ねられている。 ・リスボン宣言(1981年、WMA):患者の権利。
リスボン宣言に掲げられた主な患者の権利
1.良質の医療を受ける権利 2.選択の自由の権利 3.自己決定の権利 4.意識のない患者への対応 5.法的無能力の患者への対応 6.患者の意思に反する処置(法律や医の倫理の原則に合致する例外的な場合に限る) 7.情報を得る権利(知らされない権利も含む) 8.守秘義務に対する権利 9.健康教育を受ける権利 10.尊厳に対する権利(苦痛緩和や尊厳ある安楽な終末期ケアを含む) 11.宗教的支援に対する権利
POINT
・リスボン宣言=患者の権利に関する宣言。 ・ヘルシンキ宣言=ヒトを対象とする医学研究の倫理原則。 ・ジュネーブ宣言=医師の誓い、ニュルンベルク綱領=人体実験の原則(被験者の自発的同意)。 ・意識のない患者では法定代理人の同意を得る。緊急で代理人がいなければ推定同意で治療し、自殺企図の患者では救命に努める。
