陽性なのに99%は空振り?―有病率0.1%が教える検査後確率の落とし穴
第106回医師国家試験 G問題 第49問
国試問題にチャレンジ
58歳の男性。会社員。人間ドックで受けたある疾患に対する検査の結果が陽性だったため,その疾患にかかっている可能性を知りたいと会社の医務室に来た。その疾患に関連する異常を疑わせる自覚症状はない。現病歴と既往歴とに特記すべきことはない。人間ドックで実施した他の検査結果はすべて正常範囲内にあった。文献で,この検査が陽性であることの感度は20%,特異度は95%であること,人間ドックを受診する58歳男性がその疾患を潜在的に有する確率は0.1%であることが分かった。 この男性がその疾患を有する確率はどれか。
- a.0.02%
- b.0.4%
- c.5.0%
- d.20.0%
- e.25.0%
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
「検査陽性の人が疾患を有する確率」は検査後確率、すなわち陽性反応的中率であり、感度と取り違えないことが第一歩です。仮想集団で2×2表を作り、真陽性(有病率×感度)と偽陽性((1-有病率)×(1-特異度))を比べれば、本問では2人対約500人となり、検査後確率は約0.4%と求まります。陽性尤度比(感度÷(1-特異度)=4)を検査前オッズに掛ける方法でも同じ結果になり、検査前確率が低いときは「検査前確率×尤度比」で概算できます。感度・特異度は検査固有の性能ですが、的中率は有病率に強く依存し、有病率の低い集団では特異度の高い検査でも陽性者の大半が偽陽性になります。この考え方は、スクリーニング結果の解釈や受診者への説明、精密検査の必要性を判断するうえでの基本となります。
解答・解説
正解はbです
何が問われているか
無症状で、他の検査もすべて正常な男性の検査が陽性だった。このとき「本当にその疾患をもっている確率」とは、検査陽性という情報を得た後の確率、すなわち検査後確率であり、陽性反応的中率(positive predictive value:PPV)に相当する。検査前確率としては、同じ条件の集団における潜在的な有病率0.1%を用いる。自覚症状も他の異常所見もないので、検査前確率を0.1%より高く見積もる理由はない。
解法1:仮想集団で2×2表(四分割表)を作る
人間ドックを受けた58歳男性10,000人を想定する。 ・有病者:10,000×0.001=10人、非有病者:10,000-10=9,990人 ・感度20%より、有病者のうち検査陽性(真陽性)は10×0.20=2人、陰性(偽陰性)は8人 ・特異度95%より、非有病者のうち検査陰性(真陰性)は9,990×0.95=9,490.5人、陽性(偽陽性)は9,990×0.05=499.5人 ・検査陽性者の合計は2+499.5=501.5人 ・陽性反応的中率=真陽性÷陽性者全体=2÷501.5≒0.0040=約0.4% 実際には、真陽性(有病率×感度)と偽陽性((1-有病率)×(1-特異度))の2つだけを求めれば計算できる。 真陽性の割合:0.001×0.20=0.0002 偽陽性の割合:0.999×0.05=0.04995 検査後確率=0.0002÷(0.0002+0.04995)≒0.0040(約0.4%)
解法2:尤度比を使う
陽性尤度比=感度÷(1-特異度)=0.20÷0.05=4 検査前オッズ=0.001÷0.999≒0.001 検査後オッズ=検査前オッズ×陽性尤度比≒0.004 検査後確率=検査後オッズ÷(1+検査後オッズ)≒0.004(約0.4%) どちらの方法でも約0.4%となる。検査が陽性でも、疾患をもつ確率は0.1%から0.4%に上がったにすぎず、陽性者の99%以上は偽陽性である。有病率が極めて低い集団では、特異度が95%と高めの検査であっても、偽陽性が真陽性を大きく上回ってしまうことを示す問題である。
選択肢考察
- ×a. 0.02%
有病率0.1%に感度20%を掛けた値(0.001×0.20=0.0002=0.02%)であり、受診者全体のうち「有病かつ検査陽性」である人の割合を表す。検査陽性者の中で有病者が占める割合(検査後確率)を求めるには、この値を陽性者全体の割合(真陽性+偽陽性)で割る必要がある。
- ○b. 0.4%
10,000人を想定すると、真陽性2人、偽陽性499.5人となり、陽性反応的中率は2÷501.5≒0.4%である。陽性尤度比4を用いて、検査前オッズ約0.001から検査後オッズ約0.004を求めても同じ結果になる。これが、この男性が疾患を有する確率である。
- ×c. 5.0%
1-特異度(1-0.95=0.05)に相当し、疾患をもたない人が検査で陽性となる確率(偽陽性率)である。検査後確率とは別の指標である。
- ×d. 20.0%
感度そのものであり、「疾患をもつ人が検査で陽性となる確率」を意味する。問われているのは逆方向の「検査陽性の人が疾患をもつ確率」であり、感度と陽性反応的中率を取り違えた誤りである。
- ×e. 25.0%
有病率を考慮した計算ではどのように組み合わせてもこの値にはならない。たとえば偽陽性率5%を感度20%で割った値などに相当し、検査後確率としての意味はない。
2×2表と指標の定義
疾患あり・検査陽性を真陽性(TP)、疾患なし・検査陽性を偽陽性(FP)、疾患あり・検査陰性を偽陰性(FN)、疾患なし・検査陰性を真陰性(TN)とする。 ・感度=TP÷(TP+FN):疾患のある人を陽性と判定できる割合 ・特異度=TN÷(FP+TN):疾患のない人を陰性と判定できる割合 ・陽性反応的中率(PPV)=TP÷(TP+FP):陽性者のうち実際に疾患をもつ割合 ・陰性反応的中率(NPV)=TN÷(FN+TN):陰性者のうち実際に疾患をもたない割合 ・陽性尤度比=感度÷(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)÷特異度
有病率と的中率の関係
感度と特異度は検査そのものの性能であり、原則として有病率には左右されない。一方、的中率は有病率(検査前確率)によって大きく変わる。有病率が低いほど陽性反応的中率は低下し、陰性反応的中率は上昇する。本問と同じ検査でも、有病率が10%の集団であれば、陽性反応的中率は0.02÷(0.02+0.045)≒31%まで上昇する。
ベイズの定理の考え方
検査前確率に検査結果の情報(尤度比)を掛け合わせて検査後確率を求める。オッズ=確率÷(1-確率)であり、確率が小さいときはオッズと確率がほぼ等しいので、検査前確率が低い場合は「検査前確率×尤度比」で検査後確率を概算できる(本問では0.1%×4=0.4%)。
スクリーニングへの示唆
有病率の低い集団を対象とするスクリーニングでは、陽性者の大多数が偽陽性となる。そのため陽性結果だけで診断を確定せず、精密検査で確認する必要がある。また、陽性と告げられた受診者の不安や不要な検査という不利益も考慮すべきである。
POINT
・「検査陽性の人が疾患を有する確率」=検査後確率=陽性反応的中率である。 ・仮想集団(10,000人など)で2×2表を作ると計算ミスが少ない。必要なのは真陽性(有病率×感度)と偽陽性((1-有病率)×(1-特異度))の2つである。 ・陽性尤度比=感度÷(1-特異度)。検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比で求めることもできる。 ・的中率は有病率に依存する。有病率が低い集団では、特異度の高い検査でも陽性反応的中率は低い。 ・感度(20%)、偽陽性率(5%)、有病率×感度(0.02%)を検査後確率と取り違えないこと。
